第二幕 風邪っぴきの頭の中は
皆さーん、元気ですかー?
私は今ー、自宅のベッドの中に居まーす。流行りの風邪にヤラれてしまいましたー。
流石私、流行の最先端を行っておりますね。
まあ、自分で買う衣服はほとんどユニ○ロですけど。まあいいじゃないですか、易くて適当に着まわせれば。
いいじゃないですか、ユ○クロ。
最近じゃあ、フランスに支店を出したとか言ってますし。
おフランスですよおフランス、アムールの国ですよ。
「姉ぇー、俺もう行くぞー?何時まで寝てんだよ」
「・・・勝手に行きやがれ、餓鬼」
荒んでますね、私。普段ならもうちょっと優しく言ってあげられるんですが・・・風邪ですし、高熱ですからね。
「まだ着替えてねえの?」
ノックも無しに部屋へ入るなこのエロ餓鬼、彼女の裸で我慢しやがれってんですよ。
思うんですけどね、登校十分前になって姉が風邪だとやっと気付く弟ってどうなんでしょうかね。
今だって、真っ赤なお鼻ならぬお顔の私を見て「寝坊助も大概に」とかほざいてやがるんですよ。ぶっちゃけ、健康体だったら殴ってますね。
いや、関節外すくらいでいいかな?
まあ結局、こんなことを考えるのは健康体じゃないからで、頭ぶっ飛びな自覚があるからですが。
「風邪引いた、さっさと学校行け」
「はあ?風邪?」
「煩い、訊き返すな」
察しろ馬鹿弟、お前はそれでも私の血縁者か。
「確かに風邪だな」
口調が荒くなっている私を見て、ようやく弟は理解したようです。
私、風邪の時は億劫なので口調が荒くなるんですよね。よく幼児化する方がいらっしゃいますけど、私はとことん荒みます。
枕元に置いてある、主張用の体温計の温度を見て弟は唸っています。結構高いので、仕方ないですね。
「病院行くかー?」
「ウザイ」
訳:億劫だ、面倒だ、行きたくない。そこまで気を回さなくていい。
中々意味を含ませた会話です。普段なら瞬時に姉弟戦線勃発ですが、今の私は病人。弟はそれなりに看病の経験を積んでいるので、ニッコリと微笑んで。
「三音で無駄に主張してんじゃねえ」
とか言いました。その含んだ笑顔、ちょっといつもの小林様に似ていらっしゃいますねー。
まあ、あの方とは格が違うので全く怖くありませんが。伊達に親友やってませんよ、いくらなんでも慣れますからね。
「放っとけ」
訳:心配してくれるのはいいですが、いい加減遅刻するので学校にさっさと行きなさい。貴方の姉は大丈夫です。でも薬は置いていってね。
「いや、流行りの風邪だと行かないとまずいだろ」
「む・・・」
しかし弟は何気に鋭い指摘をしてきました。うーむ、賢くなりましたね。
流行りの風邪、自分でも引っかかった自覚はあります。民報のニュースで延々放送していた症状とガッチリ当たってしまっていますからね。
最近疲れが溜まっていたので、仕方が無いとは思うのですが・・・。
「む」
「学校に連絡してくるから、寝てろよー?」
いたし方ない、弟の言う通りにすることとしましょう。母が出張中なので、自然弟に面倒をかけてしまうのが申し訳ないですね。
弟が私の欠席連絡と、自分の遅刻連絡をしに行ったので。モゾモゾと布団から出て、暖かい服を着こみました。汗をかいても平気なように、厚手のパーカーにスボンをはいてベッドにゴロリ。
うー、辛いですね。
何で弟は風邪を引かないのに、私は引くんでしょうか。不思議です、生命の神秘と言えます。
馬鹿は風邪を引かないと言いますが、弟は馬鹿なんでしょうか。
いえいえ、意外と頭がよろしいんですようちの弟は。ついでにアウトドア体質なので運動得意です。
殴りたくなってきました。
私と違って、顔の造りがハッキリしているのも気に入りません。
高校生の分際で彼女とニャンニャンとは、身の程を知らない奴の所業ですね。けしからんです。
「姉は俺の親父か?」
口から出ていましたね、部屋へ戻ってきた弟に聞かれていました。
そして弟、あんたは何故私服だ。私を病院へ連れて行ったら即学校に向かうというのに、私服では学校に行けないだろう。
「服」
訳:何で私服を着てるの。病院へ行ったら直ぐに学校に行きなさい。
「一日目だろ、俺も休むぞ。それとも一人で死亡が好みなんか、姉」
「むぅ・・・」
「母さん居るんだったらいいけどさ、出張だろ。ほれ、さっさと歩けー」
結局、熱で頭が回らないせいか弟にやりこめられる頻度が増しています。
くっ、無念・・・。
病院から自宅へ戻り、休息を求めてベッドへダイブ。気持ちイイですねー、布団がひんやりしています。移動で体を動かしたので、いくらか熱が逃げて行ってくれたようです。
このまま下がるといいのでしょうが、そうはいきませんでした。
三時間後――・・・
「おい姉ー、大丈夫かー」
熱、四十を超えました。ヤバいです、体中ギッシギシいってます。流行りの風邪特有の関節痛が私の体に侵略してきたっぽいです。
何としても、本丸だけは守り通さねばなりません!
