↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
<R15>15歳未満の方は移動してください。
この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。

探偵、国沢裕介シリーズ

何でもできる探偵社〜猫探しのチラシ〜

掲載日:2026/09/22

1.

喧騒の街、新宿。町外れの小汚い雑居ビルの3階に拠を構える「何でもできる探偵社」。


その所長である国沢裕介(くにざわゆうすけ)は、仕事の合間にパソコンを使って、株取引をしていた。


国沢家は今の神戸市あたりを支配していた大名の祐筆を代々勤めた家柄で、「祐」の字を継承していたのが、親父がうっかり「裕介」と届けてしまった。


その父へのささやかな反抗が、国沢を探偵という職業を選択させた理由かもしれない。


45歳、独身。


身長175センチのガッシリした体格で、柔道二段、空手三段の腕を持つ。


開業してから10年近く経ち、投資用資金がかなり貯まった。


あまりにも株取引に熱中しているので、従業員の笹渕(ささぶち)は気にしていた。


「所長、株もいいですけど、本業のほうは大丈夫なんですか?」


株の取引時間は、平日の午前9時から、1時間の休憩を挟んで午後3時半までである。


その間に顧客が来ることは稀であったが、国沢が株に熱中し過ぎて、彼は仕事で失敗することを恐れたのである。


「おれが直接、依頼を聞いている。お前ももうだいぶ経験が長いから、おれの指示に従っていれば、ドジを踏むこともあるまい」


「まあそうですけど」


「ちょうど前場が終わったところだ。飯を食いに行こうか」


国沢は従業員の笹渕と梶原(かじわら)を連れて、昼飯を食いに出かけた。


3人が新宿の街外れを歩いていると、電柱に「猫を探しています」というチラシが完全防水で貼ってある。


そのチラシは電柱を見るたびにしつこく貼り付けてある。


「これは一体何でしょう?」


笹渕の問いに、国沢はうんざりした顔をした。


「お前も鈍いな。完全防水で電柱に貼るのは違法だ。暴力団の仕業に決まっているだろ」


「それはそうですけど、一体何が目的で」


「電話番号が書いてあるだろう。そこに電話したら、出るのは多分、女だろう。細かく個人情報を聞き出して、それを名簿業者に売り飛ばすのさ。そして、猫を引き取りに行くようにいって、そのまま無視するのさ」


「なるほど。でもここに書いてある”猫を見失った場所”というのは?」


「それは寺の住所だ。デタラメだ」


「なるほど、悪い奴らですね」


「悪いことをするのが、仕事だからな」


国沢たちはラーメンと餃子を食って、事務所に戻った。


2.

その翌朝のことである。


笹渕が国沢に話しかけた。


「所長、昨日妙なことがあったんですが」


「なんだ」


「うちの近くの電柱にも”猫を探しています”という張り紙が完全防水で何枚も貼ってあるんです」


「お前のマンションは大久保だったな。それで?」


「その写真の猫に似たような猫を子供が拾ってきたんで、うちのかみさんがその番号に電話したんです。そうしたら、本当に猫を取りに来たんです」


「来たのはどんな連中だ?」


「それが女一人だったそうです」


「車で来たのか?」


「そうです」


「どんな車だったかわかるか?」


「黒い車だったそうです」


「お前はその電柱に貼ってあった張り紙を写真に撮ったか」


「ええ。これです」


国沢は笹渕が差し出したスマホを見た。


どこにでもいるような雑種の猫である。


その写真は高級マンションの一室のようで、すね毛の生えた男の足が写っている。


「なるほど。やはりこれはヤクザの住んでるマンションくさいな」


「一体、何のために猫を取りに来たんでしょうか」


「個人情報を売るためだが、それだけが目的なら猫を取りに来るはずがない。他にも目的があるはずだ」


「と、言いますと?」


「それはお前にも言えない」


そういうと国沢は所長室に戻り、株取引を再開した。


笹渕は、その様子を呆れて見ていた。


3.

それから1ヶ月ほど経った、ある日のことである。


新聞に「マケダニアハンバーガーに猫の肉が混入か」とでっかく見出しが踊った。


笹渕が内容を読むと、若い女性がマケダニアでハンバーガーを食べていたら、味が変だと思い店員にいったが、相手にされなかった。その女性は腹を立て、研究所に持ち込んだところ、猫の肉にしか含まれない成分が検出されたという。


国沢が所長室から出てくると、笹渕が国沢に話しかけた。


「所長。こんな記事が」


「ああ。おれも読んだよ。お前のお陰で儲かったぜ」


「え?それはどういうことです」


「お前は電柱の張り紙の猫に似た猫を見つけたら取りに来たと言っただろ。おれはそれは暴力団が猫を集めていると読んだ。おれはマケダニアの株を空(から)売りしておいた。今日のマケダニアの株は急落してるじゃないか。これをしばらくしてから買い戻せば、おれはかなりの利益を得る」


空売りとは、証券会社から株式を借りて市場で売り、後で買い戻して返却する信用取引の一種である。


株が値下がりして、安く買い戻せば利益が出る。


「なるほど。でもどうやって、猫の肉を混ぜたんですかねえ」


「多分、猫を焼き殺して粉末にしたんだろ。それを店員の隙をみて、ハンバーガーに混ぜたんだ」


4.

3ヶ月ほどマケダニアの株は下がり続けた。


国沢はマケダニアの株を買い戻して、利益を確定させると、今度はマケダニアの株を逆に買い集めた。


「笹渕。マケダニアの本社に電話しろ。暴力団が猫の肉の粉末をハンバーガーに混ぜているとな」


「承知しました」


笹渕はマケダニアの本社に電話して、暴力団が猫を集めていたこと、おそらく粉末にしてハンバーガーに混ぜていることを話した。


やがて、マケダニアの店員が、客がハンバーガーに粉末を混ぜているところを捕まえ、警察に突き出したことが新聞に載った。


暴力団がマケダニアに言いがかりをつけて、落とし前を取っていたのである。


マケダニアの株が反発して、国沢は高値で売り抜け、再び大儲けした。


国沢は上機嫌である。


「所長。僕の情報で儲けたんですから、少しボーナスを下さいよ」


「いいだろう」


国沢は金庫から100万円取り出すと、笹渕に80万、梶原に20万円ボーナスを渡した。



読んでいただきありがとうございました。

評価、リアクションをいただけたらとても嬉しいです。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。