竜の婚約〜馬鹿王子に婚約破棄されましたが、王弟殿下から婚約を申し込まれました〜
竜が出てくるお話が読みたくて自分でも書いてみました!
ある一室で女は目覚め半身を起き上がらせた
「また予知夢を見たみたい」
女は1つ呟くと下ろしていた髪をかきあげため息を1つつく
彼女はドラルーン公爵令嬢の一人娘イザベラ・ドラルーン
竜が尊き存在として崇め奉られている国で
国務大臣の父を持ち曾祖母が王家ドラゴニアからの降嫁で嫁いできた過去もある国随一の公爵家だ
波打つ豊かな黒髪に爛々と光る真紅の瞳
女性にしてはやや高い身長と細くくびれた腰に豊満な胸
男からの視線に困るだろうというぐらいの魅力的な身体つきをした艶やかな女性がイザベラ・ドラルーンだ
この国の王太子の婚約者だが懸想する貴族の男児が後を立たず告白してはあえなく散っていく様子から恋を実らせさせない花
【社交界の徒花】と呼ばれている
そんな彼女が疲れた様子で寝室で物思いにふけっていた
私は夢で知ってしまった
殿下がかの乙女に恋慕して婚約破棄を申し出てくることを
幼少期の頃から少し横暴で王家の責務をサボりがちだったアルノルト殿下、初めてお会いした時にわたくしの顔に見惚れて、ハッとした次の瞬間「お前は俺の物だ生涯をかけて俺のことを愛せ」と言い放ち私が冷めた口調で、「政略的な婚姻ですわお傍で政務を支えることはいたします」と言うと生意気だと怒り
私に愛されてないとわかると違う令嬢に興味を持ち出していた殿下、婚約者がいる身分からかいつも遊び程度の関係で終わらせていたが今回は違うみたい
殿下は学園に入学してから特待生として入ってきた平民ララ・ノートンになにかと声をかけたり婚約者であるイザベラに見向きもせずララと一緒に行動するようになっていた
隠れて王城にもララ・ノートンを連れてきては秘密の密会をもしているらしい
私もいつものお遊びかと思ったが夢のお告げは違うと訴えている
私はよく夢をみるそれは予知夢というもので
幼少期から定期的に私の夢に現実世界とリンクした夢が現れるそれは私が竜の血を引いているからなのだろうか
敵国からの襲撃が始まりそうだとか未曾有の大雨で川の氾濫が起こりそうなどだ
私は夢の内容をお父様にお話して国務大臣の父から皇帝に進言してもらうようにしている
今日は未曾有の災害でもなきゃ、国の情勢でもない
私自身が関係する夢だった
夢の中では殿下が平民の娘と寄り添いながら私に婚約破棄を突きつける場面だった
「イザベラ・ドラルーンこの時を持って貴様との婚約を破棄する!私は真実の愛を見つけた!そして隣にいるララ・ノートンを次の婚約者とする」
夢の中の殿下はまるで自分が全て正しいというかのように大勢の人の前で宣言しまるで正義感にかられている革命家のようだった
にしても、平民の娘に熱をあげる殿下にはほとほと呆れますわ一時の戯れかと思っていましたがお告げからしてそうじゃないみたい、ご自身の立場をよくわかっていないようね
私はこのことを早急に父に伝えなくてはと父のいる執務室へ急いだ
「殿下はあまり頭がよろしくないとは思っていたが、まさか王家と公爵家が決めた取り決めを破ろうとしているとは……そしてそのような形でイザベラを裏切るとは思わなかった」
「気づいてやれなくてすまない、情けない限りだ」
お父様は亡くなった母リアナの忘れ形見である私を一身に愛情を込めて育ててくれた
普段は国務大臣としてより良い国を作り上げようと奮励している
いつもは表情を一切変えないがこの時ばかりは眉根を下げ厳しい顔に曇りを見せている
「お父様が謝罪することではありませんわ、殿下の乱心はいつものことですもの」
ただ、心残りなのが幼少期に殿下に寄越せと奪われたドラルーン家に代々受け継がれてきた竜の宝玉が帰ってくるのかだけは心配している
あれは私の母様が残してくれた形見でもある
幼少期私がネックレスとして首に宝玉を掛けていたらひょいと取られてそれっきり返してくれていない、いつか返してくれると思っていたが婚約破棄になるのだから絶対に取り返したい
「殿下が婚約破棄を発表するのは王城ですわ、
おそらく今月末行われる隣国と結ばれた協定を祝うパーティですわ」
「そうか、陛下にも進言しておこう」
そうして学園で過ごすこと2週間いつものようにアルノルト殿下はララ・ノートンと2人で行動しているようだった
殿下の隣を通りかかり直接注意したが
ララ・ノートンが怯え殿下がそれをやりすぎだと諌めるいつもの光景が繰り広げられていた
そして遂にその日がやってきた
「イザベラ・ドラルーンこの時を持って貴様との婚約を破棄する!私は真実の愛を見つけた!隣にいる彼女、ララ・ノートンを次の婚約者とする」
茶番劇が始まったわ
真実の愛?政略的婚姻を結びそれを受け入れるのは貴族の務めでしょう?それから逃れようと言うの?
