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十月は黄昏の銀河帝国  作者: 沙月Q
第四章

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9.火矢

 月と惑星(ほし)の間を無数のビームが交錯する。


 第五五七ユーナス飛宙隊隊長レズ・ネックは、ダキ六一型単座宇宙戦闘艇(スター・ファイター)の機体をひねりながら、突撃してくる敵機群の猛攻をかい潜った。

 最後に頼りになるのは、やはり目だ。

 センサーと戦闘流体脳(フリュコム)の助けがあるとはいえ、宇宙での格闘戦(ドッグファイト)で生死を分ける一瞬の判断は、パイロットの勘にかかっている。その勘は結局のところ目を鍛えることで磨くしかない。

 レズ・ネックの目はセンサーよりも素早く視界の状況を把握し、反射神経に正確な反応をさせていた。

 

 自軍の戦闘艇(ファイター)と敵機のフォルムが明確に異なっているのも、その判断の一助になっている。球体型のコクピットを細長く鋭い刃で挟んだようなダキ型戦闘艇(ファイター)に対し、カブトガニと呼ばれるザニ・ガン宇宙軍の戦闘艇(ファイター)は長い尾を持つ甲殻類のような姿で、その違いは一瞬で見分けられた。

 宇宙艇に限らず、自分達の姿に似せた形にするのが、ザニ・ガンの兵器開発哲学らしい。だが、その性能は見た目では判断できないポテンシャルを持っているのだ。

 

 そもそも、パイロットにそんな距離で有視界宇宙戦を強いているのは、〈法典(ガラクオド)〉による兵器開発の制限だった。

 本来、帝国の科学で実現できるビーム兵器は、敵を視認などできない距離からの攻撃でも可能なはずなのだ。だが、〈法典(ガラクオド)〉は厳密な定めによって、属国の軍が保有する兵器の威力、射程、保有数など全てを規定していた。

 なぜ?

 紛争時、当事者間で極端な戦力差を生じさせないためだと言われているが、実際のところは謎だ。皮肉好きな者たちは、星百合(スターリリィ)が人間同士の戦いを楽しむためにこうしているのだと言ったりした。

 

 敵駆逐艦からの赤色熱弾を避けながら、レズ・ネックは追尾していた敵機をサイトに収め、トリガーを引いた。

 カブトガニは、一〇七口径パルスビーム一連射で粉微塵となる。

撃墜(クランチ)!」

 この戦いに勝ったら、カニ料理を噛み砕き(クランチし)ながら乾杯だ。

 そんな一瞬の夢想も許さず、センサーが新手の襲来を告げる。

 レズ・ネックは部下たちに警告した。

「〇ポイント一方向! 第二衛星(オミン)から来るぞ! 小型艦……一隻!」

 妙だ。

 このクラスがただ一隻で? この方面からということは、今しがたスター・ゲートを潜ってきた?

 とにかく、味方識別信号を発していなければ敵だ。

 レズ・ネックの隊長機は二機の援護を得ながら、新参の艦を迎え撃つべく旋回した。

 敵影はすぐ、視界に入ってきた。巨大な月の姿を背景に真っ直ぐこちらに突っ込んでくる小型艦。ディスプレイは、部下の二機も同時にロックオンしたことを示していた。三機同時の攻撃で、一瞬のうちに星屑だ。

攻撃(アタック)!」

 トリガーを引いた瞬間、コクピットが紫色の光に包まれた。

 星屑となるはずだった敵艦は流星となり、レズ・ネックの三機編隊に肉薄して緊急回避を余儀なくした。

「何?!」

 猛スピードで頭上を通過する小型艦を見送ったレズ・ネックは、自機の全てのディズプレイやインジケータが紫色に輝いているのに気づいた。照準装置のサイト上には「発射不可」の文字が嘲笑うように点滅している。

「隊長! 艇のシステムが!」

「不調! システム不調(マルファンクション)であります!」


 同じことが、ザニ・ガン艦隊の高速駆逐艦でも起こっていた。

 艦長のジェ・ゴバは艦首方向を通過する小型艦を自らスコープで捕捉し、砲手に撃沈を命じた。だが、直後ブリッジ内のあらゆるディスプレイが紫色に輝き、全ての武装をロックしてしまったのだ。

「何が起こったのだ! 砲手! システムをチェックし報告しろ!」

 艦長席のすぐ脇にプロジェクターが映像を結び、一つの顔を浮かび上がらせた。部下からの報告、と思ったがそれはザニ・ガンではなく見知らぬヒト型人類のものだった。

 ユーナシアンではない。

 銀髪をたたえた……少年?


