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十月は黄昏の銀河帝国  作者: 沙月Q
第二章

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9.賞金首

「だから一人で行動するなって注意しただろ」


 シェンガが言った。

 昼間、無法者たちにからまれた空里への小言だった。

 だが、その姿はおよそ叱る立場のそれには見えなかった。彼は寝台(ベッド)の上に足を投げ出して座った空里に、後ろから抱きかかえられていたのだ。ほどよく果実酒が入ったミン・ガンの体には、ほっこりとした温かさがあった。

 銀河皇帝はボディガード役のミン・ガンをギュッと抱きしめ、その頭に頬ずりしながら言った。

「だって……自分の国の街の様子をよく見たかったんだもの。シェンガはすぐスタスタ先に行っちゃうしさ」

「これで分かっただろ。帝国でも辺境や都市化されてない星は、生き馬の目を抜く世界なんだ。油断してたら命がいくつあっても足りないぜ」


 惑星〈天翔樹(アマギ)〉での最初の夜は、静かに更けようとしていた。

 ゼ・リュリが用意した部屋はこぢんまりとしていたが、清潔で居心地が良かった。まるで鳥籠か鐘の内側のような円形で、天井が高い。ベッドも地球のものより脚が長く、一段だが梯子で昇る高さがあった。その上に、マット、シーツ、枕などが一つになり、使う者に合わせて形の変わる不思議なクッションが置いてある。

 おそらく、どんな星の客も楽に泊まれるようになっているのだろう。ベッドに高さがあるのは、立ったまま眠るような種族が寄りかかるためらしい。

 

 夕食と湯浴みを済ませた空里は、慌ただしい一日の終わりに疲れと寂しさを感じ、いつかのようにシェンガの毛皮になぐさめを求めたまま話をしていた。

 シェンガはいい加減に空里の腕から解放されたかったが、彼の主君にその気配はなかった。

 ドロメックがいなくてよかったぜ……ミン・ガンの戦士が銀河皇帝の慰みものにされてるところなんて見られたらそれこそ自害ものだ。


「あたし……変えられるかなあ?」

 空里がつぶやいた。

「変える? 何をだよ」

「銀河帝国の……世の中」

「どういう風に?」

 空里はシェンガを放すと、そのままどっとベッドに体を投げ出した。

「奴隷とか、人が売り買いされるようなことのない世の中に。故郷を追われる人がたくさん出るような戦いのない世界に、さ」

 ようやく解放されたシェンガは、自分のベッドによじ登ると空里に向き直った。

「空里の星はそういう世界じゃなかったのかよ。地球はさ」

「ううん、同じだった。私のまわりは平和だったけど他の国では戦争もあったし、ちょっと昔まで口減しとかで子供が売られることもあったって」

「それを誰も変えようとしなかったのかい?」

「変えようとする人たちはいた、と思う。どうだったのかな」

 空里は勢いよくうつ伏せになると、クッションに顔をうずめて嘆いた。

「ああ、そういうこともっと勉強しとけばよかったなあ! こんな銀河皇帝じゃ何にもできないじゃん……」

 シェンガが細い肩をすくめた。

「あいにく、俺じゃ力になれそうもねえなあ。こういう世界が当たり前だと思ってたし、多分宇宙のどこに行ってもそういうもんじゃねえのかな。皇冠(輪っか)に相談してみろよ」

「冷たいなあ……毛皮はあったかいのに」

 顔を上げて自分を見る銀河皇帝にミン・ガンの戦士は怖気だった。

 また、抱きつかれたらたまらない……

「そ、それよりもだな。目の前の問題をなんとかする方が先決だろ。ゲート封鎖の情報はどうだった? いつ解除されそうか、さっきの女たちに聞いてみたのか?」

「うん。ルパ・リュリもジャナクも何も知らなかった。昼間のカルリオーレさんの情報が一番有力ね」

「あまり、のんびりはしてられねえからな。明日は俺が街に出て調べてみる。アサトはここに居な。俺が店の手伝いを許したって話にしようぜ」

「私はアンジュよ、リョンガ様」


 シェンガはスクランブル回線で現状を手短にスター・サブへ報告した。

 この惑星にいられる時間は、せいぜいあと四、五日。

 それ以上、封鎖が続くようなら強行突破も辞さないとネープは言っていた。

 しかし、封鎖の理由がゾナ・カルリオーレの言った通り紛争絡みだとしたら、それも危険が伴う。封鎖解除のタイミングに合わせて無難に通過するのが理想的なのだ。


 翌朝。

 シェンガは封鎖解除についての情報を得るため、街へ出て行った。

 アンジュこと空里はシェンガの進言通り、主人が用足しに出ている間、店の手伝いをしたいとルパ・リュリに申し出た。

 ルパ・リュリは喜んだ。

「じゃあ、ドーム部屋の整理を手伝ってもらおうかしらね」

 店の最上階にあるドーム部屋はペントハウスのような造りになっており、普段は物置として使われていた。そこを間も無く訪れる繁忙期に備え、上級の客間として整理することになっていたのだ。

 

 空里は他の使用人らと共に部屋の荷物を片付けて、最上級の可変クッション寝台(ベッド)を運び入れた。

 

