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第六話 表彰

大陸東方の冒険者ギルド支部から来た、ちょっとぽっちゃり体系の若い男性ギルド職員クールベ君は神妙な顔つきで賞状盆をギルド長に差し出した。上にはスクロールが二つ載っている。上質の緑色のリボンで封印されている特別なものだ。

スキンヘッドの熊獣人ギルド長グリンドさんも普段と違ってきっちりとした服装で、いつものように厳つい顔だが真面目な表情を作っている。

室内にはキノさんとルナちゃんも居る。二人も正装に背筋をぴんと伸ばして立っている。

俺の横にはなかなかダンディーな格好をしたグリアスさんが居る。ぴんと伸びた犬耳がいいね。ルナちゃんのかわいい猫耳には負けるけど。


ここはギルドの支部長室で、俺はグリアスさんと一緒に表彰を受けるところだ。

ところで、これは何の表彰なんだろう。

この日に冒険者ギルドまで来てほしいと呼び出さていて、来てみたらグリアスさんがいた。綺麗な服に着替えさせられてクリーンして、ここに至るわけだが。

表彰なあ。呪災害魔獣討滅の功績なら数か月も前に表彰して貰ったし、再度の表彰は無いだろう。

他に何か表彰されるようなことは。うーん。しばらく何の依頼もこなしていない。あ、冒険者の講座を手伝ったな。Dランク冒険者への「目指せCランク! 何度落ちてもあきらめるな講座」をしたっけ。その引率で近隣の村に行った時に魔物退治もしたけど、アグリュム退治で表彰は無いしなあ。


「これより表彰を始める。冒険者ギルドアンファング支部長グリンドが式を務めさせて頂く」

うお。支部長が丁寧な言葉使いを。やればできる熊獣人だったんだ。

「グリアス殿。リョータ殿。貴殿はサスレンダ魔呪禍病の発生要因解明に多大なる貢献をされました。その功績を称え感謝と共にここに表します。エルドラ大学魔法病理学研究室。代冒険者ギルドアンファング支部長長グリンド。おめでとう、リョータ。グリアスさん」

皆が拍手してくれた。

「ありがとうございます」

俺はグリアスさんと同じく一礼をしながら思った。

魔呪禍病ってめっちゃ前のことじゃん!

今更、発生要因の解明に貢献ってなんだよ。

それと、そのスクロールは表彰状じゃなかったんかい!

そう思っていると、グリンド支部長が再び姿勢を正した。


「こちらは二人へ、エルドラ大学名誉学長であらせられるフェスター・ティールマンス陛下より、研究への功績を称えた感謝状だ。ならびにリョータへは名誉研究士号が贈られる。おめでとう」

スクロールを差し出される。

研究士号というのは何だろう。俺が頂いていいのだろうか。

よくわからんが俺はなるべく恭しく、卒業証書を貰う学生のように受け取った。グリアスさんも同じく、そして俺よりも優雅な仕草で受け取った。

そしてまた皆さんからおめでとうの声と拍手である。

「ありがとうございます」

俺とグリアスさんが皆に御礼を言うと、支部長がにやりと笑いながら上着を脱ぎ去った。

「さあて式は終わった。アンファングの冒険者と商人が揃って功績を上げたんだ。これを祝わずしてどうする! 俺のおごりだ。みんな行くぞ!」

グリンド支部長が大声で宣言する。

「おーー!」

俺の何が功績を上げたのかよくわからないまま、皆と一緒に拳を上げておいた。


「あのお。あれはちょっと貰いすぎじゃないですかね」

ギルド近くの居酒屋で俺は困っていた。

あれとはどこかのなんとか陛下からの感謝状。それとギルドの金庫の特別に預かってもらってる報酬、その額なんと三〇〇万エルド。いったい何をどう功績したら貰えるのかと不安に思っていたら、グリアスさんが説明してくれた。

