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「やぁ、奇遇な。また会いましたね」

「…………先日ぶりでございます」


 泣く泣く、あのパドックに近寄らずに過ごした翌週。大好きな馬達を眺める事すら出来なかった私は王妃様へ献上する刺繍を手に王宮を訪れていた。「じっくり見せてもらうわ。その間良かったら庭園を見てらっしゃい」とガゼボを送り出されてその意図を正確に理解するとともに特大のため息を吐きたくなった。


 何故ハルフォード殿下がここに……


 いえ、王宮の中庭……本来王族以外の立ち入りが基本許されていないこの場に第二王子がいる事はまったく問題ない。

 問題なのは、この偶然の邂逅を装ったこの場を作ったのが王妃様だと言う事だ。……あの方の意向が組み込まれていると、そう前提をしっかり持って注意深く言葉を口にする。

 私は思わず遠い目をしそうになってしまった。


「良かったら庭を案内させてくれないか?」

「ええ……、喜んで」


 私はハルフォード殿下(推定)の左腕にそっと手を乗せると、エスコートされる格好で庭を歩き出した。

 私の背後をついてくる王妃様に着けられた女官と、ハルフォード様の斜め後ろにいた護衛らしい男性から微笑ましげな視線が向けられているのに気付く。やめて、どう思ってるか分からないけど多分あなた達が想像してるようなそんな良いものなんかじゃないのよ。


 私は高速で思考を巡らせた。

 出会い頭、「あら奇遇でしたね、それでは」と王族と認識していないていで立ち去りたかったのだが先に声をかけられてしまいそちらは失敗に終わった。

 互いの名前も身分も気付いてる状況だが、一応まだ正式な紹介を受けて名乗りあった訳ではなかったのに。最後の逃走の機会を失った私は大人しく庭を二人(と女官と護衛)で散策する羽目になってしまった。



 適齢期の見目麗しい王子様と個人的に知り合うなんて恐ろしすぎる。ああ、ちゃんと国外の事にも目を向けていれば。今更言っても遅すぎるけど。


「ロゼリア嬢は馬が好きとおっしゃっていましたね」

「ええ、見ているだけでも心癒されますの」

「実は……プレニドン男爵に伺いました。以前から変わらず見学に来ていただいていると……馬を心から愛しているともお聞きしました」

「まぁ、嬉しい……プレニドン男爵ほどの素晴らしい調教師にそう言っていただけて光栄ですわ。見学に通う私に、いつも馬との付き合い方や馬の体調管理について教えてくださいますのよ」


 将来自分の馬を持つ夢を見て、パドックではなく厩の方で糞の処理やブラッシング、手綱の取り付け方まで教わった事がある。

 自分の馬を持つわけにいかない私はそんなお世話の一つ一つもとても輝いて見えたのだ。調教師として厩を出入りする小太りの気の良い男性が、どんなに獰猛な馬も調教すると言うかのプレニドン男爵本人と知った時は驚いたけど。男爵も私が侯爵令嬢だと名乗るまで知らずにたいそうびっくりしたとおっしゃっていたのでこれはおあいこね。


 私はハルフォード殿下と話を交わしながらこの背景を考えていた。

 ……王妃様はきっと私達をくっつけようというお考えなのでしょうね。出会いの演出に手を貸すくらいだし、それは間違いない。

 問題はその理由なのだが、これはまぁ……「第二王子の婿入り先に我がシェンロット侯爵家が選ばれた」、それがメインだとは思う。


 王妃様は強大な力を持つ帝国の姫の血を引く第二王妃様と、その嫡男であらせられるハルフォード殿下を警戒しているのは今までの動向から察せられる。もちろん第一王子であるアーネスト殿下が次期王として最有力視されていて、本人も周囲も王位継承に意欲的で支持基盤もしっかりしているが……どこにでも反勢力というのは存在する。

