フレームの中の瞬間
半年がたった。あれから俺は毎日一人で絵を描くことが増えていった。
海野は部活に忙しいといって、一緒に話すことが少なくなった。
俺だけの師匠だった海野は、いつの間にか美術部の師匠になってしまったようだった。
それならば、それでいい。俺は俺で絵を描くだけだ。そもそも、絵を描くのに他人なんて必要ない。絵は一人でも描けるのだ。
そう思うと色々なものが煩わしく感じるようになった。学校に行く必要もないし、授業を聞く必要もない。絵の分からない表面上の友達なんて欲しくもない。
だからなのか俺は自然と不登校になっていた。
「こんな絵では海野には勝てない。またやり直しだ」
絵をまた一つ押し入れの中にねじ込む。
薄暗い電灯の灯りに満たされた六畳程度の自室。
もうずっとこの部屋から出てはいない。ここでただひたすら絵を描き続けていた。
トントントンとドアがノックされる。この音の感じは母さんだ。
「なに?」
わざと低い声で尋ねる。それを部屋に入ってもOKの意味だと思ったのか、母さんが勝手に部屋に入ってきた。俺はそれを見て舌打ちで答える。
いつものように学校に行けと説教をしたいのだろうか。正直、うんざりとしていた。なんであんなところに行かなければならないのか。その意味がないと何度説明しても分かってくれない。
だからいつも喧嘩になる。
「今日も学校に行かないの?」
母さんがオドオドにした声で尋ねる。その態度がまた俺をイラつかせる。
「そうだけど。なに?」
イライラを隠さない声色で答える。
「……いえ、別に」
何かを言いたそうに母さんは黙り込んでしまった。一体何がしたいんだ。何もなければ俺の邪魔をしないでほしい。
とても険悪な時間が生まれた。互いに黙っていると母さんが何かを思い切ったのか、一つのチラシを俺に手渡す。『古山信彦の世界』そのチラシには大きな文字でそう描かれていた。
「何これ?」
「美術作品の展覧会みたい。こういうの興味あると思って、お金なら出すからたまには外に行ってみるのはどう?」
「……」
俺は少し考え込む。チラシには『古山信彦、現代に残る絵の巨匠。70年超えのキャリアから生み出される数々の作品は、まさに芸術の一言』そんな煽り文句が描かれていた。
確かに一度、画家の作品をみてみるのもいいだろう。プロの画家というものがどのような絵を描くのか興味はあった。
「無理にだとはいなわないけどね?本当に気が向いたらなんだけど」
「わかった」
「え?」
「この古山って人の個展に行くって言ってんの」
「ああ、そう……よかった……」
母さんが安堵した様子でそう言うと、ゆっくりと部屋から出ていった。
◇
『古山信彦の世界』俺は生涯この衝撃を忘れないだろう。
どこか軽い気持ちでいった展覧会だったが、自分の想像以上のインパクトを残した。
あまりにも壮大な世界観。そして細部にまで拘った緻密さ。
絵のプロというのはここまでレベルが違うのか。古山信彦の絵と比べると、天才の海野の絵がどこか下手に思えてしまう。
それほどの衝撃だった。
この古山信彦の絵について誰かと共有したい。そう思うと海野の顔が浮かんでいた。
いつぶりだろうか、海野の家に電話して近所のハンバーガー屋に誘う電話をした。
海野は二つ返事でその誘いに乗ってくれた。あいつはまだ俺の友達で居てくれたようだ。
久しぶりに会う海野はまるで別人のようだった。小学生の頃の暗い面影は欠けらも無い。髪の毛にはワックスをつけており、服装もどこかイケているものになっている。態度も明るく、何もかも順調だというツラをしていた。
「久しぶりだな」
「そうだね、久しぶりだね」
