屋上と、君と、文化祭と~恐怖!しゃにかまえたしゃさげゆるさない様~
空はどこまでも澄み渡っていた。多分、今日この日に、僕というちっぽけな存在が一人消えてしまっても、この空はずっと青を携えたままなのだろう。そう確信させるほどに、空が広い。
授業の始まりを告げるチャイムが鳴り響く屋上。
本来なら、扉は閉めきられていて、その鍵が壊れてるということは知ってるのは、僕ともう一人だけだった。
「よっと」
がしゃんと、屋上のフェンスが音を立ててきしむ。危ない、と声をかけても、きっとこいつには無駄なのだろう。
危険を恐れるのは、己が命に価値があるからで。
僕もこいつも。
己にそんな価値なんてものを認められなかった。
皆はきっと、そんな価値なんてものがなくても、なにも違和感も持たずに日々を過ごすことができてそしてそれが正常なのだ。けれど残酷なことに僕達はそんなに無知ではいられなくて。そしてそれは異常なのだ。だからこそその部分が僕らを屋上なんて場所に閉じ込めてる共通点なのだろう。
まるでここは鳥かごだった。
正常に世界を回すこともできない、空を飛ぶこともできない鳥を閉じ込めるための鳥かご。
「今日、風強いね」
彼女は、ぐらぐらとゆれるフェンスに腰掛ける。もし、このフェンスが折れることがあれば間違いなくこいつの命はない。
そんなことを一切頓着せず、彼女は足をぶらぶらさせた。
スカートがゆれる。
「ね、文化祭の日。一緒にサボらない?」
「え?」
文化祭という言葉が、あまりにも僕には似つかわしくなくて、それゆえに同類のこいつからそんな言葉が出てくることが意外だった。
「どうせ、君もあんな同調圧力感動ポルノ乞食俺たちこそ最強人生謳歌しまくり陽キャとして自らを位置付けなければ生きていけない価値観に囚われた人生損してるとか他人に押し付けがちな哀れな囚人みたいな連中に馴染めないでしょ? なら、二人でどこかにいっちゃう方が有益、でしょ? 」
「…………。 やめとけ」
「え?」
「やめとけ、滅多なことは言うもんじゃない。この学校の七不思議のひとつ……」
『や──』
ああ、声が。
声が聞こえる。
それは、声というにはあまりにも重々しく、その音は決してこの世の存在では出すことも叶わないだろう。
「来てしまったか……手遅れか…………お前のことを俺はきっと一生恨むよ」
「え、な、なにを一体」
『──めろ』
「な、なにか声が聞こえない?」
「来てしまったか……」
『やめろさぼるのはかってだがたしゃさげするなひとのことをさげずむな』
「斜構他者下絶許様だ」
「なんて?」