プロローグ 自分が恋愛するため「女の子が不幸になること」を望んではならない
「バカ」「クソ」「モラハラ野郎」という落書きが書かれ、そして花瓶が置かれている自分の机を見て、日南田は思った。
「かわいい子をいじめから助けて『あげて』、その見返りに『恋愛感情』を求める……これは、そんな浅ましいことを考えた、僕への罰だ」
と。
……フィクションの物語では「いじめ」が題材になるものも数多く存在する。
その中には『加害者に復讐すること』を第一の目標とするような『復讐スカッとざまぁ系』の物語も多いことだろう。
確かに、いじめ加害者を報復感情のもと、凄惨な断罪を行うような展開はスカッとする人は多いだろうし、何より大衆にとっては『最高の娯楽』にもなりうる。
(正直、犯人たちを許したくない……。けど、それでも僕は……彼らを憎みたくない……)
だが日南田の胸の内には、そのような報復感情は湧いてこなかった。
……それは、いじめを『しなかったもの』『止めたもの』に対して、周囲が行う仕打ちについてよく理解していたからだ。
(そうだ、この間アップした漫画……どうなってるかな……)
そして日南田は机を綺麗にした後、自身が趣味で描いている漫画を掲載しているアカウントを確かめるべく、ブレザーのズボンからスマホを取り出した。
……だが、そのコメント欄は自身の想像通りの言葉が続いていた。
「本当にこの作品、酷い」
「これ読む読者たち、たぶんモラハラとか将来すると思う」
「作者は絶対に、昔いじめとか楽しんでいただろうな」
このような誹謗中傷を行うコメントが、不自然なほど同時刻に、かなりの件数投稿されていた。
その中から彼は『読者を貶めるコメント(この場合は、2つ目)』だけは削除して、っぽつりとつぶやく。
「これだって、僕への罰なんだ……。だから……僕は彼女には……『復讐』なんて望まない……」
そして日南田は、悲しそうにスマホをしまった。
このように考えるのは、彼が単にお人好しだからではない。
……彼が『ある少女のいじめを止めたこと』によって発生した『歪み』によるものであるということを自覚していたからでもある。
これは、そんな彼が『幸せ』と呼ばれるような立場になるまでの物語である。




