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あいそまたーんっ  作者: 本知そら
第三章 ある日の一日と携帯電話
24/83

その23 「美衣、ストップ」

『おねえちゃーん、なにしてるのー? 早く降りてきてよー』


 階下から美衣の声が聞こえる。それを聞かなかったことにして、姿見の前に立つ。いつもと違い、長い銀髪を後頭部の高い位置でまとめ、紫色のリボンを結って垂らした、所謂ポニーテールという髪型をした女の子は、青い目を半分ほど閉じて不機嫌そうにしている。しかし頬が赤みを帯びていることから、不機嫌なのではなく恥ずかしがっていることが分かる。


 理由はその服装。上は襟に白のレースがあしらわれた黒のカットソー、下はベージュのホットパンツ、脚には太ももまである黒のニーソックス。首からはリングを通した長いネックレスをぶら下げ、左手首には小さな腕時計を巻いている。


 もちろんこの女の子はボクだ。学校が始まるまでは一歩も外に出ることなく引きこもり、学校が始まってからも休日は引きこもってばかりいたボクが、今日初めて制服以外で女の子らしい服を着て、外出するのだ。


 私服に身を包んだボクは、制服姿に負けず劣らずの女の子らしさが前面に出た女の子だった。スカートじゃないのでパンツが見える心配はないが、スカート以上にふとももが露出していて、これはこれで恥ずかしい。他にもっと裾の長いものがあれば良かったのだけど、残念ながら探した限りは見当たらない。これ以上丈の長いものとなればスカートか、部屋着のジャージかパジャマになる。部屋着で外は歩きたくないし、スカートは制服だけで充分だ。


 そんなわけでこの服のチョイスとなったわけだが……いいのかこれ。こんなんで外へ出ても変じゃないだろうか自分としては結構似合っているとは思うのだけど、あくまでもそれは主観なので他人からはどう見えるのか……。


『おねーちゃーん。はーやーくー』


 若干美衣の声がイライラしている。そろそろ行かないと痺れを切らしそうだ。……あーもういいや。これで行こう。鏡から顔を背け、机に置いてあった花柄のバッグを持つ。


『おねーちゃーん。明坂先輩から電話きたよー』


 げっ。颯から電話? 今日電話をかけてきたと言うことは、おそらく遊びの誘いの電話だろう。バッグを手首にかけて、本棚の隅に置いてあるボイスチェンジャーを持つ。なんて断ろう……。そう考えながら、ボクは部屋を出た。


 ◇◆◇◆


 颯からの電話は、案の定遊びの誘いだった。今日は用事があって無理だと嘘をつくと、なぜか断られたことに酷く落ち込み、さらには「次こそは遊ぼうな!」と力強く念を押されてしまった。そんなにボクと遊びたかったのだろうか。


 休日ということで、家族四人総出で近くのクレナタへとやってきた。クレナタとはクレナタショッピングモールという複数の小売店舗が集まった大型のショッピングセンターのことだ。この街で最も大きい商業施設であり、映画館やゲームセンター、フードコーナーと様々な施設が広大な敷地一つに集まっているという利便性から、開店当初から大盛況。二年前に増改築が施され、今なお街一番の集客施設としてその名を轟かせている。


 店内の広い通路を、紺の五分丈のブラウスに白のマキシ丈のスカートを穿いた美衣とボクが前を、その後ろをお母さんとお父さんが歩く。車から降りてすぐに、何故か美衣が執拗に「手を繋ごう」と手を差し出してきたので、渋々その手を握っている。女の子同士で手を握るなんて、たとえ姉妹でも恥ずかしいのだけど、美衣が嬉しそうなので振り払うことも出来ず、店内に入った今もそのままだ。


 歩いているといくつもの視線を痛いほど感じる。学校で注目されるおかげで幾分そういう視線にも慣れたけど、それでも気にはなるので、髪が跳ねてないか、着ている服におかしなところはないかと確認してしまう。度々そんなことをしていると、お母さんの息づかいが徐々に大きくなっていく。きっと体調が悪いだけだろう。無視。