ララさんは私に対してすこし怯えたご様子、それを見たアルノルト殿下は安心させるようにララさんの肩を抱きすくめた
そして殿下は私の方を向くと
「いつもいつも小馬鹿にしたような態度で見下してくる貴様に私は嫌気がさした!政務と貴様への心労で疲れ切っていた私を癒してくれたのがララだ、ララはいつも明るく私を慕ってくれてイザベラの説教に疲れた私を心配してくれた」
「そんな心優しいララはイザベラ・ノートンに悪質な虐めを受けている!!」
周囲がその言葉を聞いてザワザワとざわめきだす
虐め?なんのことかしら
「人気のない所で平民の癖に生意気だと罵られた事や、イザベラに自分の私物を捨てられた。
そしてしまいには、階段でイザベラから突き落とされたのだ!!それがこの時の傷だ!!」
ララ・ノートンは涙ぐみながら髪をかきあげ顔の右横にある傷を皆に見せた
「まぁ……ひどいわ」
「そんなことがあったのね」
周囲の令嬢が声を上げる
なるほど
確かに注意はしたけどそれは婚約者がいる男性にみだりに近ずくララさんを咎めただけよ
そして階段で会った時にはララさんはすれ違ったと思ったら自分から体を投げ出し階段下に転がっていったのよ
私物を捨てたことにに至っては身に覚えが無いわ
でっちあげね、私がそんな非効率なことする訳ないじゃない
「お言葉ですが、私に心当たりはありません。殿下との距離が余りにも目につくので、殿下の婚約者として注意したことはありますけれど、責めたりした覚えはございません、そして階段から突き落としたのも事実無根ですわ、私は将来の皇后として日々気を使ってましたわ極力人と近ずかないようにしていましたもの、そして将来の皇后として他人の物を捨てるなど幼稚なこと致しません」
「しらばっくれるな!!見たという人間がいるんだ!!」
どうせ小金握らせて下級貴族に言うことをきかせたのだろう能無しのすることなど丸わかりだ
「いいんですアルノルト様、私はひどいことをされてきましたがアルノルト様に愛されてないイザベラさんの嫉妬が巻き起こしたことですもの」
ララ・ノートンが涙を拭って話し出す
「私はアルノルト殿下にすごーく大事にされているから大丈夫です、ほらこれを見て下さい」
ララ・ノートンはおもむろに首からネックレスを取りだした
「なぜ……?そのネックレスは何?」
「あら?イザベラさんこれはね、殿下が私にくれた愛情の証、君にとっても似合うから付けてくれって私にくださったの、赤い宝石がキラキラしてとても綺麗でしょ?イザベラさんは殿下に贈り物を貰ったこともないのよね?同情しちゃうかも」
先程まで泣いていたとは思えないほど饒舌にベラベラ喋っているララを尻目に私はどんどん体の体温が上がっていく心地がした
「それは私のものよ、返しなさい」
「え?そうなの?でもこれは私のだからイザベラさんには返せないごめんね、イザベラさん」
ニヤリと性格の悪さが隠しきれない醜悪な顔で笑ったララ・ノートン
イザベラは目の前がかっと赤くなり次の瞬間ドラルーン家最大の秘密である姿に変わっていた
「なんだこれは!?」
「きゃあああああ」
「どういうことだ!?」
そこに居たのは黒光りする鱗、人の身体ぐらいある大きな爪背中には太陽を隠す程の2対の翼
そして全てを見通す赤い瞳
そこには国に信仰されてきて国の国旗にも描かれている生き物伝説上の存在、大きな黒竜がいた
竜はララ・ノートンに向かって大きく咆哮する
「きゃぁぁぁぁああ」
ララ・ノートンは驚愕し足をもつれされ尻もちをつく
「耳障りな声だ矮小な人間らしい、我の宝玉を平民に受け渡すなど、いかなる人間でも許しはしないぞアルノルト」
空気を揺るがす低い声に聞いているものは皆平服した
