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第18話 旅立ちに向けて

4月になった。

この世界に来てから、あっという間の半年だった。

冬は数日雪が降ったくらいで、穏やかに過ぎていった。

勉強と修行の毎日はたいへんだったけど、これほど充実した日々は無かったと思う。


魔法を五個覚えられた。

衣類や体の汚れを綺麗にするクリーン。

小さな傷を治すヒール。

猛毒はダメだけど毒を消すキュアポイズン。

水を生み出すクリエイトウィータ。さらば天然水!

そして最初に教わったのになかなか出来なかった小さな火種を起すファイアも徐々に出来るようになってきた。

初級の生活魔法たちだけど、すごく便利だ。

俺、本当に魔法使いに成れたよサンタさん……


サンタさんじゃないけど去年の暮れにはマテウスさんが剣をくれた。

魔物の血や酸や錆などを防ぐプロテクションの魔法を付与されている剣だ。

魔法がかかってるからこれって魔剣じゃないですか!

ということはこれを使う俺は魔剣士……

俺、魔剣士になれた?!

こんな高価なものをすいませんと言ったら、これくらいの魔法が付与された剣はよくあるそうな。

業物でもないし安い物なので、気にせず使いつぶすように。その頃にはもっといい剣を買えるだろうと。

つまりそれくらい剣の修練をしろという教えだった。

木の盾とセットで頂いた。

俺の体力や技量に合いそうな盾が無かったので木の盾だ。

でも、剣も盾も俺にちょうどいい重さとバランスだ。

まだまだ使いこなせないけれど、ありがたく頂いた。


ランジュからは先日お守りを貰った。手作りだぜ。

俺が女性から手作りで何かプレゼントを貰うなんて。

またレベルが上がった気がする。ステータス表示に変化は無いけれども。


マテウスさんに手伝って貰って作ったというそれは、ごく少量だけど魔力を溜めておける水晶がはまっている。日常魔法を1回分程だけど、魔力の少ない俺にはすごくありがたい。

一緒に暮しているので、マテウスさんと何かしてるなとはすぐわかったけど。俺には内緒なのだそうで、見えてても見ない振りをした。それも楽しかった。

さっそく首から提げた。

俺が名札やネクタイ以外を首から下げる日が来るなんて。


マテウスさんは修行のステップアップとして真剣をくれた。

ランジュは魔道具の基礎勉強に何か作るなら俺へのプレゼントがいいと。

気にするなといわれても、頂き物にはお返しをしたい。

贈り物をしたい。

しかし、買物もできない。

何にもなくて悩んだ結果。

剣を貰ったお礼にはダウンジャケットをマテウスさんにプレゼントした。

グレイホーンウルフと戦う前に落としたそれをマテウスさんが回収してくれていたんだ。

俺が着ていたもので悪いけど買ったばっかりだったし破けてもいない。クリーンの魔法できれいきれいにして進呈した。メガネもいらなくなったのでマテウスさんに聞いたら、レンズは安くは無いが貴重なものでもないそうだ。

それに遠見の魔法ってのもあって、原理は光の屈折を応用してるんだってさ。

くっ、異世界アイテムで大金持ち計画が、はい消えた。

それでダウンジャケットにした。

あとは何にも持物ないし。

ここって寒さが厳しくないから必要ないかもしれないけど、マテウスさんは普段着ない色だと喜んでくれた。うん。色だけな。だって中に魔物の毛を入れて作る似たような防寒着はあるんだってさ。

なんかもう俺には異世界からきた優位性ってぜんぜん無くない?!


ランジュにはこの半年間で再現した料理やお菓子のレシピ。

俺の知っている料理でこの世界で作れそうなものを書いたノートを渡した。

ちょっとごわごわしてるけど紙はある。綴じてノートにした。

たまに食事の手伝いをしていたんだが、俺が作る料理はこの世界では珍しいものもあった。

二人は喜んで味見してくれた。

俺が一番食べたいのは米とショートケーキだが、これは無理だった。

米を作っている地方があるそうだが遠いし、生クリームの自作はどうやっていいのかさっぱり分からない。

この世界の食物はほとんど地球と同じだ。見た目や味の違う変わった食べ物もあるけれど、マテウスさんは村から授業料代わりに野菜や肉などももらってくる。その中に卵があった!

卵かけご飯が食べたかったが、ぐっと堪えて俺はプリンを作ってみた。

最初は失敗したし、すが入りまくちゃってるけどマテウスさんは「これは食べたことがない」と大絶賛で、ランジュも大喜びしてくれた。

自炊生活や自分で食べたくて覚えたことが役にたった。

レシピを記したから材料さえあれば作れるだろう。


汚いコモン語でごめんねって言ったら、ランジュは大事にするって言ってくれた。作ってマテウスさんに食べさせるって。

すばらしい時間への恩返しには全然足りないとは思うけど、少しはいい置き土産ができたと思いたい。


そう。俺は旅立つ。

もうすぐやってくるだろうエクゲート村への行商人と一緒に他の町へ。

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