Ⅵ.「白黒の悪魔」は彼女と邂逅する
前回のあらすじィィィ!遂に始まった剣士クランの組合決戦!相対するのは炎の魔剣、灼炎の剣を携える、最強の剣士チーニス・フランメ!手加減無し、全力で頂点を奪う!闘争の第6話、スタート!
「始め!」
開戦の狼煙が上がる。
「10%、『魔王の豪脚』!」
地面を踏み、突撃する。チーニスの大きく振りかぶった灼炎の剣と、俺の渇望の剣が衝突する。腕にずしりと重い刺激が走る。
「ッ…凄い怪力だな。どんな鍛え方してんだ。」
「そっちこそな!一撃が鋭くて重い!いい剣だ!」
そりゃどうも!と返しつつ、何度も剣を叩きつける。
「大地の隆起!」
大地から土の柱が伸び、俺に襲いかかる。反射的に大きく跳躍しそれを回避。地属性の魔術だ。てっきり適性は炎だと思ったんだが…
「炎だと思っただろ!灼炎の剣のイメージで思われがちなんだ!」
「地底の底穴!」
足踏みをすると、そこから地面が割れ始める。
「ッ…!浮遊の扇風ッ」
風属性の魔術を発動し、5%程の『魔王の豪脚』で高く跳ぶ。
浮遊の扇風は自身の体重を極端に軽くする魔術だ。空中に滞在できても、やがて落ちる。しかし、
「これなら届かないだろ?」
「確かに、オレの地属性では流石に届かねぇな。ただ…オレには灼炎の剣がいる。」
そう言うと、そいつは剣を突きで構える。鍔についた深紅の宝玉が眩く輝き、炎を発生させる。やがてそれは刀身に纏わりつき…
「…灼炎の剣!!【太陽を穿つ光】!!」
刀身が燃える様に赤くなり、炎と光線が放たれる。
「もう使ってきやがった…!」
{魔力改変をする!渇望の剣で光を斬れ!}
言われた通りに、光線に向かって剣を下ろす。本来なら剣が耐えられず溶ける筈だが、今回は違う。剣が光線に触れた瞬間、魔力の流れが二つに分割され、光が淡く消え去る。
「うわっ!マジかよ!」
嬉しそうに、輝いた笑みを浮かべるチーニス。
…そろそろか。
「…なぁ、チーニス。少し、聞いておきたいことがあるんだが。」
「ん?どした!言ってみろ!」
「大したことじゃない。…チーニス。」
「病気の弟は元気にしているか?」
顔から表情が消え、やがて黒い怒りを宿しながらこちらに切り掛かってくる。
「どこで知った…!エンプティ…!」
「…『チーニス・フランメ。財力が無い、正真正銘の下級貴族の長男であり、正当な継承者。12歳の時、2つ年下の弟が魔力の暴走による病で意識不明の状態に陥る。治療費を払おうにも、家には余裕が無い。故に、治療費を稼ぐ為に冒険者になる。』…感動的だなぁ。なんと弟思いの兄だろう。」
「黙れ!」
と言い、力一杯に俺を薙ぎ払う。やがて剣を高く掲げる。
「灼炎の剣!!【大地を裂く剣】!!」
剣が赤く変色し、巨大な斬撃が出現する。それは高速でこちらに迫る。
「断絶の烈風。」
風属性の刃が放たれ、その斬撃と衝突する。やがて、先と同じように二つに切り裂かれた。
「別に弟を出汁にして脅そうって訳じゃない。俺は正直優勝賞金はどうでも良い。欲しいのは、王城に入る権利だけだ。…どうだ?ここは敢えて負けてくれないか?賞金は譲ろう。」
チーニスの顔に僅かな迷いが生じた。しかし彼は、
「お前みたいな外道の手を借りて、家の誇りに泥を塗るわけにはいかない!」
やがて、炎を剣に纏わせ俺に斬りかかる。斬撃の全てを、丁寧に受け流す。
「お前には人の血が流れていない!こんなにも卑劣で!残虐な!そんなことばかり口にして!お前は人間じゃない!悪魔だ!」
「…あぁ、確かに俺は、既に人間を辞めている。たが一つだけ訂正してやろう。」
俺は、片手で魔術を発動しながら、こう告げる。
「俺は悪魔じゃない。魔王だ。」
「空圧の衝突。」
魔術を思い切り脇腹に叩き込む。チーニスは怒ったような、悔しいような表情をして、その場で気絶した。
「…勝者…エンプティ選手…」
審判が腑抜けた声で結果を言い渡す。会場はこれでもかと言うほど静まり返っていた。
通常、魔術というのは適正のある一属性しか扱えない。しかし、勇者は別だ。得手不得手はあれど、異世界人は漏れなく、全ての属性を扱えるのだ。俺は、【最弱勇者】時代に、全ての魔術をよく調べ、理解していた。最も、魔力量の問題で殆ど扱えなかったが…
「わぁぁぁ!すごい!すごいよエンプティ!初出場で勇者しちゃうなんて!」
賞金と王城への招待状を受け取り、俺は闘技場の外に出ていた。
「…本当に、お前の明るさには毎度毎度救われる。」
「え?どゆこと?」
とぼけた顔をして、アルは首を傾げる。
「あんな風に戦ってるとこを見て、よく俺を応援できたな。聞いてただろ?決勝戦中の会話。」
「うん!聞こえてたよ!…でも、正直何言ってるのかよく分かんなかったんだよねー。弟さんの話らしかったけど。」
