第四五話 蒼い影
体半分になった女王蟻の赤い死眼が、ちかりちかりと、ゆっくりと瞬き始める。
俺を狙ったデスレイが放たれようとしている。
念入りに、確実に俺を撃ち殺すようだ。
ゆっくりと点滅している。
終わった。
詰んだ。
お守りの魔力もゼロ。
ステータスウィンドウをカスタマイズする魔力が無い。
ステ盾にすることができない。
あと10メトル。
ステ矛で斬るには遠く、逃げるには近すぎる距離。
こういう時って走馬灯のように人生を思い起すかと思ったが、なぜか灰色走竜超ゴッドスピードがくるくると激走している様子が思い浮かんだ。回転速度速すぎ、とツッコミを入れてみる俺に出来ることは、無駄だと解っていても諦めず、走竜に乗った時の様に、ただ前に進むことだけだ。
俺と女王蟻の視線は繋がっていて、これからあの瞬きが収束してゼロになる時が、終に俺の死だな。その瞬間が近づいている。もうすぐだ。
その時、風を感じた。
視界に蒼い影が射した。
まっすぐに、美しく響く鳴き声とともに一羽の藍色鷹が、女王蟻に突っ込んでいった。
女王蟻が完全であったなら、そうはならかなっただろう。
小さな藍色鷹が体当たりしたくらいでは、びくともしなかったはずだ。
だが、今は体は半分に千切れ、無理な姿勢で俺を狙っていた。
その片眼にラピズが突っ込んだ。
体当たりをしたラピズの体が、弾かれるようにくるくると跳ね飛ばされる。
不完全な姿勢で眼をえぐられた女王蟻の体が揺らぐと、赤い閃光は俺という的を外れて天に伸びていった。
ありがとうラピズ。
俺のステータスウィンドウの矛が女王に届いた。