表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
十月は黄昏の銀河帝国  作者: 沙月Q
第四章

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

57/62

10.銀河皇帝降臨

「来た! 目標捕捉しました!」


 部下の報告に、ザニ・ガン機甲海兵軍砲兵隊のリュノ・ガー士長は多種波双眼鏡(メタスコープ)を覗き、その通りであることを確認した。

 〈千のナイフ〉赤道直下のポーロン高地と呼ばれるこの陣地で、ユーナシアン側航空戦力の撃退を命じられたリュノ・ガーの部隊は、通過するほとんどの敵機を、新兵器である二〇七口径白色光弾砲で撃墜し、この高地越えを許していなかった。

「よし、全砲門開け。追尾システム作動。集束白色光弾エネルギー充填」

 この弾種の正確な集中連射をもってすれば、あのクラスの艦のシールドは抜けるはずだ。

 傍らの部下が小声で聞いてきた。

「本当にいいんでしょうか。停戦せよという銀河皇帝の勅令が出たんですよね」

 リュノ・ガーは落ち着いた声で応えた。

「お前はそれを直接聞いたのか? これは偽情報だ。俺は前にも似た手口を見たことがある。あのユーナシアン(痩せっぽち)どもはそういう嘘の達人だ」

 見たことがあるとは言ったが、実際には見事にそれに引っかかったのだ。沿岸防衛の任務で民間船の偽信号を装った敵艦を見逃し、そのミスによって多くの仲間を失った。リュノ・ガーは同じ轍を二度と踏みたくはなかった。

「敵艦、射程に入ります!」

 照準スコープとの同期画面に切り替え、リュノ・ガーは突進してくるスター・コルベットの姿を睨んだ。

 と──

「なんだ? あれは?」

 薄紫色のシールドに包まれたスター・コルベットの船首甲板上に、人の姿がある。

 スコープの倍率を上げると、それは白いローブを着たヒト型人類の少女であることがわかった。長い黒髪をなびかせ、強風に負けじと踏ん張っている。

「あれは銀河皇帝では?!」

 部下が叫んだ。

 ザニ・ガン兵たちもドロメックの映像でアサト一世の顔は知っていた。

 次の瞬間、照準装置のクロスゲージが紫色に光り出した。発射不可の文字の明滅に、リュノ・ガーは思わずスコープを外し、肉眼で迫ってくるスター・コルベットを見た。

 皇識プログラムのことは彼も知っていた。だが、航空機相手の対空砲のセンサーでは宇宙艦の識別信号を認識できない。

 だから、生身をさらした? 皇帝自身の体を盾にして?

 あっけに取られたリュノ・ガーの頭上を、スター・コルベットは猛スピードで飛び去っていった。


「陛下、大丈夫ですか? ご気分は悪くなっておりませんか?」

 ゴンドロウワの戦士が、銀河皇帝の背後から声をかけてきた。

「ん! 大丈夫。ネープの後ろに乗って飛んだ時より、楽よ」

 ミツナリの気遣いに空里は笑顔で応えた。

 

 スター・コルベットは完断絶シールドで護られてはいた。

 しかし、皇識プログラムのセンサー波を遮らぬよう、そのレベルを若干落として稼働していた。本来なら中和できるはずの加速重力も、前方からの強風も、万分の一以下ではあったが、空里の体に感じられていた。

 惑星〈千のナイフ〉の昼側に進入したスター・コルベットは、目を見張るスピードでその昼を追い越し、朝を背に夜の側へと突入してゆく。

 

 眼下の海では、闇の中で交戦状態に入っていた両軍の洋上艦が戦闘を中止し、通過するスター・コルベットをサーチライトで照らし見上げていた。

 

「きゃっ!」

 空里の眼前をどちらかの軍に属する高速戦闘機が掠め飛んでいった。ニアミスだ。

「馬鹿野郎め!」

 シェンガが罵った。

 対流圏内では航空戦力による戦闘も行われていた。その只中に飛び込んだら、戦闘機や爆撃機との衝突もあり得る。攻撃を受けなくても、一瞬ですべてが終わるかもしれない。

「クソ! 撃ち落とし……ちゃ、ダメだよな。やれやれ」

 ミン・ガンの戦士は銀河皇帝の意を十分に汲んでいた。

 代わりにネープが再度命令を発する。

「両軍航空隊! 本艦の進路を阻むな! 皇帝座乗艦である! 繰り返す! スター・コルベットの針路上から退去せよ!」

 同様の指令は両軍の司令部からも、やかましいほど発信されていた。

 だが、スター・コルベットの速度があまりにも速く、命令が行き渡る前に銀河皇帝の座乗艦は激戦地の上空に差し掛かっていった。


 やがて、空里の眼前に一条の光が差した。

 置いてけぼりにしてきた〈千のナイフ〉の朝が、再び現れたのだ。

「きれい……」

 最後に夜明けの光景を見たのは、いつのことだったろう。地球でも他の惑星でも、この美しさは同じなのだろうか。どこまでも美しい世界で、人間の行いはあまりにも小さくみすぼらしくすら思える。

