運がよかった
「......むぅ」
現在僕は、昼間に取っておいた宿屋の一室で不貞腐れていた。
理由は、冒険者ギルドのクエストのことだ。
さーて、これから僕の冒険が始まる!そう期待しクエストを見に行った僕に待っていたのは.......
「うそぉ......」
僕のランクは冒険者ランク最低のFランク。
つまりFランクのクエストしか受けることができないわけだ。
そしてそのFランクのクエストそのすべては......
「なんで全部アインシュタル王国側にしかないのさ」
僕はアインシュタル王国を追放された身。
アインシュタル王国に入ることはできない。
.......僕は遠い目をしたのだった。
とまあこんなことがあって、僕はとぼとぼと宿屋を探し、取った宿屋の中でごろんと寝転がっていたのだった。
「ま、冒険は出来なかったけど、でも。宿屋に泊まるってのもまた楽しい事」
僕はそう割り切ってくすくすと笑う。
とりあえず笑っておく。それがシルフ達精霊からの教えだ。
笑っていればいつかいい事がある。どんなことでも運がよかったと言っていれば、運は自然と僕に向いてくる。
「うん!冒険者のクエストできなくて運がよかった!だってこんないい宿に泊まれたんだもん!」
そう言って僕はベッドから飛び起きると宿屋の窓を開ける。
「......いい風」
様々な匂いが一斉に入ってくる。
肉を焼くにおい、お酒の匂い、花の匂い。
「......ワクワクする匂いだ。とっても」
僕はうっとりと窓の外を見る。
活気あふれる人の波。
ちらっと見えた黒い影を僕は聖属性魔法の『聖拘束』で拘束する。
.......うん、やっぱ。運がよかったなぁ。
そう思って僕は笑ったのだった。
「それじゃ!よろしくです!」
「お、おう。よろしく」
次の日、僕は乗合馬車の停留所にやってきていた。
あれから少し考えたのだが、どうやらこの街にいるのは危ないようだ。
何故か。それは昨日の黒い影。
おそらくあれは僕を抹殺するために父上たちが送り込んだ暗殺者。
だって僕に明らかなが言いがあったからね。まあ、そういうことがあって僕はこの街を早めに出ることにしたのだ。
......街を堪能できなかったのは少し残念だけど。
「それじゃ、発車します」
ま、運がよかったかな。
僕は馬車の後ろから見える景色を見てそう思った。
ガタン、ゴトンと規則正しく揺れる馬車の中には御車と僕を合わせて7人の姿があった。
2人は如何にもカップルといった様子の若い男女の冒険者。
もう一組の3人は彼らとは違い、戦士、シーフ、魔法使いといったオーソドックスなベテランチームといった様子の冒険者たち。
そんな中で、揺れの心地よさに僕は思わずうとうとと舟をこいでいた。
「Zzz......Zzzz......んぁ⁉」
僕が眠りにおちようとした瞬間、馬車が大きく揺れ右に大きく倒れこんでしまう。
「おい、嬢ちゃん大丈夫か?」
「んあ、ご、ごめんなさい」
「いや、別にいいけどよ......それより。おい、御車。こいつぁどうなってるんだ?」
戦士さんはそう言うと、御車のいる席へと身を乗り出した。
「なっ⁉あいつは!フェンリル!」
そう言って、戦士さんの顔が驚愕に染まる。
見ると戦士さんだけでなく全員が同じように恐怖の顔をしている。
.......そんなに恐ろしいものなのだろうか?
ちらっと僕も身を乗り出してみる。
そこには巨大なオオカミがいた。
大きさは全長6Mくらい。
銀色の毛皮はまるで生きている宝石のようにキラキラと輝き、青い瞳はこちらを怯えたように見つめている。
「......怯えてる?」
「って、おい嬢ちゃん。お前何してる!」
僕はそう言って馬車を折りてオオカミへと近づいていく。
「きみ、どうしたの?」
僕が訪ねるとオオカミは「ぐるるるる......」と低い声でうなる。
「おい!嬢ちゃん戻ってこい!」
馬車からそんな声が聞こえてくるがそんなのはどうでもいい。
僕はペチャっという音がして足元を見る。
そこには赤黒く染まった水たまりが広がっていた。
「これって......血?もしかして君怪我してるの?」
「ガウッ、バウッ、ガルルルル......」
そう言ってフェンリルは低い声でうなり声をあげる。
「......大丈夫。大丈夫だから」
僕はそう言ってフェンリルに近づくと、傷口に手を向ける。
「『聖回復』」
僕がそう言うと、フェンリルの傷口はどんどんと治まり、治っていく。
......うん、上出来じゃないかな?
「ほら、なおったよ!」
僕がそう言うと、フェンリルはそのことに不思議に思いながら立ち上がり、そして僕をじっと見つめた。
「どうしたの?」
「がるる」
「ちょ、やめ。はは!くすぐったい」
僕のことをなめてくるフェンリル。
そんなブランのことを冒険者たちは驚愕の表情で見ていた。
「す、すごい。フェンリルを手なづけた?」
「いや、それよりも......今の魔法って」
ははっ。もうくすぐったいなあ!ははは!
「さっきの魔法は聖属性魔法の『聖回復』」
冒険者の魔法使いがそうつぶやくと、相乗りしていたカップルの女性が口をはさんでくる。
「でも、それって......聖女の魔法じゃないですか?」
「ああ、つまり......それが意味することは」
冒険者たちはその言葉と共に、フェンリルと戯れるブランを見る。
白髪の、物腰柔らかな優しく美しい12歳くらいの少女。
「つまり......彼女は『聖女』だということだ」
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