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どこだ

 源三郎は夢の中にいた。(ハハ、不思議なもんじゃここはもしや天竺かの?)

 余りに心地よく、身も心も軽い。一面にこの世のものとは思えぬ美しい花が咲き誇り、何やらかぐわしき香りが漂っている。これはうわさに聞くあの世に違いない。

 だとするとわしは死んだのか?俄かには信じられぬがさすがにこの光景を見るとな・・・

 夢なら覚めよと自身の頬をつねるが、痛くない。夢じゃないのか。

(しかし妙なもんじゃ、わしは介錯人だったはず。解釈する側が死んだとあってはこりゃ天と地も引っ繰り返るわ。)

 てくてくと歩きながら一体わしはどこに向かってるのか?などと考えつつも腰に手をやっても(ありゃ、刀がないわな。)と腰に目線を向けると見慣れぬ帯が目に入る。(なんだ?)と訝りながら見えるところを見てやれば、(ありゃりゃ。こりゃいよいよおかしくなったわ)と頭を抱えると今度は髷がない。どころかこいつは・・・おかっぱ頭か?帯も女帯地面は近いしどうも童じゃな)確認しようにも水面もなければ、顔を映すかがみなどはのぞむべくもなし。

 いやはやどうしたものかと、あたりを見渡せば、何と同じような境遇。年恰好も同じ童がほかに二人。

(もしや、見延忠義殿・・・か?・・とすればもう一人は・・・?はて。)

