第四九話 称号と
すぐに帰りたかったけれど、いろいろとすることがあってアンファングに帰ったのは九の月の終わりのことだった。
俺達はジュラーハで町を上げての大歓待を受けた。
賞金やら称号やら式典やら、ここでも宴会です。
ジュラーハ領主からの感謝はもちろんのこと、なんと王都から王子がやってきて直々に王からの感謝の言葉を伝えられた。
ウィンターゲート作戦参加者には、カースドモンスターバスターの称号が贈られた。エリネルト一村の損害で呪災害魔獣の脅威がなくなったのだから、その功を大いに称えられた。
過去に出現したカースドモンスターがもたらした災禍に比べたら、あれだけの被害でよくぞ倒してくれたと、それはもう大喜びである。
作戦に参加した村人や冒険者達も賞賛と賞金に大喜びである。
冒険者ギルドからも報奨金やランクアップなどがある。引退してのんびりするんだって言う人や、出資を募って未開地探検団を起す人もいた。ホー君は郷に帰って槍の道場を開くっすかねえ、なんて言ってた。
俺はといえば。
「その武勲を称え。エルストラ国王の名において、貴君に呪災害魔獣討滅騎士爵位号を贈る」
と来たもんだ。
騎士爵位の中にも種類があるらしく、特別な功績を称える名前が付いたのが爵位号だそうで。
俺、爵位持ちですよ。呪災害魔獣討滅騎士ってそのまんまだな……
それから領主からも王宮からも仕官の誘いや王都への招待やらあった。ギルドでの講演会の依頼もね! でも緊張するから断るよ!
まあ実質、全てのカースドモンスターを倒したのは俺なわけだし。
仕方ないなあ。俺はレイナを守るために全力で戦ったんだけなんだけどなあ。
うんうん。これはあれだなもう、いっそユーEiYuuuしちゃいなよってことだよね。
そうさ、レッツハーレ――はやめとこうレイナに殺されてしまうのでとにかくだ。ついに、ようやく、とうとう、やっとこさ俺Tueee到来! 英雄リョータ爆誕!
と思ったけどそうもいかなかった。
エリネルト村でもそうだったけど。ステ盾もステ矛も他の人には見えないので、俺は謎の術を使う男と思われていた。あれだけハーベストアントを切り刻んだので怖がってる人もいたけど、あれはどういう魔法なんだと興味を持った人に散々聞かれた。
「普段は使うことはできないが、ピンチになると発動する。一族の者にごく稀に現れる名も無き古の魔法だ、です」と答えておいた。パルセルありがとう。
それで謎の魔法ということになったが、そしたら「作戦前からあの人はすごい塩の使い方をした」とか「塩を使うのが凄く巧みだった」「塩を使って魔法のように果実を甘くした」「あれは魔法だ」などと言っていた村人が多数居た結果。俺が寝ている間に、報告を纏めるべく調査していたジュラーハ騎士団も居て、幾度かの宴会を経た俺は「謎の塩を使う魔法らしい」「見えない塩を振っていた」「塩魔法使い」などと言われるようになっていたらしい。なにその料理人……
俺があまりの予想外のことに言葉を無くしていたら、「普段は使うことはできないが、ピンチになると発動する。一族の者にごく稀に現れる名も無き古の魔法だ、だから秘密なのですね」と周囲も納得している始末だ。パルセルほんとありがとよ……
レイナは「紫姫将軍」とか「騎士ラヴェンダ」など、普通にかっこいい名前で呼ばれたりしているのに。本人は大層なことだと困っているけど。
他にはラピズを「ラピズ・ザ・ブルーライトニング」という名で呼んでいる人がいた。それはどうなんだろう。プロレスラーみたいだな……
俺はおかしな通り名以外に冒険者ギルドから特別称号を貰った。
カースドモンスターキラーだ。
称号とかすげえかっこいいなと思う反面、調子に乗りそうで怖かったのでやめて欲しかったけど、キノさんもギルドからも「死んでいった者達のためにも、成し得た功績への称号は受けてくれないか」と言われたら、断れなかった。それに、カースドハーベストアントたちを殺した俺がキラーと呼ばれるのは当然かもしれない。
ジュラーハでの称号授与式だが物凄く緊張した。俺よりも一緒に居たラピズの方が堂々としていたくらいだ。もう式典などは遠慮したい。
案の定どういう魔法なのかしつこく聞かれたし、仕えないかと勧誘された。
普段は使うことはできないが、ピンチになると発動する。一族の者にごく稀に現れるの名も無き古の魔法だ、ですと説明したけど。
その頃には俺は関係者から「謎の塩魔法使い」と呼ばれていることが多かったので、あれは塩に関係している魔法技なのだと勝手に勘違いしてくれたらしい。俺を塩使いって言い出した村人ちょっとこい、大いにありがとうだぜ、まったく!