「サスレンダ魔呪禍病に対するリョータさんの仮説を基に研究を進めたところ、サスレンダ魔呪禍病の発生には特定の樹木と粘性魔物が関わっていると解ったそうなんです」


そういえば、そんなこと話したっけ。

俺が言った樹木と茸の関係や胞子などの話がヒントになって、解明に役立ったそうだ。何ともびっくりだけど、研究にまで結びついていたのも驚きだ。

「魔呪禍病に関する研究が進むきっかけになったんです。すばらしい功績ですよ!」

グリアスさんは我がことのように喜んでくれた。

「そ、そうなんですか……ありがとうございます!」

俺が伝えた知識がこの世界の病気治療に貢献できたんだな。

嬉しいことだぞこれは。

「検証に時間がかかりましたので遅くなりましたが、ギルドを通して表彰と報酬をお渡しすることになったのです。もちろん、この報酬についてはギルドは何の手数料も取っておりませんぞ!」

東から来たギルド員クールベ君は得意気に言った。

「でも。俺は思い付きを言っただけなのに、それがたまたま当たっただけですよ。貢献できたのはとっても嬉しいですが、あんなにエルドを貰っちゃっていいんでしょうか……研究士号まで頂くなんて……」

大陸の東方地域は世界で最も歴史が古く、経済も文化も発展しているらしい。学問も盛んだ。その中でもエルドラ大学は最高の学府だそうで、そこの研究士号は名誉なことらしい。


「相変わらずリョータは謙虚だなあ」

キノさんがジョッキ片手に苦笑している。

「そこがリョータさんの素敵なところなんですにー」

ルナちゃんもジョッキを両手で持っているが、中身は桃色のジュースだ。

ルナちゃんもっとステキって言って!

「がはは、リョータ。もらっとけ。そんでばーっと使え! 金は死んだら使えないんだからな。冒険者は生きている間に飲んで遊べ!」

グリンド支部長はゾラさんみたいなことを言ってから、バケツみたいな特別サイズのジョッキをごっきゅっと干した。そういえば、ゾラさんぜんぜん帰ってこないな。


「陛下からの報酬を断るなんてありえませんぞ、リョータ殿。もちろん散財せずに貯蓄するべきですが」

ぷるぷると首を振るクールベ君。東のゼクタという町の冒険者ギルド支部の職員だ。まだ二十歳くらいらしい。ちょっと小太り体形のとてもまじめな青年だ。

「そう、そうですね。くれるというからには貰っちゃいますか!」

たしかに謙虚さもいい。けれど、ここで俺が大したことはしていないと辞退すると、グリアスさんの功績はどうなんだ、それ以下なのかってことになっちゃう。研究室も王様もグリアスさんの功績を称えてくれていた。

グリアスさんが評価されたのは嬉しい。

権威あるところからの断れない報酬だ。時には気が進まなくても大金を貰わなければならないとは、たいへんだなあまったく。

よっしゃああ何買おうか! いっそ走竜レースの走竜オーナーにでもなっちゃう?! それかショートソードでもミスリルっとく?!


「リョータさん。無駄遣いはだめですにゃ~」

さっそくルナちゃんに優しく諭されました。

「な、なぜ解ったの。うん、気を付けるよ」

すかさずバレた俺をみんなが笑う。

「それがいいですにー」

ルナちゃんは微笑えんでいる。

君のためなら散財する用意はいつでもあるよ!

「私は事業と店の拡張に使います」

グリアスさんは嬉しそうだ。

「グリアスさん、ほんと、ありがとうございます」

俺の拙い思い付きを、あっちの魔法使いやこっちの役人へ持っていき、時には資料を集めり資材を配布したり。その結果が研究につながり、東方の大学へ送られてさらに研究が進んでこうなったわけだ。

