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花火と花火

ぜひお楽しみください。

 「美とは消滅である」


 こんな陳腐な言葉をふと思いだす。それは所詮は田舎の学校で絵を教えるだけの何のセンスも持たない教員か、それとも少しばかり人より計算が速いこと鼻にかけた同級生だったか。


 消滅とはすなわち無機的な死である。石が割れても、水をこぼしてもそれは「消滅」ではない。有機的な死とはなにか。それは所謂生物,有機物によって構成された物体が前向きな更新を終えるという意味と言えるだろう。遠くで音がする。音というものが単純に鳴る。信じるは届いた波長だけで,その発信源は音ではない。赤い音。

 死とはなにか。それは「機能を放棄する」ことである。だから石が仮に割れたとしてもそれは消滅ではない。「割れた石」がこの世界に。ぽつん。それが仮に酷く高温高圧化に置かれ、気化したらどうだろうか。原子レベルでは「石」であるそれは僕らの社会的な「石」ではなくなる。水も同じ。これを死という。人間が他の物質と一線を画す理由というのはこの「死」を複数持つからであろう。人間がもつ機能というのは今や有機的な要素に留まらず、誰かにとっての柱であり、社会にとっての歯車であり、文化としての一枚だったり。人は何度も死ぬ。何度も。何度も。ああめんどくさい。だから我々人間はもう死ぬことができない最後の段階 - 大抵は有機的な死 - を一般的な死と定義づけた。これはひどく近代的、個人主義的な発明であり、きっと1000年前でも1000年後でも、この有機的な死を最後の死と考える方法は受け入れられないだろう。


 この文章が小説であることを思い出す。視点を空に、黒。奥に、緑。僕に。そして消滅とは現象であり、状態ではない。死ぬことはあっても死んでいることは本質的に不可能である。死んでいる人がいるとすれば、定常に向かって流れるときに身を委ねたなにか。その死体に瓜二つな人が死んでしまったということとはそんなに関係がないといって差し支えはない。

 花火が彼女の顔を赤く、黄色く、オレンジに。流れ星のような表情。周りに浮かぶ有象無象の二本足隕石がぶつかっては弾ける。それが隕石を生む。そのうち月ができて、周りを回って、ウサギなんかが住んで。


 「ねえ、ちゃんと見てる?すっごく綺麗だね!!!」


 ポケットに入れた手が熱い。頭を掻くついでに手に星をプレゼント。


 「そんなに綺麗なら毎晩年がら年中やってればよくない?もしくは常に花火の模型を宙に浮かべておく。材質としては軽くて発光性があり…...」


 ほほ笑む彼女はそんな僕の手を恥ずかしげもなく。冷たい。


 「そうではないの、手を伸ばしたくなるから綺麗なの。ああもうちょっと!火花こっちに落っこてこい!!ってね。あなたならわかるでしょ?」


 「()()......」


 彼女の名前を呼ぶ。頭の中で花火が弾ける。耳で星を見る。口で音波を食べる。しかしそこに味も触感もなかった。手が赤く染まる。何度も何度も。手を服にこすりつける。消えたと思った手は赤く染まり続けている。


 「手が赤くなるわけない…...。だって僕は花火のことを、花火のことを…...」


 自分の首に手を当てるとそこには確かに血が流れている。


 「首をただ…...」


 キスマークのような手形のあざを彼女は嬉しそうに手でなぞった。


 「私が生きてるとき、綺麗だった?」


 「…...綺麗だったよ」


 「死んじゃったあとは?」


 「うん」


 「じゃあさ、一番私が綺麗だったタイミングを教えて」


 口を開く。その声は爆発音にかき消されて消滅してしまった。彼女は頷く。痣が赤く、黄色に、オレンジ。


 「しょうがないなぁ。私ね、あなたのことが好きだったのよ。どうしても、どうしても。そしてあなたの気持ちがよぉくわかっちゃう。だからこの身体、全部あげたのよ。私はね、死なないの。絶対に。確かに身体は燃やしちゃったし、骨は壺の中。でもね死なないの。だって私にはあなたを喜ばせるっていう機能があるんだから。だから何度でも殺して。いっぱい殺して。死んで死んで死ぬの。それがね、愛なのよ。それが一番美しいんでしょ?」


 今晩の予報は晴れだった。きっと僕の上には満天の星空が。でもそれは見えない。都会が、花火が、花火がそれを打ち落として、箱にしまってしまうから。


 「今日も死ぬわ。あなたのために。明日も。絶対。あなたに殺されて。ちゃんとイメージするのよ?私の首どうだった?力はどれくらい込めてくれたの?やわらかい?それとも?温度は?表面のすべすべ感も。私どれくらい息してた?すごく辛かった。永遠ってあるんだって思ったもん。辛くて苦しくて、でもあなたがそれが綺麗って。これってまるで化粧ね。消滅に向かって綺麗に。イメージできた?あなたが死ぬまで私を何度でも殺してね」


 空気を切る音がする。遠いのに。暗いのに。光の尾は空にめがけて飛んでいく。誰もがそれを追った。手を伸ばした。そこに何かを投影して。僕は死ぬまで彼女のことを殺すのだろう。僕らの世界からふっと光の尾が消えた。無音。次の瞬間、僕の声が偶然となりにいたカップルと重なった。


 


 「綺麗な花火…...」

お読みいただきありがとうございました!感想などなど待ってます!!


久しぶりに書いたけどやっぱり創作は楽しい

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