表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
10/12

Ⅸ.「贋作の神」はやがて聖地に舞い降りる

前回のあらすじ。佳境に差し迫りつつある魔勇戦争・第一幕。樹柄黎葉が、見事に隙を突き、僧正(ビショップ)に一撃を喰らわせることに成功する。勇者達は希望を見出し、戦争は続いてゆく。魔王は如何な手を打つか。此度は転話。事態を動かす第九話、開始。

「噛み締めろ!最恐の魔術師!」

その瞬間、一本の大樹が芽生えた。

「…見事だ、()()よ。私にこれほどの傷を与えるとは、思いもしなかった。…しかし、惜しかったな。貴様は、私に対処法を教えてしまった。」

「何だって…?まさか、そんなものがあるわけ…!」

そう言うと、僧正(ビショップ)は大樹を掴むと、その魔術を発動させた。

「………亡夢の魔弾アーカーシャ・スペルブレイク


正直言って、かなり驚いた。ここまでの規模の術を行使できるようになっていたとは。亡夢の魔弾アーカーシャ・スペルブレイクを知らされなければ、対処法が思いつかなかったと断言できる。

俺が掴んだ箇所から、樹木が色を失い崩れ去っていく。

「残念だ。実に残念だ。貴様は才能で満ち溢れていると言うのに、この手で貴様を殺さねばならない。許せ。」

「クッ…まだだ!」

「いや、終わりだ。」

そう告げ、俺はその魔術を発動させる。


…▶︎קרח לוהט אלוהים◀︎


「…え?」

樹柄が素っ頓狂な声を出す。しかしそれも仕方のないことだろう。何せこれは、禁忌(エクスマキナ)直伝、2000年前の古代魔法なのだ。

「私の秘奥だ。目に焼き付けると良い。」

掌を天井に向ける。聖堂内から熱が失われ、球状に収束する。

「さらばだ。素晴らしき術師に敬意を贈ろう。」

そして収束された熱を、瞬時に解放す


〔ゴギャァァァァァァァァァァァッッッ!!!〕


ほんの僅かな隙。その僅かな隙に、俺は()()に噛みつかれた。

「一体何だい!?」

「……魔獣…?」

ギルドマスターが警戒の姿勢をとる。しかし、樹柄だけはコイツを見たことがあるようで、目を見開いていた。

「いや、これは…!」

と、そこまで言いかけた所で、その魔獣の背から見覚えのある女が出てきた。

「お待たせ。遅れて、ごめん。」

「陰華さん…!」

…なるほど、歩兵(ポーン)はコイツに殺されたのか。確かに、あの『俺達』では太刀打ちできないだろう。

「…しかし、油断したな…」

まさか、歩兵(ポーン)を破ってほんの数分でここに辿り着くとは、驚愕の一言である。

……仕方があるまい。最後の手段だったが、使わせてもらおう。

「…『俺』。隙を突かれて重傷を負った。()()を解放する。」


「いやはや、参った。隙を突かれたとはいえ、こんな重傷を負ってしまうとは。流石に、私はこれ以上戦えないな。」

と、壁に叩きつけられた僧正(ビショップ)が声を上げた。なんとか、致命傷を負わせることができたようだ。

「みんな!早く理璃会長と合流しよう!」

と言い、皆で大聖堂の入り口に駆け出す。が…

「待て。まだ話は終わっていない。」

と言われ、嫌でも振り返ることを余儀なくされた。

「確かに、()()もう戦えないと言った。しかしそれだけことだ。」

「…どう言うことだ。まだ味方を忍ばせているのか?」

そう聞くと、そいつは面白そうにくつくつと笑い、懐から何かを取り出した。

恐らくそれは、魔道具の類だろう。魔王の軍勢が作ったからなのか、全体が真っ黒なそれは…

「………鍵?」

そしてそいつは、物語を語るように、或いは歌を口ずさむように、その名を唱えた。



(テトラ)》・『禁后解錠(デウス・エクシツゥム)