 それでも、やらなければならないことはある。

「陛下、目標地点まであと四半周です」

 背後からゴンドロウワの戦士が声をかけてきた。

 空里は「はい」と返事するかわりに、今この時にふさわしい気がする言葉を返した。

「おはよう、ミツナリ」


 スター・コルベットはオートラス大陸を突っ切って、カルナク・ヒルへ一直線に向かった。

 地上では、ようやく戦いを鎮めた両軍の将兵たちが、通過する空里の船を見上げていた。中には膝を突き、恭順の姿勢を示す戦士もいる。

 やがて艦は速度を緩め、柱状岩塩の立ち並ぶ台地地帯へと辿り着いた。


 銀河皇帝の召喚を受けた両軍の最高司令官は、君主に先んじて指定のポイントに待機していた。

 そこはカルナク・ヒルの頂上にあたる高台だった。

 ネープの命令によって、両軍の軍勢は半径三キロ以内への接近を禁じられ、数万を数える兵員と戦闘車輌が丘を囲む形になっている。

 

 サリグ・ルー元帥は、副官から一個分隊を護衛につけると進言されたが断った。

 随伴者は、副官自身と若い兵士一名。武器もシールドジェネレーターも持参していない。御前への参上にあたって礼を失することにのないよう、彼女なりに考えてのことだった。恐らく時間をかけて調べても、戦闘の最中に召喚を受けた司令官の儀礼規範など、見当たらないことだろう。

 不思議なことに、やや遅れて到着したユーナス軍のシャトルから現れたデ・キュラ提督も、同様の体裁を取っていた。

 二人の最高司令官は視線を合わせると、ほぼ同時に両の拳を胸の前で合わせる戦士の挨拶を交わした。

 憎き息子の仇を目の前にして、何もできないこの状況。

 だがサリグ・ルーの心中には、その悔しさよりも自分たちが呼ばれた理由に対する疑念の方が大きく膨らんでいた。

 銀河皇帝は一体なぜ、このような場を設けたのか──


 一方のデ・キュラも、この奇妙な状況に対するべき態度を決めかねていた。

 自分もサリグ・ルーも、何を命じられようが断れる立場ではない。もし、この場で最高指揮官同士の決闘でも要求されれば、無駄な血を流す戦いも避けられようが。

 しかし、銀河皇帝の意図はもっと予想外のものである気がする。惑星〈天翔樹(アマギ)〉での失態を責められ、自軍の法廷に立たされていた方がまだマシだったということもあり得る。

 こんな立場に立たされることになるとは、最高司令官という栄誉ある汚れ役を与えた軍首脳部も考えていなかったはずだ。

 心中で皮肉な笑みを浮かべたデ・キュラは、彼方から接近するスター・コルベットの姿に気づいた。


 真昼の陽光に船体をきらめかせながら、皇帝座乗艦は二人の最高司令官の前に着陸した。

「なんと……」

 デ・キュラの副官が思わず驚きの声を漏らした。

 船内で厳重に警護されていると思われた銀河皇帝アサト一世は、スター・コルベットの船首甲板に生身で立ち、一同を見下ろしていたのだ。

 その背後に伏せていた巨大な人造人間兵士(ゴンドロウワ)が立ち上がり、地上に飛び降りると君主に向かって手を差し出した。アサト一世はその手に乗り、そのままゆっくりと白い岩塩の大地に舞い降りるように下された。

 銀河皇帝の降臨である。

 両軍の司令官と随行者たちは、片膝をつき恭順の姿勢をとった。

 目を伏せ、足音だけに君主の近づいてくる様子をうかがう。

「顔を上げてください」

 穏やかに命じる声に従うと、銀河皇帝の側に付き従う者たちが増えていた。

 一歩後ろの両側にショック・スピアーを構えた二人のネープ。その後ろに一人のミン・ガン戦士とゴンドロウワ。

 とても奇妙だが、そこにいるのは銀河帝国で最高の権威を持つ者とその守護者たちだ。

 さらに視界の上の隅では、小さなドロメックが漂っている。今、この場で起こっていることは、銀河帝国全域に配信されているのだ。

 その場の者たちは、改めて目の前の現実を強く意識しようと努力した。


 銀河皇帝アサト=ネイペリア・エンドー一世は言った。


「私は、あなた方に与える〈永久皇帝令〉を持って来ました。今からその内容を開示します」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