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十月は黄昏の銀河帝国  作者: 沙月Q
第一章

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10.ブラック・バード

 レイゲン将軍の駆獣機(クーガー)が座礁艦に到着した時には、すでに地上での戦闘はあらかた終わっていた。


 生き残ったゴンドロウワたちは艦内へと撤退し、兵たちは各所からの侵入を試みている。一番大きな突破口であるメインドッキングベイのハッチも、連続射光線砲(サスティンビーマー)によって灼き切られようとしていた。

 制圧まではあと少しだが、万一銀河皇帝が小型艇などで脱出を図っても、上空に展開した量子機雷群をかい潜ることは不可能だ。


 レイゲンが駆獣機(クーガー)を降りると、ナ・バータ準司令が近づいてきた。

「一分後に三分隊がドッキングベイから正面突破の攻撃を開始します。残りの三分隊は各個に突破口を開いて侵入させます。参謀姉妹は皇帝が艦尾ドッキングベイから脱出するだろうと予測されたので、そちらにも兵を回しております」

「よし、もうすぐ二号機シャトルも到着する。合流して艦尾側を完全に包囲するのだ。艦内への突入も急がせろ。出来れば脱出前に皇帝の身柄を確保したい」

 ナ・バータは命令を復唱しながら、心中で「間に合えば……」と付け加えた。

 本来の進行であれば、すでに全軍によって座礁艦は完全に制圧されているはずだったのだ。遅れを取り戻すつもりなのだろう、レイゲンも武器を取り正面からの突撃隊に合流した。

 メインドッキングベイのハッチが火花を散らして崩壊するのと、その眼前に二機のシャトルが到着したのはほぼ同時だった。

 二号機の揚陸ハッチが開放され、バンシャザム兵たちが命令通りに展開する。

 その内の三分の一は、正面からの突撃隊に合流し、レイゲンの指揮下に入った。

「続け!」

 だが、その時……

 二号機シャトルの真上を通過して、黒い翼が舞い降りてきた。

 貴賓客用(リムジン)シャトル、ブラック・バードは突撃隊のさらに前まで突出し、(くちばし)のような前部昇降ハッチを開いた。

 そこから、さらに黒い鳥のような影が舞い降り、その左右に二つの白い小さな影が続いた。

 ドッキングベイの奥から、影たちを狙って守備隊のビーム砲火が襲いかかってくる。だが、その火線はことごとく強力なシールドによって防がれた。左右の小さな影が手にした長い杖のような高性能シールド発生装置(ジェネレータ)が、完全に攻撃をブロックしているのだ。

 さながら、白い天使に守られた黒い妖精が戦場に降臨したかのようだった。

「どういうつもりだ!」

 レイゲンの狼狽をよそに、通信機(コムリンク)から涼やかな女性の声が響いた。

「失礼、将軍。先を急ぎますので」

 作戦の最高指揮官、全軍の主、レディ・ユリイラ=リイ・ラの姿はビームの交錯するドッキングベイ奥の闇へと消えていった。


「私がこれに入って……埋められるの?」

 空里は頭上の白い球体を指差して言った。

 直径約一・五メートル。表面はのっぺりしていて、金属製なのか違うのかも判断がつかない。

 座礁艦の艦尾最下層に位置するエアロック区画である。与圧されているので、空里たちはヘルメットのバイザーを上げていた。

 エアロック内側ハッチの真上には白い球体が吊り下げられ、開放されている外側ハッチは月面に密着している。そこにはちょうど球体と同じ大きさの竪穴が黒々と口を開けていた。

