Ⅶ.魔勇戦争・開幕前
前回のあらすじ。剣士クランの組合決戦で優勝し、帝城への招待状を手にした時針。パーティの中で、ついに彼女と再会を果たす。何も語らず消えた彼に、少女は何を思うか。展開を動かす第7話、スタート。
「剣士クランのクランマスター、エンプティ様と、お仲間さんですね。ギルド証はお持ちですか?」
「これでいいか?」
「は、はい!持ってます!」
「…はい、魔錫等級のエンプティ様、銀等級のアル様ですね。こちらへどうぞ。」
そう言い、受付は俺達を会場に通す。
「ほ、本当に来れちゃった…」
ここは、デンタリア帝国の帝城、その大広間である。俺達は、剣士クランのNo1、つまりクランマスターとして、このパーティに参加していた。
「俺は少しやる事がある。自由にしてて良いぞ。」
「!わかった!」
そうして、アルは料理が並べてあるテーブルに小走りで向かう。
{…貴様、冒険者を始めてからどれくらい経った。}
「えっと…そろそろ、2ヶ月経ちますかね…?」
{今の貴様の冒険者ランクは?}
「…魔錫等級(霊晶等級の一つ下)です…」
{…最早突っ込む気力すら湧かん…}
そう、此度私ことエンプティは、クランマスターへの昇格と同時に、ギルド本部から魔錫等級への飛び級を言い渡された。銀等級から金、金剛をすっ飛ばし、魔錫等級である。熱〜い視線が集まりすぎて、灰になりそうだ。
「仕方ないだろ、帝城に招かれるんだから…おっ居たぞ。アイツらだ。」
大きな人だかりが出来ている。人を避けて、中心にいる人物に話しかける。
「…ご機嫌良う。貴殿らが、各クランのクランマスターで間違い無いだろうか?」
そう、各クランのクランマスター達である。
今回のパーティには、剣士クラン、魔術師クラン、戦士クラン、弓使いクランの4つのクランマスターが招待されている。チーニスよりも昔にクランマスターに就任し、それ以降その地位を揺るがさない猛者揃いだ。
「お!お前さんが剣士クランの新しいクランマスターか!噂の…白黒なんたら!」
「《白黒の悪魔》ですよ、カドゥー。すみませんね、彼は少々適当なところがありまして。」
「エンプティ君だったか。よろしく頼むよ。」
と、思い思いに言葉を発する。
戦士クランのクランマスター、カドゥー・ハ・アレツ。巨人族と土妖精のハーフであり、2mを超える巨体を持つ。土属性の魔法と、直径15cmの鉄拳を組み合わせた独自の魔拳術が圧倒的な破壊力を誇る。籠手の魔具、造陸の鉄拳を持つ。
魔術師クランのクランマスター、ゲシュム・マイン。人間の限界に限りなく近い魔力量を保持しており、彼女の水属性魔術は龍を殺した事があると言われている。輝雨の魔杖は、彼女の水属性魔術を超強化している。
弓使いクランのクランマスター、イヤゥ・ローア。
始祖に最も近い血を継いだエルフである。その眼は
40m先を正確に見通せるらしく、弓の腕も、40m先の小石の中心を射抜くほどらしい。風属性の魔術も得意とする。豪嵐の魔弓は、現代のスナイパーライフルと変わらない出力であると思われる。
と、このようにクランマスターは危険因子だらけだ。今回の内に、引き出せる情報は引き出しておきたいのだが…
「まぁまぁ、飲めや!折角新しいクランマスターが生まれたってんだ!飲まなきゃ損っつうもんだろ!」
「カドゥー、無理矢理飲ませないでください。お酒苦手かもしれないじゃ無いですか。」
「い、いや、心配には及ばない…」
「エンプティ本人もこう言ってるし、飲もうよ飲もうよ。げっしーはお堅いなぁ〜。」
…なんだこの飲み会ムード!警戒してる俺が馬鹿みたいじゃないか!