竜の姿をしたイザベラはアルノルトを大きな前腕で押さえつけた
「うわぁぁぁやめてくれっっ」
「宝玉を返すと誓うか?」
「かえすっ!!返すから離してくれ」
「よかろう」
脅すのはこれくらいでいいだろう私はアルノルトを押し付けていた足を離し地面を踏んだ
「幼少の頃からお前をどうにか皇太子として支え導くか考えてきた、政務にも参加せず、遊びほうけしまいには我の宝玉を奪い取り、好いている女に献上するとな、我に対しての数々の狼藉目に余るばかりだ」
「……あ、あ」
「いつか直るかと見守ってきたが、それも今日でしまいだ、我もその婚約破棄受け入れよう」
そしてイザベラは竜の姿から人間の姿へと姿を変えた
「返しなさい」
ララ・ノートンは無言で震えながらネックレスを外し私に手渡してきた
震える手で差し出された宝玉を取り手のひらで握った母様の形見、もう離さないから
パチパチパチ
拍手の音が辺りに響く
「社交界の徒花、噂には聞いていたがこんなに気丈な女性だったとは」
突然低いバリトンボイスがその場に響いた
その場に居たのは
他の人より頭ひとつ分大きな背丈、筋肉で覆われた分厚い体に顔の左側にできた大きな傷跡
見るものに畏怖を感じさせる風貌の男性
この国の皇帝陛下の弟ガンドアージュ様
ガンドアージュ様は騎士として戦地を駆け回り、戦場で幾つもの戦績を上げてきたとか
普段は公の場に出てこないが隣国との協定に際しパーティに参加したのだろう
「糾弾されても尚立ち向かう君に惹かれた、イザベラ嬢私と婚約して欲しい」
私を見つめるガンドアージュ様の灰褐色の瞳はなぜだか熱を帯びているような気がする
私を王家に引き込むおつもりかしら
竜を尊ぶ王家が私を逃がす訳にはいきませんものね、はたまた本当に私のことが気に入ったから?
「私の竜の姿をご覧になって?」
「ああ、とても威厳があり、綺麗だった」
「あれを見て求婚するとは変わり者と言われてもおかしくないわよ」
「変わり者で結構、一目惚れしたんだ、どちらの姿も愛す」
王家と力のある公爵家の婚約、国の安寧を保つために結ばれ、破棄することになったけど
こうしてまた王家と関係を結ぶことは家の、ひいてはお父様の為になるし貴族として責務を果たすことが出来る
私は少し考えて
「ええ、よろしいですわ今この時から私はあなたの婚約者となります」
「そうか、突然の申し出だが受けてくれるのか、ありがとう」
強面のお顔にうっすらと笑みが加わる
そのお顔に私は胸がトクンと高鳴るような感じがした
「殿下が婚約を破棄してくれるとは、思ってもいなかった、僥倖だ」
ガンドアージュ様が殿下の方を向く、殿下は呆然した表情でこちらを見ていたが地に押し付けらていたことを思い出したのか少し涙目になっている様子だった
隣にいるララ・ノートンはなおも何か言いたげだったが私に見つめられるとひっと悲鳴を上げアルノルトの後ろに隠れた
「イザベラ!」
奥の方で国王陛下とお話していた父がやってきた
「ごめんなさいお父様、隠してた秘密を明かしてしまいましたわ」
「大丈夫だ、いつかこうなるとは思っていた」
父の後から国王陛下と皇后陛下がやってくる
貴族の皆が平伏し顔を伏せた中アルノルトとララ・ノートンは呆然と立ち尽くしている
「皆の者面をあげよ」
「この度は隣国との協定が結ばれる良き日に騒がせたな、我が愚息がすまない」
国王陛下が頭を下げる
周囲がどよめき、驚きの声があがる
陛下は顔を上げた
「かねてより考えていたが今ここで宣言する、第一王子アルノルトを廃嫡することにする!!!」
周囲にいた貴族が口々に話し出す
「なんだって!?」
「まさか…そんなこと」
「アルノルト殿下のお噂は耳にしましたわ、遊び呆けているからこのようになるのですわ」