ハンバーガー屋の適当な席を確保して一番安いハンバーガーを注文する。そうやって長居するのが、お金のない俺たちの駄弁り方だ。
「それにしても海野、なんていうか変わったな」
「岸辺に言われたくないよ」
そうか。そうかもしれない。髪の毛は伸びたい放題、服も小学生の頃から全然変わっていないシワくちゃだらけの服。海野が光なら俺はまるで闇だ。
「岸辺って最近なにしてんの?」
「決まっているだろ、絵を描いているんだよ」
「そっかーまぁ岸辺ならそうするだろうなと思ったよ」
「ハハハ、まぁな」
他愛のないちょっとした雑談をしてから、満を辞して古山信彦の衝撃についてい海野に語った。
多分、早口で支離滅裂だったと思う。ただただ思いつく限りの熱意を一方的にしゃべっていた。それだというのに海野はしっかりと聞いてくれた。
一通り喋り終えると海野はゆっくりと口を開いた。
「岸辺は将来画家になりたいの?」
海野の無邪気な問いに俺は少し悩んだ後「そうかもしれない」と答えた。
海野は「そっか……」と一つ前置きを置いて、「岸辺ならなれると思うよ」と答えた。
俺はその言葉を聞いて、何故だかとても嬉しくなった。なんとなく、舞い上がるような気持ちだった。初めて海野に認められた気がする。「そうかな」俺の返事はとても浮かれているものだった。
「もしよかったらなんだけど」
海野がもったいぶった前置きをする、そして少し考えたのか、一つ間をおいた。
「岸辺君を古山信彦…さんに会わせることできると思うよ」
「……え?」
一瞬何を言っているのか理解できなかった。遅れて、古山信彦本人に会わせてもらえる機会があるということを理解した。
「まじで!?なんでそんなことできるの!?」
「実はその古山信彦さんと知り合いなんだ。あっ、親がね?」
海野は取り繕うように言った。
そうか、海野にはあれだけの才能があるのだ、だから家族にもそういう繋がりがあってもおかしくはない。なんとなく海野の才能の理由が見えてきた。
「会わせて!俺、古山信彦に会いたい!」
「ものすごく嬉しそうだね」
「ったりまえだろー!」
古山信彦に会える。あんなにすごい作品を作る人に会えるのだ。興奮して当然だと思う。
逆に海野がなぜそんなに落ち着いていられるのかの方が不思議だ。
突如、ピロピロという聞きなれない電子音のようなものが流れた。
「あ、ちょっと待ってねー」
海野がポケットから何か四角い物体を取り出した。
「なにそれ?」
「え?知らないの?ポケベルってやつなんだけど」
「ポケベル?」
初めて聞く単語だ。それがなんなのか全くわからない。
「ああ……えっとこれはね、遠く離れていてもメッセージが受け取れる物なんだよ」
そういって、その四角い物体の画面を見せる。そこには『11014』という数字が書かれていた。
「なにこれ数字?どういう意味?」
「あーこれは会いたいって意味なんだよ。こんことにな感じで数字でメッセージを受け取れるのがポケベルってやつなんだよ」
「へーー」
興味なさげに返事をする。そんなことはどうだっていい。
「岸辺はもっといろんな興味を持った方がいいんじゃないかな」
「まぁ、それを知ったところで絵が上手くなれるわけでもないしな」
「……そっか。呼び出されたからさ、僕はもういくよ」
「おい、ちょっと待てよ。古山信彦に会わせてくれるって話はどうなったんだよ」
「ああ、アポが取れたらまた電話するねー僕の彼女は待たせるとうるさいからさー」
「彼女!?」
俺がそう驚いていると慌てて海野が立ち去って行った。海野……お前、彼女が居たのか。
何か嫉妬とも憧れともつかぬ感情が胸によぎる。
「そっかー……そっか……」
海野が居なくなった席で俺はただ一人そう呟いた。
◇
