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第三幕 憂鬱と暗躍と






はぁ~・・・。


「おーい、姉?どうしたため息」

目の前で手がふられているような気がしますね、幻でしょう。


はぁ~・・・。


「マジでどうした。もしやあれか、遅咲きの春ってやつか?」

バキィッ!!!

「ぐおっ!?」

ああ、いけないいけない。私は基本温厚かつ忍耐強い癒し系マイペースキャラとして生きようとしているのに、弟の発言がムカついたからと言って殴ってはいけませんね。

いや、しかしここは弟のためにも心を鬼にして挑むべきでしょうか・・・?

鉄拳制裁というものに。

「癒し系って、図々しいにも程があるだろ・・・マイペース意外どれひとつとして掠ってねえし」


黄金の右拳二発目、投入しました。

「さて、前回やっと名前が出た優二君。私の弟である君は今、妙なことを宣ったね?訂正しなさい」

「いや、その口調おかし・・・・・・わかったよ、訂正するからさ」

おやおや、そんなに震えてどうしたんです我が愛しの弟君。お姉さんの右拳はそう簡単に振り下ろされるものではないですよ?

メリハリのきいた、私よりも数倍ランク上に生まれてきたお顔が真っ青ですねー。


殴っていいでしょうか。


「で、何あったんだよ」

気を取り直したのか、優二は私に訊ねてきました。そんなに機嫌が悪いなら、なにかあったんだろうと言ってきていますが。別に私、機嫌が悪い訳じゃありませんよ?

少し、腹の底が煮えくり返り状態なだけで。

・・・え?それが機嫌が悪いってことだって言うんですか?


ははっ、錯覚ですよ。


この程度で機嫌が悪いとか表記してたら、作者が私の大激怒を表現出来なくなってしまうではないですか。それじゃあ可哀そうでしょう?

作者を思いやり、忍耐力のある私は機嫌が悪いとかそういうことではないと表現してあげているわけですよ。

とっても情け深いですね、私。


「優二、男って根絶やしに出来ないかな?」

「え、何だよその異常な発言。どんだけやさぐれてんだよ」

異常とな?いやいや弟よ、そんなことはありませんよ。

常々思っていたのですから、通常ですよ。

「そういう問題じゃねえし!?」


そういう問題ですよこのド畜生めが、私は今人類の約半数に非常に苛立ちを感じているんです。黙って土下座でもしたらどうですか。

「いや、何があったんだよ姉」

・・・ほう、何がと聞きますか?ではお答えしましょう。


「電車は魔窟だ・・・」

「痴漢にあったのか」

弟は、「またか」とため息を吐いて頭をかいています。よくあることなので反応も薄く、非常に気に食いませんね。

「関節極めた程度じゃ収まらない・・・あいつらどうしてくれよう」

「いや、充分だろ」


ほう・・・?


女である私にとっては、毎日の満員電車での御約束は苦痛以外の何ものでもないといいますのにね。こいつの彼女にチクってやりましょうか。

『我が弟は、痴漢を仕方ないことだと気にしない奴』だと。

「明らか濡れ衣だろっ、妙なこと考えんなよ姉!」

「さあ、今の彼女の電話番号が携帯に入っていたね。ちょっくら電話をかけようかな。ミナちゃんでよかったね」


うふふふふふ、弟よ。姉をなめてはいけませんよ、歴代の彼女さん達とは密かにメルアド交換をして弟よりもロングセラーなメル友なんですからね。

もちろんのこと、オフ会もやっていますよ。その名も『飯方優二歴代彼女の会』、先月のオフ会では現役のミナちゃんも参加して楽しみました。

つまり毎月やっているんですね、これが。


「何だよそれっ、初耳・・・ってか止めろ!!」

弟は女の恐ろしさというものを思い知ったようです。顔を真っ青にしながらこちらの携帯を取り上げようとしてきますね。

これに懲りて、少しは彼女と長続きしてほしいですねぇ・・・。

「うっ・・・それは、姉には関係ないだろ。とにかく止めろよ」

「わかってるよ、冗談だし。・・・・・・後でにしとくか」

「今何かボソッと言ったろ!」

言ってませんよ?失礼な。空耳と言うやつですね。



「・・・で、何だよ。痴漢にあって、その他に何かあったのかよ」

おやおやどうしたんでしょう、そんなにつかれた顔をして・・・哀れですね。

お前のせいだとか指さしてないで、ほら。私の説明を聞くんですよ。


事の発端は、今日の朝。通学のための電車の中でのことでした。

満員電車の御約束、とでもいうかのようにね、遭ったんですよ。痴漢とやらに。

いつものことなので、スムーズに関節極めをして悲鳴を上げさせることで犯人を特定。「あの人痴漢です」と指さして周りの方達に捕まえてもらいました。


電車がホームに滑り込み、その駅で降りて色々と事後処理だかなんだかをしていたわけですが・・・。まあ、個人情報を渡せば示談に運ぶという話になったわけで。

さすがに、直ぐに警察に・・・まあ犯罪者なんですけどね?

