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あいそまたーんっ  作者: 本知そら
エピローグ
78/83

その76 「秘密だよっ」

「この度は関係各位に多大なご迷惑をおかけ致しまして、まことに申し訳御座いませんでした」


 翌日の放課後。エンタメ部部室のど真ん中で、茜は土下座していた。


「心が籠もっていない。やり直し」


「ちょっと待って! 今のは完璧でしょ!? というかなんでそれを沙紀が決めてるわけ!?」


 がばっと顔を上げ抗議する。茜にしては珍しい泣きそうな顔をしている。視線の先には鋭い眼光で彼女を見下ろす沙紀がいた。


「先輩達は甘いから代わりに私がやってあげているだけよ。ありがたく思いなさい」


「まったくありがたくないんですけど! むしろ辛いんですけど!?」


「辛くて当たり前よ。それが目的なんだから」


「このドS!」


「ドSはあなたでしょ。辛かったのはあなたじゃなくて颯先輩と司、努先輩よ。あなたがやらかした数々の愚行。分かっているわよね? 分かったなら続ける、ほら」


「ぐ、ぐぬぬぬ……」


 茜がギリギリと歯軋りするが、自分にも思い当たる節があるのだろう。沙紀に従って再び頭を下げる。


 さっきから同じ事を何度も繰り返している。ボクとしてはそろそろ許してあげてもいいと思うんだけど、提案すると沙紀に「甘すぎます」とボクの方が叱られ、現在に至っていた。


「えー、この度はお日柄も良く――」


「ちゃんとしなさい」


「いだっ! ハリセンはナシ! それ案外痛いんだから!」

「痛くないと意味ないでしょ」



「なるほどたしかに」


「納得したなら続ける」


「ま、待って。足が痺れてピリピリするから、ちょっと休憩にしない……? あ、ダメですね。分かりました。分かったからそのハリセンしまって。まったくこれだから半目のガリ好きは……いえなんでもありません。ええと、この度は……」


「……いつまで続くんだろう、これ」


「さあ……」


 ボクと颯が困惑した表情で茜と沙紀のやりとりを見つめる。初めは良い気分だったけど、今じゃもう申し訳なさの方が大きい。


 今回の件。全ては茜の差し金だった。正確に言えば、そこに颯も噛んでいるんだけど、ここまで大きくしてかき混ぜたのは茜によるのが大きかった。


 彼氏彼女ごっこ。そもそもあそこから彼女の計画だった。颯に「司が好きだがどう告白したら良いか」と相談を持ちかけられた茜は「そのまま告白しては勝ち目は薄い。ここは努先輩にもその気になってもらいましょう」と、そうして計画が始まった。


 颯と二人で帰っているところを写真に収め、新聞部にリーク。新聞部の記事により学校中の話題となり、颯に彼氏彼女発言をさせることで否応なくごっこ作戦へ引きずり込んだ。ボクがその気になるまであれやこれやの作戦を実行し、そして頃合いを見計らって颯が告白、ボクがそれをOK、晴れて本物の彼氏彼女になる、という計画だったそうだ。


 もちろんこれは茜だけじゃない。颯もいくらかは荷担している。けどそれは純粋な気持ちからくるものであり、悪気はなかったはずだ。対して茜はどれも事を大きく大袈裟にして、いろいろと不必要に面倒にしてしまった。計画になかったことも独断専行でやらかしているし、かなり暴走気味だ。


 例えば、部室での盗み聞きの件は茜のみの計画だった。わざとCDプレーヤーを止め、中の声が聞こえるようにしていたのだ。そのことを颯は知らなかった。ボクが公園で泣いたのはほぼあれが原因だから、茜のせいというのが大きい。というか茜のせいだ。茜には反省してもらわないと。……もう充分だけど。


「沙紀さんよ……そろそろあたしは許されても良いと思うんだけど……」


「罪人が自分はもう許されても良いと思ううちは許されないのよ。分かる?」


「分からない!」


「反省が足りないって事よ」


「そうです。反省してください」


「千沙都まで!?」


「茜先輩のせいでつーちゃんと颯先輩が前より良い関係になってしまったのです。そのことについて富士山のように深く深く反省してください」


「深くって、それ富士山じゃなくてマリアナ海溝じゃない? 富士山じゃ高い高いなんだけど」


「通じれば良いんです! とにかく反省してください!」


「いやむしろそこは反省するんじゃなくて喜ばしいことじゃないの!?」


「誰しもが幸せになるルートなんてないのです……現実にトゥルールートなんて……」


「そういうわけだから。茜、続行よ」


「何がそういうわけなの!?」


 理不尽にも刑は続行される。茜は気付いているだろうか。頭を下げている間、沙紀と千沙都はもの凄い邪悪な笑みを浮かべていることに。


 日頃からたまってる鬱憤を今ここで晴らしているんだろうなあ……自業自得って事で。


「ところで、まだ聞いてないんですが、結局二人はどうなりましたか!?」


 土下座の姿勢のまま、顔だけを上げて茜が言う。


「どうなったって、ねぇ?」


「ああ」


 ボクと颯は顔を見合わせ、そして笑った。見れば分かるじゃないか、とでも言わんばかりに。


「ちょ、ちょっとそこ、アイコンタクトなんかしちゃって。どうなんですか? どうなってんですか!? ラブラブなんですか!?」


 なんだ。ちゃんと茜も分かってるじゃないか。だったら答えない。恥ずかしいし。でもなんだかんだで頑張ってくれたのは茜というのも事実。何も返さないのは可哀相だ。だから代わりに笑顔でこの言葉を送ろう。



「秘密だよっ」

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