第四章(一)
第四章(一)
『太古の森伝説?』
とある図鑑を見ていた時、不意に訊かれて戸惑ったように大きな琥珀色の瞳が亮を見上げた。
『そう、そんな伝説があるんだ。 南アメリカ大陸にあるアマゾン川流域にそんな話が残っている。あそこにはまだ人々に知られていない原住民の村が幾つもある事は知っているだろ? 彼等の中に伝わる伝説だよ』
『どんな?』
『現在では考えられない植物や生物が繁殖しているらしい。 そうだな、例えば今お前が見ているこの本に載ってるような、ジュラ紀のものとか、絶滅したと言われているようなものがそこら中にあるんだ。まるで大昔、何万年も前にタイムスリップしたような感じなんだ。本当に何も手をつけられていない全くの自然がそこにある。何の汚染もされていない水もある。全ての生き物が人間の技術によって侵される事なく自然に生きているんだ。それが太古の森だ。 ただ、それが実際にある事を証明する事が出来なくてね、ただの伝説になっている』
『何で?』
『ただでさえアマゾンの奥地は未知の塊だからね。今だに発見されていない生物とか存在するらしい。だからそれに乗じたただの噂ではないかと言われているんだ』
『証明出来ないって・・・、誰も見た事ないからなんでしょ? 誰かが行って確かめて来ればいいじゃないか』
当り前のような質問に亮は微笑むとくすっと吹き出してしまった。
『それが出来ればいいんだけど、今までそこへ行って帰って来た者がいないんだよ』
『え?』
『太古の森に仕える2本の牙を持ったタイガーが現れた時その入口が開き、彼等を魔界へと導く。その魔界へ入った者は二度と戻る事はない。 これがその伝説の一部だ。 聖なる地へ足を踏み入れし者は神の子となる。タイガーは彼等を見分するであろう』
『何、それ?』
『原住民に伝わる伝説の一部だよ。直訳だから言葉が上手くつながっていないんだと思う』
『そうじゃなくて、魔界と聖なる地って、まるで反対じゃない?』
亮の言葉に耳を傾けながら図鑑をパラパラめくると、あるページに目が留まった。
『まるで伝説のタイガーだな』
司は少し身震いした。
それは写真ではなかったが、まるで今にもそこから飛び出して自分をその魔界へと連れて行ってしまいそうな程に鋭い目をした、大きな2本の牙を持つサーベル・タイガーだった。