Ⅲ.「厄災の魔王」は旅に出る
前回のあらすじぃ!王として勇者一行に宣戦布告した時針!その意図やいかに!?そして、彼に仕える僧正や歩兵とは誰なのか!?第3話、スタート!
「ハァァァァァ…」
【厄災の魔王】・王こと俺、時針零司は特大の溜息を吐いていた。
{「貴方を絶対に殺す!!」だと。残念だったな、優しくしてもらっていただろうに。}
「マジで黙れお前…」
と、禁忌は明らかにふざけた口調で語りかけてきた。
「はぁ、厨二病すぎたか…お疲れ、僧正、歩兵…いや、『俺』。」
影から、白いローブと、黒のボロ布が音もなく出現する。
「あぁ、構わないさ、『俺』。俺たちはあくまでも「過去」なんだから。」
ローブのフードから、自分と全く同じ顔が現れる。この『俺達』について、説明しておこう。
こいつらは、《狂刻時塔》の能力の産物だ。
《狂刻時塔》第五の剣・《Ⅴ》。大剣の見た目をしていて、能力は「過去の自身を不完全に召喚する」。特定の時間から、その時点の姿で《狂刻時塔》が使えない俺の複製を召喚する。僧正は、召喚した《俺》に、事前に用意した白ローブを着せた。しかし、歩兵全員分の装備は少々金がかさむ。ということで…
{しかし、「歩兵」作り出すためにあの格好で魔獣を狩り始めるとは。たまげたな。}
「笑うなオメェ!仕方ないだろうが!」
そう、歩兵の格好を一定時間していれば、その格好の『俺』を召喚できるのだ。しかし、人に見られてる中であの格好をするのは、なかなかに精神が削られた。
「はぁ…『俺達』、もう消えていいぞ。お疲れ様。あ、僧正はローブ返せ。」
「全く、『俺』使いが荒いな。」
そうして、僧正はローブを投げ渡し、溶けるように消え去った。
{それにしても、貴様があそこまで堂々と宣戦布告するとはな。あの娘、理璃だったか。気に入っているのだろう?}
「そうだな。そもそも、今回勇者達までわざわざ出向いたのは、宣戦布告以外にもう1つの目的がある。ま、俺の我儘みたいなものだが。」
そう、今回の登場には宣戦布告以外に意味がある。
1つ目。俺の美学に合わせて復讐するため。何もしていない状態のクラスメイトには何もしない。今回で、理璃さんの殺人未遂を貼り付けられた。
2つ目。『俺達』の自由度の確認。それぞれ自我は存在するが、自分が複製であると理解しているため、どんな指示でも基本聞いてくれる。自身で思考し判断することができるため、非常に優秀。しかし、かなりの量の魔力を食う。
「…以上が、今回俺がやりたかったことだ。」
{ふむ、なるほどな。それならば収穫も合ったと言えるだろう…ただ。」
と、禁忌は溜めて、
{出来る限り、魔力は使うなといっただろう???何故そんな馬鹿みたいに使いまくるのだ??}
{いやっでも!人型牛とか吸収しまくって魔力回復したから!少し!!」
{あと何人分空いてる?}
「…サンビャクニン…」
{馬鹿者が!!}
と、散々叱られるが、今回の収穫はそれ以上に大きかった。
「とはいえ、そろそろ人手がほしいな…」
{奴隷はどうだ?現在も続いている様子だったぞ。}
それはそうなのだが、問題がある。神聖シュバルツ王国は、奴隷制度を禁止しているのだ。そんな偽善に何故付き合わねばならんのか。
「…何しろ、この国でできることは今は無い。とにかく他の国へ行くぞ。」
{そうだな。しかしどの国に行くのだ?我には分からんぞ?」
「近場で奴隷OKな国か。なら…」
「よし、見えてきたぞ。」
遠方に、城が見えてくる。
{ふむ、あそこが。}
冒険者の国、デンタリア帝国。神聖シュバルツ王国に並ぶ国力を持つ、冒険者の中心地。各職業毎にクランがあり、入会出来ると依頼の報酬が弾んだりする。
「…さぁ、早く行こうか。」
と、俺は国境門に向かって歩き出した。さぁ新たな世界に踏み出そう!と思っていた矢先…
「…オイオイオイオイ、マジかよ。」
{これは…参ったな…}
見てみると、国境門に向かって訪問者の列がズラーっとできてしまっている。どうやら現在、先頭の人物が門番と揉めているらしいのだ。
「面倒くせぇな…ちゃちゃっとまとめてくるか。」
そして俺は、国境門に向かって走り始めた。
「だ・か・ら!なんで入っちゃだめなのよ!許可証もあるでしょ!?」
私、アル・ラサルハグはデンタリア帝国に入れずにいた。
「貴様のような真っ赤な忌み髪を高貴な帝国に入れるわけにはいかんのだぁ!」
「…ちょっと。私の髪、馬鹿にしないで!」
そう言って、私は腰の剣の柄を握る。
「お?剣を抜くのかぁ?帝国憲法に違反するぞぉ?」
「…クッ!」
そして、私はその男を睨み付ける。そいつの首に剣を叩きつける…!