「父上!?どういうことですか!?」
呆然としてたアルノルトは思わずといった様子で声を上げた
「アルノルト、我が息子だからと甘く見ていたが今回は流石に庇いきれん、我が王家と公爵が結んだ婚約破棄を無断で破棄するなど以ての外
今まで政務を疎かにしていた貴様よりも、勤勉にこなしていた第二王子バロンに継承権を渡すことにした」
「今までの行いがこの自体を招いた、せいぜい後悔するとよい」
流れを見ていた皇后が口を開く
「私達もよく考えて、考え抜いて決めた決断なの、撤回は致しません」
「そんな……」
へにょへにょと地面に倒れ込むアルノルト
それにララ・ノートンが肩を揺らしながら叫ぶ
「ちょっと!?どういうこと殿下が王様になって私をお后さまにしてくれるって言ったじゃない!?」
余りにも目に余る発言に、国王陛下が眉を上げる
「ララ・ノートンそなたを王家に迎え入れることは今後一切ない、そして王城に登城することを禁ずる、これ以上王家を愚弄するならこちらもそれなりの措置をとらせて貰う」
「嫌っ、嫌よーー!!」
ララ・ノートンは絶望しかのように泣きわめき始めた
国王陛下はイザベラに向き直り
「イザベラよその姿はまさに我々が信仰する竜の姿、これからも尊きその姿を、御身を大事にするように」
「かしこまりました、勿体なきお言葉ですわ」
「そしてガンドアージュの申し出を受け入れてくれたこと、感謝する」
「これからも臣民として王家に力を貸してくれ」
「かしこまりました、国王陛下」
イザベラは臣民の礼を取る
「それではアルノルトとララ・ノートンを部屋まで連れて行け」
「ハッ!」
様子を伺っていた騎士たちが2人の両脇をかかえながら連れて行く
これでしまいと国王陛下と皇后陛下は座席に戻っていった
イザベラの父も国王陛下と今後のことを話すのか戻っていった
そして残ったのはガンドアージュとイザベラの二人
ガンドアージュにイザベラは食い入るように見つめられていた
その視線は今まで出会った男の誰よりも熱く蕩けるような視線だった
「……まじまじ見ないで下さる」
「すまない竜の姿も綺麗だったが、普段の君も美しくて見とれてしまった」
様々な男性から愛を告げられてきたイザベラだがガンドアージュのような屈強な男性に褒められたことがないからか、竜の姿を褒められたからか普段のように澄ましていなすことができない
イザベラの頬は少し赤く染まっている
「……いや美しいもあるが、可愛らしいな」
「……初めて言われたわ」
持っていた扇子で顔を隠すイザベラ
様々な美辞麗句で口説かれてきたが可愛らしいとは一度も言われたことは無かった
「俺は騎士として生きてきてこの方女性と親しい仲になったことはないが、君の気丈に振る舞い反論している姿に初めて心を奪われた、このような女性を逃すとは甥も可哀想なものだ」
「アルノルト様は私のことを目障りな女としか思っていませんでしたわ、色んな女性と遊んでいらしたもの」
「そうなのか?知らなかったな、甥は見る目がない、こんなに可愛いらしい女性を守りたいとは思わないとは」
守りたい、これも初めて言われたどちらかというと凛としていて、支えて欲しいとばかり言われてきたからか、いつもの無表情が上手く作れないイザベラだった。
「これから私のことをもっと知って欲しいし、君のことをもっと知りたい、たくさん会う機会を作ろう」
「……勿論ですわ」
アルノルト殿下といてもときめかなかった心臓がガンドアージュといるととくとくと早鐘をうつ
ガンドアージュとのこれからに期待するイザベラだった
こうして社交界の徒花は王弟殿下に求婚され、竜の姿から人の姿までたっぷり愛されるのであった。
お読みいただき、ありがとうございます!