「いえいえ。こちらこそありがとうございます。さっきも言いましたけど、私にとっても大きな利となりました」

グリアスさんはなんと今では三つの町と村に小さな店を持っている。しかし、アンファングに店を出すには大金を積めばいいというわけではなく、条件がいろいろあるらしい。

嬉しいなあ。

グリアスさんは着実に実績と信用を積み上げていて、今回の表彰でさらに箔も着いた。アンファングで店を構える資格充分なんじゃないかな。


楽しい宴は続いていく。

俺はどうしようかな。

王都経由でエクゲートに行くけれど大金は持って歩きたくない。預け屋に入れて持ち歩くエルドは減らそう。無くなったら行った先の町で下せばいいだろう。

無駄使いはしないとしても、冒険者の装備は重要だがすでに装備はそこそこいいのを揃えてある。冒険者ブーツはもちろん高級なのを誂えた。クリーンとドライの魔法がかかっていて蒸れないのが何たっていい。

ポーションもオッケーだ。剣は魔力付与されている。盾は重量を考えて小型の複合素材製だ。鎧はドランブイエ工房謹製の部分ミスリル軽鎧。こまごまとした道具類も持ってるし、沢山の物は持ち歩けない。そう考えると俺は旅嚢一つ担げば、三十秒で支度できるな!


そんなことを考えていたら、クールベ君が話しかけてきた。

「リョータさん。グリアスさん。お二人にお届けものです。先に陛下からの感謝状と報酬のお渡しをと思いましたので今となりました。すみません。どうぞこちらをお受け取りください」

「え、おれとグリアスさんにですか?」

「どういうことでしょうね」

差し出された封書を見て俺とグリアスさんは顔を見合せた。

「お二人にとても親しい方からですぞ」

クールベ君は大陸の東の冒険者ギルドから来た。

ということは、もしかして。

「グリアスさん!」

「はい!」

差出人を確認して、俺とグリアスさんは喜びの声を上げた。

ゾラさんからだった。

元気でやってるって。

良かった。会いたいなあ。


その後はゾラさんの近況を肴に、グリンド支部長もキノさんもルナちゃんも加わって盛り上がった。クールベ君によるとゾラさんは向こうでも人気らく、ゾラさんの新しい冒険譚を幾つか聞かせて貰った。



俺とグリアスさんは飲み会の後で、『通称。輝け! 楽しき憩い亭』に戻った。

俺は定宿だし、グリアスさんも今日はここで泊まりだ。

三人でゾラさんの話をした。

「それはまったくゾラらしいわねえ」

ゾラさんの最近の冒険譚にカラハさんは苦笑している。

それから俺はキュアポイズンですっきりしてから、二人に相談をした。

最近株を持ったこと、今日も多額の報奨金を頂いた。アンファングやこの国で財産を持つこと、会社や株などについて商人であるグリアスさんに聞いておきたかったんだ。

カラハさんはアンファングで宿屋を経営している。グリアスさんさんが実績を積んでようやくアンファング城塞内の店舗を持てるかどうかなのに、カラハさんはけっこう凄い人なのではなかろうか。


カラハさんの話は相変わらずざっくりだった。家がアンファングに土地と建物と商売の権利を持ってたのでまったく苦労してない。宿屋をしてみたかったから宿屋にした。冒険者だった祖先が遺した言葉が伝わっていて、奇妙で面白いから宿屋の名前にした。だからリョータも好きなようにしなさい。

うん、カラハさんは凄く無かった。けど、ある意味やっぱり凄かった。思ったことをしろってことか。


グリアスさんはとても真面目に相談にのってくれた。そこでちょっと思ったんだけど、カラハさんは俺にケーキ屋しないかと出資の話をしてきたけど、グリアスさんには商売の話を持ち掛けていない。

今、二人は仲良くゾラさんの馬鹿な――じゃなくて、偉大なる冒険譚を話している。カラハさんはもしかしたら、友達であるグリアスさんと金銭の貸借りをしたくなかったのかも。

俺の時は、たぶんレイナとのことがあったから二人で居る未来を持たせるために、かもしれない。単純に儲けられるかどうか考えてのことかもしれないけど。


他にもいろいろ話ができて楽しかった。

旅の用具も揃えてある。

防具の調整もドランブイエ工房でしてもらった。

用事も済んだし、準備は万端だ。


それから数日後、俺は西行きの移動市に参加して王都へ向けて旅立った。

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