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プロローグ ~すれ違う許嫁(仮)~

 

 お父様とお兄様以外に、男の人をこんなに綺麗だと思ったのは初めて。

 長い睫毛に縁取られた、薄い灰色の切れ長の瞳、アッシュブラウンのサラサラの髪。長い手足が織り成す、一つ一つの仕草はうっとりする程優美で。ずっと見ていても飽きないくらい。


 初めて会った8歳の時から、何故か一ヶ月置きに互いの屋敷を訪問しあうようになった。

 だけど、彼はいつも私と挨拶を交わした後、本を開き自分の世界に閉じ込もってしまう。

 もし私が皇女でなければ、すぐにでも部屋を追い出されてしまうだろう。こうして同じ部屋に留まってくれるだけでも、彼の精一杯の礼儀なのだ。


 幼い頃は、大好きな家族とか食べ物の話とか。思い付くままに喋っていたけれど、彼の明らかに薄い反応に気付いてからは止めた。ならばと、彼が読む本のタイトルを盗み見ては同じ物を読み……次に会った時に話題に出してみるも、やはり反応は変わらずだった。


 どうしたら私を見てくれるだろうか?


 その気持ちが恋だと気付いたのは、彼が私の許嫁だと、両親から聞かされた13歳の時。全身がカアッと熱くなり、心臓がバクバクした。だけど……告げられた次の言葉に愕然とする。

 将来、互いを愛し合えなければ婚約はさせない。

 あくまでも“仮”の許嫁なのだと────


 私は焦った。だって、あの彼が私を愛してくれることなんてあるの?

 鏡に映る自分の姿をぼんやりと見る。

 白い小さな顔に、不釣り合いな程大きく主張する真っ黒な瞳。背が低く華奢で子供っぽい体型。ただでさえ彼は、私より二つ年上だというのに。大好きなお母様に似ているこの容姿に愛着はあるけれど、彼の隣に立つことは想像出来なかった。


 自分を形成する中で唯一自信を持てるのは、お父様譲りの美しい銀髪だけ。その日から、腰まで届く長いお下げ髪をほどく決意をした。



 それから数年経ち、私はお父様が創立したランネ総合学園の高等部に進級した。

 二年先輩の彼に少しでも追いつける様に、お化粧をして、服も今までより大人っぽく……


 ほんの少し、ほんの少しでいいから見て欲しいの。

 そうしてくれないと、私達は……




 ◇◇◇


 俺は一人が好きだ。

 静寂に身を置き、ひたすら好きな本や学術に没頭する。それを初めてぶち壊したのが、あの皇女だった。


 皇女でなければ怒鳴りつけ追い出している所だが……我が家は皇女の父である皇太子殿下の側近、ボイ様の親戚である故、そう無下にすることは出来ない。

 小鳥みたいに甲高い声で、興味のない話を延々と。たまに高尚な話題を振られたかと思えば、その内容は薄っぺらく付け焼き刃だということが分かりガッカリする。


 どうしたら静かに、自分の時間を邪魔せずに居てくれるのだろうか?

 例え月に一度のことでも、かなりの苦痛だった。


 明らかな嫌悪感を抱いたのは、彼女が俺の許嫁だと、両親から聞かされた15歳の時。何となく予感はしていたが……心が大きな拒絶反応を示し、両親を睨み付けた。

 それ以来、彼女には一層冷たく無関心な態度を取り続け……それがまさか、大きな後悔に繋がるなんて。

 あの頃の自分に戻れたら、思い切り殴ってやりたい。


 俺は焦った。彼女が再び自分の元へ戻ることなどあるのだろうか?


 もう一度話して、笑って、俺を見て欲しい。

 その為なら何でもするから……


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― 新着の感想 ―
いきなりすれ違いーっ!? ああ、青い春だなぁ。
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