Ⅴ.「白黒の悪魔」は醜悪に頂点を掠奪する
前回のあらすじング。新たに手に入れた魔剣、渇望の剣。殺した相手の力を奪うとかいうチート性能のこの剣!謎の映像送ったり、謎はまだまだ多いけど!きっと頼りになるはずサ!それでは第5話、スタート!
「それでは、只今より剣士クラン・組合決戦を開始します!!」
会場が歓声に満たされる。
ここは、デンタリア帝国帝都の中央部に位置する、大会用の闘技場。今日は、ここで剣士クランの組合決戦が開催される。
「もう大会だね!私、ここで応援してるから!頑張って!」
「全く、初戦かよ…ま、やりますか。」
今回のため、『俺』に参加者の弱点と言う弱点を全て調査させた。卑怯と憤慨する者も、姑息と罵る者もいるだろう。だが俺の知った事ではない。今回限りは、絶対に勝たなくてはならない。
「それでは、第一試合を行います!出場者、前へ!」
その指示を受け、俺は前に出る。向こう側から、ギンギラギンの鎧をつけた若い男が歩いてくる。
「まず北側サイド!黄金の鎧を纏い、戦場を駆ける姿は最早芸術!金等級内でもトップの実力を持つ《美麗の剣士》、ゴルドーン・フラッシェル!!」
「お手本の様な噛ませ!」
{何を言っている貴様。…ゴルドーン・フラッシェル。金等級の冒険者だな。今回の大会では中の下くらいの実力。貴様の実力なら勝てるだろうが、一応弱点は『自分が貴族の出身で、金ありきの地位である』旨の罵倒だな。}
まぁ、コイツなら勝てるだろう。
「続いて南側サイド!組合決戦だと異例な銀等級!しかし、その下に潜むのは一体どんな怪物か!今大会の大目玉!《白黒の悪魔》、エンプティ!!」
「…むむ…」
{何をニヤニヤしている。気色が悪い。}
るっせ!と返しつつ、俺はゴルドーンと向き合う。
「ゴルドーンだったか。悪いが、試させてもらうぞ。俺の新しい力を。」
「ほう。ボクを実験台として扱うつもりか。随分な自信だね。」
そう言いソイツはこれまた黄金の盾と片手剣を構える。
「…どうしたんだい?キミも早く構えたまえ。」
「いや?結構だ。武器なんて無くてもお前ぐらい倒せる。装備だけのお前にはな。」
俺は仁王立ちでその場に佇む。
「ッ…!舐めてくれるじゃないか!」
「それでは試合を開始します!3…2…1…始め!」
「ハアッ!!」
ソイツが威勢良くこちらに突進してくる。
「ほっ…と。」
盾に手を付き、側転のように空中を舞う。
「良い装備じゃないか。コレなら滅多に死なないだろう。」
「何をッ!」
と言い、ソイツは盾を構える。
一瞬、一瞬だけだ。公衆の面前で使える力じゃない。それに手加減をして…50%ぐらいでいこうか。
「…『魔王の豪脚』。」
盾に向かって蹴りを入れる。すると、ソイツの身体は羽のようにふわりと浮き、流星の如し速度で外壁へ衝突した。
「っべ…!やりすぎた…!」
盾は盛大に砕け散り、鎧にも大きな亀裂が入っている。おそらく肋骨も何本か折っただろう。
「…し、勝者!エンプティ選手!」
会場が大きくざわつく。
{まぁ、変に人には好かれん方が良いだろう。我慢しろ。}
「大丈夫だ。こんな程度で揺らぐ覚悟じゃねぇ。」
ハナからこうなる事は分かっていた。巨大すぎる力は畏怖の視線を浴びる運命にある。そんなことを考えながら、控え室側に戻る。
「すごいねエンプティ!あんなに強い蹴り、見た事ないよ!どうやってやったの!?」
しかしどの世界にもポジティブ100%思考の人間はいる。そんなやつらに運命なんて小難しいものは通じない。
「悪いが秘密だ。まぁ、知りたいんだったらじっくり観察するんだな。」
と、軽くいなす。むっとした顔のアルを無視し、奥の方へ戻ろうとする。
「お前が噂の《白黒の悪魔》か!さっきの戦い、見てたぜ!スゲェ蹴りだったな!」
「そりゃどうも。…アンタ、名前は?」
情報収集の時点で見たが、実際どんな人間か分からないため、敢えて質問する。
「ん?オレを知らねぇのか!珍しいな!オレはチーニス・フランメ。一応霊晶等級やらせて貰ってるぜ!気軽にチーニスって呼んでくれよな!」