…大聖堂

勝者・樹柄黎葉&ゲシュム・マイン&イヤゥ・ローア


その時、魔王を縛める錠前が、闢かれてしまった。


空白(エンプティ)…もとい時針零司の計画は、この上なく完璧に進行していた。目的物を手に入れ、国王を殺し、被害をより大きく見せて去る。今はその最終段階だ。

しかし、少しばかり厄介なことがあった。陰華影花の【影鰐(かげわに)】により、歩兵(ポーン)、そして僧正(ビショップ)が易々と倒されてしまったのだ。自身の身代わりとして出した(キング)も、あくまで分身体だ。自身を除いた2人を同時に相手にするとなると、やはり苦戦を強いられる。ここまでの早さで倒されてしまうと、間に合わないだろう。

だからこそ、奥の手を一つ用意してあった。正直、隠せる限り隠したかったが…仕方があるまい。

「さて、仕事だ。きっちり頼むぞ?…………禁忌(エクスマキナ)。」

{偉そうな事を言いおって。…言われずとも、わかっている。}


そいつの身体に、この世の物とは思えない深い闇が渦巻く。それは僧正(ビショップ)を飲み込み、更に大きさを増していく。途轍もない魔力の圧が、空間を裂かんばかりに放たれる。

「オイオイ、ヤベェんじゃねぇか!?」

「静かになさい、カドゥー!そんなことはわかっています!」

「まあまあげっしー、そうは言っても『これ』どうするよ?」

「…すごく、厄介なことに、なった。」

と、現在帝国にいるトップ戦力達がそれぞれ戦慄する。

「…一体、何なんだ…!」

そう呟くと、魔力の圧がピタリと止んだ。そして、その先に視線を送り…

僕達は、一斉に言葉を失った。

光をそのまま反転させた様な、深淵を覗いているが如し、漆黒のローブ。

生物が本能的に拒絶してしまうであろう、邪悪な魔力をその身に纏う。

すると、一瞬だけ、その双眸が見て取れた。その色は、

真っ赤だ。燃える様な、鮮烈な赤。

そして赤眼の怪人は、僕達に向けこう告げた。


「鏖殺だ。頸を差し出せ、人間共。」


我の仕事は殆ど無いと思っていたが、まさかこんなにも早く役が回ってくるとは。人間達の成長はやはり早い。

今、我は分身体・僧正(ビショップ)の肉体に精神を移し、勇者達と相対していた。種を明かせば、これも『狂刻時塔(レンツベクトル)』の能力だ。


第四の弾丸・《(テトラ)》。過去に戦った相手の動作・技術を再現させる能力を持つ。それを仕込んだ魔道具を使用した。今回の場合は、時間遡行以前の我を再現し、()()()()分身体に写した。そうすることで、我が二人存在すると言う矛盾を修正するため、本体から分身体へ移る形となったのだ。