 何にせよこの見知らぬ土地で一人と言うのも何とも心細い中まであればいてくれた方が心強いというもの

 皆がそれぞれをみとめて立ち止まっている状態。話しかけてよいものかと逡巡しておると、

「人違いであれば申し訳ないが・・八谷源三郎殿ではなかろうか?」と一人の童が問うて来る。

「いやはや、拙者を御知りか?かく申すそなたは、失礼ながら身延殿か?」

「応。やはりそうであったか。姿かたちは違えどこの状況では、そうではないかと思ってな。」

「何とも。某も同じ。誠に忠義殿であったか。」ともう一人の者に目線をやれば、何やら申したき様子でごにょごにょとしている。

「「してその方は誰じゃな?」」二人の声が一緒になる。もう一人の童は観念したのか

 源三郎と忠義に正対するとバッと一礼し、「申し遅れました。 某、田垣文之丞と申す。」

「田垣殿とな。」忠義は首を傾げる。して源三郎は重ねて問う。

「・・して何処の田垣殿でしょう?」

「はっ。戸尾家侍大将仁科照亨様が麾下田垣家の末席にござれば・・」

「いやいや同じ家中でござったか。これは存じ上げず失礼申し上げた。」そう言って深々と頭を下げる源三郎。それに慌てるのが当の田垣文之丞ぶんぶんと手を振っては、

「いやなに、某、お二方とはたまたま同じ場所に居り申しただけ・・・あの時身延様を引き出したただの雑役に過ぎず・・」身延忠義の手前、気まずくて顔を伏せるが・・

「なんと、あの時の役人であったか?」これは合点がいったと忠義は「ハハハ」と笑った。


 何ともあの場所にいた三人が三人ともこの場所にいるということで、向かい合ったまま地面に腰を下ろし、事の詳細は不明なれど皆が一番気になっていることを口にする。

「「「して某の容姿はいかがなっておる?」」」

 お互いの顔をまじまじと見合わせながら、源三郎が意を決して口を開く。

「お二方の背格好、容姿などなど、どこをどう見ても・・・童じゃな。」

「やはりそうか。」明らかに失意に満ちたトーンの落ちた声で返答する忠義

「なんと。・・・やはりそうであったか。」とは文之丞

「して・・・」源三郎もわかってはいるがはっきりと聞きたい。急かしたくもないが、今を逃せばさらに失意が広がるやもしれん。

「ああ、我らと、おんなじじゃ」忠義がもう分っておろう?と言わんばかりの抑揚のない声でうつむいたまま呟く。

「・・・うむ。」源三郎は何かを飲み込むように一言発すると、パッと顔を上げて両手を勢いよくパンパンと叩く。

 その音につられるように顔を上げる、忠義と文之丞。二人の顔を見回してニカッと笑うと

「どういう訳かは分からぬがこうなってしまっては致し方あるまい。童として生き抜く覚悟をせねば。・・・な?」と二人を諭すように話し出す。

「確かに源三郎の言う通りかもしれん。いつまでもわいのわいのと言っておれん。」そう言う忠義の腹が鳴る。

「さよう。何をするにも腹は空くからのぉ」源三郎はその音を聞き逃すことなくすかさず取り上げる。

「よう考えたら、戦からろくな飯を食っとらんわ。」と豪快に笑いだした。

「おぉ、俺も腹が減ったわ。」

「ハッハ、それがしも腹が減り申した。」3人が顔を見合わせてしばらく笑い合った。


「さて、この世じゃがな?あの世かの?」

「この世があの世かと・・な?」

「あの世がこの世かも知れんなぁ」

 なる腹をさすりながらあーだこーだと話す童の3人組であったが、行けども行けども景色が一向に変わらん。

「あー、腹が減りすぎッてもう一歩も歩けんわい。」忠義はそう叫ぶともう一歩も動かんぞと言わんばかりにドカッとこしをおろし、腕組みをする。

「源三郎殿は元気であるのぉ・・」文之丞もそう言い放つと地面に突っ伏す。

「そうは言っても、詮無きこと。今はどこぞ人里を探さんと本当に飢えてしまうぞ。・・ほれ」

 源三郎は二人に立って先を急ごうというものの、あてのあるわけでもなし。

「ほう。ここまで歩いてきたは良いが、先の見通しどころか全く同じ景色のままじゃ。どこに人里なぞあろうや?」忠義がそう言えば、文之丞もそれに続く。「そうじゃ、そうじゃこっちじゃのうて、あっちじゃったかも知れん。」

「もうええわ。ならばお二人はここで腹が減った、腹が減ったと喚いておればよかろう。わしは先に行く。」予想外の源三郎の行動に慌てたの二人。すぐさま立ち上がって源三郎に走り寄る。

「ほれ。すまなんだ。・・しっかし、この草がうまそうに見えてきた。」忠義は地表にひょろひょろと風に吹かれてなびいている背の低い草を指さしてそう口にすると、ゴクリと唾を飲み込む。

「そう言われると…何やら食ってくれ、食ってくれと呼ばれとるみたいじゃ。」文之丞も忠義につられて生唾を飲み込む。

「もう、勝手にすればよかろう。路傍の草など食うて、腹を壊さん奴はおらんじゃろうに。」呆れた源三郎は二人にそう言うが、なんの、二人は今にも草に食らいつきそうな勢いでギラギラとした目で草を見つめたまま「「腹は壊れるかのぉ?」」

「ああ、きまっちょる。どこぞの犬猫が小便でもしとるやもしれんしの?」

「確かにそれは考え物じゃの。・・・え~い。武士は食わねど・・・じゃ。」忠義はぎりぎりのところで踏みとどまったようだが、留まれなかったのは文之丞。気付いた時には手でむしり取って思い切り口に頬張ってむしゃむしゃと咀嚼を始める。

 そうすれば一旦留まったと思った忠義も、もう勢いに押されて同じ様にむしゃむしゃ。

(あ~あ~。こやつらとうとう草まで食いおったわ)

 もはや止めるのも成らず、二人が一心不乱に食するをじっと眺めるしか手がない。

 それでもほかに見ておくところでもあれば気がまぎれるというものだが、生憎の草っ原。それこそすさまじい食いっぷりじゃと感心しきりで目も離せん状態になる。

 それでじっと眺めておれば気のせいか二人の体が少々丸みを帯びてきよるように見える。

(まあ、なぜか我ら童に戻って居ったし、少々でも食い物を腹に入れればそうも見えるか?)

 それで待つこと半時ほど・・・鐘が鳴るでもなし、お天道さんが居るわけでも・・・・そうじゃ!

「なんで気付かんかった!?。」ようやく食べるスピードが落ちてきた二人の肩を揺さぶって話をしようかと思ったのだが、これまた不思議なことが・・二人の体は全く筋張っておらずまるでおなごのように柔い。

「・・・」(なんじゃ?)つい大切なことを忘れるところであった。

「おい!忠義。文之丞。ちょっと見てみぃ!」二人の視線を集めると空を指さす。

「お天道さまが見えるか?」

「「・・・・みえん。」」

「じゃ?が、雲の影とかでもない。なのにお天道さまがあるように明るい。・・・これは一体全体なんと説明したものか?」

「おう。確かに変じゃな?・・・すまん!厠じゃ。」急に尿意を催した忠義は源三郎に断って少し離れた場所に用を足しに行こうとすると、「すまん。わしもじゃ。」と文乃丞もとっとと忠義の後を追う。

「おー、文之丞もか?二人で連れションと行こうか。」と二人で小走りに走っていく。

 肩透かしを食らったような源三郎は二人の走り去るのをただ見てるしかなく・・・

「お!」

「おぉー!!」

「・・・ない!、ないない、ない~ッ!」

「うぉ! うそじゃ~~~ッ」

 用足しに出た二人から先ほどよりも甲高い悲鳴が聞こえる。

(よーけ、騒ぐ連中じゃ。・・なにか出たんじゃろうか?)若干冷ややかな目で二人を見守る源三郎であった。


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