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十月は黄昏の銀河帝国  作者: 沙月Q
第四章

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11.永久皇帝令

 銀河皇帝、惑星〈千のナイフ〉に降臨──


 この事実は瞬く間に帝国全土へ広がった。

 銀河系全域のありとあらゆる階層で、〈千のナイフ〉からドロメックが送ってくる映像に高次空間波デバイスのチャンネルが合わせられた。


 帝国元老院議員は全員が見ていた。

 〈千のナイフ〉から遠い星域の住民たちは、空里の即位以来の見せ物という興味本位で見ていた。

 一方、ユーナス・ザニ紛争に深く関わる上級公家の面々は、予想もしなかった事態に不安を感じながら見ていた。

 中には、さっそくドウ=ナ・ヴィンヌジャール卿に連絡を取り、何が起ころうとしているのか確かめようとした者たちもいた。が、当のヴィンヌジャール自身はそれらのコンタクトを一笑に伏して、何も心配は要らぬ旨を秘書官に伝えさせた。

 確かに予想外であるが、この期に及んでアサト一世がどう動こうと、大勢に変化はあり得ないのだ。

 ヴィンヌジャールは、むしろ遠い星域の人々に近い意識で、この見せ物を楽しむつもりでいた。


 映像の中のアサト一世が言った。

「私は、あなた方に与える〈永久皇帝令〉を持って来ました。今からその内容を開示します」


 永久皇帝令!

 銀河皇帝の前に跪く両軍の司令官は、事態が想像以上に重いことを実感した。永久皇帝令とは、かなりの覚悟をもって受け容れねばならぬものだ。その効力は文字通り、永久に続く。もしその内容が和平に関するものであったら、どちらの勢力も受け容れることはできないだろう。

 となれば、その後はネープの軍団との戦争だ。

 アサト一世は双方を滅ぼそうというのか?

 しかし、その前に開示とは?

 直ちに発布しない理由は何だろうか?


 心中で疑念が渦巻く二人の前に、ネープの一人が進み出た。

 皇帝夫君の三〇三ではない、彼と瓜二つの少女ネープだ。彼女は、腕に仕込んだ立体プロジェクターを起動し、司令官たちの前に皇帝令の内容を情報図形(インフォシェイプ)として映し出した。

 アサト一世は言った。

「この永久皇帝令で、惑星〈千のナイフ〉の領有権を定めます。〈千のナイフ〉はユーナシアン、ザニ・ガン双方のものです。そして……」

 銀河皇帝の言葉に沿って情報図形(インフォシェイプ)の一部が光って強調され──

 両軍の最高司令官は驚愕した。

「……その領有権は百年ごとに完全交換されるものとします」


 驚愕したのはその場にいた者たちだけではなかった。

 銀河帝国全域で、ドロメックの中継を注視していたすべての人民が息を呑んだ。

 一瞬後、ある者たちは大笑いし、ある者たちは腕を組んで唸った。だが、ほとんどの者たちは黙って君主の続く言葉を待った。

 そして、言葉は続いた。


「交換の前後十年間、合計二十年間は移行期間とします。この期間内に住民とその財産、ならびに国家運営にまつわる機関、施設、もろもろ全ての移管を完了させるものとします」

 銀河皇帝の声に従って、空中に浮かんだ情報図形(インフォシェイプ)は展開していく。

「移行期間中、監視機構を設置します。ネープの主導による帝国中立監察団がその全権を有し、違反行為は即時武力制圧の対象とします」

 その後に映し出された情報は、とても細かくその場で把握できるものではなかった。

「以上が概要です。後の細かい事項は、ここに全てまとめてありますから、後で確認してください」

 アサト一世は懐から二枚の円盤を取り出した。皇帝の生体情報入り生体認証紙(ヴィヨリーフ)だ。

 それらが二人のネープに渡され、二人の司令官の元へ運ばれた。

「お二人は、これを直ちに政府首脳部に持参して、皇帝令を受け容れるか否かを決めてもらってください。期限は二十二時間後(惑星〈千のナイフ〉の一日相当)。明日の同じ時間に、私はここで返事をうかがいます。この皇帝令は双方の承認の元で初めて発布されます。どちらか一方が拒否した場合は双方が拒否したものとみなし、全てを撤回します」

 ユーナシアン、ザニ・ガン両軍の最高司令官たちは、手渡された小さな円盤を見つめたまましばし沈黙した。永久皇帝令を受け容れるか否か。それは自分たちに選ぶ権利がある?

 そんな勅令があるだろうか?