私は布団をベロリと剥がされ、弟に不満げに視線をやりました。
「さむい」
寒いんです、本当に。熱が高すぎるせいで、布団が無いと真冬に水かぶって素っ裸で外に出てる気分です。
「熱上がってるから、布団はなし。ほれ、脇に布巾挟め」
「つめたい」
対して弟の処置は非常に適切なのですが、私はぶっ飛んだ状態なので非常に気に入りません。仕方ないと思う気持ちもありながらも、弟を睨みつけるのが止められない止まらない。
薬を飲まされ布団を剥がされ、寝衣の前を肌蹴られ、濡れ布巾を脇に挟まれて手首足首に冷え○タ。
ぶっちゃけ拷問ですよ。
「仕方ねえだろ・・・、熱あんだから。湯だって死にたくなかったら我慢」
うう、この鬼畜!姉を苦しめてそんなに楽しいか!
そんな事を思う反面、辛抱強く看病してくれる弟に感謝の気持ちをほんのり感じていました。
更に二時間後――・・・
「薬効いたか、流石に」
やーっと安心出来そうなところまで熱が下がってきました。体温計を見た弟も安堵の息を・・・
うう、随分と心配をかけてしまいましたね。面目ない。
「出てけ」
訳:もう大丈夫だから、うつるといけないので自分の部屋へ行きなさい。
それでもやっぱり、億劫なんですよね喋るのが。
「何かあったら呼べよー」
それでも何も言わず気遣ってくれる弟、何と姉孝行ものであることか・・・。
(高熱の時に何を考えていたかはかなり曖昧です。後日看病していた人――主に弟――から指摘されることが多く、かなり申し訳ない思いをしています)
「む、スマン」
学校を休ませて、散々手間をかけさせてしまう姉を許しておくれ。そんな思いで侘びますと。
「いいって」
弟だし、と妙な理由を付け加えて部屋から出ていきました。
ありがとよ~・・・。
出て行く時の、真っ赤なお耳を姉は忘れませんよ。本当に可愛い性格に育ってくれましたね。
幼い頃からの、教育(洗脳)の賜物ですね。
あ、ちょっと誰ですか勝手にルビふったの。人聞きが悪いですね。
誰だってやるでしょうに。
我が家の家族構成は母、娘と息子が一人づつ。
働き者の商社勤務の母は、中々に忙しいお方。
そして私、母曰くののんびり屋、弟曰くの寝坊助。
二つ下の弟は、面良し頭良し運動神経適度に良しの彼女もち。風邪を引いたら手厚い看病をブスくれながらもやってくれる可愛い子です。
弟の名前は優二、我が家の優しい二番目の子。末っ子なのにたいして甘えてこない、面白い生き物です。
そんでもって私の名前は飯方初実。飯方家に初めて実った子供です。
中々洒落が効いていますよね。
風邪っぴきなので、今回は我が家の紹介までに。
それでは、お休みなさい。
まさかの連日投稿。結構書きやすいです。