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姉妹をあからさまに差別して、そのわりに溺愛している方は淑女として出来が悪い。
そうやってお母様は周りの婦人たちに呆れられて一歩距離を置かれているのも気付かない、だから親切にも噂話を教えてくれる方はおらず、認識すらしていないようだ。
親戚の夫人には何人か、他人事ではないと忠告をしてくれた人もいたようだが「でもロゼリアは実際欠点が多いから親である私が注意してやらないと」と聞く耳を持たずに今では見放されている。
あのマリアではろくなところに嫁げないだろうし、次代の侯爵家を実質的に担う私に取り入ったほうが得だと思ったのでしょう、私にとても親切にしてくれるようになった。
お母様はマリアが世界で一番可愛くて嫉妬されているから同性の友達がいないのだと本気で思っているらしい。
嫉妬ではなく、私が妹と母親にされた仕打ちを口では言っていないが少しずつ少しずつ何をされたか、普段どう扱われているか分かるように見せているから、特に同年代の同性で親しくしてくれる人がいなくなっただけなのに。
それとも高貴な夫人から「ぜひ娘さんをお連れしていらしてください」と頻繁に茶会に誘われているのを自分やマリアが人気者だからと本気で思っているのだろうか。
指定してないのに毎回マリアの方だけを連れて行き……さんざん私の事を下げてこき下ろす。聞かれもせずに私がどんなに至らないか、知識はあって頭がいいがそれだけで、顔はキツいし心に慈悲はないし、それに比べてこのマリアのなんと素晴らしいことか、とやるのだ。
エンターテイメントを求めた貴族夫人たちの玩具にされて、「ほらアレが自覚なく自分の子供を虐待してるって話題の」と笑い者にされてるのに気付かない。
マリアの方もあれは虐待よね、優しい虐待。何でも許されて増長して、しつけのなってない犬と同じ。
私も知っていて、自分の評価がある程度下がるのも分かった上であえてさせている。貴族夫人達は表向き、シェンロット侯爵夫人であるお母様を無碍にはできない。その代わり、訳知り顔で私にとびきり親切にしてくれるのだ。
善人ぶりたい人、同情して優越感を感じたい人、そんなのがほとんどだが100人いたら2、3人は心の底から心配してくれる善良な方もいるから。
こうして私は将来のために高潔なお考えの貴族の方と顔をつなぎ、同情してくる人達に話題を提供する事で情報を得ている。
私は自分の未来の選択肢の吟味に、好奇心旺盛な夫人達の噂話を利用していた。婚約者の選定だけではなく、他にも色々。
妹の評判が順調に下がっているのも愉快だった。結婚相手なんて見つかるのかしら?
でも私は悪くないわ、毎回「やめて」って言っているし、その理由も伝えてるのにそれでも欲しいと言うのは妹で、止めもせず増長させるのはお母様で、訴えているけど何の介入もしないお父様だってこれでいいと思ってるのだろうから。
だから私はいつも本当に大切なものは隠して、どうでも良いものを大事にして見せて、奪われた後に大げさに「気にいってたのに」「使わないなら返して」と言い続ける事でマリアを操っているのだ。
あの子がわざわざ、私がいらない……ゴミにしても良いと思ってるようなものを欲しがって駄々をこねて大騒ぎするのを「わざわざご苦労様」と毎回心の中で笑って見ている。
このドレスだって、ここまで華やかなのは私の趣味じゃない。どうでもいい、といった態度を取って見せたこちらの2着……シンプルだがとびきり上品なデザインの光沢のある臙脂色のイブニングドレスと、水色から紺にグラデーションがかかった素晴らしく美しいアフタヌーンドレス達が本来の私の趣味だ。
この前マリアが奪って行った夜会用の首飾りも色の取り合わせが派手すぎる。私には落ち着いた色に合うシルバーか銀古美の地金に、質の良いオパールや透明感の高いアウィンが合わせてあるこっちの方が好き。わざとジュエリーボックスにも入れずにドレッサーの引き出しにむき出しで入れてあるのは、人の部屋を勝手に漁ってあれも欲しいこれも欲しいと言い出すマリア対策だ。
こうしておけばこれが私の本当のお気に入りだとは気付かれない。
ちなみに今の私のジュエリーボックスは、空っぽどころか手元にない。中身を奪いにきたマリアが箱ごと持って行ったから。別にいつもの事だけど。
私の趣味はマリアに地味だと言われる事も多いが、私に言わせるとマリアがただ単に派手すぎなだけだと思う。
マリアが欲しがるようなドレスとの趣味の違いを不思議がられることもあるが、
「だってこんなドレスでもないと、あなたがすぐ素敵だ、欲しい、ずるいって騒いで私から奪うでしょう」
って言ってやると「ひどい!」とか「そんなつもりじゃない、いつも素敵だったから欲しいと言ってるだけなのに」とか大騒ぎして、お母様が出てきて私を悪者にして有耶無耶で終わるから問題ない。
私も大概性格が悪いと思うけど、でも自覚があるからマシだと思う。ここまでの本音は、エマにだって話してない。
エマや数人の使用人には、マリアにあなた達が奪われないように、あの子の前では素っ気ない態度を取るけど許してちょうだいって悲しげにして、「お母様に疎まれてる私を見捨てずに、マリアのところに行かないでくれてありがとう」と感謝の言葉を絶やさずにいる。
これは本心よ、だって……家族に私を愛してくれる人がいないから、他に少しでも身近な人達と……使用人と主人以上ではなく親しくしても良いじゃない。
エマは私のために怒ってくれたのを知ってるから、どうしても……もしこの子もマリアに奪われたらと思うと怖い。
「うちは比べるのもおこがましいくらい貧しい家で、男爵と言っても名ばかりなほどだったけど。父さんも母さんも私達に理不尽に差をつけることなんてなかった!!」
と。家族には恵まれなかったけど、数人の使用人に恵まれたと思う。
エマもミモザもリリエも、彼女達こそが私の本当の宝物だと……マリアにだけは知られるわけにいかなかった。




