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従者桜木花子と召喚者、津井儺祥那。3

 そうして武光が来て中つ国へ向かい、シェリーと瑞安が随行する事になった。

 だが花子の時とは違い、女性らしさが悪目立ちすると言うか。

 随分と花子は控えめに接していてくれたんだなと実感した。


 そして武光と訓練をする中で、エミールが来た。

 先ずはエイルの元へ。

 だがどうしても怯えてしまって、診察すらも受けてくれない。


「アレ、病院が怖いのかもっすね」

「あぁ、こう言う場合はどう説得すべきなんでしょうかね」

「私としましては、適任者を呼び寄せたいのですが」


 そうして教官によって花子が呼ばれると、数々の病気や怪我を羅列し始め。

 噓発見器のピアスを付けさせる事で、信頼を勝ち得た。


「マジで病気辞典かって位に病弱だったんすね」

「まぁ、病気なら治療方法は有るけど、病弱って病気は無いからね。神様にも祈りまくってたわ」

「あの、お休みの日なのにありがとうございました」


「いえいえ、つかお休みされました?水着使ってます?」


「聞いて下さいよ桜木さん、マジ真面目でココとかで武光さんと訓練ばっかなんすよ」

「はい、またこれから」

「イカンな、実にイカン。教官、隠密で市井をお勉強頂きたく」

「良いでしょう」


 合コンの約束をしていたそうで、祥那と賢人を連れて参加する事に。




《あ、賢人君も参加()()()()んですね》

「すまんね、道端で会って。奪い合いが発生する方が女子には効率的かと思って」

《確かに、しかも賢人さんは初めて会うし、私は大丈夫だよ》


「あのキツい感じの美人さんが、華山さんなんすけど、まぁ、俺は黙っておきます」


 賢人が黙る、と言った理由が分かった。

 祥那としては一般的で平均的な、前の世界に良く居る感じなのだが。


 ココでは微妙に浮いていると言うか、悪目立ちと言うか。


「あの、ちょっと僕には無理かもですね」

「桜木さんを見習って欲しいんすけど、何か目の敵っつうか、張り合うっつか。本人は違うって言うんすけど、一々柔らかい小さな棘が有るんすよね。正論だけど、何かって感じで」