 その旗頭に担がれるとしたらハルフォード殿下以外はおらず、王妃様は早いところ降婿させて憂いを払いたいのだろう。後は3歳の王子と姫しかいないものね。


 第二王妃様とその近い方達は権力を持つ事をむしろ敬遠していて、ハルフォード殿下も王位に興味がないことを示すために成人してすぐ軍に属し兄に仕えることを表明したのだが、勢力図をひっくり返して甘い汁を吸いたがる輩は多い。

 逆に軍閥を築いたなんて見方をする家もあるから、本意でないなら本人もお気の毒である。

 国内のバランスを取るためにまだ婚約者のいなかったハルフォード殿下がこうして急に相手探しをしていると言うことは、アーネスト殿下の立太子が決まったのだろうか。


 ちなみに私にも婚約者はいないが、王族でもなかったら今の時代こんなものだ。お祖母様の世代では一貴族や裕福な平民も生まれながらの婚約を結んだりもしてたそうだが。

 まぁそうよね、生まれた時やごく小さい時だと博打要素が強いわ。本人達の相性も分からないし、親を見ればどの程度の素質を持つかは大体分かるかもしれないけど、情勢も変わったらその度婚約を結び直すことになる。


 落ち着く先を探す事になったが、たまたま趣味の合う……馬好きの令嬢を見つけたからちょうど良いと思われたのか? でも今の時点で探ったりしたら自意識過剰と一蹴されて終わるだろう。

 私は淑女の笑みの裏で計算しつつ、表向きは庭の花や庭の造園についての平和な話を続ける。


「パドックでは誤解をしてしまったお詫びに、劇場にお誘いしても良いですか?」

「劇場……」

「ええ、今度王都でシャンベリー劇団が上演する『春の王と暁の姫』の演目を」


 そ、その上演は確かに見たいわ……有名な古典を、今新進気鋭の劇作家トト・メメラが書き上げてシャンベリー劇団が演ずる。面白くないわけがない。

 解釈が新しくて、『春の王と暁の姫』をクラシックとして好きな人も知らない人も楽しめると隣国で評判だったと新聞で読んだ。

 こんな人気の観劇なんて伝手がないと席が取れないし、侯爵家の力で取れてもマリアが騒いで一緒に連れて行く羽目になって、上演中ずっと隣で「あれはどういう意味?」「今の台詞なんて言ったの?」「あの俳優の方すてきねお姉さま」なんてずっとお喋りされるだろうからって見に行く事自体諦めていたのに……!


 しかし王族以外の立ち入りが許されていないこの庭園はともかく、衆目のある場にハルフォード様と二人で訪れたら婚約者が内定していると思われてしまう。それはまずい……私の計画には我が家より家格が上の方は想定していなかった。王族なんてもってのほかだ。


「まぁ、素敵ですわ。他にはどなたがいらっしゃいますの?」


 かなり心は揺さぶられたが、暗に「二人きりで行くつもりは無い」と伝えると「改めてお誘いさせていただきます」と話を濁された。王女殿下のどなたかが加わって、ハルフォード殿下が付き添いとして来られるなら言い逃れは出来るがその提案は無い。

 これは私が二人きりを避けるとは思ってなかったのか、それとも具体的だったが社交辞令なのだろうか? 


「ではその前に、良かったら私の馬を見にきませんか? 相性を確かめた一頭をプレニドン男爵から貰い受けまして」

「……よろしいのですか?」

「ええ、ぜひ」


 少し迷ったが、王宮内の放牧場なら二人きりになるわけでは無いが人目につく環境でも無い。「また義母上にお会いする日を教えてください」と言われたので、どうやらまた偶然を装ってくれるらしい。ならば逢い引きと思われる事も無いだろうと判断した。

 いろいろ言い訳を並べ立てたが単純に馬に勝てなかった、とも言うが。だって既に誰か主人のいる子なら羨ましくはなるけど欲しいとは思わないから……触れ合いたくて……


 ただ、この王妃様とハルフォード殿下の動きからこの後の展開が容易に推測できたため、計画を前倒しすることになった。予定が狂わないといいのだが。

 



 

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