ウグァッ!!綺麗な陽キャだッ!!じゃ、なくて…
「霊晶等級か。それはすごいな。」
「…エンプティ、本当にこの人知らないの?超有名人だよ?」
「そうなのか。ちなみにどうして?」
「それはこの人が………剣士クランのNo.1、つまりクランマスターだからだよ。」
そう。この男は現時点で剣士最強の称号を持っているのだ。
「…へぇ。そんな人間と対戦出来るとは、光栄だな。」
「オレとは決勝まで会えねぇぞ!そこまで来る自信があるのか!?」
「あぁ、その辺の冒険者程度じゃ、剣を抜かせることすら出来ない。極めて効率的に、最速でお前まで辿り着いてやる。」
「おぉ!いい威勢だな!その時は正々堂々勝負しような!」
と言い、片手を俺に差し出してくる。俺は、それを見つめて、やがてスルーする。
「…俺はお前みたいな、仁義や礼儀に囚われた人種は嫌いだ。」
「手厳しいな〜。ま、オレも出来る限りは自由にしてるぜ。」
「そう言った意味ではない。」
と、足早にその場を離れる。
{などと色々言っておいて彼奴の試合を見るのは“つんでれ”と言うやつなのか?}
「オイお前どこでそんな言葉覚えた。」
{貴様の記憶を覗き見た。肉体を共有しているのだ、こんなこと造作もない。}
最悪だわコイツ。と思いつつ、決闘場に目を移す。
相手は金等級の一つ上、金剛等級の双剣使い。それに対し、チーニスは赤い両手剣を抜刀する。あの武器は…
「禁忌、解析。」
{分かっている。}
カラーコンタクトを入れた、金色の右眼が紅い光を帯びる。
「ッ…何だ…!」
途端、チーニスがこちらに鋭く視線を飛ばす。
「ってなんだ!エンプティか!おーい!見てるー?!」
俺は出来る限りの冷めた視線を送り返し、禁忌に訊ねる。
「で、どうだ?魔剣だろ?あれ。」
{正解だ。『灼炎の剣』。炎を意味する魔剣だ。名の通り、炎を剣から放つことが可能だ。}
「脅威になり得る、か。」
そこで、アイツの試合が終了した。視線を戻す。
「ふぅっ。スゲェ速さだったな。すっかり参っちまったぜ!いつかまたやろうな!」
と言い、晴々とした表情で手を差し出す。それに応じる双剣使い。青春の様な爽やかさがそこにはあった、
「ッチ…イライラすんな…クソが…」
{荒ぶるな。悪いのは貴様だ。}
グサッッ
鋭く言葉の刃が刺さる。
「はぁ…ま、今更そんなものは取り戻せない。目的の為に手段は選んで居られない。」
その後も、俺は淡々と勝利を重ねていった。一度も剣は抜かず、『魔王の豪脚』を調節しながら戦う。爽やかなチーニスの戦いとは対照的に、俺の戦いはドロドロした濁った空気が会場を埋め尽くした。
やがて、互いにほぼ消耗無しに決勝の舞台に上がっていた。
「お前ホンっっトにスゲェよな!決勝にこうも易々と来ちまった!」
「御託は良い。さっさと始めるぞ。」
釣れねぇなぁ〜、と言い、ソイツは剣を抜く。
「…灼炎の剣か。良いものを持っているな。」
「…詳しいんだな、エンプティ。流石だぜ。」
「まぁな。お前がそれを使うなら、こっちも使わせてもらうぞ。」
実力は認めよう。だからこそ、こちらもそれ相応の力で相手しよう。
背中の鞘から、渇望の剣をゆっくりと抜く。
「…とんでもねぇな。今まで見た剣の中で1番黒いぜ。いくつかの意味でな。」
「お前は俺が今まで見た剣士の中で1番アツいな。いくつかの意味で。」
{チーニス・フランメ。今回の大会でトップの実力を持つ剣士だ。弱点はーーー}
「…あぁ、理解した。しっかし億劫だな、人に嫌われに行くのは。」
「それでは、決勝戦を行います!両者、定位置についてください!それではいきます!3…2…1…」
「始め!」
どうもどうも!杉野凪でございます!遂に始まった組合決戦!エンプティこと時針、無事に無双を満喫しています。そんなこんなで1話で決勝!許してくれ!アイデアが消える前に書きたいんだ!
と、言うことで、これからは展開を急ぎます。どうかよろしくお願いします!