「司はどんな携帯買うか決めてるの?」


 沙紀との一件以来、家から一歩でも出ればボクを妹として扱うようになった美衣。別にそのことはいい。そうしないといけないのだから。いいのだけど。


「なんにも。お店に行って実際触って決めようかなぁと」


 美衣がお姉さんぶるから、ボクまでそれに釣られて口調が変わってしまうのはほんと困る。……まあ、こっちの方が自然なのだからこれでもいいのかもと思っているけど。


「GPS付きの携帯以外は許可しませんからね」


 ビデオカメラ片手にお母さんが言う。こんなところで何を撮っているんだか。とりあえず後で映像が記憶されているメモリーカードをフォーマットするつもりだ。


「お母さん、今時どの携帯にもGPSくらい付いてるよ?」


「あら、そうなの?」「そうなの?」


「そうなのって、お母さんはともかく、司まで……」


 ボクだけ半眼で睨まれた。なんかバカにされた気がして気分が悪くなったので、距離を取ろうと繋いだ手の力を抜く。しかし離れる前にぎゅっと握りしめられた。睨み返したら「ごめんごめん」と謝ったので許すことにする。


 両脇にある店舗を横目に、専門店街を奥へ奥へと進む。携帯電話は買った後によく分からない諸手続で一時間くらいかかる。だからまずは携帯電話を買って、それからその他のお店を回ることになっていた。とくにお母さんがいろいろと洋服を買いたいらしい。深くは追求しない。


「何も決めていなくても、買うのはスマホの中から選ぶんだよね?」


「うん。いろいろ使えるらしいし、何より今はスマホが流行ってるみたいだから。美衣が持ってるのもスマホなんだよね?」


 美衣がポケットから何かを取り出して、僕に手渡す。


「そうだよ。これが私のスマホ」


 渡されたのは片側全面に液晶画面が配置された長方形のカードのような機械。沙紀が持っていたものと同じ機種みたいだ。


 ……それにしても、角の塗装が少しだけ剥がれていたり、画面に小さな傷があったり、なかなか使い込まれている感じがする。何年も前から使っていたようだ。


「ん、なに?」


「べつにぃ……」


 美衣から目をそらし、お母さんに視線を送る。サッとわざとらしく顔を背けられた。……よし、値段の高い携帯を買ってやる。小さな復讐を心に誓う。


「あ、司。ウニのヌイグルミ」


 美衣が斜め前のお店を指さす。そこはヌイグルミやインテリア雑貨を販売するお店のようで、店頭のディスプレイにはファンシーなヌイグルミが飾られている。その中に紫色をした針の玉のようなヌイグルミを見つけた。


「あれはウニじゃないよ。たしか……ほら、土曜の朝にやってるアニメのキャラクターのスパイクボール君」


 それは最近巷で人気のお子様向けのアニメ。たしかタイトルはハンドバッグモンスター。主人公のキャリー=トートが愛用のハンドバッグから可愛らしいモンスターをつかみ出して、悪と戦うという王道バトルアニメだ。その中でスパイクボール君は毎回果敢に敵に突進して自爆するも、まったく相手にダメージを与えることなく退場するという少し情けない役どころのキャラクターだ。


「どう見てもウニにしか見えないんだけど……」


 美衣が眉間に皺を寄せてヌイグルミを凝視する。


「てかり具合が金属っぽいでしょ?」


「てかりって、ヌイグルミなんだけど……」


 首を捻り、ヌイグルミに近づいてく。そんなにじっと見なくても違いは歴然だろうに。結局違いが分からないまま、スパイクボール君が鎮座する雑貨店を通り過ぎた。雑貨店が見えなくなったあたりで、美衣が鼻をすんすんと鳴らし始める。


