第14話 リョータの告白、の前に
満天の星空に双子の月が出ている。
この夜空は毎回感動する。
俺とマテウスさんは家の前の切り株に腰掛けていた。
二つの月の満ち欠けと星座で位置と暦がわかるのだとマテウスさんは語った。
それはぜひ覚えたいけど、すごく複雑そう。
感心しながらしばらく星を眺めていたが思い切って言ってみた。
「フラッシュバン――じゃなくて、水晶のこと。ランジュの話です?」
俺の方から話を切り出すと、マテウスさんはこくりと頷いてから語りだした。
彼には息子さんがいる。
15年前。その息子さんが、突然に一人の赤子を連れて現れた。
娘を預かって欲しいと。
それがランジュだった。
そしてこの赤子は尋常ではない魔力を持っていると告げた。
マテウスさんにとっては大事な孫だ。教育を受けさせて魔法使いにするべきではないかと言うと、普通の女の子としてここでひっそりと暮らさせて欲しいと頼み、息子さんは姿を消したという。
その頃はマテウスさんの奥さんもご存命だったそうで、戸惑いながらも孫を預かり育てた。ランジュと村人との接触もなるべく避けてきた。
「さようでありますでしたか……」
「息子の言うこともわかるのだ。強すぎる力が不幸を呼ぶこともあるから」
ああ、なんとなくそれは理解できる。
宝くじを当てた人が返って不幸になったとかそういう話を思い浮かべたくらいだけど。
「しかし。このままというわけにもいかんでな……」
数年前に奥さんが亡くなった。自分もいつまでも元気なわけではない。
ランジュの将来を考えればこのままで良いはずなはないのだが、どうしたらよいのか迷っているとマテウスさんは言った。
話を聞いて、難しいことだと思った。
何がいいかなんてわからない。
家族でも無いのに言っていいのかとも思う。
ただ、一つだけ気になっていた。
この世界のことはまだよく分からないが、15才というにはランジュは言動が幼い気がしていた。
これは他と接触が無く、祖父母とだけで暮らしてきたからだろう。
俺のことを聞きたがるし、どこから来たのかとか、どんな土地なのか知りたがる。
異世界のことを説明するわけにもいかず、田舎暮らしをしていた時の話や、料理などの話でごまかしているのだが、とにかく一緒に居たがる。
彼女自身が変化を求めているのじゃないだろうか。
外の世界を知りたいと。
それに俺は思う。
「えっと。一人で、友達がいないのはさみしいことです。かわいそです」
元の世界でぼっち気味だった俺のようにな!
と心で泣いている俺だった。
「……そうだな。リョータ殿の言うとおりじゃな」
しばらくしてマテウスさんは深く頷いた。
話す前から既に考えていたのだろう。
「友か」
マテウスさんはふっと笑いながら呟いた。
かっこいい!
あれはっきっと、懐かしい友人のことを思い出している顔だ。
「そうじゃな、本当はわかっていた。いつまでもこれではいかんと。もっとあの子に人と触れ合う機会を持たせねば。そして自分の持つ才に負けない人になるよう教えよう」
「俺、ランジュのことは、絶対とっても秘密にします」
「リョータ殿……ありがとう」
「どういたしました。あの、そんでもって俺も相談が――」
ランジュのひみつを先に言われちゃったけど、本当は俺の方が説明したかったんだ。
俺が異世界から来たってことを。
けれど、怖い。何て言われるか。俺は逡巡してしまう。
「なんじゃろ。リョータ殿の頼みならなんでもきくぞ。わしに出来ることなら……そうだ。少し剣を習う気はあるかな?」
え?
剣?
剣って言った?
「あの、マテウスさんは魔法使いじゃないです?」
魔法使いだって言ってたよね。
「もちろんわしは魔法使いだが、剣も使えてな。若い頃は魔剣士として少しは、な。まあ昔の話じゃ。今はもう体がついていかん」
ぐはぁ。魔剣士も近くにおったやん。
「おねがいします! おしえてくだされっ!」
心の中でツッコミをいれつつ、有り難く剣を教えてもらえるようお願いする俺だった。
「いやー。びっくりしたわー。マテウスさんが魔剣士だったとは」
呟きながらベッドに入る。
俺はマテウスさんに剣を習うことになった。
さっそく明日からは剣の修行だ。
コンコン。
わくわくしていると再び戸口が小さくノックされた。
マテウスさんが何か言い忘れたのかなと思い見る。
今度はランジュが立っていた。
このタイミングでまさかの逆夜這いきたっ?!