旅立ち
こんにちは、ちんぴいです。
これで三度目の勇者ちんぴい連載開始ですが、今回は本当にちゃんと完結まで書きます。
すでに大まかなストーリーも考えてあります。
よろしくお願いします。
俺はちんぴい。ちんぴいである。
ハジメ村で生まれ育った17歳の好青年だ。
ハジメ村は、大陸の3割を領土に持つ大国グーアン王国の最南端に位置している。
自然に囲まれたのどかな村で、俺は村の働き者な若者として平和に暮らしていた。仕事内容は、地面を採掘したり、道具をDIYしたり、金床を落としたりなど様々だ。
しかし、そんな俺の日常は、突如として終わりを迎えた。
――――――――――――
2日前、いつも通り壁を立てる仕事をしていた時のこと。
「な、なんじゃありゃああああああああ!」
一緒に働いていたミルハウさんが、突然大声を上げた。声変わりし切らないまま大人になっており、非常に汚い叫び声だ。
「何ですか。」
「ちんぴい!あれを見てみろ!」
「ええええええええええ!」
「グギャオオオオオオ!」
そこで俺が目にしたものとは、肌が緑色の人型の生物だ。棍棒のようなものを持っているが、容姿はとても醜く、人間とは思えない。人間の声帯ではありえないような奇声を発している。
「あ、あれって…」
「間違いねえ…!この前話で聞いた、ゴブリンってやつだ!」
遡ること3ヶ月前。普段ほとんど外から人が訪れないこの村を、何やら物々しい馬車に乗った人間が尋ねてきた。
話を聞いてみると、なんと彼らはグーアン王国から遣わされてきたと言うのだ。
確認してみると本当に国の人間らしく、今グーアン王国に危機が起きているからそれを伝えに村にやってきたそうだ。
そこで彼らが語った内容というのが、太古の時代に魔界からやってきて破壊の限りを尽くした魔神が、封印から抜け出してしまったというものである。魔神が出す瘴気により生物が変異し、通常ではあり得ない力や凶暴性を持った生物が街を破壊して回っているらしい。変異した生物は、世界では魔物と呼ばれ緊急の対策が行われている。
その話の際挙げられた魔物の一種こそが、目の前にいるゴブリンである。
「魔神は大陸の北の果てに居座ってるって話じゃなかったのか?ここまで瘴気が届いちまったってことか…。」
「どうするんすかあれ?」
「ほっとくと村がめちゃくちゃになるから倒すしかねえ。ちんぴい、少しでも増援を呼んでこい!それまで俺がこいつを抑える!」
「抑えるって…本当に大丈夫なんですか?ミルハウさん右手だけ異様に鍛えられてるけどそれ以外ガリガリじゃないですか。」
「ワンヂャンメデオオオオオ!」
「おい、こっちに来るぞ!早く行け!」
「…っ!ミルハウさん!今までありがとうございました!」
ミルハウさんが1人で食い止めると言うので、その隙に俺は村に戻った。しかし、村の若者の大半は今日は狩りに出掛けており、ほとんど残っていなかったのだ。2人を除いて。
「おーーーーーーい!大変だ!魔物が出た!誰か戦えるやつはいるか!どうせ今日も引きこもってんだろ!タナカ!木村!出てこい!」
「…ったく、働きに出るイメトレをしてたってのに、めんどくさいなあ。」
「僕は今年こそ大学に受からないといけないんだ。5分だけですよ。」
「引きこもりに理由つけてんじゃねえよ。ようやく出てきよったか。」
こいつらはタナカと木村。村は人手不足で困っているというのにずっと家から出てこないお荷物だ。
タナカは常に何を考えているのかわからず、性格も周りに適応しにくい変わり者だ。夜遅くにタナカの家から大きな物音が聞こえることが時々あり、村のみんなは怯えている。
木村は、2年前グーアンの首都ヒガンにある名門トキオウ大学を受験したが831点足りず落ち、それ以来トウ大以外はありえないとずっと家で勉強をしている。
「大変だ。なんかゴブリンが出て暴れてる。ミルハウさんが抑えてるけど、多分死んだ。」
「ゴブリン?なんだそれは。」
「かれこれ15年勉強をしていますが聞いたこともありません。」
「なんかとりあえずえぐい獣だ。見ればわかる。」
頼りなさすぎる2人しか集められなかったが、とりあえず増援を連れてミルハウさんの所に戻った。
「ステカズゴブ!ゴブゴブ!」
「ぐあああああああ!」
「やべえ、ミルハウさんだいぶ瀕死だぞ!」
ミルハウさんの体にはゴブリンから暴行を受けた痕がいくつもある。熱い男だとは思っていたが、村のために自分の命を捧げられる根性があるとは思わなかった。
「いや、普通にあれを人間が倒すのは無理だな。」
「僕もそう思います。」
「んなこと言ったってやるしかねえだろ。そこのピッケルとか何でもいいから手に取れ!行くぞ!」
「仕方ないな。」
