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いじめから助けてあげた僕を、なぜ君は愛してくれなかったんだ(小説版)  作者: フーラー
第2章 フィクションでは大抵、親切に「見返り」が支払われるけど
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2-1 「美少女をいじめから助けたい」なんて、親切心じゃなくて、ただの欲望だよ

影李えいりさん……」


日南田は思わずつぶやいた。

彼女は「歌い手」になったときに見せていた雰囲気とは異なり、暗い表情でうつむいていた。


机の上に置かれているのは、枯れ草が入っている花瓶。

彼女はそれから目を背けるように、一心不乱にノートに何かを書き込んでいた。


(やっぱりだ……。前世同様、影李さんはいじめられている……)


そう思っていると、どうやら先ほどの女子生徒たちが影李によってきた。

見た感じでは二人とも『ギャル』とはかけ離れた地味な外見の、どちらかというと『清楚で大人しめ』な感じの外見をしている。



……正直なところ『清楚な感じの子は、優しい』と考えるのはあまりにも早計だ。

寧ろ彼女らが『その外見故、普段周りから舐められているような子』である場合『自分より弱そうな奴』を見つけると極端に攻撃的になるということも考えられる。



(僕は、前世では彼女たちのいじめを見て見ぬふりをしていた……)



その光景を見ながら、日南田は前世での自分の立場を思い出した。

前世で自分は、クラス内ではカーストはあまり高くなく、どちらかというと浮いた存在だった。


友達も殆どいなかった自分が彼女を助けたら、今度は自分がいじめられると思い、前世では何もしなかった。


「何書いてんだよ?」

「え? あ、ちょっと……」


その女子生徒達は、影李が書いていたノートを強引にひったくると、その中をパラパラと流し読みしながら笑い出した。


「うわ、くっせーポエム!」

「ほんとほんと! えっと……『一人ぼっちの部屋の中でうずくまりながら、日の出を見る瞬間が、一番嫌だった……?』なにこれ、バカみたい!」


(あ……)


そのフレーズは、前世で影李が歌っていた人気曲『ぼっちの吸血鬼』の一節だった。

彼女が書いていたノートがやはり『歌詞』だと理解した日南田は思った。


(この『いじめられた経験』が彼女を歌い手としての才能開花に繋がったのか……)



だが、そんな素晴らしい歌詞であることは『いじめられっ子』という色眼鏡で影李を見ている女子生徒には理解できていないようだった。


「か、返してよ!」

「ほら、みんな見てよ!」


そういいながら、ノートを周りに見せて笑う彼女。

影李もムッとしたのか、強引に取り返そうとする。


「だから、やめてって言ってるでしょ!」


……だが。


「触んなよ、キモい!」

「キャア!」


そういいながらドン! と影李を突き飛ばす。



(酷い……)



だが、それを見ていた日南田は思った。


(けど……。もし彼女をここで無視すれば……。彼女が作ったあの曲が世間に知れ渡って……陽花里は立ち直れる……。なら、ここは……)




「や、やめなよ二人とも!」



だが、日南田はそんな自身の考えとは裏腹に、その女子生徒と影李の間に割り込んだ。



「な、なんだよ、日南田じゃん……?」

「え、影李さんが、い、嫌がってるだろ! 返しなよ!」

「あ、ちょっと!」


帰宅部の日南田といえど、流石に文化部の女子生徒よりは腕力は上だ。

強引に彼女のノートをひったくり、日南田は影李にノートを渡す。



「はい、影李さん」

「あ、ありがと……」


だが、彼女はいかにも『作り笑い』といった表情で、そのノートをつまむように受け取った。

日南田はそれに対しては深く意識しないで、机の上の花瓶を手に取る。



「それじゃ、花瓶も片づけておくよ」

「う、うん! ありがと!」


そういって教室を出ていった日南田を見た後、影李は自分のポーチから消毒用のスプレーを取り出し、



「汚い……」


そうつぶやきながら、日南田が触ったところを消毒していた。



「…………」


そして、その様子をニヤニヤと笑いながら見ていた男子生徒がいた。

彼の名前は『聖正せいじ』。


「ねえ、影李ちゃん。よかったらこれで机拭きなよ?」

「え? うん、ありがと」


そういいながらハンカチを受け取る影李を見ながら彼は、


「よく見たら、影李ちゃんって、胸おっきいよな……。それに、可愛いし……いいじゃん……」


そう独り言をつぶやいていた。




一方、日南田は流しに向かい、そこで花瓶に入っていた水を捨てた。


「ふう……後はこれを生けなおして、と」


そういいながら、日南田は枯れ草を戻す。

元々花瓶には枯れ草(一応ドライフラワーのつもりだと教師は言っていたが)が生けてあり、水を入れる必要はない。


水を満タンに入れていたのは単に、影李への嫌がらせであることは分かっていた。



(つい……声を上げちゃったな……)


日南田はそう思いながらも、多目的室に戻って花瓶を戻した(もともと、この花瓶はこの部屋に置いてあったものである)。


(別に……僕が彼女を助けたのは……単なる正義感だけじゃない……)


そして、日南田は自戒するようにつぶやく。



「彼女に優しくしたら、僕に惚れてくれる……。そんな、薄汚い下心があったからだ……」

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