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十月は黄昏の銀河帝国  作者: 沙月Q
第一章
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7.アベンジャー

「第二分隊が全滅したようです」

 

 射撃手(ガンナー)の報告に、ゲイレン将軍はスコープを引き下ろすと先行して車両を追って行った第二分隊の行く手を探った。爆発に伴う砂塵が低重力下で湧き上がっているのが、かろうじて確認出来る。

「シールドを抜かれたというのか?」

「不明ですが、空襲があったとのことです。攻撃で擱座した一機が残り二機の大破を確認しています」

 機動可搬型とはいえ駆獣機(クーガー)の感力場シールドを抜くには、最低でも宇宙艦クラスの赤色熱弾砲が必要だ。熱核弾地雷も有効ではあるが、上空通過時のスキャンではその存在は確認していない。

 つまりは、相当なゲリラ戦の手練れがいるということだ。それは間違いなく……

 ゲイレンはスコープを跳ね除け、命令を下した。

「第一分隊は第二分隊の後を追う。第三、第四分隊は引き続きシールド発生装置(ジェネレータ)を排除。第五、第六分隊はゴンドロウワどもの塹壕を殲滅せよ」

 ゲイレンの乗機を先頭に、第一分隊の駆獣機(クーガー)三機は〈虹の入り江〉を疾走し始めた。

 ほどなく……

「前方より飛行物体!」

 通常視界のビュースクリーンでもすぐ確認出来た。

 ゲイレン機の眼前に着地した飛行物体は、再び跳躍し反発(リパルシング)フィールドに乗って弧を描きながら接近して来る。

 人間と大して変わらない大きさに見えるそれは、ショック・スピアーを構え背後から伸びる強靭な金属の触手を威嚇するように広げた。

「メタトルーパー!」

 頭上を通過する機械の騎士を睨み、ゲイレンはドライバーに反転を命じた。

「ネープだ!」


 完全人間の少年は、バンシャザムの出方をほぼ読み切っていた。

 まず、駆獣機(クーガー)のシールドがレベル3の感力場シールドであることを確認した。

 通常のレベル1感力場シールドは、外部からの高エネルギーのみ遮断し内側からの火器による攻撃は通す、言わば片面のシールドだ。だが、レベル3は格段に強力なエネルギー遮蔽能力を持つ一方、内側からのエネルギーにも強く減衰効果が働くシールドなのだ。火器よりも金属顎や強力な四肢を使う近接戦闘を旨とする駆獣機(クーガー)ならではの防御策と言える。

 であれば、相手がネープだと知った彼らは三機で包囲するように陣形を組み直すはずだ。

 そして無敵の盾である一方、己の火力も封じている感力場シールドを切って砲火を浴びせてくるに違いない。いかに敏捷な駆獣機(クーガー)とはいえ、羽虫のように飛び回るメタトルーパーに打撃を加えたり噛み付いたりは、そうそう出来はしないからだ。

 案の定、三機の戦闘機械は距離を取って円形に回り始めた。

 ネープが着地したところを狙って、集中砲火を浴びせるつもりだ。駆獣機(クーガー)の頭部ユニットが円の中央を向き、その両脇に据えられたパルスビームキャノンが光る。

 タイミングを見計らって、ネープはキャリベックのスラスターを全開にすると、一機の駆獣機(クーガー)に狙いを定めて突撃を敢行した。

 その意図を察した駆獣機(クーガー)のコマンダーは、砲撃を中断してシールドを再起動しようとした……が、遅かった。

 ネープはショック・スピアーの最大出力で、駆獣機(クーガー)の腹を掻っ捌き、駆動系に致命的な損傷を与えた。

「うかつな奴め!」

 ゲイレン将軍は足を折って停止した僚機を飛び越え、メタトルーパーが真っ直ぐこちらへ突っ込んで来るのを見た。

「来るぞ! 射撃手(ガンナー)!」

 駆獣機(クーガー)のパルスビームキャノンなら十射も直撃を加えればキャリベックごときのシールドは破ることが出来る。

 だが、ネープはそのギリギリまで直撃に耐えた状態で眼前まで敵に接近した。

「シールド!」

 今度は間に合った。駆獣機(クーガー)の頭部後ろに位置する指揮区画(コマンドユニット)へ飛びかかってきたメタトルーパーは、速度を落とせず感力場シールドに弾き返されるはず……だった。