 何処か批判的で、時にはキツい物言いで。

 本人は確かに誤解され易いと言っているが、そもそも意味が違うと言うか。

 当人が使うべき言葉と、他者が使っても良い言葉の区別が曖昧なのだなと思った。


 そして華山は花子が気遣う祥那へと、接近する事にした。

 あの花子が連れて来たのだから、自分も話して()()()()()だと、そういった気の使い方をする子だった。


《お酒飲めないんですか?》

「ザルでは無いですね」


《私もなんですよー》

「そうなんですね」


 こうして会話が途切れ途切れに。

 前にも良く有った事で、祥那は今までなら気にしなかったが。


 花子なら、途切れる事は無かったなと、そう花子を見てしまった。

 それに華山は気付かぬまま、奥手そうな青年に()()()()()()()話し掛ける。


《あの、ご趣味ってなんですか?》

「今は、神話や神様について調べる事ですね」


《あー、桜木さんもそうなんですよね、オタクっぽく無いから他の事を言った方が良いですよ》

「そうですか」


《お洋服もお洒落なんですし》

「コレは賢人君に選んで貰ったので」


《そうなんですね、もし興味が無いなら私に選ばせてくれませんか?自信有るんですけど、どうですか今日みたいな私の服装って》

「お似合いかと」


《若いんですし、女の子って特に、地味なのは老けて見えると思いませんか?》


 誰にどうと言ったワケでは無いし、実際にはそう思ってもいないのかも知れないけれど。

 花子以外は本当にカラフルで、聞く人間が聞けば花子への嫌味だと思うだろうに。


 だとしても、花子は紺色のゆったりしたセーターにパンツスタイル、でも背中が空いてて控えめだけど可愛らしい格好をしてる方で。


「桜木さんの格好でも、充分可愛いと思いますけど」

《あー、シンプルなのがお好きなんですね》


 スカートの裾を永遠に気にされたり、ブラの紐が見えるよりは遥かにマシだなと思ったけれど、言わなかった。

 言って話を繋げられる事が嫌だった。


 そしてこう黙っていても、無意識な誰かへの当て擦りや批判。

 前なら気付かなかったけれど、コレって異常なんだなと祥那は思った。


 そして、同僚に連れて行って貰ったお店に居るみたいだと、楽しく無かった思い出を思い浮かべていると、賢人からの手助けが。

 連れションがこんなに救いに思えるとは。


「助かりました」

「席替えさせるんで、どんまいっす」




 そうして今度は花子の幼馴染、小雪の隣へ。

 更にその隣には賢人、目の前には華山香、花子は1番遠くで楽しそうに過ごしている。


《ハ、花子の幼馴染なんだけど、何か聞いてたりしてる?》

「お姫様の話は、少し」


《あー、そこかぁー、まぁ良いや。それで靴屋さんなのよ私》

「もしかして、ガラスの靴ですか?」


《そうそれ!やっぱり単純かなぁ》

《えー、もしかしてまだそう思ってるんですか?》


《え、ダメ?》

《あ、いえ、可愛いらしな()()思いますけど》

「そうっすよ、夢は自由だし。可愛いっすよね、お姫様とか、憧れるのも分かりますよ」


《ですよね、お姫様()可愛いですよね》


《お姫様を目指してるって言うか、王子様が来てくれるお姫様みたいな女の子、だったんだけどねぇ、靴屋さんになっちゃった》

「靴屋のお姫様って可愛いと思うんすけどね?」

「はい、素敵だと思いますよ」


 非常にやり辛い。

 本人に悪気が無さそうだし、雰囲気を壊すワケにもいかないし。


「んで、お姫様にも色々と居ると思うんすけど」

《花子もそう言ってたんだけど、やっぱり白馬の王子様がワンセットなのよねー》

《なら乗馬に通ったら直ぐですよねー、ふふ》


《あ、うん、もうとっくに通ってるけど。華山さんからしたら私ってそんなに努力して無さそうに見える?》

《いえ、そんなつもりは》

「芦毛ってレアなんすよねぇ、真っ黒はダメなんすか?」


《真っ黒も、最近は格好良いなって思うのよねぇ、って言うかお馬さんの艶々感って良いよねぇ》

《あ、賢馬ハンスって知ってます?答えが分からないのに周りの空気を読んで答える馬が居て》

「そうなると、小雪さんは男らしい人が良い感じっすか?」


《うん!》

《夢占いでも馬って男らしさの象徴なんですよね》


《へー》


 時として話題に乗り遅れたり、ズレたり。

 自分も気を付けないと。


《あ、の、乗馬って》

《障害物、趣味程度だけだから王子様が来ないのかな?それとも他に原因が有りそう?》


《いえ、別にそういうワケで言ったんじゃ》

《本当に?初対面だからこそ分かる事も有るだろうし、ハッキリ言ってくれて大丈夫だよ?マジで真剣に王子様を探してるし》


《いえ、素敵ですよね、馬に乗れるって》

《大した事無いよ、香さんの趣味は?》


《お料理です、ハンバーグとか、あ、この前は茶碗蒸しも作りましたよ》

《へー、凄いねー》


《小雪さんは?》

《和洋折衷は一通り制覇したよ、花子と。それとケーキとかお菓子作りも、美味しいんだよ花子のお菓子も料理も、和食なんかもう計量無し》

「アレ計量無しなんすね、マジで美味いんすよ、何かお母ちゃんの味がするんすよ」

「食べてみたいんですけど、タイミングが無いですよね」


《じゃあ、今度私が》

《じゃあショナ君の知らなそうな料理対決ね、メジャーな料理って誰でも出来るし》


《それって私への嫌味ですよね》

《へ?どれの事?》


《メジャーな料理って誰でも出来るって》

《一般論じゃない?》