「いい匂いがする。近くに香水のお店でもあるのかな」


 ボクには何も臭わない。鼻がつまっているわけじゃないのにどうしてだろう。そう訝しんでいると、視界の隅にぽつんと立ち尽くす女の子を見つける。赤い棒付きキャンディーを持ったおさげの女の子は、口を半開きにしてボクを見上げていた。迷子だろうか。そう思い、中腰になって女の子と目線を合わせる。


「どうしたの?」


 泣かないように、優しく声をかける。


「ママとはぐれたの?」


「司の愛しのママならここにいるわっ!」


「うっさい」


 背後でハアハアとうるさいお母さんをあしらう。変な視線を感じてちらっと後ろに目を向けると、さっきまでお母さんが持っていたビデオカメラをお父さんが持ち、そのレンズをこちらに向いていた。お母さんはというと、その隣で腱鞘炎になるんじゃないかという凄まじい速度で親指の第二関節から先だけを動かせて、デジカメのボタンを連射していた。なるほど、こういう人がいるからメーカーは耐久テストをする必要があるのか。


 女の子の頭を撫でながらもう一度「ママは?」と尋ねる。すると女の子はボクの顔を指さして、


「おねえちゃんのおめめ、アメみたい」


 そう言って、棒付きキャンディーを眼前に差し出した。赤いアメ……赤……。ボクはハッとする。


「司、目が!」


 美衣が声を上げる。表情には焦りの色が見える。それで確信する。ボクの目が赤く光っていることを。コンタクトはいつも通り左目にしか入れていなかった。慌てて右目を閉じると、女の子が「あぁ」と落胆の声を漏らした。


 心臓がどくんと鳴る。吸血衝動だ。そういえば最近血を飲んでいなかった。こんなところで誰かを襲うわけにはいかない。冷静にゆっくりと深呼吸をして自分を落ち着かせる。数回繰り返すと鼓動は緩やかになった。美衣が近寄り、耳元で囁く。


「お姉ちゃん、血がいるんだよね?」


「うん」


「分かった。人がいないところかぁ……」


 呟きながら美衣がボクが離れ、周囲を見回し始める。


「お母さん、この子お願い」


「司、また美衣を選ぶのね。お母さん悲しいわぁ~……」


「任せたからね」


「相手もしてくれないなんて……。はいはい。女の子のことなら任せなさい」


 女の子をお母さんに預ける。不満そうだったけど渋々引き受けてくれた。


「とにかく司は落ち着くこと、いい? 焦ると自分を抑えられなくなるわよ」


「わかってる」


「司、はやく!」


 急かす美衣の後を追って歩き出す。てっきりトイレへ向かうのかと思いきや、その前を通り過ぎてとある洋服店に入った。そこで服を数着掴み、店員に声をかけてからボクを試着室に連れ込んだ。


「こんなところよりトイレの方が良かったんじゃ?」


「休日のショッピングモールのトイレは混んでるの。それに個室に二人で入るのはさすがにおかしいでしょ? 試着室なら着るのを手伝ってあげているとか、理由をつけやすいし」


「な、なるほど……」


 ひと二人は余裕で入れる試着室で向かい合うボクと美衣。納得するボクの前で、美衣がおもむろにブラウスを脱ぎ始めた。


「ち、ちょっと美衣。別に脱がなくてもいいって。ボタンをいくつか外してくれるだけでいいよ」


「そうなの? でももう脱いじゃったからこのままどうぞ」


 ブラウスを脇のカゴに入れた美衣が両腕を広げる。白い肌と薄いブルーのブラジャーが目に入り、鼓動が早くなる。……えっと。な、何からすればいいんだっけ?


 前とは違い幾分平静なせいで、逆にどうすればいいのかと混乱してしまう。たしかそのまま噛んだら痛いから、ボクの唾液を塗って感覚を麻痺させれば良かったはず。……塗るってどこに?