 が、なぜかネープは宙空に静止した状態で機体上に占位し、しかもじわりじわりとにじり寄って来る。

 シールドを反転中和している! ゲイレンは悟った。

 ネープは接触直前に感力場シールドの反発エネルギーを逆転させ、裏表をひっくり返したのだ。強力なレベル3のシールドも、同じシールドの内面に流れるエネルギーには抵抗出来ない。言わば侵食効果を生むのだ。

 ついにキャリベックの触手が機体をとらえてゼロ距離となった。

「!」

 ショック・スピアーが振り下ろされ、ゲイレンの眼前、ビュースクリーン越しではない正に目の前の装甲キャノピーが火花を上げて破られた。

 ゲイレンはホルスターからブラスターを抜きかけて、プラズマ・ソードに持ち替えた。感力場シールドが錯綜した状態で発砲などしたら、どういう結果になるか分からない。

 装甲の破れ目から、火花を散らすシールドの(とばり)を背負ったネープがスピアーを振り上げるのが見えた。

 ゲイレンは先んじて非常コマンドを起動し、装甲キャノピーを爆破分離、もろともネープを弾き飛ばそうとした。

 だが、シートから立ち上がったゲイレンの前にはまだメタトルーパーが立ちはだかっていた。その程度の策では完全人間を排除など出来るはずがなかった。

「来い!」

 プラズマ・ソードを正眼に構えたバンシャザムの戦士にネープがスピアーで突きかかる。

 指揮官機の機上で突然始まった肉弾戦に、もう一機の駆獣機(クーガー)は手の出しようがなかった。メタトルーパーを狙撃しようにも、二人はまだシールドに包まれている。

 ゲイレンは足場の確かな後部に後退し、ネープを誘い込もうとした。

 前進したメタトルーパーの足元から、指揮区画に潜んでいたドライバーとガンナーが襲いかかったが、キャリベックの強靭な触手がたちまち二人とも地表へ叩き落とした。

「おのれ!」

 大上段から切り掛かるプラズマ・ソードをショック・スピアーがまともに受けた。凄まじいエネルギーの余波が奔流となり、それが周囲のシールドにも干渉して、地獄の雷が月の真空を切り裂くような光景になった。

 二度、三度と刃を交わし、バンシャザムは切り結んだまま一気に間合いを詰めた。

 バイザー越しにまごう方なきネープの顔を見たゲイレンは、相手がまだ年端もいかぬ少年であることを認め、余裕の笑みを浮かべた。

 どうやらネープはキャリベックの触手で攻撃してくる気はないらしい。一対一ならネープは相手以上の攻め手を使わない。使えないのだ。

「戦士としての矜持か? ならば我が復讐の刃でそれに応えてくれようか!」

 ゲイレンは膝蹴りをネープの腹に決めた。

 軽装甲宇宙服の膝当てに付いた格闘戦用のトゲが深く食い込む。

 大きく後退したネープに、ゲイレンは低重力を利用した跳躍とともに必殺の突きを放った。

 だがゲイレンの刃は空を切った。

 メタトルーパーはあっさりと対決を放棄し、エネルギーの火花を引いて上空高く舞い上がったのだ。

 その真意はすぐに分かった。

 時間稼ぎ……はじめから地上部隊の侵攻を遅らせて、銀河皇帝の脱出を援護するための攻撃だったに違いない。

 ゲイレンは作戦の進行に予定外の遅延が生じたことに気づいた。

 復讐の念にこだわった結果であることは認めざるを得ないが、まだ取り戻すことは出来る。

 通信回線が生きていることを確認し、バンシャザムの将は生き残ったもう一機の駆獣機(クーガー)に命じた。

「二号機、追撃を続行する。その前に、指揮官(コマンダー)席を空けろ」

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