ないものは・・・ない。あるものは・・・ある。
「げんざぶろー!・・・一大事じゃぁ!」 「わしも一大事じゃあー!」
冷ややかに見守っていた現ざぶろーの下に二人の童が息を切らして駆け戻って来る。
ぜーぜー、ハーハーうるさいったらない。
「・・・一体全体なにごとじゃ。揃いも揃って大声で喚きながら駆けて来るとは?」
「おう。それじゃ。聞いてくれ・・信じられんかもしれんが、・・・・ないんじゃ。」
「ん?・・何がないんじゃ?」
「だから、・・・が、ないんじゃ。」何がないのか、肝心のところをゴニョゴニョとしか言わん忠義ではらちが明かん。ので文之丞へと視線をかえるが・・・フルフルと顔を横に振るばかり。
「え~い!落ち着かんか!武士たるもの何時如何なる時にも『デン!』と構えるくらいの胆力がなくてどうする。」その言葉に二人は思わず顔を見合わせうんうんと頷きあうと、一息深く呼吸をする。
「・・・よし。わしらも武士じゃ、心して聞け!ないというのは・・男子についとる『あれ』じゃ。」
「・・男子についとる?・・『あれ』とはなんんじゃ?」咄嗟のことに源三郎も二人が何を言ってるのか理解に悩む。
「・・・だからじゃ。男子にあるはずのあれが・・・ないのじゃ。」
「・・・男子についとる?あれ がないとな?」?な源三郎
「しょうべんのでるあれじゃ。」忠義が重ねて説明する。
「フフフ・・そんなわけが・・・」ここまで言って二人の顔を見ればいつになく深刻な顔「まことか?」
その問いに黙って頷き「せーの」と着物の裾を勢いよく捲る忠義と文之丞。
二人の捲った着物の内側には・・確かに男子には見慣れたものがない。代わりに見えたものは・・・言うまい。
「もうよい。着物を直さんか!」目のやり場に困った源三郎は二人から視線を外して下を向く。
と同時に自信も不安に駆られて二人に背を向けると、着物の裾をばッと捲って自身の股間を確認する。
「・・・ある。」
「あるものがある・・・。」ホッとすると同時に体から力が抜けていく。一瞬のうちによほど緊張が走っていたようだ。と同時に安心感に変わったものだからその落差と言うか高揚感がたまらなかった。
(後ろからの視線が・・・痛い)
恐る恐る振り返ると、二人の心配するような視線が・・・
「・・・おぬしもか?」その言葉に源三郎は静かに首を横に振る。
「あったのか?」文之丞の問いに、今度はゆっくりと頷く。
「それは残・・・いや・・『ゴホン!』なにより。・・・」
「それと、連れションはどうなった?」
「「・・・・あ!・・・」」二人は思い出したように再び走って行った。
「源三郎は、・・その、・・腹は減らんのか?」忠義が・・いやもと忠義というべきか?みるみる童女の容姿になっているから。また、文之丞も同じく童女らしくなっているのでこちらも元文之丞であろう。
「腹を壊す以上に怖いことになっておるのを見てて、誰が同じように草を食うと思う?」
二人と源三郎の明確な違いは、路傍の草を食べたか、食べなかったか。それしかない以上よほどの好き物以外に草を食べようなどと思うやつが居るか?
ただ、それでも疑問は残る。『果たして女性が食すればどうなるのか?』まあ、確かめようはないんだが・・・
ここに来てというか、こちらで目覚めてからおおよそ一日が経とうとしているのは肌感覚で察することができた。お天道さまもない世界であるが不思議に夕焼けのような空が赤く染まるんだと感心する。
「さすがに夜に歩くのは危険であろう。」俺は二人に同意を求める。「そうじゃな。」と忠義。
しかしだからと言って野宿に相応しい木があるとか、水場があるとかではない。一面草っ原なのだからどこでも同じだろうというのが源三郎の意見。
「それにな・・童女の足ではこれ以上無理ではないか?」二人は口惜しそうな表情を浮かべるが、それは事実。実際に二人の足が遅くなり、源三郎が歩度を緩めて二人に合わせながらここまで来たのだ。
「かたじけない。」と二人が発する言葉も源三郎には、違和感で一杯になる。
(もはや言葉使いと声色、容姿が合っておらん。)
特に野宿の準備があるわけでもない。火を焚く枝木が落ちているわけでもなくあるのは例の草ばかり。
寝付くまでは話でもして気を紛らそうと三人は向かい合って話を始めるが、源三郎、
「誠に申し訳ないが、二人の言動が我には、違和感でしかない。どれほど自覚しておるかはわからんが、もはや二人は迷うことなく、童女でな・・・」
「うすうす・・・いや、自身で気付かんふりをしておるのは確か・・・これまで何十年と男をやってきて、おいそれと変われるものでも認められるものでもない。」忠義はぎゅっと唇をかみしめながら涙ぐむ。
「私も・・いや某も・・まったく・・同じ気持ちでございます。」文之丞も同じく目を伏せ、うつむいて表情を見せまいとする。
そうしてしばらく3人の無言の時間が過ぎるうちに、誰ともなく眠りに落ちていった。
翌朝、心地よい目覚めの中でまどろみながら源三郎は、なんと不可思議な夢を見たものじゃとかけ布団を・・・と、なんだかいつもの布団より柔らかく温かい。
その違和感に思わず視線を落として自身が寝ていた布団を見てみると
(お!、これは・・どこぞに・・)驚いてしばらく思い出そうとしたが、
(確か、介錯を・・としたところで意識が・・?)う~ん、思い出せん。
倒れたままに城で寝かされたのかとも考えたが・・・ないな。
フルフルと頭を振って意識をはっきりとしようとしたがそこで目に入ってきたのが両隣にすやすや眠る童女。
(いやはや夢ではなかったか・・・)すべて思い出した。と言うよりも忘れていない。先ほどまで夢と思いたかった事柄は全て現実であった。
気付いたことで思わず力が抜けて肩を落とす源三郎であったが、いつまでも寝ている、寝かせておくわけにもいかんと思い、忠義と文之丞を揺さぶって起こす。
二人が起きた後の様子はまるで判で押したように同じ。
キョロキョロと周りを見回し、ブルンブルンと頭を振って・・頭をひとしきり抱えたかと思えば、突然『ハッ!』として、布団から立ち上がると着物の裾をばッと捲って、確認し、再び両ひざから力なく取れこみ、頭を抱える。
(まあ、俺も似たようなものだったが、最後の確認がない分だけましと言うものか。)
(さてと、・・・ここはどこだ?)3人の中では比較的冷静な源三郎が思案を巡らせ始めると、遅れて忠義、文之丞が「やはり夢ではなかったのか?」と独り言をつぶやく。
そんな折も折。3人も頭に直接響くように声が聞こえた。