「そいつの名刺を取っておこうと思ったんだけどね、誤魔化したんだよ」

「誤魔化し?」

「誰かの・・・会社関係か何かの人の名刺渡そうとしたんだけど。社章胸につけながら違う会社の人の名刺渡すってどうよ?」


見た感じは三十代前半位のサラリーマン。普通にスーツを着て、凡庸な顔立ちをして。所謂モブ的な存在なわけで。

非常に親近感が湧いたというわけでもないけれど、一応示談で済ませようという私の配慮を・・・


配慮をあの屑は・・・


しかも直ぐにバレるような嘘を吐いて誤魔化そうとする小賢しさ。しかも使用した名刺は取引相手のものだったそうで・・・。

他人に罪を着せるのと同じな行為に私は盛大にキレ、笑顔で駅員さんに通報を求めました。


「うわー、馬鹿だろそいつ」

「だから、免許証写メってやったさ」

警察に通報した以上は必要ないですが、もしものために個人情報をしっかりゲット。

優二も、男の方を馬鹿だと言うだけでやりすぎだとは言いませんし、当然の対応だということですね。

「おお、頭いいな」

そうでしょうそうでしょう。

警察に連れられて行き、前科一般のハンコを押されたわけです。


「お陰で遅刻だった」

そして、そんなことをしていれば当然のごとく遅刻なわけで。あとの事は警察に丸投げしたとは言え、一限には間に合いませんでした。


それにしても、なぜこうも頻繁に痴漢に遭うのか・・・。二週間に一回は警察に御厄介になっている気がしますね。うーむ。

「姉いっつもギリギリだからなぁ、時間変えたら?」

まあ、それが一般的な対策なのでしょうが・・・。

「痴漢の為に時間を変える?嫌だね、絶対」


犯罪者のために睡眠時間を削る?ありえません。


「んじゃあ、どうすんだよ」

「それで考えてんの」

優二は呆れているようですが、女の沽券にかかわるんですよ。

何とか対策を打ち立てたいところです。

「俺は部活あるからな、頑張れ姉」

優二の朝練の無い日は一緒に登校するため、痴漢に遭うこともないわけですが・・・。護衛ついでに毎朝一緒に登校するには、私が今より一時間ほど早く起きなくてはならず。


ぶっちゃけ嫌です。


そもそもですよ?

「ったく、私の尻なんぞ揉んで何が楽しいんだかね」

心底理解できませんね、こんな凡庸な体型の尻を揉んで得られる快感て何なんでしょう?もっと肉感的な女性の尻を揉めばいいでしょうに。

尻とか揉むとか下品でした。すみません。

それにしても、わかりませんねー。

「・・・いや、楽しいかどうかは置いといて気持ちはわかるかもな」

「何?」

んん?弟には心当たりが?

「んーにゃ、何でもなし」

しかし、訊き返した途端首を振られました。

残念です、理由がわかれば改善しようもあるものを・・・。



「そろそろ夕飯か・・・」

気づけば、もう良い時間です。夕御飯を作らなければ。

「お、そだな。飯飯ー」

私と優二は、夕飯を作るべく飲んでいたコーヒーのマグを持ち、リビングのソファーから台所へと向かいました。

我が家では、母親が滅多に家に居ないので姉弟二人で食事を作ります。優二が部活の時は別ですが。


同日・初実就寝後――


「――ということがあったんですよ」

優二はいつものように(・・・・・・・)、姉の友人である小林に電話をかけていた。

「それで?」

「それだけです」

姉が今朝痴漢に遭ったこと、犯人の様子など聞いた限りのことを小林に報告し、反応を待つ。

沈黙は然程長くない。向こう側の判断を下す早さが、姉に関しては一貫していることを優二は知っていた。

「その写真、こっちにまわせ」

「はいはい、了解」

小林の要求に軽く応え、優二はすぐさま姉から回された相手の免許証の写真をメールで送った。



「いやー愛されてるねぇ、姉も」

写真が確実に送られたという確認メールを見ながら優二はひとりごちた。

変り者姉のさらに上を行く変り者である友人・小林に、姉の有事を伝えるのはこれで何度目だろうか。

些細な事柄から、結構深刻なケースまで。自分では話さなくとも弟から漏れていることを姉は知らない。優二も知らせていないし、小林の方もわざわざ話題に出したりはしないだろう。

優二が知らせた以上は今回の痴漢の犯人である男も、無事では済まされないに違いない。社会的に抹殺されるか、別の方法で酷い目に遭わされるか・・・そのどちらかだろう。

「怖っ」

優二は自分の想像に肩を震わせた。


姉の友人、小林の対応はいつも冷静である。ちらりと除いた限りでは、姉には随分と優しい対応をしているようなのに、それ以外への対応は異常に厳しい・・・というより冷酷。

優二に対しても、弟であるということで比較的ましな対応だが、報告するときのあの威圧感はどうにかならないものだろうか。


はっきり言って、面倒を嫌う姉があの小林と友人であり続けられる理由が分からない。付き合いにくいことこの上ない人種だろうに。

それでも、優二が毎回電話をかけて報告を欠かさないのは、小林に言われているから――という理由を隠れ蓑にして、優二自身が姉に危害を加えた者が許せないからだったりする。


姉の手前、やりすぎだと茶化したりしたものの。関節固めくらい何だ、というのが本音である。


「俺も大概・・・シスコンだよなぁ」


自覚はしてるんだよなー。と一人ぼやきながら、優二は布団に潜り込んだ。

照明の落とされた室内に、やがて寝息が一つ聞こえ始める。



どうやらこの日も、飯方初実の周りは努めて不穏であるようだ。


・・・まあ、彼女の与り知るところではないが。





う、うーん・・・やってしまったかもしれない。

まずいかな、どうしよう。


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