「さて、絶望せし者は前へ出よ。慈悲を以て、苦痛無くして処してやろう。」

「…お前は誰だ!僧正(ビショップ)はどうした!」

…やれやれ、人間というのは本当に他人の話を聞かん生物だ。

「我は第二の王。彼の王に宿りし、魔の支配者である。」

「第二の王…?何を言っているかは分からないが、敵であるならここで倒す!」

「笑止。調子に乗るな凡夫共。貴様らが今、気まぐれで生かされていることを自覚させてやる。」


大聖堂…

禁忌(エクスマキナ)VS樹柄黎葉&陰華影花&剣士クランを除くクランマスター


禁忌(エクスマキナ)を送り出して、2、30分は過ぎただろうか。

「そろそろ限界、のようだな。」

(キング)の相手をしていた、理璃さん、アル、俺(もちろん演技だが)は地面に膝をついていた。

「実に見事であった。正直、ここまでの脅威になり得るとは考えていなかった。」

「まだ…!まだ戦える…!」

「無理を言うな。立っているのもやっとであろう。…高潔な精神に免じて、痛みを伴わず屠ってやろう。」

そして(キング)が術式を詠唱する。

…▶︎רוצח פנטזיה◀︎

禁忌(エクスマキナ)直伝の古代魔術。これで理璃さんを気絶させて終了だ…


そう、思っていた。



「ア゛ァ゛__________ッッッ!!!」



獣の如し絶叫が、虚空を切り裂いた。


造陸の鉄拳(プラダァー)・【土星の鉄拳(サターン・メテオ)】!!」

豪嵐の魔弓(ウォア・ファザカ)・【凪空(なぎそら)】!!」

岩と風の礫が、同時に迫り来る。

▶︎שקט ובדידות◀︎

魔術を発動する。すると、迫っていた礫が動き方を忘れた様にピタリと止まり、そのまま消失した。

「またその術式か…一体何なんだ?」

そう呟きながら、樹木を操る…樹柄だったか?が、魔術を発動させる。

覆空の嘯風(ヴァーユ・ジェイル)!」

風が、縛るように我の身体に纏わりつく。

「無意味だ、愚か者が。」

僅か数秒で、拘束を引き千切る。

▶︎גן השכחה◀︎

途端、樹柄が自我の無い人形の様に崩れ落ちた。

「『御影闊歩(レーテンター)』…!」

礫の影に乗って、我の影に潜んでいた暗殺者の女…此奴は、陰華だったか…が、近距離で苦無(くない)を投擲してくる。

「小癪…!」

苦無を薙ぎ払い、蹴りを叩き込む。弾丸の如し速さで、陰華が壁に叩き付けられる。

「…っぐ…クソッ…!」

魔術の効果が切れた樹柄が、体を起こす。

「貴様らも存外粘るな。時間を取られるのも、こちらとしては本意では無い。………故に、我が秘奥を僅かに見せてやろう。」

そうして我は、その魔王の名を宣言する。



秩序天盤(ベートエフェクト)



その光景に、僕達は目を奪われ、息を呑んでいた。クランマスター達は、きっと異様な光景に驚いているだけなのだろう。しかし、僕と陰華さん…()()は違った。

第二の王が何かを呼ぶと影が広がり、反転させたように色が白くなり、そしてそこから…


巨大な、ボロボロの天文時計(アストロラーべ)が這い出てきた。


常識が通じない、条理を逸した権能。僕達は、それを知っていた。だってそれは…

「……………《英雄(オラクル)》……?」

そんな問い掛けに、第二の王は…

「正解であるが、間違いとも言える。我が権能の名は《魔王(ヴァシラス)》。貴様らが扱う《英雄(オラクル)》が、魔に侵された姿。欲望に、願望に、その身を委ねた者が手にする()()の力である。」

「どう言う、こと…?つまり、貴方は、「これ以上、語る必要も無かろう。」

無理矢理言葉を止めると、第二の王は、式句らしきものを発した。

「『秩序天盤(ベートエフェクト)』・《θ(イェソド)》」

天文時計のかろうじて捉えられる『θ』の文字が、煌々と輝く。膨大な魔力の渦が、視界を悪くする。

だからきっと、これも僕の見間違いだろう。

「……以前に記憶を見た時から、興味があったのだ。」

第二の王が、()()()()()()()()()()()()()()