 ジェ・ゴバの艦だけでなく、その宙域にいた全ての艦艇に少年の映像は現れていた。

 全通信チャンネルへの強力な割り込み権限を持つその通信は、ある人物の生体情報に紐づいたものだったが、誰もその主の存在に思い至らなかった。

 だが映像の少年が口を開き、全ては明らかになった。


「こちらは皇帝座乗艦インペリアル・スター・コルベット三二六三八二七。銀河皇帝の名において、全軍に命じる。直ちに戦闘を中止せよ。繰り返す。戦闘を中止せよ」


「ネープだ……」

 誰かが呟き、両軍の全将兵はようやく事態を理解し始めた。

 皇帝座乗艦。銀河皇帝の降臨。なぜ、今……?

 少年はその疑問に答えることなく続けた。


「本艦はこれより〈千のナイフ〉への降下軌道に進入。赤道空域を周回の後、ポイント五〇九・三二四に着陸する。両軍の最高司令官は直ちに同地点へ出頭せよ」


 各々の乗艦で指揮をとっていたデ・キュラ提督もサリグ・ルー元帥も、雷に打たれたような衝撃に慄いた。

 銀河皇帝の……召喚!


 帝国軍監視艦にも通信は届き、事態の異常さにクルー全員が言葉を失っていた。

 戦況を映し出すディスプレイには、混乱し右往左往する艦艇の光点(ブリップ)が蠢き、その真ん中を皇帝座乗艦を示す赤い光だけが真っ直ぐ〈千のナイフ〉へ向かっていく。

 さながら、一本の火矢のように。


「全艦艇はスター・コルベットの進路から退去せよ! 本艦の行手を阻むな!」

 ネープの声が宇宙に轟く。

「御前である! 退がれ!」


 両軍の艦隊は大混乱に陥った。

 会敵直後、交戦に入ったタイミングで、絶対傷つけてはいけない船が戦闘宙域に飛び込んできたのだ。

 突進するスター・コルベットの眼前で、万を数える宇宙艦が割れる潮のように退いて行く。その急激な進路の変更を妨げるものが敵艦であれば、攻撃によって排除しようとする者も現れた。

 状況を把握した上官たちは命令を飛ばした。

「撃つな! 戦闘中止の勅令が出ているんだぞ!」

 銀河皇帝の勅令に反した者がどういう目に遭うか──歴史に明るい上級指揮官ほど、必死に事態への対応に努めた。

 それでも混乱の中で砲火は収まらず、狙いとは関係のない流れ弾の火線がスター・コルベットをかすめ、一部は命中して完断絶シールドに弾かれた。

 こればかりは皇識プログラムをもってしても、防ぐことができなかった。


 衝撃に揺れるブリッジで、シェンガは唸った。

「やっぱりこうなるよな。急にやめろと言われてやめられるケンカもそうないからな」

 ネープは先を見据えることで、空里を不安から遠ざけようとした。

「アサト、すぐ大気圏に突入します。いつでもリフトで出られるように待機してください」

「はい!」

 言われた通り船外活動用のリフトに乗った空里は、そこが先代銀河皇帝の命が尽きた場所であることに気付いた。

 絶対的な立場で自分とシェンガを見下ろし、睥睨していたあの男。自分が初めて命を奪うことになったあの男。まさか同じ場所に立って、次代の銀河皇帝として正念場を迎えることになるとは。

 だが、もう覚悟は決めてある。

 空里はリフトの手すりを握りしめて、その時を待った。


 惑星〈千のナイフ〉がビュースクリーンいっぱいに迫ってきた。

 その姿は、丸みが無ければ星空の下で光る青い海だ。

 ユーナシアン側の大気圏進入軌道守備隊の艦艇とすれ違いながら、スター・コルベットはその水平線を目指して外気圏に飛び込んでいった。

 シールドに包まれた船首が圧縮空気の炎を切り裂く。中和しきれない震動がブリッジにいる全員の体を揺らす。

 

 やがて広大な白い大地が眼下にひらけた。

 ついに辿り着いた〈千のナイフ〉。ルパ・リュリとキリク、サリナの故郷。

 必ず止める。この戦いを。

 改めて決意する空里に、ネープが声をかけた。

「アサト、リフトを出します。しっかり踏ん張ってください」

「はい!」

 頭上のハッチが開き、紺碧の空があらわれた。

 アームがフロアを持ち上げ、空里の体を外気にさらす。


 銀河皇帝を甲板に乗せたスター・コルベットは、戦乱の地表へと舞い降りていった。

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