数日後、海野から連絡があった。
どうやら、古山信彦が会ってくれるとのこと。俺は舞い上がって、海野に何度も何度もお礼を伝えた。
その様子を見て母さんが「何事なの?」と聞くので俺は笑顔で古山信彦に会えるんだと伝えた。それを聞いて母さんはにっこりと笑った。
そして古山信彦と会える日がやってきた。場所は隣町の山奥にある古山信彦のアトリエだ。古山信彦がこんなに近くに住んでいるとは驚きだった。
母さんが車を運転して、アトリエまで送ってくれた。
アトリエは意外なことに少し大きな古い民家のようだった。
地面に這いつくばるように立っている木造の家が、コンクリート製の柵で囲い込まれていた。玄関までぬれぬれとした石畳が続いており、入り口は引き戸で小さい。 雑に飾られた『古山信彦』の文字がなければ、本当にここがあの古山信彦のアトリエなのか確証がもてないほどだった。
「失礼が無いようにするのよー」
母さんが車の中から伝える。俺はそれに「うん」と返事をした。
そして落ち着いて深呼吸をすると、俺はゆっくりとインターフォンを鳴らした。
心臓がドキドキする。1秒1秒が遅く感じる。俺はあの古山信彦に会うのだ。何もできずに固まっていると、玄関が開いた。
そこに現れたのは、柔和な笑みをたたえたお婆さんだった。高そうな和服をきており、その所作からどことなく気品を感じさせる。
これが古山信彦?
「え?女性の方だったんですか?」
思わず声に出してしまう。
それを聞いたお婆さんは上品に笑った。
「ホホホ、私は古山さんじゃありませんよ。私は妻の花子と申します」
顔が熱くなるのを感じる。しまった、とんだ無礼を働いてしまった。
「岸辺さんですね?話は伺っております。こちらへどうぞ」
花子さんがそう案内するので、俺は「よろしくお願いします」と挨拶をしてからそれについて行く。
玄関を潜るとそこはまるで異世界だった。数々の絵画が所狭しと飾られていた。一見無造作に置かれているように見えるが、不思議と調和が取れているように思えた。
「すごい……」
「これらは主人がどこからか集めてきた作品なんですよ。気に入った絵があるとすぐに買ってしまって。全く、困ったものです。買うたびに絵の配置が変わって大変なんですよ」
花子さんがそう説明してくれた。なるほどと相槌をして花子さんについて行く。
歩きながらジロジロと絵を眺めていると、一つどこか見覚えのある絵が飾られたいた。俺は思わずその絵の前で立ち止まってしまう。
「海野……?」
その絵の額縁には「海野 健司」と書かれていた。なんでここに海野の絵が?いや、考えるまでもない。きっと古山信彦にその才能を見込まれてここに飾られているのだろう。
「どうかしましたか?」
「いえ、なんでもありません」
俺はそう誤魔化した。海野は俺が思っている以上にすごい人物なのかもしれない。
「この扉の向こうに主人がいますので、あとはごゆっくり」
花子さんがそう伝えると、自分を置いてどこかへ戻っていった。俺は花子さんに向かってお礼をすると前に向き直す。目の前には大きな扉。
そうかこの先に古山信彦がいる。再び緊張が胸に登ってきた。ゆっくりと何度も深呼吸を繰り返す。
そして覚悟を決めた、その瞬間__
「おい。入るならさっさとしろ」
そんなしゃがれた声が聞こえてきた。
「はい!」と裏返りかけの声で返事をする。慌てて扉を開けた。
そこには、綿麻の甚平を身にまといキャンバスの前で座り込んでいる老人がいた。
「あなたが古山信彦ですか?」
俺がそう尋ねると、老人は目を釣り上げた。
「先生をつけろ先生を」
若干、怒気をこめた声でそう言われる。それにハッとした。自分はまたしても無礼な態度を……!
