第二九話 ステ盾
「なんてインチキ!」
俺は遠くエリネルト村の上空に迫りつつある飛行モンスターの群れに向かって、喚きながら走っていた。フェアも正々堂々も無いけれど、せっかく戦闘蟻を倒したのにあんまりだ。
カースドモンスター相手でも一対一なら負けることはないと俺は踏んでいた。
ステ盾には物理攻撃も死眼攻撃も効かないことを知っていたからだ。
もちろんここまで強烈な呪いに対抗したことはなかったけれど、ステ盾の実験で既に検証済みだ。ブーツの中が酷く蒸れる呪いも無効にできていたから。パルセルありがとう。
今までステ盾のことはなるべく隠していたけど、村を救えるかもしれないのに使わないなんて俺には考えられなかった。
対抗手段を持っているのは俺だけ。
だから一人で戦った。
最初の死眼攻撃にはひやりとしたけど、何とも無かった。牙顎は恐ろしい鎌のようで逃げたかったけど、ステ盾で無力化した。
邪眼攻撃が全く効かないことにも激怒したのか、戦闘蟻は何度もステ盾にぶつかって来た。
その度に俺は「どうだ! 俺の硬いだろ、めっちゃ硬いだろ!」と叫んでいた。
うん、一人で戦っていなかったらきっとまたおかしな渾名がついてしまったやもしれない。
ステ盾は衝撃を遮断する。
向かってきた力で相手が衝撃を受けてノックバックを起す。
その時俺は少し前に出る。
敵の態勢を見てステ盾で押していく。
ごく僅かな距離だけど、時に後退しながらもじわじわと。
そしてやっとのこと、ステータスウィンドウを使って「えいっ」と落とし穴に落とした。
それなのに。
新手ってどういうこと?
いつのまに増えたんだ。
飛んでるし!
遠目にも明らかにサイズ違いの大きいのが一匹いる。どう考えてもあれは女王蟻だろう。
そういえばシロアリって羽で飛んで移動するんだったかな。
俺の生物に関して詳しい知識は既にレイナへの素材採取講習の時に出尽くし、ラスト俺Kakkeeeしてしまったといっても過言ではないからな。そもそも異世界の生物は謎だらけだし。
新手の襲来に気がついて皆が村の中へ逃げたようだけど、これはもう詰んだ感が半端ない。村から先に撤退した人達は大丈夫だろうか。俺が戦っている間に森までたどり着いていればいいんだけど。
「いいブーツを履いていてよかったぜ、ちきしょう!」
レイナ。
きっと間に合う。
俺はエリネルト村を目指して走った。




