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十月は黄昏の銀河帝国  作者: 沙月Q
第三章

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8.オロディアの戦禍

 ユーナス征星軍(クルセイド)は惑星〈天翔樹(アマギ)〉に電撃作戦を展開した。


 狙いは全ての市街地の制圧。

 そして、そこに潜むザニ・ガン救星戦線(フロント)ゲリラ部隊の殲滅である。

 第一段階として宇宙港ならびに惑星離脱軌道を完全に封鎖したユーナス軍は、満を持して地上戦力を投入した。

 機動兵器を搭載したおびただしい数の揚陸戦闘艇が〈天翔樹(アマギ)〉の大気圏に侵入し、その多くがオロディア市の空を埋め尽くした。


 オロディアの街中には船の着陸できる開けた場所があまり無い。

 降下してきた揚陸戦闘艇は密集した建物の真上へ傍若無人に着底し、格納庫のハッチを解放した。

 その中から分厚い円盤状のマシンが現れた。

 浮砲盤(ガン・タートル)

 亀の甲らに似た機体に強力な九九ミリ赤色熱弾砲を主砲として搭載したユーナス軍の主力陸戦兵器だ。

 反発場(リパルシング)フィンで浮遊するが、移動用のスラスターは持っていない。その代わりに機体底部から伸びた三本の長い歩行腕(エイプアーム)が地面や建物を殴るように蹴るように叩き、機体に推進力を与えることで戦場を疾駆する。この方式だとイオンスラスターなどの推進装置よりもエネルギー効率が高く、長時間の作戦行動が可能だった。

 歩行腕(エイプアーム)は先端のクロウで火器発射時に機体を固定したり、クレーンのようにモノを掴み運んだりすることもできた。


 ルパ・リュリの店の最上階、ドーム部屋を押し潰して着底した揚陸戦闘艇からは三機の浮砲盤(ガン・タートル)が出撃した。

 揚陸戦闘艇によって抵抗が排除された地上に陣地を確保すべく、浮砲盤(ガン・タートル)は通りの交差する辻に舞い降りて三方向に睨みをきかせる。

「バル十七分隊、展開完了。一号機は迎撃体勢。二、三号機は援護に入る」

 分隊長である一号機長(コマンダー)が報告した。

 情報では目の前の通りの奥に、ザニ・ガンの拠点があるはずだった。一号機の任務はそこから現れるであろう敵戦力を待ち伏せての撃破だ。

 射撃手(ガンナー)歩行腕(エイプアーム)のクロウを地面に打ち込み、機体を地面に近い位置まで下ろして固定すると、主砲を通りの奥へ向けて照準を定めた。

 

 ルパ・リュリの店の方向へ──


 同じ通りのさらに奥では逃げ惑う人々にもまれながら、空里がキリクとともに帰路を急いでいた。

 頭上を飛び交う宇宙船群の姿が何を意味するかは、すぐにわかった。

 侵攻だ。

 空里は遠い故郷に銀河帝国軍が現れた時のことを思い出していた。あの時の自分と同じように、人々が戦禍に巻き込まれて運命を変えられようとしているのだ。

 

 危険を察知したオロディアの人々は、ある者は着の身着のまま。ある者は持てるだけの財産を持って通りでひしめき合っていた。

 空里の傍には鳥のような嘴を持つ種族、ピク・ガンの一団がいた。

「あたしゃもう、ここでいいよ……」

 ピク・ガンの一人がその場にへたり込んだ。

「ばあちゃん、ダメだよ! こんなところにいたらあっという間に死んじまう!」

 家族なのだろう、周りの者たちがピク・ガンの老女を助け起こしながらなんとかその場を離れようとした。


 その光景に空里は思わず足を止めてあることに気づき、愕然とした。

 今まで、幾度も戦いを潜り抜けてきたが、それは自分と仲間たちが生き残るための戦いだった。だが、今目の前で起ころうとしている戦いは、自分が治める国でその国の人々が巻き込まれている戦争なのだ。


 私の国の戦争。

 そこで人々の暮らしが破壊されていくとしたら、それは私の責任……。


「アンジュ、どうしたの?」

 キリクの声に、空里はようやく足を動かした。

 今、考えてもどうしようもない。陰謀によって流浪の身とはいえ、何と無力な銀河皇帝であることか。

 それでもできる事があれば……。

 

「アサト!」

 どこからか自分の本当の名を呼ぶ声が聞こえた。

「アサト! こっちです!」

 声のする前方に目を凝らすと、人混みの向こうでこちらを指差している少年と人猫の姿が見えた。

「ネープ! シェンガ!」

 迎えに来てくれたのだ。

 空里がキリクの手を引き、二人の方へ走り出したその時──

 轟音と共に通りの両側に並ぶ建物が崩れ出した。

 何か巨大な影が砂塵をついて建物の中から現れ、主従の間に割って入る。

 ザニ・ガンの機動甲殻(モビルシェル)部隊だった。

 

 ザニ・ガン人がそのまま大きくなったような形状の機動甲殻(モビルシェル)は、一種の強化装甲服(パワードスーツ)であり、かつ重武装戦車だった。操縦士(パイロット)の運動機能をそのまま拡張するトレースコントロールで動く一方、複数の銃火器をコントロールする射撃手(ガンナー)席も備えている。機動性能の点では浮砲盤(ガン・タートル)を上回る陸戦兵器だった。