「す、すみません!!」
自分が思う以上の大きな声がでてしまった。それを見て気をよくしたのか古山先生は手招きしてくれた。強ばった顔は崩れ、優しそうな顔になる。
「おい、坊主。名前は?」
「岸辺 誠と言います!」
「そうかそうか、元気がいいな」
「ありがとうございます!」
緊張しすぎて自分が正しいことを言っているのかがわからない。ただただ一言一言が嬉しくて仕方がない。何故か涙がちょちょぎれてきた。
「まぁ、ちょっと落ち着け。坊主はなんのために会いにきたんだ?」
「えっと……」
なんのため?しまった理由なんて考えてもいなかった。ただ会ってみたい。その思いだけだった。だからええと、なんていえばいいんだ。
「古山先生が作品を作る所を一度生で拝見したくて……」
さっきまで思っていなかった理由が口から出てくる。いや思っていなかったと言えば嘘になる。自分も画家を目指す身としてはどうしても絵を描く所を見たかったのは本当だ。だから、これも嘘ではない。
「そうか……ちょうどいいな、今、絵を描こうとしていた所だ」
そう言って古山先生は筆を握る。
絵の巨匠は、一筆一筆が情熱に燃えるようにキャンパスに触れ、全身を使ってダイナミックなアートを紡いでいた。彼の手は自由自在に動き、絵の中に魂を吹き込むような力強い筆致が感じられた。
驚きと感動の入り混じった心情で制作過程に見入っていた。その瞬間、絵が生き生きと息づくような感覚が包み込み、俺は芸術の魔法に引き込まれていくようだった。
「すごい……」
これが古山先生、偉大な巨匠が絵を描く姿か。自分とは比べ物にならない。というか何もかもが違う。迫力も、速さも、大胆さも、手法も。
「後ろで黙って見てろ」
古山先生がそう言うので、息を殺して立ち尽くす。
そこからどれほどの時間が経ったのかわからない。ただただ、圧倒されるだけの時間だった。この時に見た光景は生涯忘れることはないだろう。自分の思い出の最上位にピッタリと当てはまった。
「これで完成だ」
古山先生がそう呟いた。
「これで完成……」
古山先生の絵がまた一つこの世界に生まれ落ちた。偉大だ。自分はなんて素晴らしい機会に立ち合ってしまったのだろうか。
「ありがとうございます!」
気がついたら大声で感謝を述べていた。
古山先生はそれをみて「そうか、そうか」と言って笑っていた。
「コーヒー準備できましたよ」
花子さんが真っ黒なコーヒーを二つお盆に乗せて作業場にやってきた。
古山先生はまるで当たり前のようにそのコーヒーを受け取ると一気に飲み込んだ。
「ほれ、坊主も飲め」
古山先生がそう言うので「失礼します」と言ってそのコーヒーを飲み込む。びっくりするほど甘ったるいコーヒーだ。だからこそなのだろうか、緊張で溜まった疲労がどこか消えて行くような気がする。
「うまいか?」と古山先生が尋ねるので、僕は思った通りに「とても美味しいです!」と返事をした。
「だろうな。家内が入れるコーヒーは世界一位だ」
「もう、そんなに褒めても何も出ませんよ!」
花子さんが上品に笑いながらそう謙遜した。
この二人はなんていうか、幸せという概念の塊のように思えた。長年ずっと一緒にいたのだろう。そう確信できる二人だった。
「時に坊主、ワシの作品はどうだ?」
古山先生が尋ねる。
自分は改めて古山先生の作品を見つめる。
力強い筆遣いで書かれた水墨画。自分なんかが評価をつけることすらおこがましい。だけど、この絵はこの前の古山先生の個展で見た絵と比べるとどこか物足りなさを感じた。
「ええと……素晴らしいと思いますが……」
「どうした、ハッキリ言ってみろ」
「……なんというか、これはまだ完成ではないというか物足りないというか…」
「なんだと!!」
古山先生がいきり立つ。僕はそれに怯えて、すみませんすみませんと何度も謝った。
「もう、アナタも人がわるい」
花子さんがそういうと、古山先生は笑顔でガッハハと笑った。
「すまん坊主。お前の意見は正しい」
「へ?」
すっとんきょんな声が出てしまった。
「坊主。さっきお前に見せたのはただのパフォーマンスだ」
「ぱ、ぱふぉーまんす?」
「ああ、人に絵を描く所を魅せるための描き方。普段からあんなバカみてぇに体を動かして描く訳ねぇだろ。そんなことしたら体は疲れるわ繊細なタッチはできないわでまともな作品ができるわけねぇ!坊主、お前の評価は正しいかったわけだな!だがな、これをすると観客が喜ぶんだ!そんでお金ももらえるって寸法よ!ガッハッハ」
古山先生が機嫌が良さそうに豪快に笑いながら教えてくれる。
「は、はぁ……」
自分はそんな生返事をすることしかできない。自分は何かに正解したのだろうか?