「そうっすよ、好みで分かれる対決より逆に公平で良いと思うんすけどね。料理自体を評価するなら」


《別に、私は自慢出来るって言いたいワケじゃ》

《そうなんだ、私も》


 自分の攻撃性には鈍感で、けど他人からの攻撃は過敏に受け取る。

 もし平坦な世界で生きていたら、僕もこうなってたのかも知れない。


《あの、私何か》

《私、ちょっとお手洗いに行って来るね》

「うっす」


《なんか、怖い人ですね》

「そうっすかね、俺らはハッキリ言ってくれる良い人に思えますけど。折角だし、少し席替えしますか」

「はい」




 そうしてやっと花子の近くへ。


「クッソ可愛いでしょ、河川敷で拾って来たんだよ」

『眼鏡掛けて?それとも裸眼で?』

「眼鏡は付けてませんでしたけど」


「可愛いからワシが無理矢理付けさせた」

『マジで眼鏡フェチじゃんか!凄いなぁ、俺はそんな好みとか無いからなぁ』


「なんと服は賢人や、アイツのセンスが怖い」

『あ、合コンデビューおめでとう、乾杯!』

「あ、どうも」


『大丈夫だって、俺ら異性愛者だから取って食わないって』

「分からんぞ、背中にチャックが有って中には美少女が」


『あー、コレは間違い無く可愛いわ』

「それは訂正しろよ、どっちでも間違い無く可愛い」

「あの」


『あぁ、真っ赤じゃん自分、ピュアっピュアで可愛いねぇ』

「お、自称異性愛者の仮面が」

「え」


『冗談冗談、怖く無い、怖く無いよ』

「加減してくれよマジで。コッチ来るかい、保護してやろうか」


『もうこうなったら席順とかどうでも良いから大丈夫、移動してええんやで』

「ありがとうございます」

「勉強ばっかだったみたいで、河川敷で黄昏れてたからナンパしたんよな」


『あれ?さっきはダンボールに入ってたって』

「ダンボールに入って黄昏れてた、勉強道具を抱えて」

「僕、そんな設定なんですか?」


「お金持ちの箱入り息子とかにしとく?」

『あー、慣れてからの方が良いよそれ。マジで血眼になって来られたら引くでしょ君』

「あぁ、まぁ、多分」


「それか、実は王子様になる呪いを掛けられたお姫様で、最近成人したから結婚相手を探しに諸国漫遊を」

『それ!途中アレじゃん、何だっけ、映画の』


「月の王子様ニューヨークへ行く」

『それ!良く覚えてんなぁ』


「ママンが大好きやねん」

『ママンて!まだそんな呼び方してんの?』

「あの、お知り合いなんですか?」


『実は生き別れの』

「初対面だわ、似て無さ過ぎるべや」


『生き別れの姉の、子』

「他人が聞いたらうっかり信じそうだなおい」

「ふふふ」


「ほら可愛いでしょ、寝顔が特に最高」

『おまっ、寝顔を見る仲かよー』


「河川敷で勉強道具を抱いてダンボールの上で寝てた」

『酷くなってるぅ!不満ならしっかり言うんだよ?俺は王子様だって言っても良いんだかんね?』

「いえ、猫扱いで良いですよ、ふふ」


「寧ろ犬やろ、完璧に訓練された、シェパード」

『ドーベルちゃうんかい』


「ドーベルには色気が有るやろ」

『はー、このオバちゃんどこまでも変態だねぇ、怖いねぇ』

「いえ、凄く楽しいです、ふふふ」




 そうして楽しくしていた場に、華山が花子の隣に座った。


《楽しそうに何を話してたんですか?》

『君が凄く美人さんだねーって、ねー』

「可愛いワンピースですねーってー」

「はい」


《そうなんですね!ありがとうございます、五里山さんはこう言うのが好みなんですか?》

『うん、もう俺ブリブリの甘々が好き、女の子らしくて可愛いねぇ』

「だね、魅力全開ですな」


《でもショナさんは桜木さんみたいに大人しいのが良いって言ってたんですよね》

『ババァは胸がデカいから地味で丁度良いんだよな』

「ファンタスティックが詰まってますからな」


《え、そんな話してるって、もしかして桜木さんの好みなんですか?五里山さん》

「大きいしデカいからマジ無理」

『食い気味で即答ぅー』


《なのに、もうそう言う事を言っちゃう仲なんですね、ガッカリ》

『俺のサイズと教え合いっこしただけなのにねぇ、酷い言い方だねぇ』

「良いんです、私がそう見られてるばっかりに、うぅ」


《そん、そんなつもりじゃ無いんですよ、冗談なのに》

『実はそんな仲なんだ、前世で』


《あー、そう言うの信じちゃう方だから、桜木さんとも話が合うんですね》

『え、君、マジでこの子嫌いなん?』


《え、いえ、別にどうとも思って無いですけど》

『大丈夫大丈夫、飲み席だし言っちゃえって』

「つか、どうとも思って無いって言い方も酷く無いっすかね?」


《そうは思って》

『俺らは味方だから大丈夫、職場が一緒なら言うべき事も有るんだしさ、ね?』

「おう、ばっちこい」


《寧ろ心配してるんですけど、陰でコネ入社だとか、能力が有るけど、差が激しいとかって言われてるので。フォロー出来たらなと、思ってますけど》

『マジかー、クソだなー。偉いねぇ、フォローしようと思ってんのぉ』


 華山の言葉に嘘は無かった。

 けれど、本人に嘘の自覚が無ければこの魔道具が効かないのだと改めて体感した。

 そしてコレが花子の作戦だったのなら、凄いなと。


「でもなぁ、コネじゃないし、能力は才能の部分が有るしなぁ」

「小さいのはどうにも出来無いっすもんねぇ」

《でも、牛乳を飲むとか》

『やってないのぉ?』


「下痢するからヨーグルトで、お陰でプレーンの飲むヨーグルト嫌いだわ」


《それこそ、運動とか》

『それもしてないのか君はぁ』

「俺と同じ身長なら俺より早いっすよ、跳躍も多分」

