Ⅳ.「厄災の魔王」は剣で権能を刈り取る
前回のあらすじ(早速ネタ切れ)。王国から離れ、舞台は帝国へと移る。門で出会った純真無垢な剣士の少女、アル・ラサルハグと共に、彼は剣士のクランでの戦い、組合決戦にその身を投じる。物語が不穏な方向に傾く。…たまには、カッコいいのも良いんじゃないでしょうか。
「よし、ギリギリだったが、エントリー完了。これでいいんだったよな?」
「うん!…でも、ホントに出るの?いくらエンプティが強くても、霊晶等級も出る大会に…」
「問題ない。今の俺は間違いなく『最強』だ。」
少し前では冗談でも言えなかったセリフをおどけなながら言う。
「悪い、少しトイレ行く。」
と言い、俺はトイレに向かう。
「…『狂刻時塔』・《Ⅴ》」
影から『俺』が数人現れる。
「ギルドに侵入させて調べた未解決犯罪の資料だ。情報を極力調べてくれ。」
「あぁ、了解した、『俺』。」
そう言い、『俺』は瞬時に行動を開始する。
{そういえば、あの娘はどうする?もう要件は済んだだろう?}
「そうだな、巻き込む訳にもいかねぇし、そろそろ別れておくか。」
そうして俺はアルのもとに戻る。
「さて、色々あったが、頼んだことはしてもらえた。そろそろ別れよう。邪魔して悪かったな。」
と、俺は自然に別れようとするが…
ガシッ
アルに強く腕を掴まれる。
「ここまで来たんだから、もうちょっと手伝わせてよ!私も、エンプティがどれくらい強いか見てみたいし!」
「ん〜…?えぇ…?」
{全く、若い娘だな。}
おいコラ助けやがれよ。とは言ったものの、確かに武器ももっとしっかりした物にしたいと思っていた。
「…わかった。頼むぞ、アル。」
「うん!よろしく!」
そうして、俺とアルの奇妙なコンビが誕生した。
「と、言っても、私あんまりお金無いから武器買えないんだよねー。助言くらいしかできないや!」
と、自信満々に言う彼女。
「金ならゴブローの分で有り余ってるから大丈夫だ。」
「ご、ごぶろー?」
「ゴブリンロードだ、気にすんな。」
武器屋に向けて、俺たちは歩を進める。
「ここ!私のオススメの武器屋!良い雰囲気でしょ。」
着いたのは、街のはずれにある小さな武器屋。一見ショボそうにも見えるが、外に飾ってある武器は、どれも良く仕上がっている。しかし…
「それじゃあ入ろっか!…エンプティ?どうしたの?」
俺は、これから溶かされるであろうボロボロの剣が積んである所を見ていた。そこから一本の両手剣を拾う。
「わ!真っ黒な剣!見た感じ魔剣かな?でももうボロボロだねー…」
「…アル。本当にこれが、ただの黒い剣に見えるか?」
「え?違うの?」
⋯どうやら一般的には認識できないらしい。今、この剣は、
俺に向けて威圧した。
「⋯なぁ禁忌、お前はこれどう思う?」
{脅威ではあるが、ここまで邪悪な物が神の産物とは思えん。}
「同感だ。」
剣を軽く睨む。すると、まるで満足したかのように威圧が緩やかになった。
「それで…エンプティ、それが欲しいの?もう使えなさそうだけど…」
「修理方法には当てがある。大丈夫だ。それより、今日はもう日も暮れかけている。これを買ったら宿を探そう。」
「うん、そうだね。」
これは…相当面白い物を見つけたな。
「『狂刻時塔』・《Ⅷ》」
宿屋の一室で、俺は大型銃を発砲していた。
狂刻時塔・第八の弾丸《Ⅷ》。能力はシンプルで、対象の外的時間の巻き戻し。それで俺は黒の剣を修復する。
「それで?お前は何者だ?」
………沈黙が続く。
{言葉は持たず、か。}
面倒な、と言いかけたところで、黒の剣は眩く輝いた。警戒するより前に、断片的な映像が脳に流れる。
***そこは、神殿の様な、伏魔殿の様な、そんな不気味な空間だった。周囲には、主人公の仲間と思われる人間の死体が転がっていた。主人公も地面に伏し、まもなく死ぬようだった。
吹き抜けになった天井から、何かが降りてくる。
人のような形をしたそれは、白かった。服も、髪も、肌も、瞳も、全てが白かった。その中で最も目を引くのは…
翼だった。
新雪のように、淡く、儚げな白い翼。それから落ちた羽に視界が覆われ…
***映像は、そこで終わった。
「なんだ、今の?天使みたいだったが…禁忌、何か分かるか?…禁忌?」
