第三七話 ステータス表示
さっき運搬蟻の群は戦闘蟻という統率者を失って纏まりが無くなった。この蟻達の頂点はあの女王蟻だ。
だから女王蟻を倒す。
俺はステ矛で斬りながら進んだ。
進路上の邪魔な戦闘蟻と殺戮蟻はステ矛で斬る。
まだ上手く扱えないから、自分の体を回転させて斬ったりもした。
止めは必要ない。
再生しないのだから、死眼を発動させぬようにさえすればいい。
ステ矛を振りながら体ごと回転して走り抜ける。
ぐるりと数匹を斬った時に一瞬、後方の皆が見えた。
戦っている。
まだ大丈夫だ。
でも、急がなければいけない。
みんな、いつまで耐えられるか。
俺も数で押し包まれれば厳しい。
とにかく動いて、ステ盾で攻撃を防ぎ、ステ矛で斬った。
女王蟻までもう少しのところで戦闘蟻二体が遮るように前に出て来た。俺を危険だと判断したのか、女王の命令なのか。
俺を挟み込むように襲い掛かってくる。
右の戦闘蟻の眼がちかりと輝いた。
ステ盾に戻している余裕は無かった。
「ぐうっ」
俺は歯を食いしばり、実体の盾を体に引き付けて地面に飛び込むように身を投げ出した。冷たくて赤い光が俺の体を通り過ぎる。二体の戦闘蟻の間に分け入るように転がって、地を斬りえぐりながら斬った。どっちのどの蟻のどこを斬ったのかも解らないが、体殻や脚が黒い体液とともに宙に舞う。そのまま立ち上がりさらにステ矛で斬って、二体の間を抜けた。
麻痺は、無い。
戦闘蟻二匹は、黒い塊みたいな体片を撒き散らして倒れもがいている。
その眼をステ矛で裁断した。
麻痺はしなかったが、左肩が痛い。敵の攻撃がかすっていたのだろうか。
ステ盾に戻す。
斬った蟻の体から落ちた蠢く残骸を、踏み潰しながら前に進む。
女王蟻への路が開いていた。
俺と目があった女王蟻が一瞬だけ身震いしたように思った。
そしてその目がちかちかと輝く。
強烈な赤い稲妻が来た。
はっきりと俺を狙った死眼攻撃。
ステ盾越しに見る小山のようなカースドモンスターの女王。
減じた赤い光に照らされた俺のステータス表示。
体力 48/72
魔力 18/36
状態:怪我
筋力 13
器用度 14
敏捷度 12
生命力 13
魔力 6
残りMPは18。
ステータスウィンドウの変更は1消費する。
カスタマイズ一八回分だ。
赤い光が止む。
女王蟻の黒い体殻には炎がのたうったかのような赤い斑が入っていて、紅玉のような眼は燃えるように赤い。
そして巨大だ。
俺を見ている。
女王蟻が。
群れの女王が。
その存在感は大きかった。
死眼攻撃に耐えた俺への怒りだろうか。
天に向かって女王蟻が吼えた。
耳障りで奇怪な鳴吼を上げる。
おまえは怪獣かよ。
怖いと思った時には、一歩、踏み出していた。
その次の歩を進めたら、あとは敵めがけて速度を上げていた。
「おれは。アンファングの冒険者リョータだっ!」
名乗りに応えるように、女王蟻がぎちぎちと鎌のような顎を鳴らした。