「胸が邪魔で飛べないんだわ、嘘だけど」


《別に、私が言ってるワケじゃなくて》

『うんうん、そうだねぇ、君は悪く無いねぇ』


 茶化されて馬鹿にされてる、魔道具を使わなくたってこの位の嘘は見抜ける。

 なのに。


《そうなんです、そう言うの良くないって言ってるんですけどね》

『うんうん、良い子だね、そろそろお会計にするかもだから準備した方が良いかもね』


《あ、はい》


『大変だねぇ、花子は』

「そんなお兄ちゃんみたいな体で言うか」


『だって、アレがウチに居たらマジで無理だもの、良くやってるねぇ』

「まぁ、自分らに合わないだけで、誰かには合う筈だろうと」


『無い無い、変わらないと無いでしょうアレは。さっきのもう、怒られるか注意されるってなったら、目をカッぴらいてもうさ、俺怖かったもん、マジで』

「あー、初対面の人でも分かる感じなんすね」

《ハナ、私も無理》


『無理な人ー』


 まだ大丈夫そうな人は華山と。

 他は五里山や花子と飲む事になった。




《はぁ、結構コレって悲惨な合コンの方だから、忘れてね?》

「それは、すまんかった。初対面になら手加減すると思って誘ったんだけど」

『まぁ、親しくなったり慣れが出るとあんな感じになるのも居るけど、アレはねぇわ』

「さーせん、俺らのがマジでご迷惑を」


『まぁ、でもアレには合ったみたいだし、良いんじゃねぇの』


 優しくて大人しそうな女性と、少し神経質そうな控えめな男性。

 自分にはさっぱりだけれど、中には庇護欲をそそるから可愛らしく見えるんだとか。


《でもそれって、まぁ、良いか》

『そうそう、つかカラオケ来たんだし誰か歌おうよぉ』

「賢人君」

「うっす」


 2人は向こうにも有った曲を歌い、五里山は6人で歌う歌を1人で歌い切り拍手をされ、小雪は花子の流れを読んで転生者や召喚者がコピーした曲を歌った。


『はい、じゃあ次は君ねぇ』

「え」

「カラオケも初めてだもんねぇ、様子見しようねぇ」

「桜木さん完全に喋り方移っちゃってんの」

《まぁ、初めてならちょっとは甘やかしても良いけどぉ》


 席を移り、クエビコやドリアードを使って非公式に転生者や召喚者がコピーした曲も調べる事に。


「結構、有るんですね」

「はー、無益だけど有益だわ、覚えとこ」


「上手でしたね、凄く」

「ココもいじれるし、余裕っすよ」


「だけなんですかね?」

「まぁ、練習はしたよね」


「僕、一緒に行っても聞く側で、そう練習とかした事無くて」


「君、歌いたく無いんだろ」


「はい、まぁ」

「誤解を恐れず抜け出すか、歌うかだぞぉ」


「酔ったって事に、して貰えませんかね?」

「仕方無い。五里山くーん、この子にゲロさせてくるー」


『おーぅ!』


 そうして2人で店を抜け出し、賢人へ連絡。

 花子は残る事に。


 きっと五里山とは何も無いんだろうけど、もう1人、優しそうなイケメンが。


「あの」

「大丈夫、フォローは適当にしとくから」

「心配なんすよねー、イケメンさん居たから」


「あぁ、ちょっと濃いから無理だわ」

「そうなんすね、濃いのは苦手、と」


「但し、タレ目には弱い」

「あれ、あれ?」


「じゃ!」


「あれ、タレ目だったっすよね」


「はい、多分」


 そうしてユグドラシルに戻ると、エミールは武光によって部屋で寝かされた後で。

 自分達は浮島へ戻る事になった。




「桜木を復帰させますが、異存は?」

「いえ、宜しくお願いします」

「で、俺は?」


「そこで相談なんですが、年上か家庭を持つ人間の方が良さそうだと、私は考えていまして」

「あぁ、加治田さんっすかね?」


「はい」

「リズさんのお父さんなんすよ」

「でも、万が一」


「ですよね、なら土屋君が候補なんですが」

「従者オタクのオッサンなんすけど、良いっすか?」

「真面目でらっしゃるなら、はい」


 そうして朝会にエミールも同行する事に。

 まだ目が完治はしていないので、どうしようかと話していると、白蛇がウルカグアリーの嫁の返礼品を使えば、可能かも知れないと。

 そうして貝から真珠を取り出し、蓋を閉じてまた開けると、真珠が。


「コレ凄いっすね、無限なのかも」

「桜木さん、きっと大喜びでしょうね」

「婚約指輪に最適でしょうね」


「いや、そう言うつもりじゃ」

「そうでしたか、では参りましょうか」

「うっす」


 そうして再び花子に会うと、真っ先にエミールが喜んだ。

 花子もニコニコと答え、仲睦まじくも見える。


「あぁ、もうメロメロじゃないっすか、取られちゃいますよ?」


「僕は、別に」

「残らないにしてもっすよ、好意って嬉しく無いっすか?」


「でも、残らないからこそ、邪魔は出来無いですよ」

「まぁ、後は桜木さん次第っすけどね」


 そうして花子はエミールの世話をし、祥那は今日の会議の内容を柏木から聞き、賢人とリズは花子と祥那の相談をする事に。


「アレ、どうだ」

「合コンイベント、微妙だったっすね」


「イベントて、まぁ、初めてなら仕方無いだろう」

「って言うか桜木さんっすよ、どうして言わないんすかね、振り向かせちゃえば良いのに」


「俺もココは好きだが、向こうに未練が有る奴を縛っても、意味が無い処か後悔させない様にしなきゃならんだろう」

「あぁ、でも好きなら」


「なら余計にだろ、アレもアレで自信は無い方なんだぞ」

「ファンタスティックおっぱいでもっすか」


「デカいなおい」