{何故……何故今---が……}
「おい!!何か知ってんのか?」
{………いや、知らなくて良い。それは復讐に必要無い。}
「?…そうか。ま、これを見せたってことは、信頼されてるってことで良いんだよな?」
剣はそれに答えない。しかし、応えてはくれるはずだ。
「言われてた情報、集まったぞ。『俺』。」
影から『俺達』が出現する。
「ご苦労。消えて良いぞ。…やっぱ、これぐらいあるよな。」
そこに載っていたのは、金等級冒険者バルバロト・シフォンの個人情報と不正な金の流れについての資料。どうやら、違法な強化を施した装備品を使っていたらしい。
「…さて、黒の剣の初仕事だ。人の血を飲んでもらうぞ。」
「ハッハッハッ…!」
全力で走り、俺はそれから逃げる。
「なんでなんでなんで!どうしてこんな…グァッ!」
裏路地で何かに足が引っ掛かり、その場に転ぶ。
「…金等級の冒険者ともあろう人間が、滑稽だな。」
真っ暗な闇から、感情の読めない冷たい低音の声が響き渡る。
「なんで、と言ったな。答えは一つ、我が王であるからだ。王の責務は、国の安寧を創ること。故に、我は罪人を斬り落とすのだ。」
「っ冗談じゃねぇ!!」
そう言い、俺はそれに斬り掛かる。
「……渇望の剣。」
その男が何か呟いt/
{ほぉ、中々に良い斬れ味だ。}
「肉にスッと刀身が入るよな。」
俺は、王の装いでバルバロトを斬り捨てていた。厄災の下準備として、猟奇的殺人鬼を演じているのだ。
「さて、よくやった。渇望の剣。」
渇望の剣とは、つい今日拾った黒の剣のことである。渇望の名の由来はこの剣の能力にある。それは…
「よし、じゃあこいつから力を奪ってみるか。」
能力で殺した相手の力を一つ強奪する。魔術であったり、剣術であったり、勇者なら英雄も奪えるだろう。今の所、3つ力を保持できると、直感で感じる。スキルの海から、奪う力を慎重に選ぶ。
「ッチ…ショボイのばっかだな…仮にもお前金等級だろ…」
と、文句を呟く。
{…む。使えそうな物を見つけたぞ。どうだ?}
「…あぁ、俺も見つけた。」
それは、『魔獣の甲脚』と言う、脚部のみを魔獣のように変身させ、強化するスキルだった。おそらく改造装備の影響で習得したものだろう。そのスキルを選択し、強奪する。
「じゃ、使ってみるか。…『魔獣の甲脚!」
………
{…なんと言うべきか…魔王らしからんな…}
「やっぱり?何か別の呼び方あるか〜?。」
{魔王から連想して名付けろ。貴様の得意分野だろう。}
「誰が厨二病じゃ!う〜ん、そうだな…あ、そうだ。」
{何か思い浮かんだか?}
「あぁ、悔しくも厨二センスだが。…さて、いくぞ。」
俺は大きく息を吸い、その名を呼ぶ。
『魔王の豪脚』
足を強く踏み込み、大きく跳躍する。その体は容易に民家の屋根に届き、静かに着地する。先程まで自分がいたところを見ると、地面が軽く抉れていた。
「…素晴らしい。最高の気分だ。」
「おはよ!エンプティ!昨日はよく寝れた?」
私は、起きてすぐにエンプティを訪ねた。
「おはよう、アル。正直中々寝付けなくてな。馬鹿みたいに眠い。」
「あっはは、ちゃんと休まなきゃ!もうすぐ組合決戦なんだから!」
「それもそうだな。」
と、彼は軽く流す。全く、本当にわかってるのかな?
「…ん?なんか街が騒がしいね。どうしたんだろ?」
私はそうして、外へと出る。人が集まっている場所へ向かう。
「………え?」
土魔術で作ったであろう多数の柱。その一つ一つに、惨たらしく人間の死体が貼り付けられていた。
「ッ!!!うっ…」
「大丈夫か。少し離れよう。」
彼は私に優しく呼びかける。
でも、なんでだろう。
影が落ちたその笑みは、
今までみた何よりも不気味だった。
イェェェイ!!あらすじとの温度差が激しい杉野凪でございます!!邪悪な微笑み大好き!フォー!
と、少し落ち着きまして。少し久しぶりに、王としての活動が見られました。災厄の影が蠢き始めています。さて、この話が投稿されてから数日後、きっと新しい内容がアップされていると思います。現時点でオープンになっている能力の一覧を載せます!作者としても少し内容忘れそうになるので。こうゆう事はまとめたいと思います。では、また次回!ご愛読、ありがとうございます!