「確かに、ここで剣を抜くのは、帝国憲法第21条第1項、『正当な理由の無い国内での抜剣の禁止』に該当する。手を離せ。」
ぞわり、と、背中に悪寒が走った。全く気配を感じなかった。この距離まで近づいているのに。
「しかし、門番。貴様も帝国憲法第13条『不当な理由による権利の侵害』に抵触しているのではないか?」
「あぁ?何だてめぇ?」
苛立ちながら門番が聞く。
「エンプティ。シュバルツの方から来た、冒険者だ。」
「え、エンプティ!?エンプティって、あの!?」
「あぁ?どのエンプティだ?」
そう聞かれると、彼は少し躊躇ってから、
「…一応巷の方じゃ、《白黒の悪魔》って呼ばれてるみたいだな…」
「グ、グ、グ、《白黒の悪魔》〜!?」
お手本のような驚き方をして、門番は尻餅をつく。
「ここでこれ以上問題を起こすようなら、貴様の職が危うくなるが?どうする?」
「…ッチ…通れ。」
「あぁ、それで良い。行くぞ。」
「へぁっ!?」
彼はそう言うと、私の手を引き、街の中に連れて行った。
{随分と格好をつけるのだな。}
「うっせ、男子はみんなこうなるんだよ。」
そう返答しながら、俺は真っ赤なポニーテールの彼女にあえてフランクに語りかけた。
「…お前、名前は何て言うんだ?」
「私はアル。アル・ラサルハグ。その…ありがとう、助けてくれて。お礼になにかさせて!」
すると、アルと名乗った少女は急にそんなことを言ってきた。
「…別にいいんだが…そうだな、デンタリア帝国は久しぶりだから、道を殆ど覚えてないんだ。もし良かったら、案内してくれるか?」
「わかった!まっかせて!」
そう言って、アルは走り出した。
{やれやれ、随分若い娘だな。}
「全く、本当に。」
「エンプティって剣士だよね!クランは入ってるの?」
「いや、まだ入れていない。」
「そっか!エンプティならすぐ入れるよ!いこいこ!」
そう言いながら、アルは走っていく。
「あの…禁忌さん…」
{…まぁ、いいだろう。目立つが、今後必要な権利がついてくる。}
「ありがとうございます…」
そう言い、俺はアルヘついて行った。
「あ!ここの料理すっごい美味しいんだよ!食べていこ!」
「あ、あぁ…」
私は、クランに案内すると言う名目で、街のあちこちを歩き回っていた。だって、仕方がないのだ。自分に何の憐れみも蔑みも無く接してくれる人は、彼が初めてだったのだ。バレない範囲で遊ぼ…
「…なぁ、本当に剣士クランに向かってるのか、これ?」
「ギクッ」
バレてた。全然バレてた。迷惑だっただろうか?彼にはあまり嫌われたくない…
「…まぁ良いが、俺はずっと暇な訳ではないんだ。程々にしろよ?」
「はーい…あ、あれあれ、あれが剣士クランだよ!」
{ふむ、なかなかに立派だな。}
目の前にそびえ立つのは、ギルドと似た作りの建物。しかし、ギルドと異なり剣を取り入れたロゴがでかでかとつけられている。
「流石は冒険者の国。規模が違うな。」
「でしょでしょ!さ、試験は一瞬で終わるから!行こう!」
アルがそう言ってドアを開ける。
「何だとゴルァ!!もういっぺん言ってみろ!!」
「何回だって言ってやんよ!オメェみてぇな雑魚じゃ、組合決戦で勝ち上がれるわけねぇからリタイアしろっつってんだ!!」
「「あぁん!?やんのか!?」」
と、二人が剣を抜く。
…ホント、マンガの主人公くらい巻き込まれ体質だな…
「あわわわわ…!かなりまずいよ…!エンプティ、なんとかして!」
「え?俺?まぁわかったけど…」
そう言いつつ、俺は両手剣を抜く。
「あれ?なんか『正当な理由の無いなんたら…』で剣を抜いちゃダメじゃないの?」
「『冒険者同士の揉め事の解決』とでも言っときゃ許されるだろ。多分。」
「多分!?」
そう言うアルを尻目に、俺は揉めている二人の間に入り、剣を弾き飛ばす。
「なんだてm」セリフを言い終わるより前にカカト落としで一人を倒す。
「さて、続けるか?」
もう一人の首筋に剣をあてがう。周りから、「おぉー」と歓声が上がる。
{おい。}
「ウッ」
無言の圧が俺を襲う。
「…あ、そういえば。さっきこいつが言ってた…組合決戦?って何だ?」
そうアルに尋ねる。
「各クランで行われるトーナメント式の大会。優勝者は王城に招かれるらしいよ〜。まぁ、私達には遠い世界だけど。」
「へぇ…王城に…」
{招かれる、な…}
「エンプティ、今まで見たことない邪悪な顔してるよ…」
「…早く登録したい。どうすれば良い?」
「ん?急に乗り気になったね。…まさか。」
「あぁ、組合決戦に出る。」
{…そして、}
「この国に…」
厄災を与えてやる。
どうもどうも!杉野凪でございます。読んでいただきありがとうございます。今まで大きな行動を起こしていなかった王達に不穏な動きが見え始めました。明るめの雰囲気だった時針と禁忌が、これから変化していきます。お楽しみに!次回は戦闘シーンモリモリでございます。少々時間がかかりますので、暫くお待ちください。