 現れた機動甲殻(モビルシェル)の何機かはバーニアを噴射して高々とジャンプすると、建物の向こうへ消えていった。

 残った機体は二手に分かれて通りを進み出した。

 容赦無く群衆を蹴散らして進む機動甲殻(モビルシェル)に追われ、空里とキリク、ネープとシェンガはお互い逆の方向へと逃げざるを得なくなった。

「アンジュ! こっち!」

 キリクに手を引かれ、空里は路地に飛び込んだ。


 一方のネープたちも脇道に逃げ込み、なんとか安全を確保する。

 だが、通りは闊歩する機動兵器に崩れる瓦礫と土煙、それに右往左往する人々でとても出ていける状況ではなくなっていた。

「どうするよ!」

 シェンガの問いかけにネープは即断した。

「アサトも路地に逃げ込んだらしい。ここで合流できないとなったら、落ち合えるところへ向かうだろう。それなら行き先は一箇所だ」

「あの店に舞い戻るか!」


 空里はネープが思った通りの判断をしていたが、裏通りは複雑に入り組みどうやって店に帰ればいいか分からなかった。

「キリク、道順わかる?」

 通じていないはずの言葉に、ザニ・ガンの少年は間違いのない返答をした。

「裏道わかるよ。こっちだ!」


 ルパ・リュリの店では、地下の酒蔵で泊り客や使用人たちが身を寄せ合っていた。

 ジャナクとチニチナ、ルパ・リュリとキリクの妹サリナも一緒だった。

「アンジュたち、大丈夫かしら」

 チニチナが不安げに囁いた。

「しばらくして戻らなかったら、俺が探しに行ってくる」

 ジャナクが言った。危険は承知だが、チニチナを自分の元へ返してくれたのはアンジュと言っていい。テム・ガンの女戦士は、その恩義を無碍にする気はさらさらなかった。

 いつもならルパ・リュリに制止されそうなところだったが、彼女は「アンジュ……」と一言呟いただけで考え込むようにうつむいた。

 何を考えているのだろう?

「おい! ここは危ないぞ。外へ逃げろ!」

 酒蔵にゼ・リュリが顔を出した。囮の任務から戻ってきたのだ。

「叔父さん、大丈夫? 攻撃にあわなかった?」

「ああ。それより、宇宙船がこの上にのっかってて建物が崩れかけてる。生き埋めにならないうちに、どこかへ逃げた方がいい」

 その時、ズズンという衝撃と共に酒蔵の天井から漆喰が剥がれ落ちてきた。

 否応もなく、一同は酒蔵から這い出した。


 外へ出てみると、群衆が通りを奥の方へ上っていくところだった。

 見ると反対側の辻に機動兵器が鎮座し、大砲をこちらに向けている。屋外に逃げ出した人々が、そちらから逃げているのだ。

 ルパ・リュリたちも群衆と同じ方向へ逃げ出したが、程なく逆に走ってくる人々に押し返される形で進めなくなった。

「大変!」

 チニチナが通りの先を指差して叫んだ。

 そちらからも別の機動兵器が進撃して来ていた。

 通りの両側から追い立てられ、群衆は大混乱に陥った。まずいことにその周辺は建物が密集しており、逃げ込める横道もわずかだった。

 その限られた逃げ道に殺到する人々が、パニックをさらに助長する。

 ルパ・リュリはサリナを抱きかかえると、裏道に入る路地を探した。

 やがて、彼女の場所から迫る機動兵器とそれを待ち伏せる砲口の両方が見えるようになった。今は両者が緩やかなカーブに遮られているが、もしその間で撃ち合いが始まったら通りにいる人々は全滅だ。

 人々は恐怖の思いで、近づいて来る機動甲殻(モビルシェル)と待ち伏せる浮砲盤(ガン・タートル)を見つめた。

 ジャナクの腕の中でチニチナが震える声を出す。

「神様……」

 

 先頭に立って通りを下る機動甲殻(モビルシェル)()()ザニ・ガンの操縦士(ドライバー)は、自らの足と共に機体の歩みを止め水平ペリスコープを展開した。

 カーブの陰になっている辻に、敵の待ち伏せが確認できる。

 操縦士(ドライバー)両手(マニピュレータ)に持ったソリッド・ヘビーライフルを構え直すと口周りの触覚を震わせて、後席の射撃手(ガンナー)に声をかけた。

「パルスガン全門用意。ライフルと同時に先制攻撃をかけるぞ。感力場シールド、レベル1展開準備」

「了解。……市民が邪魔だな」

「グズグズしていられん。少しでも戦力を確保してここから脱出せよという命令だ。合図したらカーブの陰から出るぞ。待機しろ」


 一方のユーナス軍側浮砲盤(ガン・タートル)も迎撃準備が整っていた。

 群衆の動きから、すぐにも敵がカーブの向こうに顔を出すだろうことが推測される。機長(コマンダー)が命じた。

「主砲装填。感力場シールド、レベル1。発射と同時にパルスガン掃射。然る後、主砲連射に備えよ」

「了解」

 射撃手(ガンナー)は応答しながら、火器管制システムの状態を再度確認した。

 敵もこちら同様、感力場シールドを張っているはずだ。強力な赤色熱弾砲を持つこちらの方が火力では勝るとはいえ、撃ち合いはシールドを抜くまで熾烈なものになるだろう。

 通りを逃げまどう群衆にはかなりの犠牲が出るはずだ。一抹の憐憫を感じこそすれ、ユーナス軍人のメンタル・コントロールは命令遂行を私情で妨げることを許さない。

 それに〈天翔樹(アマギ)〉に住む彼らは国家による身元の保証がない自由民や難民だ。多少の犠牲は帝国のどこにも責がない事象として扱われるだろう。

 

「来るぞ!」

 機長(コマンダー)が叫び、カーブの陰から敵の機動甲殻(モビルシェル)が姿を現した。

 射撃手(ガンナー)が照準を定めトリガーを引こうとしたその時──


 スコープの映像にそれが飛び込んできた。

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