第三二話 チョピヌの青い空
「ら……ラピず……」
震える声でチョピヌは自身の相棒の名を呼んだ。
彼は村の片隅の家の、裏庭に倒れていた。
横向きになった彼の顔の前に、舞い降りた美しい藍色の鷹がいる。
チョピヌはカースドアントに襲われて深手を負った。そして戦闘蟻の死眼攻撃をまともにくらってしまったのだ。
解呪ポーションと回復ポーションを飲んで遮二無二逃げては来たが、そこまで逃げるのが限界だった。
ニンブル族は小柄だが手先が起用で素早く、レンジャーやシーフになって探検や冒険にあちこちを旅をする者が多い。魔法使いになる者は少ないが、チョピヌは魔法使いだ。
霞んでいく彼の視界にラピズがいる。
この藍色の鷹に魅せられて、彼は魔法使いになったのだ。
「使い魔との絆」や「使役」の魔法を覚えるために。
だから普通の魔法はほとんど使えない。魔法使いというよりも、使い魔使いだ。
しかし彼は一度も命令をしたことがなかった。
一人と一羽は友達だった。
魔法によって感覚が繋がって同じものを見た。
空を飛び、風を感じ、どこまでも広がる大地を海を眺めた。
チョピヌとラピズは共に空を飛んだ。
自由に、一緒に。
「……ら……ぴ……」
相棒に触れようと伸ばした指は、ぶるぶると震えていた。
藍色の鷹は彼の頬に擦り寄った。
チョピヌは薄れていくその感触にかすかな声で相棒の名を呼びながら、初めて使い魔にここを去るよう命じる。
今までの感謝とさよならを告げた。
動かなくなったチョピヌの肩に藍色鷹は留まり続けた。
揺り起こそうとするように服をそっとついばんだり、彼のほほに体をおしつけた。
その一羽と一人に、大きくて暗い影が近づいていく。
赤い眼をした魔物が。