「何かプロテクター使って抑えてるらしいっすよ、邪魔だからって」


「マジかよ、見る目が変わるわ」

「リズさん、安牌に逃げたらそこで試合終了っすよ」


「せんわ、アレは妹みたいなもんだし」

「傍から見たら、お姉ちゃんなんすけどねぇ、結構幼いっすよね」


「お前、お前はダメだ」

「俺も遠慮しますよ、同僚は無理っす」


「平凡で平和な奴っぽいから、応援してやりたいんだけどな」

「まぁ、ゴリ押しを後で知ったらキレられそうなんで、俺もそう応援は出来無いんすけどねぇ」


 そうしてどうしようも無いまま、交代の時間に。

 打ち合わせには土屋翔太、欧州からブリジットとフィラストが派遣される事になった。


『土屋翔太です、宜しくお願い致します』


 祥那は少し名前が似ている事と、従者オタクだと言う事で親近感が湧いたのだが、賢人と花子に慣れたせいなのか少し無愛想に感じてしまった。


「土屋さん、緊張してる?」

『はい、まぁ、憧れでしたので』

「そう固くならないで下さい、宜しくお願いしますね」


 違和感は直ぐに分かった。

 自身がそう見ているからか、土屋が花子に気が有るからこそ緊張し、自分には少し無愛想なのだと。


 そしてそれを花子は気付いているのかいないのか、とても親しそうと言うか、仲が良さそうに見えた。

 何なら魔王とも、エミールとも。


《嫉妬じゃろかねぇ》

「誂うなら今度にして下さい、訓練中なので」


《休憩中じゃろ》

「で、用件は」


《ルーマニアからの謁見要請じゃ、神々か精霊経由でハナの事がバレたのやも知れん》

「そ、言わないでくれと」


《我じゃないもん、それに似た性質の全く違う精霊の支配下じゃから、我らの意識を閉ざす以外に術は無いんじゃもん》

「その弊害を、どうして」


《いずれは相対する必要は会ったじゃろう》


 そうして武光やエミールも連れ、ルーマニアへ。




『案内を努めさせて頂きます、宜しくお願い致しますね』

「おぉ、イケメンさんですな、宜しくお願い致します」


 土屋と祥那がムッとしながらも思わず顔を見合せてしまい、お互いに意識している事を確認し合ってしまった。


 そうして国家元首からココで保護している性質持ちについて、召喚者と花子だけに説明がなされた。


「それで、僕らに」

「世界の神々が繋がれば、いずれバレる事になったでしょうし。ソチラには同種が居るかと」


『ハナさんが、ですか?』

「本当か、ハナ」


「全く同じでは無いと、思いたいんですけど、まぁ。はい」

「すみません、事情が事情なので黙っていましたが。今の所は人間の被害は無いので」

「今は、だろう」

『タケミツさん』


「ご尤もで、警戒なされるんで有れば同行は」

「いや、そもそも辞めるべきだろう。相手を操作する可能性が有る、もしかすれば既に」

『何を証拠に』


「全く同じの方がまだ良かったんだがな。エミール、お前が惚れたのは本当に操作されて無い心だと、どうして言える。滲み出していたなら」

「それは無いです、万人に好かれてるワケでは」


「そこもだ、コントロールが可能なら選んで誘導するのも可能だろう」

『自分に無いから怯えて排除だなんて、それじゃ前の世界の最低な人間と同じじゃないですか!』


「あの、懸念はご尤もなので、平和になったら」

『平和になったらって、今まで平和だったからハナさんが生まれたかもなのに、それを恐れて排除したら、また前と同じじゃないですか』

「元首、どう言うつもりで勝手に桜木さんの性質をカミングアウトしたんですか」

「保護の為、果てはココに干渉して頂かない為の人質」


『保護なのに人質って』

「現にココですら言い争いに発展しています、果てはこの不安な情勢で我々と我々が保護する者の性質が知れ渡れば、槍玉に上がるかも知れない。再び滅ぼされる事に怯えているんです」

「流石にそこまでは思ってはいないが」


「ですが恐怖や混沌は人を歪めます、そして嫉妬や疑念は争いを生み、果ては正義だと信じ、虐殺へ至る事も」

『でも僕らは』

「寧ろ見て来たので、否定が出来無い」

「そして俺らも、虐殺者になり得る」

「信じてますので、人質になります。中々観光出来無い国ですし、神様も」


「その、神様に会わせて下さい。それからどうすべきか考えます」

『はい、ショナさんの意見に賛成です』


「まぁ、見極めは大切だしな、分かった」


 そうして何とか花子を連れ出し、(いびつ)に歪んだ森へと入った。




 花子の性質はココの者と確かに少し違っていた。

 ココの者は殆どが性欲を掻き立てたり情欲を引き出すだけ、片や花子は気分次第でいかようにも変化する。


 そして魔力が溢れた時、魔法を使う時に特に溢れ出すだけ。

 滲み出る事も無く、急激に作用するモノでも無かった。


『タケミツさん』

「いや、穿った見方をして悪かった、すまん」

「でも、守る為なので仕方無いかと」

「いえ、コレは僕や桜木さん、果ては従者への信用問題です。僕は」


「いえ、武光さんも生まれたばかりの赤子なので、警戒しても仕方無いんです。そうすべきだと、本能が訴えてるのかもなので、厄災が何なのか未確定な以上は正解なんです」

「それでも、浮島も魔道具も」


「傍から見たら誘導や先導です」

「それは僕が願った事で」


「願わせたと思おうと思えば思えます、ワシを信じて下さるのは嬉しいんですが。滅ぼされかけた事実も認めるべきで。ましていかようにもなるって事は、怒りや嫉妬も掻き立てる事が可能とも言える。凶器ですよ、自分がこんな凶器だと知れて良かったです」