「坊主、お前センスがあるな。絵は描いているのか?」
「ええ、一応。ずっと描いています」
本当にずっとだ。自分でも呆れるほど絵しか描いていない。
「坊主、お前でよければ、ワシが絵を教えてやろう」
「え!?いいんですか!!」
「ああ、いいとも。お前は才能がある」
才能がある。才能がある。才能がある。その言葉が頭の中で何度も反芻される。それが自分に才能があるという意味だと理解すると、溢れんばかりの感情の奔流が襲いかかってきた。
目から、涙が、溢れてきた。
「もう、あなた泣かせるんじゃありませんよ」
「な、これはワシが悪いのか?す、すまん」
そう古山先生がいうと花子さんが笑うので、自分も笑ってしまった。そして古山先生も笑う。
自分はこんな幸せな場所にいていいのだろうか?とても、とても嬉しかった。
これがきっかけで自分は古山先生、いや、古山師匠の弟子になれたのだった。
◇
師匠に絵を教えてもらえる生活は幸せの一言だった。
あの憧れの古山信彦に教えてもらえるのだ。画家を目指す上でこれ以上に光栄なことはないだろう。
ただ毎日のように古山師匠のアトリエに行くと、古山師匠に学校に行っていないことを怒られた。「学校に行かないのなら、ワシからも絵を教えることはない」と脅されたので、仕方がなしに学校に通うようになった。母さんもそれ見て、泣いて喜んでいた。その時になって自分は申し訳ないことをしていたとようやく分かったのだ。
学校が終われば師匠のアトリエに行って絵を描く。そして次の日も学校に行って絵を描く。そんな毎日を過ごしていた。
そして中学2年生になったある日、師匠から課題を出された。それは全国の中学生が参加するコンクールで賞を取れ、というものだった。このコンクールはハッキリ言ってレベルがかなり高い。だが自分ならば大丈夫だという自信はある。
それにあの海野も出場するはずだ。だからこそ僕は青春の全てをこのコンクールに捧げるつもりだ。
放課後の美術教室。女子に囲まれて駄弁っていた海野を見つけた。
「海野ちょっといいか?」
「岸辺か、いいよ」
そういって、海野は周りの女子に謝る。その姿もどこか小慣れていて、海野は本当にいい男になったんだなと静かに感動した。
「それで一体なんのようなのさ?」
「お前もあのコンクールに出場するんだろ?」
「ああ、お前もってことは岸辺も参加するの?」
「ああ、そうだ。師匠にそこで賞を取れって言われてしまってな」
「なるほど……岸辺なら簡単に賞が取れるだろうね」
「俺もそう思っている。だからさ、それだけなら面白くないだろ?」
「どういう意味?」
「海野、俺と勝負をしろ」
海野の目がかっと開く。心底驚いたようだ。言葉にならない声を静かに発して、飲み込んだ。
「……どっちの絵の方が上の賞が取れるか勝負だ。まぁ俺は当然、最優秀賞を目指すがな」
「……うん、わかった」
「今日はそう宣戦布告しにやってきた。じゃあな」
「うん。バイバイ……」
そう言って俺たちは別れた。俺が絵を描く場所はここじゃない。師匠のアトリエだ。
ついに、あの海野と勝負だ。自信はある。
俺だってずっと練習してきた。あの海野にも負けない作品が作れるはずだ。
ああ、なんだか楽しみだ。