第三章(五)
第三章(五)
その頃、ブラジルはアマゾンの入口と言われている都市マナウスに着いた一行は、誰もが不安な時を過ごしていた。
あれから4日、現地の捜索隊も3日経ってからようやく動き出すという始末に、誰もが苛立っていた。
暑さの中、体調を崩す者も数知れない。
その中で、メンバーのナオと秀也はホテルの部屋で用意された食事にも手をつけようとせず、無言の時を過ごしていた。
出来るならば自分達の足で3人の行方を探し出したい、そんな思いだったが、異国の地でのこの状況ではどうする事も出来ないでいた。
秀也に至っては水すらも口につける事を憚っていた。
しかし、とうとう堪え切れずナオが口にした。
「秀也、司なら大丈夫だよ。きっと3人一緒に居ると思う。あの3人が一緒ならどんな事があったって平気だよ。 それより秀也、俺達がへばっちまう方が情けない」
テーブルの上に置かれたグラスに水を注ぐと一つを秀也に差し出した。
「うん、解ってる」
力なく応えるとそれを受け取って、口先まで持って来ると思い切ったようにそれを飲んだ。
ごくりと喉元に冷たい水が流れて行く。
司は飲んでいるのだろうか。
ジャガーの足の下敷きになっていた司が脳裏をかすめる。
『東京で会おうぜっ』
あの時、半分笑っているようにも見えた。
「司なら大丈夫。 きっとお前のとこに戻って来るさ」
ふと顔を上げると、ナオが心配するなと言わんばかりに笑みを浮かべている。それが精一杯の慰めなのだろう。
「そういうヤツだろ?」
「ああ」
秀也はギュッと唇を噛み締めると再びグラスに口を付け、残りの水を一気に飲み干した。
そしてグラスを置くと、代わりにタバコを手にしたが、あれ?と体のあちこちを叩いてライターを探した。
隣で先に火をつけたナオが黙ってすっと手を差し出して秀也にライターを渡した。
あ・・・
受け取りながら秀也は、今と同じように司にライターを渡したままだった事を思い出すと少し苦笑しながら火をつけた。
「どうした?」
「あ、いや・・、司にライター渡したままだった」
「ライター? そういや、あいつらコレなしで生きられんのかよ」
ナオは自分の手にしたタバコを見つめると申し訳なさそうに煙を吐いた。
「心配はないよ。 その辺はぬかりないから、司は」
「え?」
「あいつのジャケット、ポケットだらけだったけど、中身は全部タバコだから」
「マジかよ」
ナオが半ば呆れたように秀也を見ると、くっくっく・・・ と笑い出していた。