 そうして花子はどうしてもココを離れたく無いと、無理にでも動かす事は出来ても、それを望んではいない。

 だが、このままでは。


「ネイハムさんを呼んで来てみましょう、新たな視点が有るかもなので」




 きっとこの事が別れ目だったのだろう。

 ネイハムは少し怒りや苛立ちを見せたかと思うと、直ぐにルーマニア行きを受け入れた。


 そしてネイハムを見ると花子はポロポロと泣き出した、そうして3人は立ち去るフリをし、本音を聞く事に。


 自分がこんな化け物だと思わなかった、周りが冗談でも化け物だと言っていたのは本当だった。

 苦しい、辛い、もう死にたい。

 愛されたかった、何なら本当に能力を使って、そうすれば良かったと。


《他にはもう無いですか?》

「津井儺さんを良いなと思ってたけど、遠慮してた、1発ヤっておけば良かった」


《随分と月経を止めてるんですから、直ぐに妊娠は無理でしょう》

「終わって直ぐに排卵促せば出来るんじゃないの、しないけど」


《まだ怖いですか、結婚や家庭が》

「でも、津井儺さんなら穏やかで、良いかもなって思えたんだけどね。もう死にたい、どうでも良い」


《振り向かせなかった理由は、自信が無かったからですかね》

「それもだけど、万が一にも向こうで覚えてたら辛いでしょ。世界を救ってくれたのに、辛い思いをさせるのは良く無い」


《万が一にも無いかと》

「億が一には有るかも知れない。ワシもそうだったんだから、何が起こるか分からないでしょ。ネイハムが直接観測出来無いんだから、猫は箱で生きてるの」


《キレるなら向こうのシュレーディンガーへどうぞ》

「変な問題作りやがって」


《地球も、君の言う世界も、君と言う難問を残したワケですが》

「改造か、遺伝子を変えたワシはワシなんだろうか。ワシだと言い張る別人なのでは」


《後はもう、周りがどう思うか、ですね》

「それで愛されて、モテモテになっても全く喜べる自信が無い。アイデンティティだとまでは思って無かった筈なんだけど、否定された状況を肯定されるみたいで、悲しい」


《少なくとも私は君だと思って変わり無く接しますが、態度を変えて欲しいですか?》

「あぁ、もうな、誰でも良いから愛して欲しかった」


《愛してますよ》

「家族じゃないやつ」


《愛してます》

「希少種だからでしょ。召喚者に話でも聞いてこいよ歴史オタク、従者オタクも居るぞ、土屋さんと気が合うんじゃないの」


《蛙化現象ですかね》

「毒蛙だしな。マトモなのと幸せになってくれよ、こんな化け物じゃなくて、普通のと幸せになって欲しい」


《目を離しても大丈夫そうですか》


「おう、死なないから行ってこい」


 祥那が少し迷うと、エミールが待機する、とハンドサインを送った。

 そうして武光と祥那が待合室へ戻る事に。




《直ぐに戻ります、理由は後でご説明します、付いて来て下さい》


 隠匿のマントを付けている者は互いに認識出来るが。

 万が一にもネイハムにバレてしまったのかと2人は思った、が、廊下で震えるエミールを見て何かが有ったのだと悟った。


「あの」

《どれだけ傷付いているかを、確認して欲しいだけですよ。多分、洗面所に居る筈です》


 魔法を使い、ドアの無い洗面所へ向かうと。

 掌を刺しては治し、刺しては治し、刺しては治し。


 少し眉をひそめては無心で無表情に治す、ただただ無言で繰り返される自傷行為を、エミールも見てしまったのだろう。


「確認、しました」

「すまない、エミールも解除してくれ」

『止めたらバレると思って、あの』


「止めては、いない」

『どうして止めないんですか』

《先ずは、害って何だと思いますか、武光さん》


「悪い事、悪だと思うが」

《普通なら自傷行為は傷が残り、悪ですけど、残らないんですよ。バレ無い、暴かなければ自傷行為をしていないと言う言葉は、嘘にはならない。まして過食嘔吐でも無ければ喫煙でも無い、まぁ、していたとしても治しますから害では無い。悪では無いんですよ》


「だが」

《止める為に監禁し、四六時中監視するか拘束でもすれば満足ですかね》


「いや、他にストレスの発散方法を」

《アレ以外には真面目で品行方正、純潔も結婚まで取っておくんだと。子供の頃のキスの思い出位しか無い潔癖な子に、何をストレス発散にしろと?》


「こう、仲間と」

《同種が身近に居ない絶滅危惧種のストレスが君に分かるんですか、しかも同じ種族から害悪だと追い立てられた知能の有る種族。それとも、苦しみを理解した上で問い詰めたんですか》


「こう追い詰めるつもりは」

《つもりが》

「つもりが無くても、結果はコレです。僕は桜木さんが平和に住める世界をと。そして性質を知っていたからこそ、そう言わなかっただけなんです。僕にもつもりは有りました、幸せになって貰うつもりだったんです」


『もう、きっと僕がどんなに好きだって言っても、性質のせいだって。もう誰も受け入れ無いかも知れないんですよね』

「だから、それは誤解で」

《最初の印象って大事なんですよ、インパクトって言葉をご存知無いんですかね》

「先生、仮に僕が残っても」


《もう、受け入れるかどうか。お互いに好き合ってらっしゃったのに、残念です》

「だが、さっきは」


《あぁ、先程のも聞いてたなら分かるかと。もう、諦めてしまったんですよ、回復には数年掛かるかも知れませんけど、君には関係無い事ですよね》

「なら、そう回復するなら」


《時間を置く方が悪化する場合も有るんですよ、傍に居ればプレッシャーになる場合も有る。教師を目指してらっしゃるなら、向き合い方について勉強してらっしゃるかと思ったんですが、知りませんでしたか。知らないって最高の免罪符ですよね。もうそろそろ良いですかね、止めに行きたいので》


 止める為と言われた以上、ネイハムを止める事は出来なかった。

 迂闊だった、平和で幸せな世界だから、武光がココまで警戒心を抱くとは思わなかった。


 迂闊だった、花子が自身をどう捉えているかを考え無かった。




 花子にはもうどうする事も出来無いまま、ドリアードに繋ぎを任せ、ルーマニアを離れる事に。


「すまなかった」

「僕らに謝っても、もう前の桜木さんは戻らないんですよね」

『僕、やっぱり』


『あの、何が有ったか俺らは聞けないんでしょうか』


 何をどう説明すれば良いのか。

 寧ろ、武光が考えて何かしてくれと。


 コレは、憎しみなんだろうか。


「向こうで調べる事が有ってな、俺らの希望で残って貰ったんだ」

「はい」

『それって、何時までなんですか』


「少し難しい問題で、交渉事も加わってるんで、目途は不明だ」

『分かりました』


 土屋の動向を見ると、直ぐに花子へ連絡しているのだろうと分かった。

 でも、分かったからと言って、何が。


「すまんが、気持ちを切り替えて欲しい」

『お腹の子があんな思いをしても、お嫁さんがそんな思いをしても、そうなれるんですね。どうしたらそうなれるんですか?人を殴るみたいに傷付けて、殺したも同然で良く平気ですね?どうしたらそうなれるんですか?』


 口論をもう止める気にもなれない。

 祥那自身も、武光がそう思っているのかと思える程に冷酷な言葉に思えた。

 例え世界が滅ぶとしても。


 寧ろ、滅ぶなら一緒に居たい。


 なのに、守れなかった。

 やっと好きを理解出来たのに、好きな人が出来たのに。

 もう。


「すまなかった」

『傷付けた側って、謝るしか出来ないんですよね。代わってあげる事も。傷付けられた事から立ち直る事も、そう頑張るのも、傷を治すのも、それをするのって全部、被害者なんですよね』