 おのずと前回舐めた唇に目がいく。今日はリップを塗っているようでプルンプルンに潤っていた。柔らかそう。


「もう、どうしたの?」


「えっ? えっと、ど、どこを舐めたらいいのかなぁ~と」


 ボクが言うと、美衣はくすりと笑った。その表情はいつもの彼女とは違い、妙に艶っぽく見えた。そういえば美衣はさっきいい匂いがすると言っていた。まさかその匂いはボクが発するフェロモンで、それにあてられて変になっている、とか?


「どこをって、前と同じでいいんじゃない?」


「お、同じって?」


「だから~」


 美衣が一歩前に出て、両腕でボクを抱きしめる。かなり力を入れているようで、必然的に大きいとは言い難いながらも十二分にある胸が顔に押しつけられる。美衣の素肌に触れて心臓が破裂しそうなほどに脈打つなか、息苦しさに顔を上げると、そこには目を閉じた美衣の顔があった。


「み、美衣、ストップ、スト――んんっ!?」


 迫り来るそれを避ける余裕もなく、されるがままに唇を奪われた。


 ……み、美衣にチューされた。頭の中がぐるぐると回る。前回はただ唇を舐めただけだったはず。今回のこれはもしかしなくても正真正銘のキスだ。


 目を閉じた美衣の顔が間近にある。唇からは柔らかな感触が伝わってくる。心臓が痛いほど脈打ち、瞳孔が開いていく。なんとか逃げようとして頭を少しだけそらすも、美衣はさらにボクをきつく抱きしめて唇を押しつけてきた。


「んん……んー、んーっ」


 視界が徐々に赤くなっていき、思考にもやがかかり始める。これ以上は抑えていられない。離れろ。そう言いたいのに、美衣がそれをさせてくれなかった。


 視界が完全に赤くなる。もう我慢の限界だった。頭の中でカチッと音が鳴るのと同時に美衣の腕を振り解き、自由になった両手を美衣の頬に添えて固定する。一度唇を離し、息を整える。


「はあ、はあ……」


「お、お姉ちゃ――んぅっ!?」


 美衣の言葉を遮り、今度はボクから唇を奪う。吸血鬼の力を使ってぐっと押しつけ、美衣の閉じた唇を舌で押し開き、口内に割って入る。舌に触れると、美衣の体がビクッと震えた。それからおずおずと差し出してきた舌にボクの舌を絡める。表面のざらざらや裏側のつるつるしたところを舐め回し、歯や頬の裏側のぬるぬるした粘膜を堪能する。


「んむ……んぅ……んくっ」


 小さな水音が耳に響く。キスって気持ちいいもんなんだな、とぼんやり考える。気付けば唾液を塗ればいいだけのはずなのに、唾液そのものを美衣に飲ませていた。美衣も嫌がればいいものを素直に飲み下している。なんか申し訳ないので、代わりに美衣の唾液を啜る。ちょっと甘くて美味しかった。


 やがて充分に堪能したボクは、ゆっくりと唇を離す。頬を上気させた美衣はトロンとした目でボクを見つめている。キスの時間が長かったせいで、意識が朦朧としているようだ。


 よしよしと美衣の頭を撫でてから、首筋にかぶりついた。美衣の弱々しい吐息を耳にしつつ、喉を潤す。必要分の血を摂取して顔を離し、傷口を舐める。傷が綺麗になくなったのを確認して美衣の瞳を見る。ぼーっとして焦点が定まっていないようだった。


「おーい。美衣ー」


 呼びかけながらペチペチと頬を叩く。しばらくそうしていると、ハッと気付いたようで、突然美衣の動きが機敏になる。


「え、あ、お姉ちゃん? もう血はいいの?」


「うん。ありがとう、美衣」


 頭を撫でると、えへへと美衣が笑った。けれどすぐに顔を真っ赤にして俯いてしまう。


「どうした?」


「あの……お、姉ちゃんはさっきの……ふ、ファーストキス?」


「え。……あー」


 まったく気にしていなかった。そういえばさっきのがボクのファーストキスだ。……いつからのファーストなのかは聞かないでほしい。


「初めてだよ」


「そ、そっか。ファーストなんだ。えへへ……」


 美衣は俯いたまま、上目遣いで僕を見る。顔は真っ赤なままだ。


「私も初めてだったんだー。おそろいだねっ」


「そ、そうだな」


 美衣が目を細めて嬉しそうに笑った。……姉妹でファーストキス。喜ぶところか、それ?