村人といえば、ビント君がにいちゃんすげーなすげーな、と憧れの目で俺を見ていたが。俺はビント君や村長さん、エリネルト村の人達の方がすごいと思ったよ。
ビントくんがちゃんと依頼をしたから大勢の人が動いたんだもの。それからエリネルト村避難民をまとめて、ジュラーハの役人に堂々と交渉もしたそうだ。
知らせを聞いてジュラーハ経由でエリネルトへ向かおうとしたお兄さんと合流して、必ず依頼の約束を果すと頑張っていたんだ。
「これでレイナさんのハートはがっちりだよね! あ、でも。強すぎると母性をくすぐるって技が繰り出せないんだって言ってたけど、それってどういう技なのかな」って言ってくれた。誰だよそんなこと教えたやつは。そうかそういう手もあるのね。
今回の作戦で生き残った冒険者では、加増された報酬と村の土地を貰ってのんびり暮すんだと言う者が何人かいて、ガデム老神官さんの願いもちゃんと叶えられた。
村に教会と亡くなった人達の慰霊碑を作ってもらって、司祭として暮らすことになったんだ。豊穣の女神の眷属に仕える神官達は、財産や権力よりも農村を回って農業指導や神聖魔法で怪我を治したり、冒険者になって世俗の人々の助けとなるよう生きる人が多い。村を救った英雄でもあるので、エリネルト村の人達も喜んでいた。
領主からは支援物資と支援金を。減った人口は冒険者で少人数だが補充できた
。彼らは自分が救った村の、自分の土地を守るために今後も進んで魔物と戦うだろうから、減じた防衛力の補充も兼ねている。
村人すげえなあ。なんてしたたかなんだろうと俺がもっとも強く感心したのは、あれこんな子いたっけと思うくらい巨乳のかわいい子ちゃんが、さかんに俺を誉めそやして村にずっと滞在してくださいと擦り寄ってきてレイナの笑顔が怖かった時ですけどね。
ちなみにハルデンさんは畑のことで絶句していたが、俺達に厚い感謝とともに、前よりもいい太陽麦を育てて見せるから、また村に来てくんろと熱く語った。
森向こうの巣は長い時間をかけて浄化が必要だが、王国からそのための支援や復興資金に今年の越冬物資も贈られるので安心だ。
謁見の時に王子が穏やかな笑みをたたえて「あなた個人への褒美は何がよいですかね」と聞かれたので、土地やら官位は例の爵位号以外は遠慮した。キノさんの助言を受けて、俺は冒険者を続けると宣言したからだ。
王子様は金髪の爽やかな少年だった。
本当は緊張で口から心臓が飛び出しそうなので褒美としてもう帰っていいですかと言いたかった。
「英雄殿は無欲な方なのですね」
と感心されてしまったが、俺は冒険者ギルドに所属を続けた方がいい。
ギルドは各国の法に従うが報酬を受けて冒険業を行う中立機関だ。国に属している領主や貴族が冒険者に仕官を強制することは原則として出来ない。
身分制度などが厳しい他国では多少事情も違うらしいが、俺が冒険者としてギルドに所属している限り俺の立場も中立であって、王国に属する者は俺を勧誘できるが強引な手段は取れない。特にここエルストラ王国は国の成り立ちからして冒険者の意思を尊重する意識が高い。
王子は大変喜んで俺を褒め称え、冒険者を続けて王国の民に貢献して欲しいと言われた。しかし、それほどの冒険者に褒美を出さぬのも、冒険者の王国である我が国の名折れといわれてしまった。
そこでチョピヌの相棒ラピズに称号か勲章を授与していただけないかと願い出た。藍色鷹に称号を願ってびっくりされるだろうけど、ラピズは捨て身の一撃で俺の命を救ってくれたこと、チョピヌと素晴らしいコンビを組んでいたことや、ラピズこそ俺にとっての英雄なんですと説明した。
藍色鷹に称号を望んだんだから、これでもう何も言われまい。それに。褒美を辞退して友を称えるなんて俺カッコいい! はずだ。
「ええ。もちろん彼らのことは報告で聞いています。もちろんラピズにも称号が与えられていますので安心してください」
にっこり笑う王子。
えっ、なにそれ。鷹に称号なんてなんで?!