 底は見えない。

 球体を支えるアームを操作して、内側ハッチの上まで下げながら ネープが答えた。

「はい。この仮死ボールに入ると、安定した仮死状態に陥ります。代謝だけでなく細胞の時間軸そのものを緩やかにするので、半永久的に眠ったままでいることも出来ます」

「要するにネープ式冷凍睡眠(コールドスリープ)だ。これなら奴らもアサトがどこに隠れたか、想像もつかないはずだ」

 シェンガの言葉にも空里の不安は消えなかった。むしろいや増したと言っていい。

「これに入って埋められて……誰が掘り起こしてくれるの?」

「仲間のネープです。カグヤ宮に異常があれば、助けがやって来ます。敵が撤退していなければ、彼らが排除します。皇帝救出のためなら、ネープは領外でも戦えます」

「アサトの位置は分かるのか? ビーコンなんか残したらすぐバレるぞ」

 シェンガが指摘すると、ネープはドロメックを手招きして呼び寄せ、説明を続けた。

「このドロメックも仮死ボールと一緒に埋めます。高次元波通信網ハイパーウェーブネットが封鎖されていても、生まれ(シリアル)が近いドロメック同士には単体同士の通信機能があります。複雑な情報は無理ですが、ネープが保有している個体なら位置情報をつかめます」

 空里はドロメックの頭部カメラをなでてため息をついた。

「ドロポン、あんたも一緒だって。分かってる? 生き埋めになるのよ?」

 シェンガが小さな拳で手のひらの肉球をパンと打った。

「じゃあ、あとは自爆装置のセットだけだな」

「それ!」

 空里が声を上げた。

「自爆するって、あなたたちはどうするの? まさかこのまま……」

  空里の夫は妻の両肩に手を置き、真っ直ぐ彼女の目を見て言った。

「もちろん、我々は個別に脱出します。死にはしません。また少しの間、離ればなれですが……大丈夫。この計画はうまくいきます」

  ネープが足元から小さなバックパックを取り上げて空里に渡した。

「あなたの大切な荷物です。皇冠(クラウン)も入っています」

 それも大事だが、空里には他にも大切なものがあった。

「聖衣は? あのマントも入ってる?」

「入っています」

 安心した。

  ネープがくれた皇位継承者としての聖衣は、〈鏡夢(カガム)〉での戦いなどですでにかなりの傷みがあった。ネープは皇帝としての聖衣を改めて用意すると言ったのだが、空里はもっぱらこれを愛用していたのだ。

 

 通信機(コムリンク)からミツナリの声がした。

「シェンガ隊長、メインドッキングベイを突破されました。突撃隊が侵入して来ます」

「了解! なんとか抑えろ! 時間を稼ぐんだ!」

「申し訳ありません。ほとんどの敵は抑えているのですが、強力なシールドを張った前衛が三人ほど防衛線を突破していきました」

「三人? なんだそりゃ!」

「急ぎましょう。空里、ボールに入ってください」

  ネープが焦りを見せた。たった三人の侵入者が気になるらしい。

 その時……

「……ゲロ……ニゲロ……ウエ……ニゲロ」

 その場の誰でもない者の声が、かすかに空里の耳に入った。

「誰の声?」

「ニゲロ、ニゲロ、ウエ、エ、ニゲロ」

 ドロメックが空里の眼前に泳いで来た。声はそこから出ている。

「ドロポン! あなたの声なの?!」

 その言葉に ネープが弾かれたように動いた。

 彼はドロメックの頭部を掴むと、そこから漏れる声を一言一句聞き逃すまいとするように、自分の顔を近づけた。

「ドロメックの個別通信です。誰かが非常用の簡易声帯を解除してメッセージを送っているんです」

「誰かって……誰?」

「ニゲロ、ニゲロ、ウエ、エ、ニゲロ」

 そう繰り返すドロメックの声に、完全人間の少年は頭上を見上げ、天井を見透かすように目を細めた。

「味方……です。恐らく……プランCは放棄して指示通りにした方が良さそうだ……」

「近くに味方が来てるのか?」

 シェンガの問いにネープはヘルメットのバイザーを下ろして答えた。

「わからん。個別通信も高次元波を使うからな。すぐそこからかも知れないし、もしかしたら〈青砂〉からかもしれん」

 空里は前者であって欲しいなあと思った。

「上って、どこまで上に行けばいいの?」

「タワー上のサブブリッジ。空里の部屋までです。行きましょう!」

  ネープが空里の手を取ってエアロック区画を出ようとした時、ドロメックの言葉が変わった。

「ニゲロ、ニゲロ、イソゲ、バカ」

「バカ? 誰のことよ!」

  驚く空里にネープが答えた。声にかすかな怒気が感じられる。

「私のことです」

 彼には誰からの通信かも分かった。これで間違いない。

 

 すぐそこまで助けが来ているのだ。

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