「確かに代わってやれないが、俺達は」

『僕達?少し違うからって排除したのに、仲間のフリですか?次は僕を白人だ、未成年だって排除するかも知れませんよね?そんな()()()が無くても、しちゃうんですよね、タケミツさん』


「俺はただ」

『何処の誰かも知らないなら警戒するのも分かります。けど浮島も何も、全てハナさんとショナさんがしてくれたか、僕らは訓練だけに集中出来るんですよ?なのに』


「祥那君、本当に」

「桜木さんを誤解させる様な動きを僕がしたのかも知れませんね、すみませんでした。エミール君、桜木さんが今ココに居たら、きっと、さっさと訓練でもしろって言うと思うので、僕と訓練しませんか」


『はい』


 武光の言う事は正論だったけれど。

 あの時、好きだと言っていれば。

 あの時に操られたとしても好きだと言えていれば。


 でも、好きに気付いたのはその後。

 ルーマニアに残ると言われた時、本当に会えなくなるのかも知れないと思った時。

 ならそこで言えたら。


『集中した方が良いよー?』

「ロキ神」


『サクラちゃんは?』

「桜木さんは、ルーマニアです」


『なんで?』

「武光さんに性質の事を疑われて、留まる事を選んだんです」


『性質なんて、究極は誰でも持ってるのになぁ』


 水の様に誰にでも馴染む性質、土の様に何でも受け止める性質。

 空気の様に柔らかい性質、そうして花子の様に真っ暗闇の中の灯台の様な性質。


「そん」

『君は木っぽいとか言われない?少し無機質だけど情は有るし。エミール君なら水や氷、解けたり固まったりして対応の差が激しいとか。おタケちゃんは…竹、柔軟性も有るけど攻撃性も有る。無個性なんて存在しないよ、ただ灯台は別、目立つ為のモノだから特定のモノには目立つし、引き付ける。誘蛾灯みたいにね』


「僕も、あの時にそう反論してたら」

『どんな暴言も、最初から言わせない様にすれば良いと思わない?吐いた唾は吞めぬ、だっけ?唾液だったモノは口から出た瞬間に唾に変わる、だから最初から出させない、例え殴ってでもね』

《ケンカ慣れしとらんのじゃろうし、流石に無理じゃろ》


「あの、桜木さんは」

《今は平穏そうじゃよ、睡眠時間を合わせる為にもと眠っておるでな》

『ねぇ、俺にも教えてよ』


《まぁ、色々有ったんじゃよ》

『ならもう、君のモノじゃないよね?』


「あの」

『召し上げって知ってる?神様が人間を傍に置けるの、了承を得られたらだけど。俺マジで考えてるんだ』

《どうじゃろうなぁ、他の召喚者が気に入っておるし、それは残ると言っておるでな》


『説得するから大丈夫。ねぇ、今何処なの?』


《ショナ坊、どうするんじゃ》


「僕は」


 残らないならもう、最初からそう決めていたんだから、下手に庇わず打ち明けていれば。

 だけれど、そもそも、どうして残らないと思ったんだろうか。


『何で残らないの?』


「きっと、帰っても良いと言われた事で、思考停止してたんだと思います。ギリギリまで悩めば良いと、本当は向こう以上に出来る事が有るのに、残る事になったら、桜木さんを」

《ほれほれ泣くでないよ。しょうがない、説明してやるか》


 そうしてドリアードからロキへ。

 花子の性質と、何が起きたのかが伝わる事になった。


『そうだね、諦めるか選ぶかしないとだし、それでも君達に未来はそう無いものね。死ぬか変わるかハーレムか、そうするしかあの子と一緒に居られないんだもの』


 だから考える事を放棄したのかも知れない。

 でも、無意識だった、無自覚に回避していた。


《じゃが、まだじゃ、召喚者ならばと思ったんじゃがな》

『それでもダメだったらサクラちゃんが余計に悲しむよ、だから俺に任せて、大丈夫。悩んだり傷付けたりは絶対にしない、俺の愛しい娘に誓って一生大事にするから、心配しないで』


