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サバイバル  作者: 清 涼
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第三章(四の2)

第三章4−2


「なぁ 司、あんまし口にしたくないんだけど、この際だから俺達も腹くくるよ。今日の事といい、何が起こってんだ?」

火を囲みながら思い切ったように晃一が訊いた。

辺りは夕暮れの余韻を少し残したように薄っすら赤くなっていたが、徐々に夜になろうとしている。

「ん・・・」

晃一だけではない。他のスタッフ達も同意するように司に視線が集まっている。

司は一瞬紀伊也に視線を向けたが、ふっと息を吐くと火を見つめた。

ゆらゆら燃える炎が、薄茶色の長めの前髪から覗く琥珀色の瞳に映った。

「オレにもよくわかんねぇんだよ」

フッと苦笑すると、晃一に向いた。

「は? よくわかんねぇって・・・」

「うん、あの変な森とバケモンみたいな生き物、初めてだ」

そこで一旦言葉を切ると、再び火を見つめた。

「ただ、分かっているのは、このアマゾンの密林で迷子になった、って事だ」

「そんな事分かってるよ。 けど、この状況を俺達はどう理解しろって言うんだよ」

「理解ねぇ・・・ と言っても、お前らに考えろって言う方が無理だろ?」

「ま、まぁそうだけど。 けどこの際、どうでもいいから何か納得させてくれ。お前と紀伊也で何か隠してるような気がしてさ。納得行かないんだよ。 とにかくお前らの知ってる事、何でもいいから教えてくれよ、なっ。 でないと、俺ら、このままお前らの言う事聞いてるだけじゃ、どうしていいのか分からなくなっちまうよ」

「司」

腕を組んで晃一の話を聞いていた紀伊也が顔を上げた。

「何も知らないで不安でいるより、知っていて不安な方がマシらしい」

「わかったよ」

司は少し呆れたように応えると、持っていた小枝を火の中に放り投げた。


「聞いた話だから信じる信じないはお前らの勝手だ。 いいか、この地球上にはまだまだ科学的に説明出来ない事が山ほどある。 特に自然に関して言うならそのほとんど全てが未知なる世界と言ってもいい。 その証拠にさっきのカマキリだ」


皆を見渡すと、興味深気な眼差しを司に向けている。さすがにテレビ局のスタッフだ。

「いいか、ここからが本題だ。 このアマゾンのこの辺りには古くから言い伝えられている噂がある」

「噂? 伝説とかじゃなくて?」

「そうだ、単なる噂だが、実際にオレ達はそれに当たっちまった」

「え?」

「太古の森に仕える二本の巨大な牙を持ったタイガーが現れた時、その入口が開き、彼等を魔界へと導く。その魔界に入った者は二度と戻る事はない。 これが、その噂だ。どうやらオレ達はその魔界とやらに居るらしい」

「何だよ、それ? でも、そのタイガーって? 俺達が襲われた時のあのジャガーみたいのがそれか?」

「いや、あれは恐らく単なる僕だろう。 実際にオレはこの目でそのタイガーを見たからな。 木村も見たろ? 」


一斉に皆の視線が木村に集まる。

膝を抱えていた木村は思い出したように頷くと、ごくんと唾を呑み込んだ。

「俺も見たよ」

さらりとかわしたように紀伊也も言った。 木村の隣では、西村もうんうん頷いている。

「うん、で、ヤツが現れた時、入って来た筈の入口がなくなっちまったんだ。 消えちゃったんだ」

「消えた?」

「そう。あん時、オレにも何が起きたのかさっぱり分かんなかったよ。 けど、とにかく気分が悪かった。で、抜け出たら、晃一、お前らに会ったってワケだ」

司はそこで言葉を切ると、ポケットからタバコを出して秀也のライターで火をつけると、ライターを手にしたまま煙を吐いた。

「で、司、俺達って、その魔界とやらに入り込んで彷徨さまよい歩いてるって訳か? んでもって、出口のアテでもあんのか? まさか、手当たり次第歩き回って手探りしてんじゃねぇだろうな?」

「鋭いねぇ」

思わず吹き出したように笑って晃一を見ると、今にも怒り出さんばかりだ。

「まぁまぁ。 手探りには変わりないけど、そうむやみに歩き回ってる訳でもない。 まず、この森の様子が分からない事には何も出来やしないからな」

「で、少しは分かったのか?」

「まぁね」

横目で晃一を見ると、一服吸って煙を吐いた。

「どうやらオレ達が居る所は、現実の部分とそうでない所の境界線に居るらしい。 で、不思議な事に時間の進み具合も違う」

「え?」

その時、スタッフの一人が、ああーーっっ!? と大声を上げた。

「どうした? 佐々木」

入社何年目だろうか、晃一とほぼ同じ位の体格のがっしりした佐々木が、自分の腕時計をマジマジ見つめている。

「見てくださいよっ」

隣にいた西村が興奮したような佐々木の腕を取って時計を見るが、別段変わったところはない。

「何もないじゃん」

「違いますよっ、そうじゃなくてっ・・・。14日ですよっ 14日っ!!」

興奮して叫ぶと、時計を指しながら回りの者を誰彼となく見る。

「14日がどうしたんだよ。 14日?」

「そうですよっ、岩井さん。 14日っ」

頭を5分刈にした岩井がふと呟いて佐々木を見ていたが、ハッとしたように目を見開くと、えーーっっ!? と声を上げて司に向き直った。

それと同時に、西村と木村も唖然と司を見た。

その様子を何か含むように見ていた司が くっくっ・・と笑った。 晃一は今だ何かよく分からず呆気に取られている。 紀伊也に至っては相変わらず腕を組んだまま表情一つ変えずに火を見ていた。

「ようやく気が付いたか。誰かはすぐに気付くと思ったけど、お前らって意外と鈍いのな」

「何?」

「あはっ・・、晃一は全然分かってねぇの? ねぇ、お前の時計って日付ついてないの? ・・・、なんだ、ついてるじぇねぇかよ」

言いながら晃一の腕時計を覗き込むと呆れたように晃一を見上げた。

「オレ達があの村を出発したのは10日。 で、ジャガーに襲われてバラバラになって迷子になったのも10日。 で、あれから今日で2回目の夜。 さて問題です。 今日は何日でしょう? 」

「何で?」

「は?」

「何で、11日じゃなくて、14日なんだよーーっっ!? 説明しろっ!!」


 うわっちっ


突然発狂したように絶叫した晃一に胸倉を鷲掴みにされ、タバコを落としそうになって両腕を頭の上に上げた。

「危ねェな、落ち着けよ」

「落ち着けるかっ、こ、この状況だぞっ 何なんだよっ!? 分かんねーーェっっ!!」

乱暴に司を離すと夜空に向かって吠えるように叫んだ。


 バサバサっ・・


その声に驚いたのか、近くの木に休んでいた鳥が羽ばたいた。

一瞬の沈黙が辺りを包んだ。

「解んなくていいよ。 オレにも解らない。 きっと誰にも説明出来ねぇだろうな」

ふぅ と一息吐くと、短くなったタバコを吸ってそれを火に投げ入れると、ゆっくり煙を吐いた。


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