「村一番の頭脳を持つ僕に傷がつかないようにしてくださいね。」
タナカと木村は体だけはゴツいため、肉弾戦では頼りになる。3人固まればなんとかなると思い突撃した。しかし。
「ギイルギギイルギギギイル!!」
「ぐっ!」
「タナカ大丈夫か!」
「まずいですね…こいつ、すばしっこい上に僕たちの攻撃が全然通りません。」
「けついな。どうするか……っ!やべえ!」
「ん?…オワーーーーーーーー!!」
油断した隙にタナカ目掛けてゴブリンが棍棒を大きく振り翳した。1人くらいのデスはしゃあないかと思ったその時。
「グギャアアアア!!!」
「な、なんだ!?どうしたタナカ!」
「すごいぞ。突然体から凄まじい力が溢れてきた。」
「どういうことですか………!!僕も力が溢れてきました!」
「うおおおおおお!俺もだ!」
なんと、タナカが突然光り出しゴブリンを遠くに吹き飛ばした。タナカの覚醒につられて、俺と木村も同じように覚醒したようだ。
「なんだ?この力は。」
「こんなに体がよく動くの2年ぶりです。」
「これは…まさか、あれのことか!」
以前来たグーアン王国の遣いが、もう一つ語ったことがあった。それは、魔神が復活し魔物が出現するようになったのと同時期に、各地で謎の力に目覚める人間たちが確認されたというものだ。
彼らには身体能力が大きく向上するほか、炎の弾を打ち出したり風を起こしたりなどの、特殊な能力が発現しているようだ。
おそらく、それが俺たちにも発現したのだろう。
「今なら行けるぞお前ら!」
「さっき殴られた仕返しをするか。」
「2人とも!このゴブリンは、斬撃が弱点みたいです!剣を手に取って!」
木村が突然斬撃が弱点だと言い出した。
ずっと家にいた木村にこの状況は刺激が強すぎて頭がおかしくなったのかと思ったが、どうせ剣が一番強そうなので従っておくことにした。
「ギギャアアアアア!」
「剣か。石の剣しかないが、長くコンボを繋げれそうだから悪くない。」
「剣、剣………おおっ、念じたら強そうな剣が出てきた!」
「どういうことだよ。」
「ジンジンギダギダアアアア!」
「よし!じゃあタナカ斬れ!」
「○めオラァ!」
「それゴブリンがやるやつだろ。」
「グシイイイイイイイ!」
「いいですよ!そのまま攻撃してください!!」
「おわんマジぺしゃかす…おわんマジぺしゃかす…おわんマジぺしゃかす…」
「なんだこいつ。怖いな。ゴブリンこのまま死ぬのか?これ。」
「グガ、ガ…カヒュ………………。」
「よし、倒した。これで大丈夫か?」
「ええ、確かに死んでますね。よくやりましたタナカ!」
「俺と木村なんもしてねえな。」
タナカの活躍により、ゴブリンは腹に3箇所の穴を開けて死んだ。あんなに暴れていたゴブリンを1人で黙らせたタナカには、恐ろしい潜在能力が秘められているのかもしれない。
「そんで、木村はなんでゴブリンの弱点がわかってタナカは剣召喚したんだ?」
「よくわからないが、念じたら剣が出てきた。」
「ゴブリンを見たら、頭の中にそのゴブリンの情報が浮かんできたんです。弱点は斬撃だとか、身長体重だとか、両親の顔とか。」
「両親の顔見えるの嫌すぎるな。」
何やらタナカと木村には、特別な能力が発現しているようだ。話に聞いていた、特殊能力というやつだろう。俺は何なのかよくわからないが、そのうちわかることだろう。
「それでちんぴい。あの化け物といい力といい、何がどういうことなんだ?」
「クカクカナヨナヨ。」
「ほう。魔物に魔神か。面白い。せっかく力を手に入れたことだし、魔神も狩りに行ってみるか。」
「僕も、このままだと世界が滅んで大学なんて話してる場合じゃなくなりそうですし、リフレッシュに魔神討伐に行きましょうかね。」
「へえ、お前らやる気になっててすごいな。家にいすぎて退屈になったか。頑張れよ。」
「当然ちんぴいもついてくるだろ?ついてこないなら高所から飛び降りるぞ。」
「ケウ。」
こうして、覚醒した俺たちは魔物を討伐する旅に出ることを決めた。
村の若者たちが帰ってきてからは、それはもう大騒動だった。状況を把握しているのがろくに説明もできない3人だけだったため村は混乱を極めていたが、そこをミルハウさんが上手く説明してくれた。三途の川で溺れて監視員に助けてもらい、そのまま現世まで送ってもらったそうだ。
俺たちが魔神討伐の旅に出ると言った時は皆に驚かれた。俺はわからんでもないが、タナカと木村がようやく家から出るとのことで、タナカと木村のご家族からは感謝された。出て行って喜ばれるのも可哀想だと思った。
そのまま話はまとまり、2日後に出発することとなった。