{何をしている新人。早く先輩方に“お酌”しろ。}
「乗るな乗るな!」
なんなんだコイツら!もう!
「ま、今回の主役は俺らじゃねぇからなぁ。」
「?どういうことだ?俺達以外に誰がいる?」
「小僧、聞いてねぇのか?」
とカドゥが言うと、イヤゥが代わりに答える。
「今回のパーティは、王国から勇者様がお越しになるんだ。」
ハァァァァァァァン!?と言う今世紀最大の叫びをグッと飲み込み、俺は禁忌に語りかける。
「…どうする?今から作戦を練り直す時間は無いぞ?」
{いや、今回は今の作戦で正面突破する。}
「マジかよ…いやまぁ、あり得るんじゃないかとは思ったが…」
まぁ、高校のクラス内ではあまり目立って無かったし、多分大丈夫だろう。うん。
「皆の者。静まりたまえ。」
階段の上から、銀髪の老人が顔を出す。
「帝王様ですね。勇者様方の準備が整ったようで。」
そして、帝王が語り始める。
「此度、王国にて召喚されし、勇者達が、この帝国へ訪れた。世界を滅ぼす魔王の脅威についての調査が目的であるが、このパーティにも参加してくれた。貴重な機会であるが故、交流をしたい者は話しかけるが良かろう。それでは、入りたまえ。」
どの国でも変わらない長い口上を聞き流し、入場する勇者を見る。入ってきたのは…
理璃些為、樹柄黎葉、陰華影花。
「超精鋭!」
思わず声が僅かに漏れてしまう。オイオイオイオイ。リアルにまずいことになってきたぞ。俺の顔知ってる人いるじゃん…
「…ん?」
{どうした、何か違和感でもあったか?}
「いや、理璃さんなんだが…なんか、疲れて見えると言うか。多分だが、今回のパーティ中に倒れると思う。」
{…そうか。ならどうする?}
…仕方がない、行ってやろう。
「勇者様に挨拶をしてくる。少し失礼する。」
「今回のパーティ、人を探してばかりな気がするんだが…」
{文句を言うな。本来なら、敵である勇者など助けるべきではないのだ。そこを許しているのだから、黙って働け。}
へいへい、と返事をしていたら、会場の端の方で壁に寄りかかっている理璃さんを見つけた。
「ようやく見つけた…まずいッ!」
見つけたとほぼ同時に、彼女の体が横に傾き掛けていた。
「転移の燐光!!」
魔術で彼女の傍らまだ転移し、その体を受け止める。
「…っと、セーフみたいだな。」
「ありがとうございます。最近、少し疲れてる、みたい、で…」
彼女は顔をゆっくり上げ、やがて、俺の顔を見て目に驚愕の色を宿す。
「大丈夫か、理璃さん。」
「…時針、君…?」
そこには、2ヶ月前、この世界に転移してから行方を眩ませていた、時針零司その人が居た。
「時針君…!無事だったんだ…」
「剣士クラン・クランマスター、エンプティ。…今はそう言うことになってる。」
私の言葉を遮り、彼はそう言った。どうやら、自分の正体については隠しているようだった。
「わかった。…それにしても、そのカツラとカラコン、異世界で使うなんてね。もしかしてそのつもりで買った?」
と、少し茶化してみたが、彼は至って真剣な顔で言った。
「久々に話したいのはわかるが、今は休め。理璃さん、あんた、何日寝てない?」
「…嫌だな〜、ちゃんと毎日寝てるよ〜。」
「そういうことじゃ無い。…寝ていても、2、3時間ってところだろ。いくら勇者であっても、人間は人間だ。限界は存在する。」
「…あはは、時針君にはお見通しだったか〜…」
そう言いながら、彼に少し体を預ける。
「じゃ、お言葉に甘えようかな。…ありがとう、時針君。」
「ッ…!お、屋外に休めそうな長椅子があった、そこまで行こう…」
そう言って、彼はそそくさと外へ向かっていく。そういうところが可愛いくて、ついついからかってしまうのだ。
「…少しは落ち着いたか?」
屋外に案内し、彼女に体調を訊ねる。
「うん、かなりマシになったよ。ありがと。」
「そうか。…念には念を入れておいた方が良い。少しここで寝てろよ。」
「OK〜。…では、失礼して。」
彼女はそう言うと、俺の太ももに寝転んだ。
「!?!?!?」
{貴様、本当に面白い体質をしているな。}
ゆうとる場合か!と文句を言いつつ、彼女に声をかける。
「あ、あの…理璃さん?」
「………」
ね、寝てやがるコイツ!どんだけ重労働してんだよ!
