第3話 ISDDTだ!
「異世界で最強だ。そして脱DT。略してISDDT(Isekai Saikyou Datu Do T)だ!」
力が漲ってきた。
これが次元を超えた者のパワーか。
よし早速に自分の能力を試そうではないか。
我、大地に立つ!
ブラック企業に勤めて疲労困憊の姿ではない。
自信に満ち溢れた勇者の姿である。
なお、俺の中ではレベルアップ後に赤いオーラを身にまとう予定である。
地面に目をやる。
そうだ。まずはこれだ。
自分の力を試してみよう。
優しい俺はいきなり森の木々を標的にするのはやめておいた。
「フッ……我を召喚した大地よ。その礼に我が力を見せてやろう! はぁぁぁ砕け散れっ!」
俺はしゃがみこみながら地面に向かって拳を突き出した。
超すごい力によって、大地は窪み土ぼこりが舞い上がる!
――はずであった。
ぐきっ。
という音がした。
「――ぐぅいでぇぇぇ」
そのままごろごろと俺よりも強大だった大地を転がりながら涙目で痛めた手首をさする。
「いてぇぇよぉぉぅぅ、ほ、骨が折れたかもしれないぃ」
というか手首どころかやっぱり全身が痛い。
全然強くなっていなかったのである。
「やっぱりそんな上手い話はないよな……」
見上げていた双子の月がぼやけた。
涙があふれた。
チート能力を得ていると思いたかった。
突然のことに不安で独りで、無理にでも強くなっていると思いたかったんだ。
そうじゃなければいったいなんで異世界になんかに俺はトリップしたんだろう。
「知らない夜空だ……」
某アニメのセリフをもじって呟いてみるが、ツッコミを入れる人は居ない。
そして気が付く。
この世界にいる人は誰もこのセリフの元ネタを知らないんだ。
普段ぼっちな俺だったけど、この状況はかなり辛い。
俺は異世界に完全に一人ぼっちだった。




