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サバイバル  作者: 清 涼
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第三章(三)

第三章(三)


どれ程歩いただろうか、微かに水の匂いがした。

普通の人間ではよく分からないかもしれないが、司と紀伊也にははっきりと分かった。

それも2箇所だ。

司はその水の気配を辿って進んだ。

どうやら湧き水のようだ。 チョロチョロとはっきりした水の音にわっと皆が集まる。

赤茶褐色の土の間から湧き出した透明な水が向方側の下り坂へと流れていた。

全員がそれを取り囲むように見つめた。

ごくりと喉が鳴りそうだ。

「飲めそうか?」

幾分冷めた司の問いかけに紀伊也がそっと手を入れてそれを舐めたが、「ダメだ」と首を横に振った。

「ふっ、やっぱり難しいな」

少し諦めたように溜息をついた。

「何で!? 綺麗だぜ。 少しくらい腹壊したって平気だろ?」

晃一は納得行かない。 今一番欲している物が目前の手の届く所にあるのだ。なのに何故それを諦めなければならないのだろうか。


「色は無色透明だな。 けど、慣れ過ぎてんだよ。不純物無しの澄み切った綺麗過ぎる水に。 普段オレ達がどんな水を飲んでると思ってんだよ。 浄化された水道水を更に浄水器に通して飲んでいるんだぞ。 その辺に売られてる水だって、天然水かも知れないがご丁寧に殺菌処理までしてあるミネラル入りの水だ。 そんな水を毎日飲んでるヤツがこんな水を飲んでみろ、腹壊すだけじゃ済まないだろ。きっと病気になっちまう。それにここは密林だ。 病院もなけりゃ薬もねぇんだぞ」


司の言葉に晃一は何も言い返す事が出来なくなってしまった。

自分達の置かれている状況を現実に突きつけられてしまったのだ。


「まぁ、そう簡単に諦めるな。 当てがない訳でもない。 それにオレ達が居る所は、どうやらただの熱帯雨林のジャングルでもなさそうだ。 アマゾンの生き物は未知数だが、さっきのデカガエルといい、どうも様子が変だ。 マジで探検になりそうな状況だぜ。 それに、これだけの人数が居るんだ。 諦めるのはまだ早いだろ?」

「 ・・・、 まぁ そうだけど」

「なら、諦めるな。 とにかくまずは水の確保だ。 行くぞ」


司に勇気付けられた気がして、何となく皆笑みを浮かべると後に続いた。

先程の場所から100M程歩いた所で司は立ち止まると、一番後ろを歩いていた紀伊也を呼んだ。

そして、二人で大きな葉の前まで行くと、司は少し観念したような視線を紀伊也に送った。


「仕方ない。 この下にありそうだ、ちょっと見て来るが・・・。 悪いけど、何かあったらお前もすぐ来いよ」

「わかった」


紀伊也は苦笑すると、木村の背負っていたリュックサックからロープを取り出して一番太い木の幹に巻きつけて先端を司に渡した。


「ちょっくら行って見て来る。何かあったら紀伊也の指示に従えよ」


腰にロープを巻きつけると大きな葉を一枚めくった。

足元を見れば、想像通り崖になっている。 ここが地面からどの位の高さなのか暗くてよく見えない。

一瞬息を呑んだが、ロープがしっかり木に巻き付いている事を確認するように、2,3回強く引っ張ると思い切って両足を蹴った。


 ザザっっ


司の体に大きな葉がぶつかり、それをすり抜けるように降下すると、驚いて両足を崖につけたまま止まってしまった。

陽の光が射していた。

まるで木漏れ日のように穏やかな光だった。 下を見るとその光りに反射してきらきら光る小さな池を見つけた。


 何なんだ、ここは?


とても不思議な感覚に陥りながら地面に降りた。

腰のロープを解いて辺りを見渡すと、そこは今までいた密林とは到底思えないような光景が広がっている。

池の水は湧き水だろうか、透き通る池底からコポコポと湧いていた。

池の中では水草がゆらゆら揺れている。池を覗くと自分の顔が映った。

こんなに澄んだ池は見た事がない。 そっと手を入れると気持ちが良いくらいに冷たかった。

片手ですくってみると、手の平に乗った水が光りに反射してきらきらと揺れた。

確かめもせず、それを口に含むとそのままごくりと喉を鳴らしてしまった。

こんなに甘味のある水は初めてだ。

瞬間司の目が輝き、再びすくうとそれを飲んで、さっと手を払った。辺りに滴が飛び散る。

急いでロープを引っ張った。

 

「おーいっ、飲めるぞーっ! 」


その声を合図に、晃一を先頭に皆が降りて来る。

司は笑みを浮かべて池を指した。


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