「…クッ、仕方ねぇか。『俺』、代わりに作戦を進めてくれ。」
影から自分と同じ姿が現れる。
「…ッチ…了解。」
…ん?え、今舌打ちした?俺の分身なのに?…いや、俺の分身だからか。何はともあれ、これで上手く行くだろう。
「………エンプティ?何してるの?」
不意に、右からつい先程まで忘れていた存在の声が聞こえてきた。
「アル。どうかしたか?」
「どうかしたか、じゃないよ!何!?こんな所に女の子、それも勇者様を連れ込んで!!まさか…最初からこれをするつもりで私を待たせて…!?」
「落ち着け落ち着け。勇者様とは…王国にいた頃の知り合いなんだよ。偶然知り合ってな。」
アルが訝しげな視線を向けてくる。それを他所に、俺は理璃さんの顔を見る。
「…勇者様はお疲れなんだ。もう少し寝かせておいてやれ。」
そう言い、俺は優しく彼女の髪を撫でた。
「…あっちが本体と分かっていても、まあまあイライラするな…」
そう言いながら、任務を『本体』から託された俺は、城内を練り歩き、そこへ向かっていた。やがて俺はその部屋に辿り着いた。
「…おや、剣士クランのエンプティ様ですか。申し訳ありません、こちらの宝物殿はお通しできません。」
宝物殿を守っている衛兵が言う。
「そうか、実に残念だ。……ならば、無理矢理通してもらうぞ。」
「え/ /?」
かつて本体が使っていた両手剣で、衛兵を二等分する。
「…さて、目的の物のついでに、魔具もいくつか頂戴しておくか。」
そう言って、俺は宝物殿に足を踏み入れる。
「『俺』、宝物殿への侵入に成功した。他の『俺』を派遣してくれ。」
「…了解。持ち出せる限り魔具は持ち出せ。」
『…皇帝陛下の為に』
宝物殿を任せた『俺』から《Ⅴ》を通して連絡が入る。俺も俺で動き始めよう。
「…勇者様。お目覚めください。あまり外で寝ていると、風邪を引かれますよ。」
「んん…うにゅ…」
と、可愛らしい鳴き声(?)を出しながら、理璃さんは目を覚まし、ぐっと伸びをした。
「おはよぉ〜、ときh「言わせるかぁ!」
と、スレスレのところで口を塞ぐ。寝起きって怖ぇな。
「むぐぐ、どうしたの〜…ん?とき…エンプティ君。その子は?」
ようやく意識がはっきりしてきたようで、彼女は俺に質問してきた。
「俺のパーティのメンバー、アル・ラサルハグだ。今は銀等級だが、すぐにでも金等級になる。というかさせる。」
「ちょ、ちょっと!勇者様の前で変なこと言わないで!…ええと、ご、ご紹介に預からせていただきました、アル・ラサルハグと申すでございます!」
と、ボロボロの言葉で自己紹介をする。忘れかけていたが、勇者と言うのは本来これくらい敬われる存在なのだ。
「ふふっ。こんにちは、というかこんばんは、かな?勇者統括をしている、理璃些為です。よろしくね、アルさん。」
「は、はい!よろしくお願いします!」
と、アルが緊張した様子で返す。どうやら、理璃さんは正式に勇者統括という役職を与えられたらしい。
「そろそろ会場に戻るか。城もある程度開放されてるから、少しは人が減ったはずだ。」