「いい景色……」

 三十畳ほどの広さがあるドーム部屋には楕円形の大きな開口部があり、外がよく見えた。そこからテラスに出れば、街並みや巨樹ギアラムの葉階(レベル)が重なり広がっている様子が一望の元に眺められる。さすがに上客のための客室だ。

 ベッド以外の家具はまだ届いていないということで、その日の作業は昼前に終わり、空里たちは食事のため食堂へ下りた。

 

 食堂の奥では、すでに帰っていたシェンガが食事中だった。

 空里を手招きして自分の前に座らせると、シェンガは眉間にシワを寄せ、声をひそめて話しかけた。

「まずいぞ……早いところ船に戻った方が良さそうだ」

「何? 封鎖解除が決まったの?」

「そっちはまだ分からないんだが……星間商人の溜まり場で聞いた話だと、どうもアサトの首に賞金がかかったらしい」

「賞金?!」

「もちろん、居場所がバレたわけじゃない。銀河中の公家やら領家やらが子飼いの傭兵や賞金稼ぎどもに声をかけてるんだ。アサトを手土産にラ家に取り入るつもりなんだろ。ここのカルリオーレ家にも油断はできないぞ」

 昨日出会ったゾナ・カルリオーレの組織は、帝国のお墨付きを得ている公家(ハウス)より規模の小さい領家(ハット)だったが、実態はギャングに近く、より危険だという。

「銀河皇帝に賞金なんて……そんなこと許されるの?」

「まあ、前代未聞だと思うけどな。事情が事情だからあってもおかしくない話だろうぜ」

「ああ……」

 空里はテーブルに突っ伏した。

「宇宙で一番偉いお尋ね者になっちゃった……」


「おい! ルパ・リュリ! 来たぞ!」

 突然の大声が食堂に響き渡った。

 見ると、昨日ルパ・リュリと言い争っていた一団が店の入り口に立っていた。

「ゲーナン、大声出さないで。相手してあげるから子分は外で待たせなさいな。他のお客の邪魔だから」

 出て来たルパ・リュリの言葉を意に介さず、ゲーナンと呼ばれた小男は子分共々勝手にテーブルに着いた。

「俺たちも客だ。ドンガ酒を出せよ」

「話が済んでからね。権利証書は持って来たの?」

「おう。この通り、登記局の役人も一緒だ。ケリをつけてやるぜ」

 小男の隣には、大きなメガネをかけた痩身の男が腰掛けた。法衣のような服を着ているところを見ると彼が役人らしい。


 役人の仕切りで、辻に面した出店(でみせ)用の土地を巡る交渉が始まった。

 ルパ・リュリは叔父のゼ・リュリがその父から譲り受けたと主張し、小男……造り酒屋の店主ゲーナンは、領家(ハット)テッテロアを通じてそれを買い取ったと反論した。

 役人が言った。

「では双方、土地の権利証書を出してください」

 ルパ・リュリとゲーナンは、お互い持っていた青い小さな石をテーブルに置いた。

「ご存知の通り、この石はギアラムの葉の一部です。採取場所が地所として登記局のデータに紐づけられ、その情報が埋め込まれています。したがって偽造はできません。二つと同じものもありません。それをこれから検証します」

 役人がレンズのような道具をそれらにかざすと、テーブル上の空中に流れる文字が浮かび上がる。

 あれが権利証書なんだ……

 空里は思っていたのとまったく違う書類の形に驚いた。


「これは……」

 流れる文字を見比べていた役人が、メガネをかけ直しながら首をひねった。

「不思議ですな。この二つの権利証書、どちらも有効なようです」

「何?!」

「どういうこと?! 二つと同じものはないんでしょ!」

 役人は苦笑を浮かべながら言い訳した。

「いや、たまーにこういうことはありましてね。登記局のシステムが古いせいで、無効な手続きやあり得ないデータをそのまま通しちまうケースがあるんです。うちも帝国の新しいシステムを導入したいんですが、予算的にそれもなかなか……」


 交渉は紛糾した。

 役人は、データを整理して事態を調整するには何十日も時間がかかるという。

 だが、ルパ・リュリもゲーナンも、繁忙期を前に悠長なことは言っていられないと主張した。

 迅速な解決には地域を取り仕切る領家(ハット)の調停が頼りだが、双方懇意の組織が違っており、相談を持ちかけるのは領家同士のトラブルにつながりかねなかった。それは避けたいというのも、お互い同様だった。


「やれやれ。お役所仕事はどこでもトラブルの元だな」

 食事を続けながら聞き耳を立てていたシェンガが言った。

 空里は何かをじっと考えていたが、やがてシェンガの耳元に口を寄せ、内緒話を始めた。

「何?……ふんふん……それで?……そりゃそうだが……はあ?!……それを俺が?!」

 思わず口の中のものを吹き出しかけたシェンガは、うんうんと頷く空里を呆れたように見た。

「子供の発想だぜ……それ、ほんとに俺が言うの?」

 彼の主君はさらに頷くと、ルパ・リュリたちのテーブルを指差した。

「やれやれ……」


 ミン・ガンの戦士は銀河皇帝の命令を実行するためにテーブルを離れた。

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