 美衣を訝しんでいると、ふいに頭の中に風が吹いたような清々しさに包まれる。血を摂取したおかげでいつもの状態に戻ったようだ。血を吸わせてくれた美衣のおかげだなと、心の中で感謝する。


 だが、正常に戻った思考は先ほどまでの所行を鮮明に思い出させ、ボクに罪悪感を与えた。


「ぅぅぁぁぁぁぁぁぁ……」


 なにしてんのボクは!? 美衣にキスされたからってそれをやり返し、さらには舌まで入れるなんて……こ、これっていわゆる、ディ、ディープキスというヤツじゃ……。


「お姉ちゃんどうしたの?」


 唸り声を上げながら頭を抱えてウネウネするボクを心配そうに見つめる美衣。男のボクはともかくとして、実の兄が妹のファーストキスを奪ったばかりではなく、その初めての経験を軽くで留めておけなかっただなんて。もうこれいろいろとダメだろう……っ!?


 ひとしきりウネウネしてから、荒くなった息を落ち着かせる。そんなことをしている間にブラウスを着直した美衣の肩に手を置いて頭を下げた。


「……ごめん、悪かった」


「なにが?」


「なにがって、その……フ、ファーストキスを奪ったこと」


 恥ずかしさのあまりぼそぼそと話してしまう。


「別に気にしてないよ? ……むしろ嬉しかったから」


「むしろ、なんだって?」


「な、なんでもないっ。あ、あはは」


 誤魔化すように美衣が笑う。頬をほんのり赤くして顔の前で手を振る。


「気にしてないならいいけど。でもさすがに……し、舌を入れたのは、やり過ぎた」


 あさっての方向を向きながら小声で言う。


「へ? あ……そ、それも気にしてないから。うん。全然気にしてない気にしてないからっ。そ、そのあの、き、気持ちよかったしっ」


「そ、そうか。き、気持ちよかったか……」


 美衣が早口で捲し立て、ボクは思いもよらない言葉を耳にして顔を引きつらせる。「あっ」と美衣が声を漏らして動きを止める。口が半開きのまま、みるみるうちに耳の先まで真っ赤にして俯いてしまった。


 ……気まずい。今のは言っちゃだめだったか。美衣をはずかしめてどうするんだよボクは。美衣は俯いたまま動かない。変な沈黙が流れる。


「と、とりあえずお母さんのところへ戻ろうか」


 沈黙に耐えきれずに切り出すと、美衣は小さく頷いた。反応してくれたことにほっとして、持ち込んだ洋服を左手に持ち、右手は美衣の手を握り試着室の扉を開けた。


「いかがでしたか?」


「ぬわっ!?」


 試着室を出ると目の前に女の人が立っていた。驚くボクに、彼女は営業スマイルを貼り付けて話しかけてきた。


 え、ちょっと待て。もしかしてこの人ずっと試着室の前で待っていたのか? ああでも、よく考えれば充分あり得ることじゃないか。お店によっては試着室に入ると、店員が中から声をかけられてもすぐ対応できるように、扉の前で待つことがある。もしそうだとすると……。


「いろいろとお楽しみだったようで」


 ボソッと店員さんが呟いた。


 …………………………。


 無言で試着室に持ち込んだ洋服の中から一着、店員さんに差し出す。


「これください……」


「ありがとうございますー」


 お辞儀する店員さんか一瞬にやりと笑ったように見えた。

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