エピローグ
惑星〈無天函〉。
帝国大審判院の最高判事ゾラン・リゲは、急報を受けて超深度地下に位置する原典管理庫へ向かった。
「原典が、動き出した?」
あり得ないことだった。
少なくとも、過去千年間においてはなかったことだ。
しかし、管理庫に足を踏み入れたリゲの目には報告通りの光景が映った。
絶対静止フィールドの中に浮かぶ巨大な〈法典〉原典は確かに動いていた。
まわりでは、原典が発信する過剰な情報の負荷に耐えきれず、多くの原典管理師たちが接続を切ってうずくまっていた。
一体、何がどう変わるのか──
リゲは原典が放つ光に手をかざしながら、脈動するその姿を見上げた。
やがて光と脈動が収まり、原典が再びはっきりと姿を現した。
リゲの頭脳に接続されたインターフェースから、止まっていた情報の流入が再開する。
「更新内容を確認せよ。急げ」
リゲは部下たちに命じて、再度原典を見上げた。
確かに、変わっている。
原典──黒い星百合。その花芯にあたる部分には人の形をした巨大な石が生えている。
その人の形が、種族不明の老人から若いヒト型人類の女性のものになっていた。
* * *
銀河帝国軍第二〇四七星域治安艦隊の報告より抜粋。
惑星〈天翔樹〉におけるパイロバグ暴走事故の生存者救出に関して。
銀河皇帝アサト一世の命を受けたゴンドロウワ艦隊によって救出された生存者を下記の通り受領。
人口約百二十万人と思われるオロディア市周辺の地域から救出された生存者は、総勢八百二名。
すべて、市の中心から遠く離れた地帯で開拓や研究活動、また非合法活動に従事していた者たちである。
市を形成するすべての葉階において、生存者はゼロ。
例外的に十数名が巨大樹ギアラムの水脈中にて発見された。
戦闘によって破れた葉脈水路に入り、空気だまりに身を潜めていた模様。パイロバグの侵入は水に阻まれたと思われる。
生存者は全員自由民につき、身元の引受先は未定。
基本的に出身惑星への送還が優先されるが、それ以外の希望については順次対応の予定。
若干名は銀河皇帝の在所惑星への渡航を希望。
特に拒否の理由はなく、許可された。
以上。
十月は黄昏の銀河帝国
完