 今までに諦めた事が無かった。

 努力すれば何とかなったし、努力も苦では無かった。


 けれど、初めて努力しても報われないかも知れない事に、腰が引けたのかも知れない。

 挫折を味わいたく無いから逃げたのかも知れない。


 こんなにも自分の事が分からなくなるからこそ、恋を避けていたのかも知れない。




 悩んでも腹は減る。

 まして体を容易く治せる花子にとっては当たり前。


《流石に吐くのは許しませんよ、勿体無いですし》

「せんよ、農家さんが悲しむ。それを守ってる神様も、怒る」


《食べさせてあげましょうか、昔みたいに》

「可哀想な子にしてやれ、ワシは可哀想じゃない、もっと」


《それは他の方に任せてるので大丈夫ですよ》

「何で感情転移させようとするの」


《やっぱり、愛してるからでしょうかね?》

「医者の風下にすら置けないな」


《昔は大好きだと、散々言ってくれたのは嘘だったんでしょうかね》

「本当に滲み出て無いんだろうか」


《悪魔の証明ですか》

「偉い人が鴉が白いと言うたら白なの」


《じゃあ五十六先生にも来て貰って証明しましょうか》

「五十六ちゃんも古馴染みだし、もう妹だか姪っ子で良いじゃん」


《どうしたらこの呪いが解けるんでしょうね》

「小雪ちゃんじゃないけど、やっぱり王子様かね」


《私では何故ダメなんでしょう》

「突然現れた王子様だから良いんだろうね、同情や何かの影響が無いって分かる人。成程な」


《同情してる様に見えますか?》

「影響は受けてるだろうし、ネムちゃんは意外と情が有るもの」


《最初は興味でしたけど》

『失礼します、何か足りないモノは有りますか?』

「静寂、このエルフさんをお引取りして下さい、1人で食べたいので」


『はい』

《分かりました、また後で来ますよ》

「おう」


 そう不幸でも無かった。

 柏木もガーランドも、五十六もネイハムも居たし、院長の窪川も可愛がってくれた。

 勿論看護師達も、そうやってそれなりに可愛がられて、少し病弱だけれど普通に幸せだと思っていた。


 けれども引っ越して隣の家の小雪や家族を見て、少し違和感を覚えた。

 ガーランドや柏木と似ている部分が無い。


 そしてその事を訊ねると、血は繋がっていないと知った。

 でも柏木もガーランドも血は繋がってはいないが家族で、花子も家族なのだと、それで納得した。


 だが好きな人が出来た時、()()()()()の事を知らない人は無理だと言われ。

 尤もだと思い、柏木に聞いた。


 実は病弱だから捨てられたのだと知り、驚いた。

 たったそんな事でと。


 だが更に月日が経つと、魔力容量が徐々に拡大を始め、大食いを揶揄される事も増えた。

 妬みや僻みかと思っていたが、本気を出せばかなりの量が食べられる事が分かり、外ではそう食べない様にした。

 捨て子は珍しいし、大食いも珍しい、悪目立ちしたく無かった。


 それでも体も容量も成長を続け、遂には女性らしい女性になった。

 欲しくも無いのに、使い道も無いのに。


 憎らしい。

 どんなに辛い失恋をしても良く食べられるし、良く寝れる。


 憎らしい。

 どんなに無茶をしても、筋肉痛も怪我も直ぐに治るから、もう誰にも心配もされない。


 憎らしい。

 繊細では無さそうだと、健康そうだ、元気そうだ。

 どんなに悩んでも表には出ない、伝わらない。


 自分が凄く憎らしい。


 元気で良いよな、と、些細な軽口をまた言われた日。

 台所の刺身包丁で掌を貫いた。


 ホッとした。

 自分は普通で、普通に痛い。

 大丈夫だ、自分は普通なんだと。


 それでも次に思った事は怒られる、柏木に心配され。

 ガーランドも、五十六も窪川もネイハムも悲しむ。


 急いで包丁を抜き、傷口を良く洗ってから今度は祈った。


 治れ、治らないと悲しませる、怒らせる。


 そうして夕飯も食べないままに寝て起きると、傷はすっかり治っていた。

 痕すらも無い。

 夢かと思い台所に行くと、痕跡は何も無し。

 出しっぱなしだったけれどどうしたのかと、柏木が聞くだけ。


 花子は答えた、深く切ってしまって怖くて寝たのに、傷痕も何も無い。


 そこで初めて自分が特殊な性質なのだと知った。

 果ては絶滅危惧種で、希少種で、仲間は居ないと。


 怖くなった、何も罪を犯していない同種が魔女狩りで絶滅。

 それから暫くは生まれなかったのに、自分が生まれた。


 しかも守る為に、本来の家族からも引き離したのだと。

 実験台や晒し者にならなくて良かったなと思っているが、実の親はどう思っているのか。


 片方は浮気、片方は依存。

 姉は酒浸りで、兄は横柄で。


 遠目から見ただけだけれど、あの血が自分に入っているのかとゾッとした。

 そして柏木に血を入れ替えてくれと、あの遺伝子を取り除きたいと願った。


 けれども柏木もネイハムも、自分達のせいであの家族は壊れたのかも知れないから、悪いのは自分達だと言った。


 そうなのかも知れないし、そうじゃ無いのかも知れない。

 コレは大人になってから自分で判断する。

 そう決めて内調の様な能力を得られる従者の道を選んだ、そして勉強に没頭し、学校へ行きそれなりの成績を収めた。

 コネと思われず、悪目立ちもしない成績を維持し、遂に親元へ話を聞きに行く事にした。


 赤の他人、探偵のフリをして。


 不倫は生まれる前からだった、鎹にする為に作られただけの子だった。

 そんな親を見て育った姉は愛情に飢え、兄は元から人の情や機微の分からない人間だった。


 そうして本来の家族へ見切りを付け、本当に従者として生きる事にした。

 サポートするには何が必要か、どうしたら親しみを持って貰えるか。


 省庁に入ってからは、誰からも親しまれる様にと振る舞った。

 機微の分からない人間にもそれなりに接し、無難で普通に過ごしていた時、本当に召喚者が来た。


 体調的に常に万全な花子かジュラ、それと賢人。

 その賢人の助言によって、結婚前のジュラでは無く、花子が選ばれる事になった。


 そうして祥那と出会い、初めて生きる意味は、生まれた意味はコレなのかも知れないと思った。


 優しくて真面目で、向こうの人間は酷いのが多いと聞いていたのに。

 守りたいと初めて思った。

 自分の命に代えても、無事に元の世界へ戻す。


 そう思っていたのに、実は自分が害悪かも知れないと。

 でも溢れ出す時だけ。

 それさえ気を付ければ、この可愛い召喚者と居られると思っていた。


 なのに、確かに、滲み出していない証明を出来無い。

 ただ神がそう言ってるだけ。

 そして神には魔道具が効かない。


 中には本当に悪神と呼ばれる者の存在だって居るかも知れない、なら、自分が身を引けば良いだけ。

 同種の居る地を守る為。

 召喚者と国を守る為には、コレが1番。

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