いやいや、それでいいんだけど。王家の人って話のわかる人すぎ!
どうしよう。もう他にかっこいい辞退のネタってないか、いっそ大領地でももらっちまうか、だめだ、そんなの経営できないよ。緊張でわけがわからなくなった俺は何か無いかと焦った。
エリネルト村への支援も浄化も決定していて、報酬も皆増額されてるし、個人的に何かって言われてもどうしたらいんだっ……あ、そうだ!
「しゅ、しゅ、収穫蟻の供養塚を作ってくださいにゃっ!!」 って言ってしまった。
みんなぽかーんとしてた。
言った俺もそうだったんだから、当然だね!
レイナが視線で、王子に説明をと言っているような気がして、俺はびびりながら落ち着きを取り戻すことが出来た。
俺はは王子に説明した。
呪われた魔物を討伐したのだから参加者の功績を称えるとともに、その呪いが二度と起こらぬよう願いをこめて、カースドモンスター化してしまった収穫蟻の供養に塚を作って頂けないか、と。討伐されるべき魔物だけど、呪われなければ普通の魔物だったのにと思ったからだ。
「討ち取った敵への敬意でしょうか。呪災害魔獣相手に珍しいですが、いいでしょう。それが望みならば叶えましょう」
と了承してくれた。
式典が全て終わって、俺が王家の人ってすげえ感じいいよね、いい人だよね。俺ファンになっちゃおうかなってレイナに話したら。
リョータさん。それはね特異な力や能力を持った人の扱いは王家としても難しいのよ。召抱えるのも放置しておくのもね。他の国との関係もあるし。でも冒険者としてなら中立のままで、魔物討伐には依頼を出して頼めるわ。だから王国としても今はこの方がいいのよ。キノがいろいろ説明してくれたでしょと、こんこんと説明されてしまった。なるほど、異世界でも政治ってあるんだね、そうだよねあたりまえだよね……
「でも。供養の塚はいいことだわ。リョータさんが教えてくれた、命の輪から一度外れてしまったものへ鎮魂と回帰の祈りこめた碑になるのね」
「うん、そうなんだ。あの魔物に殺された人もいるし、魔物は魔物なんだけど、あの呪いはかわいそうだったから……」
個人的に水と水瓜をお供えしてきたけど、ちゃんとした供養塚ができるんだ。この世界には無い風習だし、自己満足かもしれないけど。
レイナがわかってくれたのは嬉しい。
さすが俺の心をわかってくれているとは、おれのよよよよ嫁!
ちなみに、命の輪から外れた云々はあなたが言ったんですけどねっ。
レイナも俺も生きてるから言えたことでもあるけどね!
こうして俺は王国とギルドから称号と報酬を。
そして謎の塩使いというおかしな名前を得たのだった。




