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維新の剣  作者: 才谷草太
京の狼
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もう一人の旅人

 「以蔵は遅いな…どこまで散歩に行ったんだろうか?」

 「変な事に巻き込まれておらんかの…ああ見えて、意外に騒動と縁のある人じゃき」

 寺田屋で龍馬と新之助が以蔵の噂話をしている。既に以蔵が出てから四半刻が過ぎている。普段なら気にならない時間ではあるが、先だって京では血生臭い騒動があったばかり。


 「池田屋の件以来、どうも京の町が落ち着かんちゃ…」

 龍馬はソワソワと立ち上がっては、部屋から外の様子を眺める。そんな様子を見かね、新之助が立ち上がり、

 「龍馬殿、ちょっと私が探して来ます」

 「ほいたらワシも行くぜよ」

 「いえ、龍馬さんはここで以蔵の帰りを待っていて下さい。すれ違うといけませんので」

 新之助はそう言いながら階段を降りて行った。

 「以蔵殿…」

 龍馬は嫌な予感を押し殺すように、新之助の背中を見送りながら呟いていた。


 新之助は寺田屋からそのまま北に向かう。途中鴨川に当たり、その土手を以蔵の姿を求めてさまよった。新太郎自身、信長に仕えた小兵ではあるが、剣の腕が確かな訳では無い。刻を遡った経験があるものの、知恵だけで乗り切って来た結果、三度も刻の穴を潜っている。以蔵とは違い、生き抜くための腕力は持ち合わせてはいなかった。

 それでも、新之助に取って初めての同士である以蔵を、このまま捨て置く訳にもいかず、ひたすらその姿を探していた。


 「以蔵…どこに行った…」

 かなりの時間を費やし、以蔵を探した新之助は疲れが出始め、鴨川の土手から西へと向かった。

 「しまった、こんな所まで来てしまったか…」

 現在地に気が付いた新之助は、慌てて引き返そうと踵を返した。

 「おい、お前…」

 随分と酔った男達が声を掛けて来た。

 「申し訳ございません、人を探しており、急いでおりますので…」

 その場を逃げようと、その男達の間を通り抜けようとした瞬間、その男達は新之助の腕を掴んだ。

 「お前、鴨川を『以蔵・以蔵』と叫んでおっただろう。探し人は岡田以蔵か」

 「ご存知でしたか、助かりました…岡田は何処に?」

 新之助が男達に聞いた瞬間、水月に膝が入った。その場に倒れ込む新之助。そのまま何度も踏みつける酔っぱらい。

 「お前達…何者だ…」

 踏まれながら、その男達に言葉を投げかける。

 「知らんのか、我らは新撰組! 岡田以蔵と言えば、倒幕の中でも伝説と言われる悪党じゃねぇか」

 何度も踏みつけられ、蹴られた後、新之助は一人の男に掴みあげられる。

 「貴様が岡田以蔵と仲間と言う事は、貴様も倒幕派だろう、斬られてもおかしくは無いぞ」

 そう言いながら、顔に唾をかける。

 「取り敢えず、屯所に連れて行くか。局長達の株も上がるぞ」

 「そうだな、そこで打ち首だろうな」


 新之助は覚悟した。せっかくできた仲間と再会する事無く、この酔っぱらいに斬られるのか…そう心で思い、引かれるままに新撰組屯所に連れて行かれた。


 一方寺田屋では、龍馬とお龍が酒を呑みながら二人の帰りを待っていた。

 「遅いの、二人とも…。色街にでも出かけたがやろか…」

 「龍馬様、ウチが酌の相手では不満やろか?」

 「いやいや、そげな事ないちゃ…。ま、以蔵殿が見つかりさえすれば、新撰組でも怖い事無いじゃろうな」

 「あの以蔵様は、そんなにお強いんやろか?」

 「強いってもんじゃなか。あれは修羅じゃ」

 そう言いながらも嬉しそうに酒を呑む龍馬を、お龍は微笑みながら酌していた。


 「局長はお戻りか」

 新之助を引きつれた浪士は、門番に声を掛けた。

 「局長なら副長が連れて来た客人と一緒だ。沖田隊長と安藤副長助も一緒に戻られておる」

 「そいつは良い。手土産を持って帰った」

 そう言いながら、新之助を見せ、屯所の奥へと入って行った。

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