第11話 大魔法使いの資質
今日は魔力量と適正を水晶で調べて貰う日だ。
「リョータ殿。この水晶に手をかざしてみてくだされ」
マテウスさんは村から帰ってくると、机の上の台に水晶を置いた。
はい待ってましたー!
言われたとおりに手をかざし、魔力出ろと念じてみる。
はい。でました。
ちょっとだけ水晶の中が白くなりました。
えーと。これはあれですか。
きっと見たことも無い希少な色だとかですよね!
「マテウスさん。俺、大魔法使いに成り上がれそうです」
口調がおかしくて断言したみたいな俺にマテウスさんは言った。
「魔力の量は少な目じゃな。薄く色が出るくらいでは残念ながら魔法使いを職業にするには厳しい」
あー。魔力5だもんな。
「魔法使いにはなれないだ……」
そしてきっと30才超えて魔法使いになれちゃうんだ。
落ち込む俺。
「リョータ殿、そう気を落すものではないだろう。真に魔法使いの素質を持つ者は100人に一人くらいだ。それも水晶にはっきりとした色を出せれば大したもの。ましてや水晶を輝かせるほどの大魔法使いの級の資質を現す者など百年に一度現れるかどうか」
「そうなんですか?」
見てごらん、とマテウスさんが水晶に手をかざすと俺よりも白くなったが、光りだすというわけではなかった。
ふうむ。
「まあ。おかげでわしのような半端魔術師でもこうして楽に暮らせているというわけじゃな」
マテウスさんはそう言って笑った。
残念だなあ。これでは最強剣士に既になっているしか無い。
最強魔道士と魔剣士は諦めるか。
そこで俺はステータスウィンドウのことを思い出した。
これって魔法なんだろうか?
マテウスさんに聞いてみたい。
もしかしたら「なんだステータス表示者か。あーあ。まったく掃いて捨てるほど普通にいるよ」な世界かもしれないけど、そうじゃなかったら「なにい、ステータスウィンドウを出せるだと? 信じられん。とにかくとっ捕まえろ!」な世界かもしれない。
どうしよう……
でも、マテウスさんとランジュは信用できると思う。
ここ数日間だけど二人とふれあって、俺はそう思った。
よし。
まずはマテウスさんにこの不思議なウィンドウのことを話してみよう。
「ちょっと調べてもらいたいものがあるです」
「何かアイテムをお持ちだったかな?」
「いえ、コレなんでぇす。出ろ!」
俺はかっこよく宙に右手を伸ばし、ステータスウィンドウを出した。
「……はて?」
マテウスさんは俺の手や、その先の天上をきょろきょろと見ていた。
すまんです。
他人には見えないみたいです。
「あ、えっと。ちょ、ちょっと待ってみてください。たぶんここ……」
俺は彩度というところを指で調整してみた。ちょっと色合いが変わった。
ん、虚実ってところかな。実の方へ。
「おお。出現の魔法か? その板がアイテムなのかな」
よし。マテウスさんにも見えるようになったようだ。
うん、見ためは小汚い木の板だもんな。
「ここ、俺のステータスみたいなのが」
お。触れた!
叩いてみる。
コンコンってガラスみたいな音がした。
ああっと、文字が日本語だな。
コモン語に変えれるかな。
魔法の効果はまだきれていないはずだから……文字変更で。これで決定って感じで押す。
よし、できた!
「これなんです」
俺はステータスウィンドウを見てもらった。
リョータ 27才
さいだい魔力 29/30 ちから12。
器用さ14。窓変更。すばやさ11。
彩◎度 魔力5 虚<<>>実
せいめいりょく12 変更
さいだい体力 72 100%
状態 健康
「……字がきたないのう」
「す、すいません」
字を見せた時のランジュと同じ反応だよ。
とりあえず椅子に座ってじっくり見てもらうことにした。
ステータスは俺に向かって表示されているわけだから、それを見るには一緒に並んで座ることになる。
「ほう、これは……」
なんだか手相を見てもらっているみたい。
すごい運命が待っているとか?!
「ふーむ。リョータ殿の身体の状態を現しておるのか。表示の魔法に似ているな。魔法のようだが、これは……」
やったー。俺にも魔法があったー!
「表示が雑だし、統一性が無いのう」
ぐふぅ。
俺もそうだとは思いますが!
「魔法を使って調べてみるがよいかな。罠感知とマジックアイテムかどうかを鑑定する魔法を使ってみよう」
「罠感知ですか? はい、どうぞ」
「アイテムを見る時は慎重さが必要でな。うかつに触るのはよくない」
なるほど、勉強になるな。
マテウスさんは何かの呪文を二回唱えた。
「ふーむ。トラップは無いな。触ってみるぞ。ふむ。不思議な現象じゃな。マジックアイテムではないが、アイテムとしての特性も持っているようでもある」
俺はどきどきしていた。これがすごい魔法だったらいいんだけどな。
マテウスさんが触れても表示は変わらない。
しばらく考え込んでから彼は言った。
「すまんが、わしでは良くわからない。魔法的な能力のようだが……ステータスの表示というのはギルドが発行するのギルド証にも似ておるが……これは自分の意志で動かしたり消したり出したりできるのかな?」
ギルド証ってことは、この世界には冒険者ギルドや商人ギルドがあるのかも!
おお。聞いてみたい。しかし、今はマテウスさんに言われたとおりにして検証するのが先だ。
「やってみミマース! ほいっ」
ステータスウィンドウは俺の思ったとおりにあっちいったりこっちいったりした。
何かおもしろい。
そしてウィドウをいったん消して、また出現させた。
「色や形を変化させることはどうかな?」
よしまずはこの見た目のよくない色を変えてみよう。
俺は色を変えたいと思いながら変更ボタンを押してやってみた。
カラーチャートみたいなのが出た!
よしよし。
半透明のライトグリーンにしよう。
文字は白で。
「できました!」
「ふむ。魔力量表示が27/30となったな。ウィンドウを出すのは魔力消費無しだが、表示を改変すると1減るのか」
おお。さすがマテウスさんだ。そうなんだな。確かにそうだ。
「ちょっと調べただけでわかってしまうなんて。さすがすごい」
「いやいや。あくまで推察にすぎぬから。もっと詳しく見せてもらってもよいかの?」
「はい。えっとですねーこうして俺が触るとーほら、拡大されるですな」
「ほう」
マテウスさんも熱心に覗き込んでくる。
「おにいちゃん。おじいちゃん。何してるの」
昼寝をしていたランジュが起きてきた。
まだ寝ぼけ眼だ。
「ああ。マテウスさんと調べものなんだ」
「わたしも見たい」
「ランジュ、すまんが調査中でな」
そしてまたウィンドウを覗き込む。
「ランジュ。調べてもらったら、後で見せてあげるからね」
「わかったー」
マテウスさんと俺は調べることに夢中で、かまってもらえなかったランジュが机の上に目をやったのをちゃんと見ていなかった。
「きれいな水晶」
ランジュがそう言って。
「いかん。待ちなさーー」
気が付いたマテウスさんが血相を変えて止めようとして。
大きな光と音が炸裂した。
うぉっ、フラッシュバンだ!
突入部隊の急襲かっ。
俺は椅子からすっころげた。
大音響とともに水晶が閃光を放って砕けたのだ。
「めがー、めがー」
なんも見えない。
耳もわんわん耳鳴りがしていて、なんも聞こえない。
凄まじい威力だった。
ランジュが水晶に触れた結果だ。
「大魔法使い級の人がめっちゃ近くにおったやーん!」
俺は大声でつっこんだが、二人とも聞こえてないんだろうなあ。