 銀河皇帝がその権威をもって強制するのが勅令だ。それを受ける側の承認によって発布される勅令など、誰も聞いたことがなかった。

 

 やがて、デ・キュラ提督が目の前に立つ完全人間の少年に声をかけた。

「陛下への質問をお許しいただけますか?」

「どうぞ」

 答えたのは、アサト一世本人だった。

 デ・キュラは君主に向き直って言った。

「この、永久皇帝令がどちらかの政府に拒否された場合、直ちにネープによる侵攻が始まる、ということでしょうか?」

 開示を経ての承認というプロセスの理由が今ひとつつかめないデ・キュラにとって、最も懸案となるポイントがここだった。

 銀河皇帝は答えた。

「皆さんの検討の結果、拒否されても私は何もしません。そのまま紛争をお続けになって結構です」

 意外な言葉に、デ・キュラは思わず副官と顔を見合わせた。

「ただし!」

 強い声と同時にアサト一世は人差し指を立てて見せた。

「一旦、この永久皇帝令が受け容れられたら、その後で違反がなされた場合、それがどちらの責任であっても、直ちにネープの撃滅艦隊が派遣され〈千のナイフ〉は制圧されます。ユーナシアンもザニ・ガンも、故郷を失うことになるでしょう」


 そういうことか!

 二人の最高司令官と、銀河中でこのやりとりを見守っていた者たちはようやく合点がいった。これは、完全に公平な責任の分担なのだ。命じた銀河皇帝と、それを受け容れた双方の首脳部、ひいては彼らを支える双方の人民にもかかってくる責任。

 ある意味、一方的な強制による和平よりもずっと厳しい縛りとなる契約だ。そして、それが破られた場合の罰則(ペナルティ)も苛烈極まりない。


 だが、百年ごとの領有権の交換とは──

 このあまりにも突飛な和平案についての印象は、デ・キュラもサリグ・ルーもあまり変わらなかった。これを受け容れるには、両種族の因縁はあまりにも深く永い。外の宇宙からやってきた一人の少女に突然提案されて、なるほどと納得できるものとは到底思えなかった。

 

 サリグ・ルーが顔を上げて言った。

「発言をお許しください。失礼ながら、皇帝陛下はこの戦いの実相をどれほどご存じでしょうか。両民族、とりわけザニ・ガンの民が祖先から受け継いだこの星の領有権を護るために、どれほどの血を流してきたか、を」

 銀河皇帝はこともなげに答えた。

「ほとんど、知りません」

 その軽々しさにサリグ・ルーは一瞬怒気を覚えたが、少女はさらに続けた。

「皆さんの子供たちと同じように、知りません。私が知っているのは、その子供たちが紛争でどのような目に遭っているか。そして、ザニ・ガンもユーナシアンも協力し合えるという現実のささやかな実例です」

 それも、自分で見聞きしたことではあるまい。そう思い、サリグ・ルーは重ねて問うた。

「どこで、それをお識りになったのですか?」

「私はここに来る前、惑星〈天翔樹(アマギ)〉にいました」

 この言葉にはデ・キュラも目を剥いた。

「そこで、ザニ・ガンとユーナシアンの交流を見ました。紛争の現実も見ました。その全てをパイロバグの炎が燃やし尽くす直前に、私は〈天翔樹(アマギ)〉を脱出して来たのです」

 二人の司令官は、意外さに返す言葉を忘れた。


 帝国の様々な情報関連機関は、即座に銀河皇帝の発言の裏を取り始めた。

 周知だったパイロバグ暴走事故の直前、レディ・ユリイラの座乗するラ家の軍艦が〈天翔樹(アマギ)〉に現れていた事実が明かされ、これが皇帝がいたという事実の裏付けとなった。

 人々はようやく悟りつつあった。

 銀河皇帝は本気だ。本気でこの紛争を止めようとしているのだ。


 デ・キュラ提督も勅令を現実的に受け止め始めていた。

「再度、質問のお許しを。百年間、一方に領有権がある間、もう一方の国家としての体裁はどうなりましょうか。流浪の民となる我々はどこへ行けば?」

「詳細はその書類に記してありますが、両民族の人々がどこにあろうと、国としての存在は帝国が保証します。移住先の確保には全ての惑星国家を協力させます。外の宇宙でも戦い続けてきた皆さんには、そこで平和に生きることもできるはずです。その間、〈千のナイフ〉の領土はもう一方の民に貸し与えているものと考えてください」

 デ・キュラは思わず拳を握り、皇帝ににじり寄った。

「しかし! それでは国家としての権威が! 国としての意味が無い!」

「意味が無い紛争だから、意味が無い提案をしているのです!」

 

 銀河皇帝は激昂した。

 それは、空里を知るすべての者が初めて聞く声であり、初めて見る姿だった。

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