「…潰えろ。」

そして、眩い光が僕達を呑み込ん


「ア゛ァ゛__________ッッッ!!!」


と、不意に帝城が大きく振動した。それによって、狙いが僅かにそれ、光は僕達の鼻先を通過していった。その通り道を見ると…

皆、絶句する他なかった。

魔術特有の凹凸の激しい抉れ方ではな無く、そう、例えるならば、そこにあった空間を丸ごと抉ったかのような、極めて滑らかな跡だったのだから。

「…ふむ、外したか。参ったな、もう術式が維持できん。」

「何、を…」

呟くと同時に、第二の王の体がボロボロと崩れていった。

「実に運が良い。この劣勢の中、生存を果たすとは。…じきに(キング)も撤退するであろう。今を震えて過ごせ、危険因子共。」

その言葉を最後に、第二を王は消滅した、

「勝った…とは、言えないな…」

しかし、この戦場を生き延びたことに変わりは無い。

「………理璃会長…」


大聖堂…

禁忌(エクスマキナ)の維持限界により、勝者無し



私…アル・ラサルハグは、眼前の圧倒的な強者に、全く抵抗できなかった。

そもそも、たかだか銀等級(シルバーランク)が戦える相手ではなかったのだ。速度を変える謎の剣。さも当然のように放たれる最高級の魔術。

私では、あまりにも力不足だった。

だからこそ、私は支援に徹そうとした。そうすれば、勇者様やエンプティがきっと何とかしてくれるから。

けど、そうはならなかった。

圧倒的な暴力を前に、誰も敵わなかった。その力を用いて、私達は潰えようとしていた。


私にも、戦えるだけの実力があったなら。


私にも、巨悪に立ち向かえる意志があったなら。


私にも、皆を守れる、「何か」があったなら。


私は弱い。だから、何もできない。何も為せない。

でも、そのせいで誰かが死んでしまうのは嫌だ。だから………

「………………誰か………………………力を……………」





{【⬛︎⬛︎⬛︎(××××××)】}





それが、何かの声であったのか、何かが動く音だったのか、そもそも音だったのかすら解らない。だけど、()()を感じた時、私の中で、ドス黒い何かが弾ける感覚があった。言葉に起こすのであれば…

それは、自身の器を溶かす悪毒。

それは、心臓に牙を立てる龍の(あぎと)

それは、恐怖を無理矢理に支配する恐怖。

つまり、人間には耐えかねる苦痛である。


「ア゛ァ゛__________ッッッ!!!」


絶望を溶かす毒の様に、猛り咆哮する龍の様に、恐怖を意図的に練り上げる様に。

()()に呑まれた私は、絶叫を上げた。


「……何なんだってんだ、一体…!」

俺は今、驚愕と戦慄に満ちていた。理由は至って単純明快。目の前にいる、アル・ラサルハグと言う少女が唐突に、勇者を優に超える密度の魔力を放ち始めたからだ。

{おい、何が起きた。}

「…禁忌(エクスマキナ)、樹柄達はどうした?」

{最大出力の《θ(イェソド)》を外した。}

「何してんねん!!…それより、アレだ。」

魔力を放ち続けるアルに視線を向ける。

{何?あの娘か?勇者が何かしたとばかり思ったが…}

「まぁ、そうだよな…」

見たところ、ただの魔力暴走ではない。アルが従来持っている魔力量ではないのだ。外部から、何か干渉を受けている。例えば…


俺が魔王になった時のような…


「アルさん!!」

と、声を出し、理璃さんがアルに近づこうとする。

「危険過ぎる!近づくな!!」

「でも!このままじゃアルさんが!」

と、大人しく引き下がろうとしない。まぁ、そう言う所が理璃さんらしいのだが。

「……(キング)!」

皇帝陛下の為に(イエス・カイザー)

指示をして、(キング)に攻撃を仕掛けさせる。(キング)とアル距離が縮まる。やがて、ようやく気付いたと言った様子で、アルが視線を(キング)に向ける。その双眸には、暗い青色が灯っていた。

「ア…ァァア、ァ…」

喉から、掠れた声が漏れ出る。そして、目と鼻の先に(キング)が迫る…



「……【辟。…諢、溷虚…】」



「………な…」

{今のは…}

と、驚愕している暇も無く、それは発動した。

放ったままだった魔力が、瞬時に収束する。縦に長く、生物のように(うね)るそれは、九頭龍を思わせた。毒々しい色の龍達は、その牙を一斉に(キング)に突き立てた。激しく魔力が爆ぜ、閃光が満ちる。

「理璃さん!」

「大丈夫!それより、アルさんは…」

理璃さんが、何かを見て言葉を失う。俺も、理璃さんの視線を追い、そして…

「………は?」

そこに広がるのは、地獄の底だった。原型が分からない程までに融解され、変質し、変形した床。そのすぐ近くに、何事も無かったかのように立つ少女。

「…アル……」

「…アル、さん……?」

その名を呼ぶ。だが、まるでそれを掻き消すように…

「………ア゛ァ゛ァ゛____________________ッッッッッッ!!!!!!」

恐怖の女王は、慟哭を上げた。

皆様、ご愛読ありがとうございます。杉野凪でございます。

さぁ、今回は色々ありましたねぇ。無事に合流できた樹柄、陰華陣営によって僧正(ビショップ)を打ち倒すことに成功。しかし何と言うことでしょう。時針の秘策、『禁后解錠(デウス・エクシツゥム)』によって、我らが禁忌(エクスマキナ)君が戦場に駆り出されます。別世界(こっち)側の武器を気に入ってるのかわよ。そして、影激薄ガールと化していたアルが、途端に暴走し始めます。一体どうしちまったんでしょう?自分にはわかりかねます。さて、そこも含めて、次回をお楽しみに!さらば!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