「アホの子…」
「アホって言った!?ねぇ今アホって言った!?」
きゃーきゃーと喚くそいつを無視し、俺は禁忌に話しかける。
「今は人手が足りない上に、奴隷とか、裏世界のモノに気安く触れられないほど知名度が上がっちまった。そこでなんだが………ゴニョゴニョ。」
{…ふむ、なるほど。確かに、今はそれが最適であろう。貴様も考える様になったではないか。}
齢2000の魔術は放っておいて、俺はアルに向き直す。
「…アル・ラサルハグ。折り入って頼みがある。」
「は、はい!…どうしたの?改まって。」
一拍置き、俺はその頼みを告げる。
「俺とお前でパーティを組もう。」
アルは一瞬驚いたような顔になり、やがていつもの笑みに戻る。
「な〜んだ。エンプティも考えてたんだ!もちろん良いよ!」
と、快く承諾してくれた。
側から見れば、ただの冒険者パーティだろう。しかし、それは間違いだ。この関係は、剣士として将来性のある、アル・ラサルハグを自分の元に置き、貴重な戦力として育成する為のものだ。そんな綺麗なものじゃない。
冒険者ギルドで、パーティ登録が完了する。パーティ名は後付けでもOKらしい。
「じゃ、俺のパーティメンバーとしてお前も王城のパーティ参加するからな。着たいドレスとかあるか?」
「できれば全体的に赤っぽくて、フリフリの多い…て、えぇぇえ!?!?」
「赤のフリル付きな。分かった、それで探してみる。」
「ちょっと待てぇぇい!どゆこと!?私も!パーティ!王城の!参加するの!?いやいやいや、私礼儀作法殆どわかんないよぉ!」
「落ち着け落ち着け。俺達はあくまで冒険者だ。礼儀作法はそれ程期待されていない。ま、貴族連中に一泡吹かせたいってんなら教えるが。」
「あ…いや、大丈夫。ありがとね。」
そう言い、アルは宿の方へと去っていった。
「わっかんねぇ!男はどんな格好してけば良いんだ!?」
{騒ぐな凡夫。…何故女の服装は分かるのに男の服装のみわからんのだ、貴様は。}
「だってアニメだと女の子の服強調して描くんだもん!男共の服なんて覚えてねぇよ…」
頭を抱え、宿屋のベッドの上でのたうち回る。
{…はぁ、見るに耐えん。我のイメージで服を作ってやる。}
「おぉ!ありがと…ん?今作るって言った?」
{皇装術式。}
「おまっ何を/
と、言い終える前に服が煌々と輝き出した。すると次の瞬間…
「……はぁ!?何コレ!?どういう原理!?」
あら不思議。シンプルな黒のロングコードは、お洒落な貴族衣装に早変わり。
{皇装術式。服の布地に魔力を流し、それを我の魔力改変で変形させる。外見だけでなく、性質も改造できる。イメージさえあれば大体何にでも出来る。}
「呉服店泣かせ過ぎる!とは言え、助かった。これで用意が間に合う!その辺で赤い布買いまくってくる!」
{本当にこの男は…}
なんか呆れた声がしたような気がしたが、多分気のせいだろう。
「勇者様、そろそろお時間です。」
「わかりました。みんな、行きましょう。」
私、理璃些為はデンタリア帝国に魔王が来ていないかの調査を行うため、クランマスターが集まるパーティに参加させて貰っていた。勇者として、帝国の貴族に紹介されるのもある。
「…あの、理璃会長。大丈夫ですか?最近無理ばかりなさっているような気がしてなりません。」
今回私と共に来た、樹柄君が心配そうに訊ねてくれる。
「今はメイクで隠していますが、最近隈が酷いですよ。休んだ方が良いですよ。」
「ありがとう、樹柄君。今回は仕事だから、気張らないと。」
そう言って、私は会場の方へ向かう。今回のパーティの主催、つまりデンタリア帝王が私達のことを紹介する。笑顔を向けながら、ゆっくりと階段を下りる。
貴族達の質問攻めが終わり、私はパーティの様子をぼーっと眺めていた。全員、心底楽しそうに会話をしたり、食事を摂ったりしていた。…もしもここに、彼が居たなら…
「………時針君…」
と、不意に呟く。
次の瞬間、唐突に目眩が襲いかかる。全身から力が抜けていき、立っていられない。その場の床に倒れる……
「…っと、セーフだな。」
誰かが体で私を受け止めてくれる。
「すみません、少し疲れてる、みたい、で…」
視線を上げ、その顔を見る。人工的な、金色の双眸と純白の髪。少々荒っぽくなった口調と、これは変わらない優しい瞳。
「大丈夫か、理璃さん。」
「…時針、君…?」
はいどうも杉野凪でございます。いやー、遂に出会っちゃいましたねぇ!ようやく再開できて良い雰囲気ですが、忘れないでいただきたい。彼はこの後魔王として帝国を襲うのだ。勇者と魔王、同じ城の中。戦争が始まる!次回もお楽しみに!