と、言い、会場の方へと戻り、辺りを見渡す。勇者、クランマスター共に見受けられない。どうやら、会場外に出ていったようだ。
『準備ができたぞ。どこで待機すれば良い?』
『俺』から連絡が入る。
「クランマスターと勇者の位置を報告してくれ。」
各地に散りばめた『俺達』に言う。
『こちら大聖堂。樹柄黎葉、ゲシュム・マイン、イヤゥ・ローアを確認。』
『こちら庭園付近通路。陰華影花、カドゥー・ハ・アレツを確認。』
{思っていたよりも固まっているな。まぁ、好都合だが。}
「大聖堂の『俺』、お前は僧正だ。《Ⅴ》で魔力送っておくから、対処を頼む。庭園付近通路。何人か『俺』を送っておく。歩兵として対処してくれ。」
『『皇帝陛下の為に』』
返事をすると、そこで通信は途絶えた。
「『狂刻時塔』・《Ⅴ》」
分身を作り出し、影に潜ませる。魔力を僧正より多く流し込み、強化する。コイツが今回の王役だ。
『僧正、準備完了。』
『歩兵、全員準備完了。』
報告が入る。…さぁ、始めよう。
「エンプティ?どうしたの?」
「エンプティ君、何かあった?」
「…………」
「来る。」
「転移の燐光」
どこからともなく、その低音が響き渡る。人とは思えない、しかし以前より自然な声色で、その男は呟く。
「さぁ、厄災を始めよう。」
次の瞬間、帝王の胸を両手巨剣が貫く。貴族達が悲鳴を上げ、会場外へ逃げようとする。
「殲滅の焔弾」
焔の弾幕が出現し、貴族達を次々と焼き焦がす。たった数秒で、大広間は地獄に変貌した。やがて魔術が収まると、その男は私の方を見た。
「我の相手は貴様か、小娘。」
「…王…!」
〜〜〜帝国襲撃戦
大広間…
王VS理璃些為&エンプティ&アル・ラサルハグ
「…な…!お前は…!」
「…いつしかの治癒術師か。久しいな。」
訪れた大聖堂で、僕は白いローブを着たそれと相対していた。
「勇者様、アイツは誰だい?」
弓使いクランのイヤゥさんが僕に聞く。
「…僧正。魔王の手先です。」
「魔王…って、王国の王ですか!?何故帝城に…!」
「王の邪魔をさせる訳にはいかない。私がここで排除する。」
大聖堂…
僧正VS樹柄黎葉&ゲシュム・マイン&イヤゥ・ローア
「なんじゃコイツら!気色悪りィな!」
白い仮面に黒いボロ布を羽織った何かを前に、彼が言う。
「確か、歩兵とか、言うやつら。魔王の、手下みたい。」
「魔王ってのは、勇者様方が倒そうとしてる奴だったよな。なんでこんなとこに居やがんだ?」
「知らない、けど、敵なら、やる事は一つ。」
そう言い、私は苦無と『御影闊歩』を構える。
「そうだな。アイツらが敵だってんなら、ブッ殺すしかねぇ!」
庭園付近通路…
歩兵VS陰華影花&カドゥー・ハ・アレツ
魔勇戦争・第一幕、開演。
どうもみなさんこんにちは。杉野凪でございます。今回のサブタイは、今までのものの規則性を無視したものとさせていただきました。今回は、勇者サイドと魔王サイドが初めて堂々と勝負をします。次回で色々と情報を出していこうと思いますので、次回もお楽しみに。杉野凪でした〜。