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そして今日、ついに出発の時を迎えた。
険しい旅になることは覚悟しているが、必ず生きて帰ってくるつもりだ。とりあえず家族に別れの挨拶をしていこう。
「母さん、弟、バンプオブチピン。行ってくるわ。」
「どうか帰ってきてね。お父さんみたいにはならないのよ。」
「わかっとる。」
「兄ちゃん行くのか?寂しくなるなあ。」
「すぐ帰ってくる。それまで元気に待ってろよ。」
「コケコケコケケ、ケケコケケ。ケッココケコ、クックドゥドゥルドゥー。」
「はっ。しけたこと言ってんじゃねえよ。お前も帰ったら食われてないようにな。よし、じゃあみんなさよなライオン。」
「ライオン?」
家族との別れを済ませたので、いよいよ出発だ。村の入り口で、村のみんなが送り出してくれるらしい。
今まで見たこともない人の量だ。これだけの人が、俺たちに期待している。必ず魔神を倒してこないとな。
「おお、ちんぴい。来たか。」
この人はハジメ村の村長のチョンソウ。妹と結婚している。
「おはこんばんにちはチョンソウ。こんな大事にしなくてもよかったのに。」
「何を言っちょる。村の若者が世界を救いに行くんじゃぞ。お主ら後々勇者として語り継がれるかもしれん。勇者の門出は、盛大に祝ってやらんとな。」
「チョンソウ…。」
「なに、当然のことじゃ。」
勝手に解釈しているが、今の時代パワハラになるのでプレッシャーをかけないでほしい。
しばらくチョンソウと話していると、タナカも到着したようだ。
「よう、ちんぴい。この腕を見てくれ。出発までに毎日5分の筋トレをして、肉体が生まれ変わったんだ。」
「タナカ来たか。毎日つっても2日じゃねえか。木村は?」
「どうも、今来たところです。勉強をしない生活を送るようになるなんて、なんかすごい感じですね。」
「お前ずっと勉強漬けだった割に語彙力乏しいよな。」
「3人揃ったな。よし、ではお主らの旅のために色々と必要なものを揃えたのでお主らに贈ろう。」
「大きなイチモツをください。」
「まずは、馬じゃ。移動手段がなければ旅のしようがないからの。村の中でも選りすぐりのスタミナを持った馬を3頭用意した。」
「おお、俺に似ていい顔だ。それじゃあ俺はこの馬で。名前はチピルバクシンオーで。」
「じゃあ俺はこの馬にしよう。名前はタナカナロア。」
「それじゃあ僕はこの馬ですね。名前はモーリスで。」
「木村だけなんの捻りもないのう。さて、次は地図じゃな。お主らが目指すティガータニまでの道のりが記してある。」
自信満々に地図を渡されたが、ほぼ記号と矢印のみでこれを見てもあまりわからない。
これでわかるのは長くそこに住んでいて地形を熟知しているホームレスくらいだ。
「最後に、剣じゃ。この先危険な魔物と何度も戦うことになるじゃろう。とりあえずしばらくはこの剣を使うのじゃ。銘は…そうじゃな、龍剣でよいだろう。」
「おお、すごい切れ味良さそうな剣だ。あざす〜。」
「リュウかケンかどっちだよ。」
「人間の体の作り的にどうやっても振り回せなさそうな大きさの剣ですが、不思議と軽く持てますね。」
「この剣は、昔エクスカリという鍛冶師に打ってもらったものじゃ。彼女は今王都のヒガンに店を構えているそうじゃから、王都に寄った時新しい剣を打ってもらうがよい。」
「3本も打ってもらったんすか?」
「いや、1本じゃ。タナカと木村に渡した2本は、本物を元にワシが適当に打ってみたレプリカじゃ。」
「なるほど。」
「なるほどでスルーしていいのか?これ。」
「まあ、どうせ大した魔物もまだいないでしょうし、大丈夫でしょう。」
「よし、これで全てじゃ。お主らにこの世界の命運がかかっとる。しっかり頼むぞ。」
「あえてここで行かない。」
「この旅で一生遊んで暮らしていける金を稼ぐ。働くよりマシだ。」
「旅をしている間に魔物が暴れれば多くの人が死ぬでしょうから、受験の難易度も下がるでしょう。」
「頑張れよー!ちんぴい!タナカ!木村!」
「お前らの底力見せてやれ!」
「魔神の首持って帰ってこいよ!」
「応援男しかいねえな。」
こうして、俺とタナカと木村の魔神討伐の旅が始まった。
最初に目指すのは、グーアンの南のエリアでは一番大きい街であるティガータニだ。そこで色々と情報を集め、魔神を追う。
ティガータニまでは馬を走らせて1日半ほど。それまでに強い魔物に襲われて死ぬなんてことは、まずないだろう。
【次回予告】
魔神討伐の旅を始めたちんぴい、タナカ、木村。
彼らは最初の街ティガータニを目指し馬を走らせ、一旦休むために森で足を止める。
そこで彼らを待ち受けていたものとは!?
次回「○やま」