表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
維新の剣  作者: 才谷草太
同盟への歩み
31/140

大坂、歴史の布石

 「全く、寝ずに大坂まで来る事になるとは思わなかったよ」

 足元がフラフラになった桂は、虚ろな目で龍馬を見る。


 京を出て、獣道をひたすら歩き、近道をした一行は二日目の早朝に大坂入りをしていた。

 「せっかくじゃき、堺で旨いもんでも食うかいの」

 「呑気な事を…まずは大坂屯所に向かいます。桂殿・龍馬殿はその近くの宿屋でお休み下さい」

 「やっと眠れるのか…坂本君のお陰で、不眠不休の二日間だったわ」

 「元より桂さんは逃亡するつもりじゃったがやろ。それくらいで文句はいかんの」

 相変わらずの調子は、大坂に入っても収まらず、そのまま大坂城方面に足を向けた。


 日が昇った頃、新撰組大坂屯所に着いた沖田と薫。龍馬達はすぐ近くの旅籠に入って休んでいる。

 「新撰組沖田総司と浅野薫、到着いたしました」

 入り口で薫が叫ぶと、中から数人の男が出て来た。その中の一人が頭を下げ、

 「拙者、大坂屯所隊長谷万太郎と申します。…あの…御二人ですか?」

 「心配には及ばん、地に明るい随伴の者二名も居るが、隊士では無い為、近くの宿で休んでおる」

 「そうでしたか、では中で暫くお休み下さい」

 その言葉に従い、沖田と薫は屯所内部に入って行く。


 民家をそのまま使っている屯所は狭く、隊士も恐らく三十名程しか居ない。

 「潜伏先の見当は付いているのですか?」

 沖田が谷に問うと、谷は少し困った顔で答える。

 「それが…土佐の人間がどのように行動しているか、大坂ではあまり知られて無く…旅籠は調べていますが、それという男は見つかっておりません」

 それを聞いた薫はつまらなそうに答える。

 「真っ先に調べるのは当然宿でしょうね。それも旅籠…そんな所に潜む者は居ませんよ。商家の蔵や港等は御調べになりましたか?」

 「いえ、まだ…すぐに!」

 そう言って立ち上がろうとした谷を、薫は制した。

 「あなた方は情報を集めて下さい。実働は私達が進めます。それに、昼間は目立ち過ぎ、警戒心を与えてしまいますので夜間に行います」

 「で…では、情報を集めて参ります」

 そう言うと、隊士を連れて早々に出て行った。


 「あの男…要領が悪いですね。それに独特の訛りもある。大坂の人間ではありませんね」

 「薫さんは良い目をしてますね。彼は備中の出で、剣の腕はあるのですが…」

 そう言うと、そのまま屯所を出て、龍馬達の元に向かった。


 「何じゃ、もう戻って来たがか。色街に行きそびれてしもうたのぉ、桂さん」

 「私が行く見たいに言わないでくれ。そんな話はしてなかっただろう」

 全く同じ調子で話す二人を、疲れた目で見る沖田。

 「さぁ、決行は今夜です。龍さん、心当たりはありますか?」

 「詳しい場所は分からんが、逃亡を図るなら港よりも町中に潜んじょるじゃろうな…。例えば酒蔵や醤油蔵。人の出入りが少のうて、それでも出入りが怪しまれん場所じゃき。恐らくは土佐の息が掛かった蔵じゃ。しっかし、そんな所は既に捜索しちょるがやろ…」

 薫は溜息を吐いて答えた。

 「そうでもなさそうですよ…。龍さん、日が沈んだら、龍さんが先導して土佐者として捜索してみて下さい」

 「まあエエが、気は進まん。沖田殿、頼むぜよ?」

 「斬り掛かられれば、私は斬りますよ」

 「こりゃ良い。人斬り集団に御似合いの言葉じゃないか」

 桂は冷やかしに笑った。

 「さあ、今夜も長い夜になります。冷え込みそうですし、取り敢えず寝ておきましょう」

 薫は三人を促し、床に就く事にした。


 その頃、新撰組大坂屯所隊士は情報収集に走り回っていたが、当然有力な情報は得られない。

 商人の町大坂。土佐と繋がりがある商家が匿っているとなると、それを裏切ると商売も成り立たない可能性が大きい事から、ホイホイと情報を教える事など無い。


 この夜、歴史を動かす「薩長同盟」の布石が動き出す。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