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維新の剣  作者: 才谷草太
京の狼
23/140

山南敬助登場

「サンナンさん、どうしたんですかこんな所で…」

 京の見廻りを行っていた一番隊組長、沖田総司が足を止めたのは、とある饅頭屋の前。子供たちに囲まれるように茶をすする、いかにも人の良さそうな男が居た。

 「総司か。いやね、ちょいと買い出しに出ただけなんだが、子供達に捕まってしまって、ついつい遊んじまってさ。走り回ってると喉が渇いて…」

 気さくに笑いながら、周りを囲む子供達の頭を撫でる男。片腕はどうやら自由が利かないらしく、不自然にかばっている。

 「キミか、土方副長と総司のお気に入りは。初めてだね、私は山南敬助。副長をしているんだが、土方副長が居るから私は昼行燈で居座ってるだけの男だけどね」

 「宜しくお願い致します、山南副長。拙者…」

 薫がそこまで言うと山南は右腕を立てて横に振りながら

 「副長だなんて呼ばないでくれるかい? 恥ずかしくなっちゃうよ。サンナンで良いから」

 本当に恥ずかしいのだろう。照れ笑いを浮かべて俯いている。何とも人懐っこい印象を受ける人物である。薫は『新撰組とは明らかにかけ離れた印象の男がここにも…』と感じながら、沖田と山南を

見比べていた。

 「サンナンさん、入ったばかりの薫さんが困惑していますよ。たまには副長らしく堂々として下さいよ」

 「堂々とするのは土方副長に任せてあるさ。私はその後方支援で十分間に合ってるよ」

 「新撰組は規律正しい侍集団、人斬り集団との噂が流れてますが、私が御目にかかった方々はどうにも的を外しておりますね」

 薫が冗談っぽく笑いながら山南に問いかける様に口にした。

 「そうだね。噂は出所が分からないから、好き勝手に口にできる。だからこそ、その本筋を見分けられる者達が、時勢を読めるんだよ」

 山南は怪しく口元を緩めながら、薫に言い、更に続ける。

 「総司、伊東に気を付けた方が良いよ。ひょっとすると、大きな風かも知れない」

 「藤堂組長が仲介している伊東さんですか?」

 「ああ…」

 そこまで言うと、沖田は他の隊士に自分から離れろ、と、目で合図する。それに即座に応えるように山南の周りを固める子供達を連れて距離を置き、近辺に目を配る隊士たち。それを見て、自分も関わるのを避けようと沖田と距離をとろうとする薫だが、沖田は薫の袖を握り『此処に居ろ』と合図を送る。

 その様子を見た山南も、小さく頷いたまま二人に話しかける。

 「どうにも不穏な噂が聞こえて仕方が無い。伊東は過激な尊王思想を持っているってな」

 「噂の本筋は見分けられましたか?」

 すかさず薫が口を出す。どうにも痛い指摘をされた山南は、苦笑いをして答えた。

 「確かに、本筋を見極められなければ時勢から外れるけどね。屯所を動かす先の西本願寺は、勤王派との繋がりも強い。何より彼は熱烈な尊王攘夷派なんだよ」

 「何故そのような男が新撰組に?」

 もっともな質問を投げかける沖田に、山南は続けて言う。

 「奴は口が立つからねぇ…。とにかく、これ以上は言えないが気を付けるんだよ」

 そう言うと、また人懐っこく笑いながら子供達を呼び戻し、京の町へと戻って行った。

 「今の話し、私が聞いても良い話しだったんですかね?」

 余りに深い話しだった事に心配する薫だが、沖田は何食わぬ顔をして

 「サンナンさんが良しとしたんです。大丈夫でしょう」

 これもまた子供っぽく笑いながら、他の隊士達の元へと戻って行く。

 「では、見廻り再開と参りましょう」

 沖田はそう言いながら、再び隊列を整えさせて、山南とは逆の道へと歩みを向ける。


 次第に離れる山南と沖田の距離。


 暫くして山南は振り返るが、そこには新撰組一番隊の背中しか見えず、沖田の姿を捕える事は出来なかった。弟のように可愛がる沖田との距離が離れて行き、何とも言えない感情を押し殺しながらも子供達に囲まれた山南は屯所へと歩みを向けた。

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